宇宙交通管理こと、STM:Space Traffic Managementとは、宇宙機の打上げ、軌道投入、軌道変更、軌道離脱、地上への落下までの活動を管理することをいいます。
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宇宙空間の交通事情
宇宙空間の交通は地上と比べると比較的自由です。
信号がなければ、交差点もない、看板や標識もなく、速度制限もありません。
方向転換は難しいですが、地上のように、直進、後退、左折、右折だけではなく、上方向や下方向も可能です。
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飛行機に近いのですが、空港のようにどこかの拠点に集まることありません。
人工衛星は、自ら方向転換することが難しく、推進系と呼ばれるスラスターより燃料を放出した際に発生する推力で方向を変えています。
それ以外では、主に地球の大気による空気抵抗と地球の重力により、人工衛星の速度が低下し、落下していきます。
落下していくだけではなく、役目を終えた人工衛星を意図的に地球に落下させたり、静止軌道などの高高度のある人工衛星の場合は、墓場軌道と呼ばれるさらに上空の高度の軌道に移動させていきます。
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墓場軌道に移動させる理由は、比較的多くの人工衛星が配置される可能性のある軌道の場合、役目を終えた人工衛星の位置が、今後打ち上る人工衛星に邪魔となるため移動させます。
全ての人工衛星に推進システムが搭載されているわけでありません。
そんな人工衛星は緩やかに地球に自由落下することになります。
緩やかにというのは、人工衛星は、地球の地表面に対して水平に移動しており、地球の大気や重力の影響で、地球の地表面と水平面の斜め下方向に緩やかに進んでいるためです。
地球の重力圏により人工衛星の進む速度は決まっており、楕円軌道の場合、第二宇宙速度である約11.2km/sec、円軌道の場合第一宇宙速度である約7.9km/secで進んでいます。
この速度が保てなくなったときに、形状にもよりますが、重力の影響により重い方が比較的早く落下していきます。
宇宙交通管理の簡単な経緯
宇宙開発は、最初の人工衛星が1957年に打上げられすでに60年以上も経過しています。
それが今になって、宇宙交通管理といわれるようになったのかというと、宇宙空間、地球軌道上に進出する国、組織が急増したことが理由の一つです。
軌道上に人工物を配置するためにはロケットを使用するのですが、ロケットは宇宙機の代わりに爆薬を搭載すればミサイルになるため兵器と同等以上の機能を持っています。
打上げに関する注意喚起、関係各所への調整、打上げ時のロケット発射場からの避難勧告、十分な高度に達しなければ安全のための爆破などやることがたくさんあります。
現在は、世界で年間にロケットが打ち上るケースも200回近くにまで増えています。
回数が多くなれななるほど、注意喚起や調整などの制御が難しくなっていきます。
ロケットの打ち上げ回数が増えると、ロケットに搭載する物量も大きく変わります。
初期はロケット1台に付き、宇宙機1機であったのですが、現在では宇宙機数十機も同時に打上げられることもよくあります。
地球軌道上に投入された人工衛星は、目的のために軌道を動いたり、他の人工衛星と軌道を避けたり散らばっていきます。
初期は人工衛星の数が小さく、人工衛星同士がぶつかることも稀といえる事象だったのですが、現在では人工衛星の数が増えたことによって確率が高くなる一方です。
稼働中の人工衛星以外にも、役目を終えたり一度も起動せずに廃棄される人工衛星もたくさん存在しています。
これらの人工衛星は、静止軌道に近い場合は墓場軌道とよばれる軌道に軌道制御したり、地球上に落下させる場合もあります。
地上に落下する場合は、大気圧による圧縮熱などにより人工衛星が燃えていくのですが、融点や沸点が高い物質が使用されていると燃え残ったり、十分に燃焼されずに地球表面に落下する事例も少なくありません。
