電波収集衛星についてまとめてみる
https://images.nasa.gov/details-s77e5022
日本の防衛白書の中に電波収集衛星という言葉があります。
このため主要国は、C4ISR機能の強化などを目的として、軍事施設・目標偵察用の画像収集衛星、弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星、電波信号などを収集する電波収集衛星、各部隊間などの通信を仲介する通信衛星や、艦艇・航空機の測位・航法・時刻同期や武器システムの精度向上などに利用する測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打ち上げに努めている。
電波収集衛星と言われて何を思い浮かべるでしょうか。
何も思い浮かびません。
電波信号などを収集するといわれると、電波傍受というという言葉が出てきます。
単純には、地上から発せられる電波の情報を宇宙空間で受信し、保管して、地上に受信した情報を送信します。
電波と言っても様々な情報を含んでいます。
衛星通信情報はもちろんですが、航空無線、GPS電波、空港無線、船舶無線、潜水艦通信などがあげられます。
無線通信を傍受しても、機微な情報を扱う場合は暗号化されており、いくつかの手順を踏まないと復号(暗号を解読)することはできません。
長中期的に考えるのであれば暗号の解読手段に使えるかもしれません。
長期間のデータの蓄積があれば、各国のデータの癖を知ることができるかもしれません。もちろん、癖が解読できなければ、無駄に終わるかもしれません。
データの癖と言っても、電波の波や各アンテナの種類とかそういうわけではなく、電波にデータをのせるときに、ある程度の規則的な並びにする必要があります。その規則的な並びを便宜上、データの癖としています。
さらに、現在は地上からの電波だけでなく、宇宙空間から、人工衛星が地上に向けて発信する電波にも注目されています。
宇宙からの電波、広大な宇宙空間から飛んでくる電波をどう捉えるのか、不思議に思うかもしれません。
技術的な話とか無視して考えると、スマホでGPS電波を受信しているようなもので、宇宙空間からでも、地上に送信される途中の人工衛星からでも、地上局からでもでも、時には驚くほどタイミングよく受信することはできるのです。
宇宙空間からの電波は、地上で飛ばされている電波よりは、ある程度人工衛星の周回軌道とアンテナの設置している地上局、打上げロケット軌道、あとは広域の受信機があれば、案外、電波を受信できるのです。
さて、技術的には電波収集が可能なのですが、どのようなことに使われるのでしょうか。
むしろ、自衛的な方向で、電波収集衛星が何に使われるのか。
過去、現在において、どのようなシステムが動いているのか、その辺りから調べてみました。
Signal Intelligence:SIGINTとは?
電波収集衛星を単語で調べると、SIGINTという言葉が出てきます。
Signal Intelligence(信号諜報)をSIGINTと称しています。
SIGINTとは、人工衛星のプロジェクトを示しているわけではなく、電波・信号に対する諜報活動そのものを示していることが多く、航空機や地上受信局、船舶、潜水艦も電波・信号を諜報する機能を持っていれば、その範囲に入ります。
SIGINTは、3つのカテゴリに分けられます。
- Electronic Intelligence (ELINT)
- Communication Intelligence (COMINT)
- Foreign Instrumentation Signals Intelligence (FISINT)
ELINTは、信号の取得・記録と分析を行います。
電波の周波数や変調方式、帯域幅、電力レベルなどのデータを取得分析します。
取得した情報で電波を識別し、さらに別のアンテナで同じ電波を受信することで発信側の位置の特定や妨害用の電波を構築することもできます。
COMINITは、信号の分析と復調を行います。
取得した電波を復調し、元のデータを読み取ります。
FISINTは、通信信号ではなくビーコン信号や、ロケットやミサイルのテレメトリ信号の取得と分析を行います。
さらにカテゴリを分けられそうですが、電波収集衛星は、これら(あるいはいずれか)の機能を持つ衛星と言えるでしょう。
電波収集衛星は、地球観測衛星のミッションである地球の光学画像を取得し分析するよりは、おそらく技術的には難しいような気がします。
ただ、画像を分析するときに主観が入らない分、やや機械的に分析できるため、主観が入らない分、ある程度正確に情報を分析できるかもしれません。
軌道で考えてみる人工衛星のSIGINTシステム
https://images.nasa.gov/details-PIA03015
低軌道(low Earth orbit:LEO)の周回衛星の場合を考えてみます。
周回衛星の場合は、情報量や通信機の性能、地上局の配置によりますが、地上との通信は、1回だいたい5~20分程度しか、タイミングがありません。
もちろん、電波は回り込む性質があるため、人工衛星は地平線から観測できないところから地上に向けて、早めに電波を送信しているため、もっと長く観測できるでしょう。
問題はどれだけ対象の衛星に近づけられるかと、短時間であるために収集する周波数帯域をどのように限定して取得するかに絞られるのではないでしょうか。
宇宙軌道上では、真空に近く、電波として有利な空間だといえ、電波は伝搬減衰を受けたり、指向性も持つ場合があるため、接近することが最も有効に電波を取得できる手段と言えます。
また、1つのアンテナや通信機(送受信機)では、すべての周波数帯域を同時に収集できるわけではありません。
地上でもベクトル・シグナル・アナライザ1台では、同時に信号を取得することはできず、スイープを掛けて信号を受信していますからね。
それぞれの周波数帯域に合わせたアンテナと通信機を用意できれば問題ないのですが、限られた人工衛星内部のスペースを考慮すると、あらゆる周波数に合わせたアンテナと通信機を搭載することはできません。
軌道上でなくとも、地上でもあらゆる周波数に合わせたアンテナを同じ場所に準備しておくことは、普通に難しいです。
話は少しずれましたが、これらの課題を解決した上で、低軌道の周回衛星では、日本上空の空間であれば、1時間間隔で継続して観測したいという希望はかなえられます。
軌道の間隔を調整する必要はありますが、10基もあれば技術的に可能ということも考えれば、取得したい周波数帯域とタイミングが合えば、実現可能なシステムであることは予想が付きます。
COMINITのようなシステムは、人工衛星の軌道を制御して対象の人工衛星に接近し、送受信するであろう地上局を想定してタイミングを合わせるという課題が解決できれば、可能です。
この周回衛星への接近がかなり難しいという話もありますが、軌道制御が可能な人工衛星が複数基打ち上げていたり、打上げ時にかなり近い軌道に放出できれば、実現性は高くなります。
ELINTとFISINTのようなシステムは、COMINITのようにデータを取得して解析するだけの情報量を収集する必要はないので、比較的構築しやすいシステムといえます。
周回衛星のようなタイミングの制限はなく、ほぼリアルタイムでデータを取得できます。地上局位置関係にもよりますが、火星のような長距離でもないので遅延も0.1~0.5秒以下でしょう。
