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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【運用設計者向け】SpaceX社の通信衛星コンステレーション(スターリンク)の混信回避方法

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衛星コンステレーションが話題になって幾日、電波が混線する可能性に気づいた方がいるのではないでしょうか。

 

今回はSpaceX社の打上げている通信衛星であるスターリンクの混線回避方法について調べてみました。

 

スターリンク衛星の通信が混線する可能性

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電波は使用できる波長(周波数)が有限です。

 

スマホなどの携帯電話も周波数を変えて通信しています。

日本ではドコモやKDDIソフトバンクといった通信会社がありますが、これらの通信会社同士の通信が混線しないように使用する周波数が割り当てられます。

 

しかし電波の周波数は有限であるため、地球各地から様々な電波を使用していると、どこかで重なる可能性があります。

 

そこで、各国単位で電波が混線しないように電波を各事業者に付与して、管理します。日本では総務省がその役割を担っています。

 

しかし人工衛星は日本以外に各国の境界を越えていきます。

そこで国際電気通信連合(ITU)が各国含めた電波を管理しています。

 

それでも同じ周波数を使用することは避けられないので、ITUを窓口として各事業者が調整を行います。(周波数の国際調整)

 

例えば、スターリンク衛星の周波数Aは、アメリカでは使用する許可を得たとしても、日本ではすでに事業者Bによって使用されていることがあります。

 

そこでITUを窓口として、各国の電波を管理している官庁を通して調整を行います。

 

調整内容は様々ですが、日本の北海道の地上基地局Cで周波数Aを使用しているので、北海道の地上基地局Cが電波を受信できる仰角5度以上である北緯東経Dで電波を出さないように、と調整していきます。

 

もちろん、使用するタイミングによっては、昼は使用するので、夜は問題ない。といった場合もあります。

この場合は、事業者が同じ国内であったり利害関係になかったり、といった場合であることが多々あります。

 

とここまで書いて、KDDIau回線を通じて通信可能であるという事業化レベルまでスターリンク衛星が来ていることから、日本国内で混信対策済みということが想像できます。

 

ということで、日本国内でこのような議論をしている資料から読み取っていきましょう。

 

今後の日本での衛星コンステレーションを構築する際の、電波干渉の回避方法の参考になればと思います。

 

 

周波数帯の混信回避のため国際調整

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SpaceX社によるStarlink衛星は他の衛星への干渉を回避する能力を持っているようです。

 

日本国内に対しての電波干渉を回避するという前提で考えると、日本国内の地域をカバーしている静止衛星(観測衛星、通信衛星など)や電波天文が干渉する対象になります。

 

地上では、それ以外にも多くの帯域が使われていますが、Starlink衛星の帯域では静止衛星や電波天文となります。

 

特に静止衛星の電波に対しては、ITUの22.2条によると、非静止衛星システム(今回はStarlink衛星)は静止衛星網(固定衛星、放送衛星)へ許容し得ない混信(電波干渉)を生じてはならないとしています。混信させないように発生する電波に対して等価電力束密度(EPFD)を規定して、静止衛星側を保護しています。

 

これは既設の静止衛星に対して、Starlink衛星のような周回衛星は、同じ帯域を使用する場合、周回衛星の方が電波の制限をしなければならないというもので、これは日本に限らず世界的に決められたルールです。

 

使用する周波数も、既設の設備と同じ周波数帯を使用しても実際のところ問題はありません。

 

その理由には、電波の共用という考え方が前提にあるからです。

 

 

電波の共用とは、同じ周波数帯でも利用のタイミングや地域を制限することで干渉しない範囲で使用することができるという考え方です。

 

電波取得の際に実施する国際調整を行うのですが、既設の設備の所有事業者と調整することで電波の干渉や混信を避け、互いに利用できるように調整を進めます。

 

最近は分かりませんが、かつては周波数帯が干渉していないが、隣接している周波数帯ということで、調整の必要があるのではないか?という書簡(メール)が届いたりしたそうです。

 