何かしら、誰かしら損害を被る事態が表面化しつつありルール化して管理しようとしているのが、現在の宇宙交通管理の流れです。
日本の宇宙交通管理
日本ではすでに宇宙交通管理として、いくつかの法律ができています。
通称宇宙活動法と呼ばれる法律のことです。
宇宙活動法の中で次の3つが宇宙交通管理に関わる部分と考えられます。
宇宙交通管理は、宇宙機の打上げ、軌道投入、軌道変更、軌道離脱、地上への落下までの活動を管理することとあげましたが、それぞれ該当しています。
人工衛星及びその打上げロケットに係る許認可制度は、宇宙機の打上げや軌道投入に係る部分をルール化しています。
人工衛星の管理に係る許認可は、軌道離脱、地上への落下に係る部分をルール化しています。
第三者の賠償に関する制度は、これらの宇宙での活動の賠償するための保険の義務付けです。
今までの宇宙での活動は自由であり、すべて自己責任でした。
宇宙活動を進めていたのが国レベルであったときは良かったのですが、現在、民間企業の進出もあり、1つの事故が民間企業にとって致命的になることも想像できます。
少しずつではありますが、宇宙業界の地盤を法律を使用して強固にしていっています。
この宇宙交通管理では、軌道離脱や地表落下、つまり運用後に役目を終えたり、故障して動かせなくなった、あるいは動かなかった、様々な原因でバラバラとなった人工衛星がスペースデブリが2010年代後半からより注目を浴びています。
スペースデブリ除去が注目され、扱いやすく、ビジネスにもつながりやすい理由の一つに、運用が終わった人工衛星を対象にしていることがあげられます。
使い終わった人工衛星なのだから自由にできる。
汎用的な手段で除去できれば、ビジネスサイクルとして回りやすいと考えることができるでしょう。
もちろん、どこまでコストを抑えることができるかが問題ではあります。
さて話を宇宙交通管理に戻すと、宇宙機の活動の中で宇宙活動法の中で制限が難しいことが一つ残されています。
軌道変更です。
軌道変更はすべての人工衛星できません。
時折、人工衛星衝突回避の記事を読むと、すべての人工衛星が軌道制御可能な機能を有しているかのように、記載されていることが多いです。
いわゆる、小型衛星並びにキューブサットとも呼ばれる超小型衛星では、搭載スペースの関係から軌道制御用の電子機器や推進システムであるスラスターを搭載できないことが少なくありません。
もしスペースデブリが衝突する可能性があるのであれば、受け入れるしかないのです。
軌道変更はすべての人工衛星ではできないことから、法律上も機能の有無を記載することはできますが、軌道制御の機能をいれること義務化することはかなり難しいでしょう。
広がり始めた宇宙開発の市場を狭めることになってしまいますので。
今後の宇宙機同士の接触事故
今後、さらに人工衛星が増え始めたら飛行機や船舶の接触事故より件数が増える可能性があります。
それは人工衛星同士で回避行動ができない場合があるからです。
接触してしまった人工衛星は破損するのですが、破損の欠片が新たなスペースデブリとなっていきます。
新たなスペースデブリは、破損した人工衛星本体と比べて形状も重さも違うため、落下速度が変わり、微妙に高度も変化していきます。
これらの繰り返しにより、低軌道側でのスペースデブリの渋滞が発生していきます。
この渋滞はやがてロケット打上げ、特に静止軌道や楕円軌道まで打ち上げる際にぶつかる可能性も高くなっています。
もちろん、影響が大きくなりうる大きなスペースデブリは、国際的にある程度共有されているため、まだまだ大きな影響はないが。。。という状況です。
参考サイト
『宇宙交通管理(STM:Space Traffic Management)の現状と今後の動向に関する調査研究』報告書
https://www.jsforum.or.jp/files/libs/623/20220712150003860.pdf
宇宙交通管理(STM)の現状と課題 2018~2020年度総括
https://space-law.keio.ac.jp/pdf/symposium/symposium12_04.pdf