海外では森林火災に対して人工衛星によって宇宙空間から取得した画像データを活用して、早期発見システムを構築しています。
日本ではあまり表に出ない情報なのか、そもそもの森林火災件数が少ないためなのか、森林火災に対しての人工衛星による監視システムを構築しているのか、少し調べてみました。
日本の森林と山火事
農林水産省によると、日本の国土の67%が森林で、約2500万haが森林面積と言われています。
もっとも森林が少ない都道府県は大阪府で5.7万haで、2位が東京都の7.9万haです。
日本での山火事は、2016年から2020年の消防庁のデータによると平均して年間1300件発生しています。
おおよそ600ha(1ha=10000m^2)が焼損しており、損害額が約3.5億円に上ります。
広さの比較として、東京ドームが4.7ha、東京ディズニーランドが51ha程度であることから、東京ドーム約128個分、東京ディズニーランド約12個分が焼損していることになります。
損害額が約3.5億円というのは大きな額であることは間違いないのですが、日本の消防活動が優秀なのか、消火も数分から2日程度で鎮火しています。
といっても、2日以上も燃え続けた事例もあり、住民への避難勧告が発令されたこともあります。
近年で広範囲であったのが、2002年4月5日から4月6日に岐阜県岐阜市・各務原市で発生した森林火災は410haを焼いています。
2016年5月8日から5月22日に岩手県釜石市で発生した森林火災は413haも焼いています。
焼損面積は167haとそれほど大きくはありませんでしたが、2021年の栃木県足利市で発生した山火事は2月21日~3月15日と延焼とよばれる火事が燃え広がっていくことにより20日間以上燃え続けた事例もあります。
山火事の出火原因
さらに、日本での出火原因の31.4%がたき火、8.1%が放火並びに放火疑い、6.8%がたばこ並び火遊びであることが分かっています。
そして農業のための焼き畑、害虫駆除、開墾準備などは火入れと言われ17.8%、その他が35.9%となっています。
原因が分かっている中で、おおよそ6割が人為的なものです。
海外でも比率は違いますが、主な原因に変わりはありません。ただ、人がいない地域では落雷による火災が原因となることが多いようです。
日本における山火事の件数でも大体の傾向があります。
夏休みなど山への一人が多くなる8月に一時的に増加しますが、7月や9月の発生件数が小さく、徐々に発生件数が増えていきます。
大体、4月ぐらいに多く発生し、再び減少傾向に入っていきます。
この傾向は日本の気候に関係しています。
まず、山火事が起きて広がりやすくなる気象を整理していきます。
①気温が高いこと。
②乾燥していること。
③風が強いこと。
この3つの条件がそろうと火事が広がりやすい傾向にあります。これは日本に限らず、世界各国でも同様の条件です。
日本は季節風(モンスーン)が春先に吹き、フェーン現象として乾いた空気が日本列島の山脈を挟んだ太平洋側に流れていくこと、春にかけて気温が上がっていくことの条件が重なり、4月の山火事の発生件数が大きいことが考えられます。
人工衛星と森林火災
森林や森林火災には中赤外線と熱赤外線の帯域が使用され、少し情報が古いですが極軌道気象衛星NOAAのAVHRR(Advanced Very High Resolution Radiometer、改良型高分解能放射計)、地球観測衛星Terra/AquaのMODIS(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer、中分解能撮像分光放射計)によって、観測されてきました。
海外では、ノルウェーやブラジル/アマゾンなどで森林火災の監視のために人工衛星が使用されています。
日本では山火事の焼損面積が大きくならず、人工衛星で観測できる範囲になった時にはすでに地上から観測できるレベルに達しているため、即応性にどうしても欠けてしまうのかもしれません。
日本よりも広く、監視の目が届きにくい状況にある海外の方が需要は高そうです。
日本で山火事の監視を人工衛星で実施する場合は、他のサービスと合わせてという形になるでしょう。
例えば、宇宙空間からの活火山観測、森林全体の観測、農業の農地面積観測などと合わせた形となり、現状山火事が主たる目的として提供できるサービスではなさそうな気がします。オプションとなると、オプション抜きといわれることがあるので、常設機能とした方がいいかもしれませんね。
むしろ、今まで組み込まれていなかったからこそ、イニシアチブが取れ、実績を積めるかもしれません。そう考えると日本でもすでに取り組んでいるところがあるかもしれませんが。
また、山火事への対応を行っている消防施設の担当地域が限定されていることも多く、県境での対応を考慮すると、ユーザーとしては都道府県あるいは国レベルが担当となり、農林水産省林野庁や消防庁管轄になりそうな気はしています。
衛星による日本の森林観測
衛星による日本の森林観測は、主に無断伐採をはじめとする森林の変化と土砂流出に関係する調査を実施しています。
ただ頻度は、人工衛星自体が少ないのか、毎日あるいは毎月同じ場所の画像データを取得しているわけではありません。
年に2回以上ではありますがそれほど頻繁に得られているわけではなさそうです。
森林伐採や土砂流出は、毎日刻々と変化するものではないため、頻繁に画像データを取得する必要がないというのが大きな理由でしょう。
ちなみに取得した画像データは林野庁空中写真 | 地図センターネットショッピングにて販売されています。
このような理由から、日本ではビジネス的には森林観測データは流行らないでしょう。
例えば、毎日画像データを取得するようなシステムに取り入れて、副次的に得られる森林火災のデータを蓄積管理していくといった方向になるのではないでしょうか。
また火災だけではなく、各地の火山のデータが取得することもよいのではないでしょうか。
日本のように、海外と比較して規模が小さい火災を見つけられるようにシステムを改善していけば、現在海外で運用されている森林火災監視システムよりも優秀なものができるかもしれません。
参考サイト
日本では山火事はどの位発生しているの?
https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/yamakaji/con_1.htm
日本の森林面積とその割合(わりあい)をおしえてください。また、森林の割合の多い県と少ない県をおしえてください。
山火事の直接的な原因にはどのようなものがあるの?
https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/yamakaji/con_3.htm
気候変動で増加する世界の山火事
https://spectee.co.jp/report/climate_change_expand_wildfire_world/
消防の歴史
https://www.bousaihaku.com/ffhistory/
宇宙からの地球環境の赤外線リモートセンシング
http://www.jsir.org/wp/wp-content/uploads/2014/10/2003.10VOL.13NO.1_13.pdf
世界の森林火災と航空機活用
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-88/01/sankou3-1.pdf
より効果的な林野火災の消火に関する検討会
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/post-88.html
社会に活かされる宇宙の目
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~shw/pse2013/20130517_nakau.pdf
世界・日本の森林面積ランキング。森林面積はどのように推移している?
https://mori-naka.jp/article/2900/
空中写真及びデジタルデータ等の入手方法について
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kutyu_syasin/
林野庁空中写真 | 地図センターネットショッピング