往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

宇宙産業の規模を他の業界ランキングと比較【2023年】

宇宙業界が盛り上がっていると言われることもあり、世界規模では2030年代後半には100兆円の市場規模と言われています。

日本政府目標としては、2030年代までに2倍を目標としています。

[目次]

 

宇宙業界の規模

そんな宇宙業界ですが、業界内でも市場が7つに分かれています。

 

宇宙機器産業 約3500億円

②宇宙利用サービス産業 約7700億円

③宇宙関連民生機器産業 約1億4500億円

④ユーザー産業 測位分野 約3.2兆円

⑤ユーザー産業 通信・放送 約2.2兆円

⑥ユーザー産業 リモートセンシング部門 約5000億円

一般社団法人日本航空宇宙工業会 令和元年度宇宙産業データブック(平成30年(2018)年度の宇宙関連産業規模)

 

この中で①②が政府が注力する宇宙産業と呼ばれる範囲です。

 

③宇宙関連民生機器産業はカーナビシステム製造、BS/CSチューナ付きTVの製造を示しています。

④~⑥は人工衛星による衛星データを利用した一般に使用する分野を指しています。

 

この③~⑥に衛星データの提供するための根幹の部分を①②分野で作り出し、合計約1.2兆円規模の市場を日本政府は2030年代までに2.4兆円規模を目標としています。

 

直近のデータはありませんが、宇宙産業約1.2兆円(2018)でとりあえず比較していきましょう

日本の業界規模の中での宇宙産業

日本の業界規模top5は次の通りです。

 

1位:卸売 126兆円

2位:電気機器 85.5兆円

3位:総合商社 66.2兆円

4位:金融 64.4兆円

5位:自動車 63.9兆円

次点:小売 63.1兆円

※卸売と総合商社がある程度被っているため次点も記載しました。

 

調べられる範囲で業界規模top46-50は次の通り。

 

46位:ゴム・タイヤ 6.3兆円

47位:地方銀行 6.2挑円

48位:家電量販店 6.1兆円

49位:精密機器 5.8兆円

50位:人材派遣 5.6兆円

 

そうです。

日本の宇宙業界はtop50の中に入らない規模だということが分かります。

宇宙業界の規模がそれほど大きくない理由

宇宙産業は国策で進められており政府がほぼ発注元でした。

政府の予算以上に市場が大きくならない、政府の方針に左右される業界でした。

 

政府方針に左右されないものとして、上記の分野でいう②宇宙利用サービス産業である民間の通信衛星スカパーJSAT)やアマチュア無線衛星がありました。

2010年代後半では①宇宙機器産業で外国からの受注依頼による人工衛星製造も上げられます。

 

政府外からの割合は少なく、政府の政党が変わるだけも宇宙予算が大きく変わります。

しかも宇宙業界は、政府の資金から出ているため、宇宙技術に対する理解がなければ旨味がなく、他の業界と比較しても政治的に弱い立場にあります。

 

長期政権や長期政権政党の場合ですと、宇宙技術に対する理解の蓄積があるために予算が大きく削られたり、プロジェクトの延期や中止もそれほど大きくはないという特徴があります。

 

この辺りは宇宙大国であるアメリカにも言えます。

アメリカの政権の方針により、国際規模の宇宙開発プロジェクトの方針が大きく変わり、予算の増減やプロジェクトの延期や中止などよく発生しており、決して不思議な状況はないというのが宇宙業界の現状です。

 

その中でやっと政府から民間でも宇宙開発ができる土台ができつつあります。

ちょうど宇宙業界への政府資金が重荷になった時に、超小型衛星やロケットなど民間でも製造できるような体制が整ってきています。

 

この勢いのまま政府が後押しをして政府の資金以外で成り立つことが可能な市場へと進んでいます。

それでも、まだまだ足りないという現実は持っておいた方がいいでしょう。

 

例えば、アメリカにおいてスペースXという大きな宇宙企業ができたとしても、政府からの援助を受けてプロジェクトを進めているところがあります。

政府からの資金が日本、世界を含めても大きな割合を占めており、決められた上に年々減りる可能性があるお金の奪い合いのある世界なのです。

 

まだまだ政府以外からの資金が全然足りない、政府からの資金の比率がとても高い業界であることには間違いありません。

 

もし宇宙業界に就職したのであれば、政府からの案件に力を入れて取りに行っていること、政府からの案件は適正な利益率が決められているために、儲けるというのが難しいです。

宇宙業界で利益を得るにはどうしても政府外からビジネスを成立させる仕組みを作ることが必要になります。

 