電波の強さが弱い部分に対して、技術上問題はないが、こちらのチェックミスで対応しなければならないように思わせたりという攻防が行われていたとかいないとか。

 

従来人工衛星に使用されていた周波数帯は、周回衛星同士や周回衛星用地上局に干渉していたのですが、スターリンク衛星のように静止衛星などで使用される周波数帯域を周回衛星でも使用されており、かつ世界中という広範囲であるから調整もかなりの数となったことでしょう。

 

とてもタフなネゴシエータを雇ったんですかね。

 

ちなみに、周回衛星より静止衛星の方が調整に関しては少ないことが多いです。

静止衛星は地上の特定の地点に向けて通信を行うため、他の国で同じ周波数帯を使用しても、使用する地域を限定していることから干渉しないことが言えるからです。

 

日本でのスペースリンク衛星のサービス

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スペースリンク衛星は、人工衛星のネットワークを利用したインターネット通信を行うことができ、受信機さえあれば世界各地で使用することができます。

 

技術的には、各ユーザー個人で受信アンテナを空に向けて通信を行う方法と、既存の回線を利用してある特定の基地局と通信を行い基地局経由(バックホール回線)で既存の回線による通信を行う方法があります。

 

前者の場合は、次のような流れで進みます。

  1. スターリンク衛星
  2. 受信アンテナ(個人)
  3. 受信機(個人)
  4. 個人所有のパソコン/スマホ

後者(バックホール回線)の場合は、

  1. スターリンク衛星
  2. 受信アンテナ(通信会社所有)
  3. 基地局
  4. 交換局
  5. 個人所有のパソコン/スマホ

 

バックホール回線は、おそらく通信会社の提供サービス名が変わりますが、今まで使用していた使用方法に近い形で、へき地であっても、比較的安定的な通信ができるというものです。

 

サービスとして現状の4G回線や5G回線が弱い地域に対して自動的に通信衛星回線に切り替わり、多少通信速度が変わるかもしれませんが、比較的通常通りに使用できるサービスとなります。

 

 

混信の可能性のあるStarlink衛星の利用周波数

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@情報通信審議会 情報技術分科会 衛星通信システム委員会作業班(第23回)

資料23-2 小型衛星コンステレーションによる衛星通信システム(Ku帯非静止衛星通信システム)の検討状況について(更新版)

 

スターリンク衛星は、日本国内では次の周波数帯を使用します。

 

サービスリンク(Ku):

 10.7-12.7 GHz(宇宙から地球)

 14/0-14.5 GHz(地球から宇宙)

フィーダーリンク(Ka):

 17.8-18.6 / 18.8-19.3 GHz(宇宙から地球)

 27/5-29.1 / 29.5-30.0 GHz (地球から宇宙)

 

被る周波数帯は、宇宙(人工衛星)から地球へ発信する方向では、電波天文と地球探査衛星(受動)となります。

 

地球(地上局)から宇宙へ発信する方向では、周回衛星通信システムやデジタルテレビ用の通信となります。

 

これは先に記載した通り、事業者ごとに調整となっていきます。

 

何も対策しなければ、同じ周波数域の電波を受けることになります。

同じ周波数を受けるときは、相手側の電波を受けてもデータの中身までは読み取れませんが、本来受けたい電波に被さることで電波障害になります。

 

スターリンク衛星のシステムでは、電波干渉を防ぐために次の機能があります。

  1. 電波干渉を回避するために複数の場所に対してのビーム照射が可能で、かつ選択することができる機能を持っています。(Steerable beams
  2. 同じアンテナから複数のビーム照射を可能としています。(Shapeable beams
  3. 複数のビームで同じ周波数を利用可能な機能を持っています。(Frequency reuse)

 

複数の場所にビーム照射が可能ということは、技術的にはアンテナが二つ以上付いており、同じ周波数であることから同じ周波数の受信フィルタを持つ通信機を持っていることになります。

通信機の大きさにもよりますが、それなりに大きい電波増幅装置(アンプ)が付いていることになるでしょう。

 

