SpaceXのStarlink衛星でGPSのように自分の位置の特定をする新しい技術研究【応用を知りたい】
SpaceXの外部研究者(アメリカのオハイオ州大学)によって、Starlinkによるインターネットサービス衛星によるブロードキャストされた信号を使用してGPSにように地球上の自分の位置を特定する方法を開発しました。
Starlink衛星は、SpaceX社によって軌道に投入され、世界中のあらゆる地域でのブロードキャストによるインターネット接続のサービスを提供しています。
目次
GPS衛星との位置の精度
Starlink衛星を6つ利用することで8メートル以下の精度で、場所を特定することを可能としました。
GPS衛星を利用した場合の精度は10~20メートル程度の精度ですが、現在地球の軌道上では、全地球航法衛星システムと呼ばれる衛星の種類があります。
この全地球航法衛星システムを利用することで5cm~5m程度の精度まで収束することができます。
日本では準天頂衛星みちびきが有名です。
この衛星システムは、搭載されている非常に正確な時間を刻む原子時計を踏査ししており、衛星の軌道上の位置と正確な時刻を地上に向けて無線信号を送信します。
この信号を複数の衛星から受信し、受信するまでに経過した時間を比較することで3次元の位置情報を計算しています。
GPSを利用したシステムの弱点の一つとして、地球から2万km以上離れた軌道にあります。
かなりの距離を離れているため、信号そのものが非常に弱く、偶発的な干渉や建物の影響などを影響を受けてしまします。
Starlink衛星は、SpaceXからのサポートを受けることなく、さらには衛星を介して送信される内部データを必要としません。
Starlink衛星の位置と動きに関係する情報のみで位置を特定する方法でした。
オハイオ州立大学の研究者によると、Starlink衛星による信号を取得した後、位置を特定するための高度なアルゴリズムを設計し、正確に機能することを示しました。
実証では約7.7メートルの受信アンテナの位置を特定することができました。
Starlink衛星以外の低軌道衛星によるコンステレーションにも同様のアルゴリズムを使用したのですが、約23メートル程度でした。
推定法の考え方
Starlink衛星は、チャンネル周波数と帯域幅を除いてほとんど知られていません。
そのため、Starlink衛星の信号を追跡する受信機は容易に設計することはできません。
そこで、無線機の電子回路を変更せずに制御ソフトウェアにより無線方式を変更することができるソフトウェア無線(SDR:Software Defined Radio)による無線周波数スペクトルの帯域をサンプリングすることで対応しました。
Starlink衛星のサンプリングの課題として二つあります。
(1)Starlink衛星の信号は、Ku/Kaバンドで送信されており、商用のSDRの帯域を越えている点。
(2)ダウンリンクの帯域幅が240MHzと大きくなり、これも商用のSDRの帯域を越えている点。
最初の課題は、アンテナとSDRの間にミキサー/ダウンコンバーターを使用することで解決できます。これによりSDRで取得できるサンプリング帯域幅を広げることができる。
2つ目の課題に対しては、ナビゲーションシステムには多くの情報を必要としないため、ダウンリンク信号の受信しつつ、ドップラーや位相の観測量を生成することで可能になります。
この手法を用いて、サンプリング帯域幅を2.5MHzに設定し、キャリア周波数をダウンリンク周波数の1つの11.325GHzに設定しました。
これにより、約13.3分間で位置情報を推定することができました。
GPS衛星の弱点
Starlink衛星は、地球の低軌道に約1,700程度の衛星を保持しており、最終的に40,000以上の衛星を軌道上に投入することを計画しています。
オハイオ州立大学のカサス准教授によるとStarlink衛星が増えるにつれて、この技術による位置の精度も向上する可能性があります。
この開発により、世界中のナビゲーションシステムの要となっているGPSの代替システムとして利用できる可能性があると述べています。
GPS衛星はすでに30年以上にわたり使用されており、多くの人に知られている既知の信号です。
既知の信号であるため、攻撃的なアクションに対しては脆弱性を示します。
また、GPS衛星そのものも、Starlink衛星の低軌道より高い高度にあるため信号が弱くなり、上手く受信することができなくなる可能性があります。
GPS信号に対してのジャミングは、信号を完全に停止させる可能性もあります。
特にGPSの妨害を受けた時に危険な産業は、航空や船舶、自動車といったシステムへの干渉するため、飛行機や船舶の位置をずらすことでの衝突や、自動車の進路を意図的に変えたり、ミサイルなどの攻撃対象を意図的にズラすことも技術的には、色々障害はありますが技術的には可能で、最終的に重大な事故に繋がります。
実際に、中国では奇妙なGPS信号の攻撃により、船舶の場所を誤認識させることに成功していたり、一部の地中海でも定期的にGPS信号に対して妨害を受けています。
そのため、代替えとなるGPS技術を持ったコヒーレント・ナビゲーションシステム社について興味を示していました。
ちなみに、このコヒーレント・ナビゲーションシステム社は2015年に買収されています。
位置情報やナビゲーションシステムに低軌道衛星を使用するということは、1960年代に打上げられたアメリカの人工衛星のいくつかは、高度1,100kmに投入された軍の船舶や潜水艦の位置情報を提供するトランジット衛星でした。
ただ、強い電波により、妨害や干渉の影響を減らすことは可能ですが、約1,700個も飛び交っていても、GPSより広い地域に対して電波を送信できない(減衰する)ことがあげられます。
さらにStarlink衛星の基数を増やすことで、どこまで対応できるかにあります。
位置を推定する時間
6つのStarlink衛星を追跡するのに13分ほどかかったといいます。
現在のGPS衛星は、地上に向けて12分30秒ごとに位置データを送信しており、ほぼほぼ同等のレベルに達しています。
航法メッセージは、全体で25フレームの構成により作られています。一つのフレームは、5個のサブフレームから構成されています。サブフレームは300ビットで構成されており、1ビットのデータ長は20msです。1サブフレームの周期は6秒で、フレーム全体(5 サブフレーム)で1500ビットになります。したがって、1個のフレームの周期は30秒になります。全体のデータ数は25フレームですので、周期は30秒×25=12.5分になります。GPS受信機は電源投入後の初期時に、これらの必要なすべてのデータを収集するのに12.5分を要します。GPS受信機は内部のバックアップ電池により過去に収集したデータを保持しており、電源起動後にそのデータを読み出すことで、すばやく測位モードに移行します。
GPSとは | 技術 | GPS/GNSSチップ&モジュール | フルノ製品情報
今後の展望
ちなみに開発者の1人であるカサス氏によると、最も重要なことは、Starlink衛星の電波はプライベートなもので、内部の情報が共有されていない状態にもかかわらず、この技術が使えるということだといいます。
今後は4つのStarlink衛星を観測することでリアルタイムでの位置の推定の実験に進むようです。
この実証実験がどこまで確立されるのか、ちょっと面白いかもしれません。
参考資料
測位技術の基礎知識 さまざまな測位方式とその精度
https://www.magellan.jp/fundamental/104
SpaceX satellite signals used like GPS to pinpoint location on Earth
https://news.osu.edu/spacex-satellite-signals-used-like-gps-to-pinpoint-location-on-earth/
アップル、GPS企業Coherent Navigationを買収
https://japan.cnet.com/article/35064669/
SpaceX’s Starlink satellites could make US Army navigation hard to jam
GPSとは
https://www.furuno.com/jp/gnss/technical/tec_what_gps
Researchers use Starlink satellites to pinpoint location, similar to GPS
NORAD Two-Line Element Sets Current Data