往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

宇宙ビジネス市場に関わる地上システム関連事業をまとめました

宇宙産業における地上の主要施設となる地上システムを分解する

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まず、地上局というのは、宇宙空間にある人工衛星や探査機などの宇宙機との通信のための地上の無線局です。

 

そもそも無線局は、無線設備が備え付けられた施設のことをいい、無線設備を操作する対象も含めています。

無線設備は、無線電信や無線電話などの電波を送り、あるいは受け取るための電気的設備のことを言います。

 

法的な定義は電波法で示されています。

 

宇宙業界における地上局は、無線局としての機能以外に、宇宙機の操作やデータの取扱い、データ加工やデータ解析を実施する設備を指していることが多いです。

 

宇宙機の操作は、通信あるいは無線設備を使用するために地上局とは言えるのですが、データの取扱い、データ加工やデータ解析、さらにいうと宇宙機操作のための計画立案などを行う対象も含まれるため、地上システムあるいは地上局システムとも呼ばれます。

 

簡単にいうと、宇宙業界では地上で宇宙機に関して作業するシステムを地上システムと呼んでいるようです。

 

地上システムというと何を指しているのか気を付けた方が良いです。

 

使用方法での区分けとしては、次のようなものがあげられます。

  • ロケットの打上げシステム
  • 宇宙機の運用システム
  • 管制システム
  • データ処理システム

 

各設備の区分としては、だいたい次のようなものがあげられます。

  • アンテナや通信機のある通信設備
  • 受け取った宇宙機のデータを確認・解析したり、通信機を送るデータを生成、運用計画を作成する運用設備
  • 宇宙機のミッションデータの解析処理設備
  • 運用計画をもとにアンテナや通信機を制御する管制設備

このように示しているのですが、組織によって区分が変わります。

 

地上システムのビジネスを考える上での特異な要素をいくつか挙げていきます。

  • アンテナ及び通信機の設置
  • 設備の管理
  • 無線局開設手続き
  • 国際周波数調整
  • 地上システム間のネットワーク(ハード面)
  • 地上システム間の計画管理、運用操作のためのソフトウェア
  • ミッションデータのデータサービス

 

この特異な要素以外は、通常のオフィスあるいは開発環境と同じ設備で可能です。

さらに、追加で上げる場合は、運用中のフリーズやクラッシュを避けるために管制設備の計算機の処理性能や冗長システムが必要となります。

 

[目次]

 

 アンテナ及び通信機の設置

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アンテナ設置の要素としては

 

設置場所の視野が十分に確保されていること。

運用する宇宙機あるいはロケットと通信に有利な緯度経度であること。

通信する周波数帯に適したアンテナサイズあるいはアンテナ形状であること。

電波を受信するにあたって、干渉する対象(強い電波を発生させる施設)がないこと。

 

大きくはこのような要素があげられます。

 

これらの情報を調査し、全国各地あるいは世界各国の土地の管理者や役所と交渉することになりますね。

 

また、電波を発信あるいは受信するため、各地の電波法に則った運用あるいは申請を行います。

 

通信機に備え使られるアンテナも現地で製造するか、製造したものを輸送して組み立てるなどの検討になりそうですね。

 

ちなみにアンテナはバンド帯で大きさが変わります。

 

視野が狭い場合でも、アンテナのサイズが限定されますが、ビルの屋上に設置することで、十分な視野を得ることもできます。

 

参入のハードルが高いと感じるかもしれませんが、運用開始するまでに時間が掛かることもあるため、一度、システムを構築すれば強みが出るかもしれません。

 

アンテナ及び通信設備を設置すれば、衛星打上げ事情から需要が高まっているので、人工衛星の運用回転率を上げられれば良好な気がしますね。

 

ただし、世界各地で運用する場合は、後述する設備管理費用が掛かります。

どこまで自動化ができ、どこまで人件費を減らせるかがポイントになりそうです。

 

サービス

・アンテナの使用機会提供サービス:AWS Ground Stationなど

・アンテナ設計製造サービス

・通信機設計製造サービス

 

設備の管理

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現在、多くの部分が遠隔操作されているのですが、何かしらのメンテナンスが必要となります。

 

駆動の少ない静止衛星の場合は、メンテナンス回数も少ないですが、低軌道や周回衛星の場合は、アンテナの駆動が多いため、メンテナンスも必要になってきます。

 

メンテナンス回数をどのように減らすかは、定期メンテナンスや負荷の少ないタスク、冗長システムを組み上げるなどで、故障を減らすことができます。

 

各設備はハードウェア面であることから短い周期では3年や5年、長い周期では10年や30年の周期で、交換や修理の必要があります。

 

設備管理は定期的に発生しビジネスとして安定していますが複写機のサポートのような回数が少ないこと、世界各地の場合の対応なども計画するのも大事ですかね。

 

もちろん地震やハリケーンなどの天災による復旧も含めて、設備を構築しておくか、戦略立てておいた方が進めやすいかもしれませんね。

 