この構造であれば、高い指向性を有した姿勢制御をする必要が無くなります。

高い指向性を持たせる場合には、姿勢制御機器を多く搭載したり、強力なホイールを持っている必要があります。

 

周回衛星であるため、通信できる時間に制限があるのですが、複数の場所にビーム照射可能であれば、単純にパス時間が延びます。

これは複数のビームで同じ周波数を利用可能という機能と合わせることで対応可能となります、

 

地上局Aと通信可能な位置から、人工衛星は移動しているため、途中で地上局Bに通信可能となり、単純に通信可能時間(パス時間)が延びるという仕組みです。

今回の混信を考えるのであれば、他の電波と干渉する角度で侵入する場合は、別の地上局に切り替えることで、通信を確保したまま混信を防ぐことができます。

 

人工衛星は、内部に搭載したGPS機器や地上局との通信で位置を3次元で確認しているのですが、混信が発生する可能性がある地上局のある地域に対してある角度で侵入する場合は、電波を発信しないなどをプログラムで防ぐことができます。

 

 

同じアンテナから複数のビーム照射を可能ということは、複数のビーム照射=複数の周波数のビーム照射が可能で、技術的には発振器の根元、あるいは増幅器の手前で切り替えスイッチがあるということなのでしょう。

通信機から両方の周波数帯を発信して、電波のフィルターで切り替えるか、二つの通信機を搭載して、スイッチによ切り替えを行うかどちらかでしょう。

仕組みとして後者の方が楽ですが、スターリンク衛星のシステムではどうなのでしょうね。

 

複数のビーム照射が可能であれば、電波干渉が起こりうる電波を使用しているアンテナを設置している地上局の地域において、別の周波数帯に切り変えることで電波障害を防ぐことができます。

 

スターリンク衛星のシステムは、3つのビーム(うち2つは同じ周波数帯)をほぼ同時に照射することで、長いパス時間と、電波干渉を防ぐ機能をもつということになります。

 

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@情報通信審議会 情報技術分科会 衛星通信システム委員会作業班(第23回)

資料23-2 小型衛星コンステレーションによる衛星通信システム(Ku帯非静止衛星通信システム)の検討状況について(更新版)

 

 

結局、スターリンク衛星の混信回避方法は?

スターリンク衛星は、念のため、小型衛星といえる大きさではありません。

通信に特化した中型衛星か、大型衛星の部類に入ります。

 

小型衛星で同様のことをするには、通信機やアンテナの搭載スペースを工夫する必要があるでしょう。

 

通信機、結構電力掛かります。

スマホでも、電波が繋がらなかったりすると無理に通信仕様として、通信強度が勝手に上がって、電力消費が大きくなるわけです。

それと同じで衛星も電力消費が大きくなり、発熱します。

 

小型衛星の場合に問題となるのは、発生電力不足、周回衛星なので夜間でも動けるための電力を保持する電池、そして発熱が問題となります。

 

故に、衛星のサイズも大きくなったのだといえます。

 

しかしこれらの問題はスターリンク衛星レベルの次の機能を持つ場合になります。

  1. 電波干渉を回避するために複数の場所に対してのビーム照射が可能で、かつ選択することができる機能
  2. 同じアンテナから複数のビーム照射を可能とする機能
  3. 複数のビームで同じ周波数を利用可能な機能

 

これらの機能を部分的に使用することで、小型衛星でも十分に対応可能なコンステレーションを構成することができることでしょう。

 

ちなみに、これらの機能はすでにSpaceX社とは別の組織で実証済みの機能です。

 

同じ機器・製造メーカーを使用しているか不明ですが、個々の技術的には実証済みの機能を組み合わせているもので、正直目新しさはありません。

 

参考文献

情報通信審議会 情報技術分科会 衛星通信システム委員会作業班(第23回)

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/digitalcontent/02kiban15_04000400.html

 

 

衛星通信システム委員会

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/idou_eisei/idou_eisei.html