特にスタートアップやベンチャー企業と呼ばれる宇宙関連企業は、宇宙開発に挑むと同時にビジネスを確立させる仕組みを作っていくことになるでしょう。

宇宙開発だけ、技術だけにこだわらず、多面的にやっていくことになります。

企業や技術、ビジネスの紹介など、経営に直接関わるかどうかは分かりませんが、対外的に説明するということは多くなるかと思います。

 

今後、市場規模が大きくなることが世界的に言われています。

そんなうまい話があるのかなとは思いますが、民間でも宇宙開発が行われ、政府も後押ししていることから市場規模が縮小する方向には動かない、そんな業界が今の宇宙業界です。

参考サイト

第1回宇宙産業プログラムに関する事業評価検討会中間評価/終了時評価 補足説明資料

2022年1月14日経済産業省製造産業局宇宙産業室 

https://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000R03/220114_space_1st/space_1st_08-1.pdf

業界別 業界規模ランキング(2021-2022年)

https://gyokai-search.com/5-kibo.html

市場規模マップ

https://stat.visualizing.info/msm

【就活生のための】宇宙開発業界の業界研究・宇宙就活

宇宙業界とは

宇宙業界、あるいは宇宙開発ビジネスという括りで考えると、宇宙関連機器の発注者、製造者、運送者、運用者、分析者、利用者に分けられます。

 

宇宙業界は、宇宙開発初期から延々と関わり続けてきたオールドスペースと、2010年代後半より始まったニュースペースに2つに分けられることが多いです。

 

[目次]

 

オールドスペース(OLDSPACE)

オールドスペースは、宇宙業界が国策メインの資金で成立していた時代から関わってきた組織が当たります。

宇宙航空研究開発機構JAXA)は国立開発法人であるので別として、三菱電機NECスペース、富士通といった宇宙機に関わるものから、IHI川崎重工といったロケットに関わる企業、放送衛星を運用しているスカパーJSAT放送衛星システムが代表として挙げられます。

 

これらの企業の中で宇宙機やロケットを製造するメーカーは、システムメーカーとして装置をはじめ、素材などを開発する製造メーカーを従えており、業界のすそ野はとても広い業界です。

先に上げた企業が有名ではありますが、ロケットや宇宙など国策に関わっていたことから、極力国内生産が推奨され、国内でほとんどの部品や機器を製造できるような体制を構築しています。

 

しかもこれらの細かい部品や機器を製造しているのは300人以下の中小企業であることがほとんどです。

入社してみて、実は宇宙関係の機器を製造していたなんていうことはよく聞く話です。

マイナビやエン・ジャパン、リクナビで検索しても載っていない企業で開発していることもよくあります。

これらの製品は一品一様であったり、100台も製造しないような製品がほとんどです。

 

ちなみに宇宙開発関係の株式は、企業内の宇宙分野の比率がそれほど大きくないため、影響が少ないです。

正直あてにならなさそうなので、株価よりIRの方を見た方が良いでしょう。

 

ニュースペース(NEWSPACE)

2010年代頃よりキューブサットといった超小型衛星や小型衛星が開発され、頻繁に打ち上げられるようになりました。

これらの衛星を開発し運用している企業は、オールドスペースではなく新興企業がほとんどでしたので、ニュースペースと呼ばれています。

 

ニュースペースの宇宙業界進出により、宇宙開発業界が注目され、人工衛星の数も多くなり、今まで目が向けられていなかった宇宙から得られる画像データなどが注目されるようになっていきました。

 

2010年代以前も僅かではありますが人工衛星により取得されたデータを公開しているところがあったのですが、人の流入が少なく、技術的にも大きな勢いがなかったため大学の研究ベースで進められていました。

 

それが、人工衛星の増加による業界への注目と人の流入に合わせて、今まで人工衛星より取得していたデータを無料で配布する(主に政府)機関が増え、整備されるようになりました。

当時注目の的であったビックデータの解析と人工衛星の画像データ、観測データとの親和性が高く使用方法がや解析方法が一気に拡散されるようになってきました。

 

そこで画像解析エンジニアが宇宙業界へ広く参入するきっかけとなっています。

 

アクセルスペースやSynspective、キヤノン電子といった人工衛星開発メーカーのほかに、地上局のシステムを構築するインフォステラ、衛星データ解析を行う天地人、ロケットを製造しているインターステラテクノロジズなどがあげられます。

 

オールドスペースとニュースペースの違い

就職をするという観点でのオールドスペースとニュースペースとの違いは、企業としての安定性に違いがあります。

 

オールドスペースの場合は、過去から事業を受け持っているために、比較的安定的に仕事を受注することができ、事業展開も宇宙事業以外も実施していることもあり、企業としてもつぶれにくくなっています。