サービス

・設備の保守点検管理サービス

・移設作業サービス

 

無線局開設手続き(無線局免許申請)

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宇宙機は電波を発射するために無線局の申請が必要ですが、電波を発射するアンテナ側にも無線局の申請が必要になります。

 

ちなみに、電波望遠鏡や距離を測定するVLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉法)用のアンテナは、電波を発生することなく受信のみなので無線局の申請は(日本の法律では今のところ)不要ですかね。

 

巨大なアンテナがあるからといって必ずしも電波を発生させるわけではありません

 

日本では電波法に則って総務省に申請することになります。

海外へは、海外の法律をもって無線局を申請する必要があります。

 

日本でも海外でも関係なく、宇宙側に電波を発射させるため、後述の国際周波数調整を行う必要があるのです。

 

無線局の開設には、仮免許を取得して電波を発射する必要があるため、陸上無線技士や特殊無線技士の資格が必要で、一度開設すると、数年ごとの更新の必要があります。

 

回数は多くないので、地上システム構築のプランとして無線局申請や後述の国際周波数調整を行いますが、専門で法人化するには難しいでしょう。

ただ、地上システムの構築に対応できるのはとても有利に働きます。

 

と言いつつ、無線局申請は宇宙機を所有する組織が申請するため、メインは所有者が対応するため、注意が必要です。

 

サービス

・無線局免許申請/再申請の支援サービス

 

国際周波数調整

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国際周波数調整は、周波数が有限である中、全国各地・世界各国で電波を発射することになり、同じ周波数にかぶる可能性があります。

 

同じ周波数になると電波が干渉し、通信ができなくなったり割り込まれたりしてしまうため、通信網の交通整理を行うことを国際周波数調整といいます。

 

国際周波数調整は、電波の交通整理を受け持っている国際電気連合(ITU)に対して申請を行います。

 

世界各国で個人が申請できるとITU側の処理が追い付かないため、各国の電波関係の省庁がまとめています。

日本では総務省の管轄で申請するのですが、申請書自体は電波を発射する組織が行うことにはなります。

 

この電波を使用しますと宣言してから、世界各国各組織の言い分を聞いて、申請登録することになります。

 

各国の政府機関を通すことと、実際に使用する宇宙機や地上局の通信設備の情報も必要であることから、周波数の独占を防ぐ仕組みとなっています。

個人で周波数を取得して、その周波数を利用してビジネスを行うことは難しいです。

 

地上システム構築ビジネスの一つとして国際周波数調整の申請に対するアドバイザーのような役割をすることはできますが、それほど多いものではないでしょう。

 

ただ、宇宙機はどの周波数を使用するかに関わらず、必ず周波数調整を行わなく
てはなりません。

 

更新回数も、周波数を登録する際に、自己申告制となります。

 

宇宙機の寿命から5年や10年での申告として、運用が終了するまでなので通信の実績があれば更新も可能となったはずです(多分)

 

政府でもよりビジネスに繋げるためか、総務省の国際周波数調整の手続きマニュアルがここ10年内で作成更新されており、とても分かりやすくなっています。

 

サービス

・周波数国際調整の支援サービス

 

地上システム間のネットワーク(ハード面)

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地上システムは、同一施設内に入っている必要はありません。

施設場所は複数にまたがっていることが多いです。

 

システムのネットワークは通常のインターネット回線を使用することもありますが、衛星データの情報にVPN(Virtual Private Network)や専用線を使用することでセキュリティを高めているところもあります。

 

通常のネットワークで有名なのはAWS Ground Stationですね。

 

運用可能タイミングが、スケジュールで管理されているため、争奪戦になっているかもしれませんし、タイミングがずれていれば問題ないかもしれません。

 

AWS Ground Stationの特徴は、電波を受信できるだけではなく解析の環境もクラウド上で整えてもらえるところです。

 

すなわち、拠点を変更することになったとしても、1次処理、2次処理レベルであれば物理的な物品の移動や独自のネットワークの構築なしにそのまま使えるところにあります。

 

ユーザーに提供する形を整えてしまえば、ワンストップで生データを製品化することができます。

 

といっても、結局のところ、生データの秘匿性はもちろん複数回の処理方法やアルゴリズムなどをAWS Ground Station上で整えることと、自前で準備するのとどちらが得というと、難しい所です。

 

地上システムでの追跡管制や通信局としてのシステムだけ借りて、そのほかの処理は自前で用意するという選択肢も十分に利があるように思えます。

 

もちろん、ゼロから始める地上システム製造と考えると、格段にハードルが下がります。

 

また、このようなAWS Ground Stationを使わずとも、秘匿性を要求するのであれば、VPN専用線を引くことが良いことにはなります。

 

非公表の試験データなどは専用回線を使用することになるでしょう。

 

通信設備を立てるときに合わせて回線を引く必要があるか検討しておくのもありかもしれません。 

 

ちなみに昔はハードウェアそのものを輸送していました。

 

HDDであればよいのですが、テープによるデータカセットも存在して、人力で輸送をしていました。今も残っているかもしれません。

 