人工衛星からは、地球の表面の約3分の1をカバーしており、地上局に対して継続的にデータを取得することができます。
これは電波を送信する側も、傍受する側も、受け取る側にもメリットです。
安定した電波を時間を掛けて分析でき、傍受できるというメリットです。
静止軌道の人工衛星は、ある程度の軌道制御は必要ですが、地上のある地点・広い空間の固定された方向でアンテナが向けています。
日本上空に配置すれば、地上から軌道上に漏れ出る電波を常に取得することができるのです。
そのため、ELINTとFISINTだけでなく、COMINITのようなシステムも周回衛星よりも、分析を考えず、電波を取得するということに関しては、やや容易です。
アンテナや人工衛星に搭載するデータ取得装置、通信機の性能を高くすることで、周回衛星の電波も収集することが可能です。
ただ、指向性アンテナを採用している衛星に対しては、そうそう収集できないでしょうけど。
指向性の高いアンテナとは3次元に広がる電波をある方向に集中して送信することが可能なアンテナシステムです。電波の低い電力レベルであっても地上局で受信を可能とし、電波を拾いにくいため傍受を難しくします。
電波収集という方面に対して、かなり近接していないと受信できず、衛星によっては近づいたときに軌道制御機器を使うことで収集衛星から逃げることも可能で、防御に強いアンテナシステムとなり、傍受側は工夫が必要になります。
久々に続きます。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
参考資料
What is SIGINT?
https://mark20x.blogspot.com/2018/12/isros-emisat-electronic-spy-in-space.html
Signals intelligence operational platforms by nation
CERES SIGINT Satellite System
https://www.airforce-technology.com/projects/ceres-sigint-satellite-system/
Poppy (satellite) wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Poppy_(satellite)
Orion (satellite) wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Orion_(satellite)
Orion (spacecraft) wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Orion_(spacecraft)
American Geosynchronous SIGINT Satellites
https://fas.org/spp/military/program/sigint/androart.htm
エッサイム (人工衛星)
Canyon
https://www.globalsecurity.org/space/systems/canyon.htm
VLBIとは
https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/vlbi-about.html
超長基線電波干渉法
ISRO's EMISAT: Electronic Spy in Space
https://mark20x.blogspot.com/2018/12/isros-emisat-electronic-spy-in-space.html
EMISAT (Electromagnetic Intelligence-gathering Satellite)
https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/content/-/article/emisat
Signals intelligence operational platforms by nation wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Signals_intelligence_operational_platforms_by_nation
A radiotelescope in the sky: the USA-202 ORION satellite
https://satelliteobservation.net/2017/09/24/a-radiotelescope-in-the-sky-the-usa-202-orion-satellite/
Galactic Radiation and Background
https://en.wikipedia.org/wiki/Galactic_Radiation_and_Background
小型実証衛星4型「SDS-4」とは
https://www.jaxa.jp/projects/sat/sds4/index_j.html
IMINT Gallery
SIGNALS INTELLIGENCE
https://spaceacademy.net.au/intell/sigint.htm
静止放送衛星は静止しているか
https://www.emc-ohtama.jp/emc/doc/009-R2_emc_reference.pdf
GRAB: First Signals Intelligence Satellite
https://www.cia.gov/news-information/blog/2018/grab-first-signals-intelligence-satellite.html
TacSat-2(AISシステム搭載)
https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/t/tacsat-2
Satellite AIS (Automatic Identification System) | ORBCOMM
https://www.orbcomm.com/en/networks/satellite-ais
exactEarth
高頻度船舶検出サービス
https://www.skyperfectjsat.space/news/detail/post_22.html
安全保障のためのMDA 平成29年1月
http://www.co-jaspa.or.jp/aboutus/data/proposal%20mda%20for%20n%20security%20abstract%20201707.pdf
海事の国際的動向に関する調査研究事業報告書(海上安全) 別冊 AISの国際的動向
https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00037/contents/0003.htm
船舶運航リスク・非常時の対応 海上安全と海洋環境保護への宇宙の利用
次期Xバンド衛星通信整備事業に関する基本的な考え方
https://www.mod.go.jp/j/procurement/release/pfi/xband/pdf/xband.pdf