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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

人工衛星をハッキングしたい!? どうすればできるの?

人工衛星のハッキングとは

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そもそも人工衛星のハッキングは何を意味するのでしょうか?

 

人工衛星から送られるデータを得ることでしょうか?

人工衛星を制御して自分の人工衛星にすることができることでしょうか?

 

人工衛星のハッキングは、主に述べた2つに絞られるのではないでしょうか。

 

いくつかの手段を取れば、2つの意味のハッキングをすることが可能です。

 

前提として、人工衛星の軌道周期と現在位置が必要になります。

 

周回衛星は、一日に数回で数分~数十分程度のアクセスが可能で、静止衛星の場合は常時アクセスが可能です。

 

アクセスとは、人工衛星から送られてくる衛星データ信号を取得することとコマンド信号を受け取ることです。

 

データを受け取る必要があるため、アンテナも必要になります。

電波の出力が分かっていれば、アンテナの大きさもだいたい掴めるのですが、分からなければそれなりに大きなアンテナ、数m~数10mがあると便利です。

 

これらの情報や装置があることが前提条件になります。

 

ハッキング的な意味で人工衛星から送られるデータを得るには?

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必要な時間に、宇宙軌道上にある人工衛星に向けてアンテナを向けます。

 

アンテナから得られる空間の情報を周波数が分かる装置をもって取得します。

 

これで人工衛星が想定の位置にあることが分かりました。

 

それからは周波数帯を狭めて人工衛星が使用されている周波数帯を限定していきます。

 

周波数帯が分かれば、電波の特性を調べてみてくださいね。

 

だいたいは総当たりになるので根気が必要になります。

勘を頼りにするか、総当たりにするかはセンスに寄るかと思います。

 

そこまで行けば、綺麗なデータを取得することができるのではないでしょうか。

 

これで人工衛星の狭義の意味でのハッキングが完了しました。

 

といっても、あくまで綺麗なデータを取得したにすぎません。

 

データは、暗号化されていることでしょう。

データのフォーマットだか、パッケージの情報を読み込んでいく必要があります。

 

 

あと何が必要でしょうかね(笑)

 

また、人工衛星を運用している組織もこれぐらいは想定しています。

 

例えば、アンテナを囲むゴルフボールのような凸凹した球状の建築物(レドーム)を見たことがあるかもしれません。

 

これは雪や雨、風を防ぐとともにアンテナの方向を隠す役割を持っています。

レドームにより人工衛星の正確な位置を調べるのに時間が掛かりますね。

 

さらに人工衛星は、複数の周波数帯を使用してデータを送信する場合があるので、必要な(欲しい)データに使われる周波数を調べていく必要があります。

 

周回衛星の場合、目標となる地上局システムのアンテナの受信領域に到達するまで電波を発信しない様に制御されていることでしょう。

 

そうなった場合は、欲しい人工衛星のデータを取得する地上局の近くにアンテナを立てる必要がありますから、探し当てなければなりません。

 

探し当てたとしても、近くの土地を購入してアンテナを穏便に立てることができるでしょうか?

 

ぜひ頑張ってください、としか言いようがありませんね。

 

地上でなく、軌道上からデータを盗むのはどうでしょうか?

 

可能です。

 

ただし、軌道上の物体は地球表面からのレーダー観測で監視されています。

 

キューブサット級の10cm程度の大きさも検出可能なので、不自然に人工衛星が近づいてきたら、分かってしまいます。

 

しかも、軌道上で人工衛星同士を故意に近づけるには軌道制御装置が必要になります。

いわゆるスラスター装置が必要になるので、必然と人工衛星の大きさも大きくなります。

 

大きければレーダー観測で位置がばれてしまうので、その間は衛星データを地上に送らない様にコントロールされてしまうかもしれません。

 

なかなか困難になります。

 

人工衛星を制御して自分の人工衛星にすることができることでしょうか?

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前項の「人工衛星から送られるデータを得た」まで可能なことが前提条件になります。

データを得られなければ、自分の人工衛星にすることは叶いません。

そんな夢は忘れましょう。

 

ということで、衛星のデータを取得することができました前提で進めます。

 

人工衛星は、衛星データあるいはミッションデータと呼ばれるデータ以外に、人工衛星の位置や各コンポーネントの状態を示すデータも送信してきます。

 

まずは、これらのデータの分析が必要になります。

 

どのような姿勢を取って軌道上にあるのか、ミッションを起こすときの動作は何をしているのか。

 

自動で行われる自動シーケンスと、地上からコマンドを送信することで行われる手動シーケンスを調べることになります。

 

もちろん、自分で人工衛星をハッキングした後、安全に運用するための分析です。

人工衛星をハッキングして、そのまま地表に落下させるのであれば別かもしれませんが。

 

地球の四季の関係やミッションのタイミングにより得られるデータは刻々と変化しています。

 

半年以上、数年レベルでのデータ取得を行えれば、シーケンスだけでなく、得られるコマンドもある程度の識別が可能になるかもしれません。

 