サービス

VPN/専用線設置サービス

・ネットワーク構築保守サービス

・データ輸送サービス

 

地上システム間の計画管理、運用操作のためのソフトウェア

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運用操作は、宇宙機にどのような操作を行うか命令を送ることと、宇宙機からのデータを取得することがメインの作業になります。

 

運用操作は各宇宙機の開発組織で変わります。

運用ソフトが変わるため各組織に対応した運用メンバーが必要になります。

 

というのも運用ソフトは、統一されたものもなく、独自の進化を遂げているために、共通化しにくいというのがありました。

 

もちろん、運用の要素は、人工衛星であればあるていど変わらないので、ソフトウェアの操作を覚えるだけで対応が可能です。

 

周回衛星の運用の要素は、人工衛星の最新の詳細軌道解析と、軌道を取り込みアンテナを操作します。

 

人工衛星から発信される電波をアンテナを通して通信機で受信したら、通信機を操作し周波数帯をロックし、地上の通信設備を通して命令を送ったり、人工衛星で取得したデータを受け取るなどの作業を行います。

 

人工衛星から取得したデータによっては、人工衛星の状態を確認できるため、異常があればトラブルシュートを行います。

 

トラブルシュートを行う場合は、運用タイミングを増やし、対処の指令を検討することになります。

 

ざっと、このような流れで運用していくことになります。

 

人工衛星はロケットにより宇宙に打ち上がり、放出された後が最も危険な状態です。

そのため、打ち上がったときの運用は、人工衛星の開発メンバーであったり、経験豊富な運用メンバーが対応します。

 

その後、人工衛星の状態が安定するとある程度のルーティンワークとなります。

難しい作業が少なくなるため、より自動化が進む可能性がありますが、操作が複雑であれば運用メンバーとして作業を行うことになるかと思います。

 

また、これだけ人工衛星開発が世界各地で進められているため、汎用性の高い運用ソフトウェアも出回り始めているかもしれません

まあ、よほどの勢力でなければ、完全統一されることは難しいでしょうけど。

 

 

最近ではクラウド上での連携を行うことで、世界各国に配置されている通信局と接続することもできます。

 

人工衛星がアンテナの視野内に入り、通信できるタイミングで動かすシステム。

 

人工衛星の運用タイミング、軌道位置については別途計算したり、公開情報から取得する必要がありますが、その情報さえ分かればアンテナを動かすのみです。

 

AWSのサービスでもできますし、日本ではインフォステラがサービスを開始しています。2つのサービスは競合すると思いきやAWSベースでインフォステラのソフトウェアを動かせるような協力体制をとっています。

 

自前でアンテナを用意する場合は、AWSの代わりにそのソフトウェアを用意する必要があります。

 

注意していた方がいいのは、通信機を含めて電波を出す(運用する)場合は、資格が必要になるということですかね。

自動化しても電波を発信する限り資格者が必要になります。

ただ、主任無線従事者を置くことで必ずしも施設内に資格者が居る必要はなくなります。

 

サービス

宇宙機の運用サービス

宇宙機運用ネットワークサービス

 

ミッションデータによるデータサービス

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ミッションデータとして周回衛星の場合ですと、光学画像やレーダー画像が広まってきています。

 

この画像を使用して何に使えるかを考えればさらに利用できるサービスが増えていきます。

 

最初は人工衛星保有する企業による画像解析もあるのですが、画像を利用したサービスは画像があればいいので、人工衛星保有している必要はありません。

 

無料で使用できる人工衛星データも増えてきているので、既存の画像サービスを利用して新たなサービス提供、新たなアートを提供することも可能になります。

 

ちょうど、携帯電話やスマートフォンGPSデータを利用した地図サービスをはじめ、最近ではGPSデータを利用したゲームも生まれています。

 

VR機能を使ったサービスも多く、アートとして利用する個人も出てきています。

 

既にある画像サービスについて紹介しておきます。

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

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参考情報

総務省 電波利用ホームページ|周波数割当て

https://www.tele.soumu.go.jp/j/freq/index.htm

総務省 電波利用ホームページ|国際周波集調整

https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/freq/process/freqint/

AWS Ground Station – Ingest and Process Data from Orbiting Satellites

https://aws.amazon.com/jp/blogs/aws/aws-ground-station-ingest-and-process-data-from-orbiting-satellites/

コードで学ぶAWS入門

https://tomomano.github.io/learn-aws-by-coding/

主任無線従事者制度の意義

https://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/musen/juujisha/shunin.html#:~:text=%E4%B8%BB%E4%BB%BB%E7%84%A1%E7%B7%9A%E5%BE%93%E4%BA%8B%E8%80%85%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%AE%E6%84%8F%E7%BE%A9,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82&text=%E2%80%BB%20%E3%82%A2%E3%83%9E%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E7%84%A1%E7%B7%9A%E5%B1%80%E3%81%AB,%E3%81%AF%E9%81%A9%E7%94%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82