何を目的にするかによりますが、数か月から数年レベルで、人工衛星から受信可能なデータを分析が可能になるでしょう。

 

ここまでで分かるように、ゼロから始めるのには、地道で時間が掛かる作業になります。

それは、人工衛星の電波や通信信号に関する情報が1つでも分かれば、単純に時間が短くなるということです。

 

これは機密情報であれば危険ではありますが、人工衛星が公共的あるいは研究目的で開発された人工衛星を管理する組織で制御不能になったとしても、情報さえそろえば、世界中どこからでも、助け舟を出せるということも意味しています。

 

さて、あとはここまで分析と地道な努力を繰り返して得た情報から、人工衛星を制御するコマンドを推察します。

 

チャンスは時間制限付きで数回です。

静止衛星ですと、1時間で2、3回程度あればいい方かもしれません。

周回衛星ですと、10時間と10回のチャンスがあればいい方かもしれません。

 

理由は、人工衛星には地上から来たコマンドを受け取った際に、コマンド数をカウントアップする機能が必須ではありませんがついています。

 

このコマンド数のカウント機能は、コマンドの打ち間違いをはじめとする作業者のミスを防ぐフールプルーフあるいは、ミスしても異常事態にならないようにするフェイルセーフが働いているからです。

 

コマンド数が増えていれば、間違って何かを送ってしまった。

コマンド数が減っていれば、コマンドが送信されていない。

 

といったこと"も"、人工衛星の持ち主側に推察されてしまいます。

この機能を持った人工衛星は、別の組織からのアクションを知り、対策を実行されます。

 

ハッキングは、正規の組織が人工衛星のデータを受信するタイミングでカウント数がばれてしまうので、ハッキングできる回数に制限が付いているはずです。

 

このコマンドチャレンジが一番シビアになると思っていたのですが、セキュリティの甘い人工衛星運用地上局のインターネット環境からコマンド入手することが可能です。

https://thehackernews.com/2015/09/hacking-satellite.html

記事では自分で操作せず、正規の組織が操作したデータを横流して得ることに注視しているようです、翻訳があっていればですけど。

 

ハッキング後はどうなる、どうする?

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これらの手段を駆使して人工衛星をハッキングして、制御することが可能になります。

制御しなくてもデータを傍受することが可能になります。

 

もちろん、制御する際に電波を発信させるためには、日本国内の場合ですと国家資格である電波の資格を持ちつつ、総務省に申請して地上局を開局しなければ法律違反になります。

 

 

さて、ハッキングすることができたとして、正規の組織はこの後どうするのでしょうか。

 

再度、制御権を奪い返すは可能です。

 

奪い返した後は、再びハッキングにおびえたり、人工衛星がハッキングされなくても、ネット上からデータが横流しされている可能性を危惧する必要があります。

 

ハッキングの相手と戦うことを諦めて、秘密の緊急停止コマンド/停波コマンドを送ることも一つですね。

 

人工衛星側のプログラムを書き換えるという案もあるかもしれませんが、人工衛星側の制御装置の関係で、書き換えられる部分は限られています。

 

主に放射線による異常動作に対する対策から、書き換えられるプログラムが限定されていることの方が多いのです。

 

この対策をしていない人工衛星は、ハッキングされるよりも放射線により人工衛星の制御装置が壊れる方が早いかもしれません。

異常判定で正常復帰プログラムを開始するとかあるかもしれませんけど。

 

ハッキングの方法というより、人工衛星の運用側が気を引き締めて対策すれば、ハッキング不可能というのが分かったのではないでしょうか。

 

古い人工衛星であれば可能性があるかもしれませんが、現在の人工衛星にハッキングを行うことは難しいです。

 

出来ることとすれば、ジャミング(妨害)で、正規の組織が操作できない様に邪魔すことですかね。

過去にアメリカの人工衛星がジャミングされていたようですね。

 

 

人工衛星は、数年から十数年運用できる、数億から数百億円の資産です。

ハッキングを本気でやる場合は、ぜひ、法的に裁かれてくださいね。

 

参考サイト

Russian Hackers Hijack Satellite To Steal Data from Thousands of Hacked Computers

https://thehackernews.com/2015/09/hacking-satellite.html

 

It is possible to hack a satellite? - Quora

https://www.quora.com/It-is-possible-to-hack-a-satellite

 

How can someone hack a satellite? What are the knowledge should he have to hack that? - Quora

https://www.quora.com/How-can-someone-hack-a-satellite-What-are-the-knowledge-should-he-have-to-hack-that

 

人工衛星2基にハッキング、中国軍が関与の疑い=調査委員会

https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-23894420111029

 

SpaceXの衛星インターネット「Starlink」へのサイバー攻撃、25ドルの自作ツールで成功

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2208/19/news034.html

Glitched on Earth by Humans: A Black-Box Security Evaluation of the SpaceX Starlink User Terminal

https://www.blackhat.com/us-22/briefings/schedule/index.html#glitched-on-earth-by-humans-a-black-box-security-evaluation-of-the-spacex-starlink-user-terminal-26982