ただし、企業としての宇宙事業の比率や組織としての重要性が低くなっています。

 

日本の宇宙企業において、過去、宇宙事業の衰退が一気に進んだ時期がありました。

有名なのはアメリカとの包括的貿易法「スーパー301条」、民主党政権による事業仕分け(2009年~2013年)です。

政府からの資金でほぼ成立していたため、国の方針で左右されることから宇宙業界が消えることは無くとも、企業としては撤退せざる得ない状況に陥ったところも少なくありません。

これらの事情により生き残っている企業は、国策としての事業としての固さ、企業がつぶれたり海外に買収されたとしても国内企業へ引き取りされる可能性が高いです。

 

オールドスペースにはそんな事業としての固さがあります。

 

ニュースペースの場合は、宇宙事業中心で立ち上げられた企業で、大学生ベンチャー発が多いですが、他業界からの企業や転職者が多い傾向にあります。

即戦力であったり、高い熱意が求められることが多く、大学からの就職は、大学時代に宇宙関係の研究や自主的に宇宙に関係する活動をしていないと厳しく、代わりに熱意や幅広くやりたいことを出さないとなかなか難しいところがあります。

 

オールドスペースでも、大企業(従業員1000名以上)でも近い厳しさはありますが、ニュースペースの方は熱意の強さに勝るものはないといえるでしょう。

この高い熱意というのは、言い換えると長期的に続けられるモチベーションとも言えます。

ニュースペースが増えてきたことで人材もさらに流動的になったので、継続していく高いモチベーションが必要になっています。

IT業界ではないベンチャー企業があまり表に出ないだけで、情報も想像も難しいとは思いますが、勢いのある市場・業界というだけでは新卒の大学生にはややハードルが高くなってきている程度には成長してきている業界ではあります。

理系職ではない場合、強烈な熱意がなければオールドスペース側で就職して、気づいたら関わっていたということもゼロではありません。

 

ただ、オールドスペースだとやることがルーチン化されていることが多く、知識も特殊で専門的になり易く、ニュースペースは広い範囲で関わることができ、スパンがとても速くスピード感があります。

これは人数的な要素もありますが、市場開拓や業務開拓で色々やらなければならないというのが理由なのかもしれません。

 

業界の市場

宇宙業界は、BtoG(企業と行政/政府)が一番大きいお金が動きます。

次に、BtoB(企業同士)で、最近はBtoC(企業と消費者)も増えてきています。

 

事業の安定性と市場規模はBtoG>BtoB>BtoCとなります。

まだ政府の資金が大きく、利益が制限されていますが、徐々にビジネスとしての成立しつつある傾向にあり、BtoBやBtoCが増えています。正直、BtoBやBtoCが増えていかないと、政府主導に逆戻りになり、宇宙業界が再び衰退していくことになります。

現在はビジネスの種まきから芽を出しているところで、政府の補助金(アンカーテナンシー)で下支えを行い、将来に向けて進んでいるのが現状です。

何がきっかけで市場が拡大していくか分からない状態でもあります。

 

BtoCは、衛星データ解析や通信衛星スターリンクによる通信やBS放送)となります。

BtoBは、コンポーネント開発や衛星データ解析、解析ソフトウェア、衛星施設運用・保守など多岐にわたります。

 

業界的にはコンポーネント開発やパーツ(部品)開発のすそ野が広く、パーツ開発の場合、宇宙で使用されているとは明言されなかったり、製造メーカーに情報が来ないこともあります。

ちなみに衛星データ解析や解析ソフトウェア、前述したシステムメーカーの場合、英語力が必要になっていきます。

 

今後の宇宙業界の活性化で別の分野、例えば画像解析や衛星データによるアプリなどが少しずつ増えていくかもしれません。

 

そして、今まで宇宙業界に手を出していなかった企業もJAXAを通じて宇宙のデータを使用していくよう活動を始めていることから何かしら宇宙に関わることができるような世の中にはなっています。

www.jaxa.jp

https://www.jaxa.jp/projects/biz/index_j.html

 

宇宙業界の魅力

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

www.youtube.com

 

NASA(JPL)で働いている小野 雅裕さんの話ではビジネスとともに国の機関の役割なども話してもらっています。

www.youtube.com

 

ニュースペースでの就職事情

www.youtube.com

 

宇宙就活サイト

新卒向け宇宙就活サイトは、宇宙就活が大きいですが、マイナビやエン・ジャパン、リクナビでも取り扱っています。

 

宇宙就活

spacejobhunting.wordpress.com

https://spacejobhunting.wordpress.com/

 

宇宙関連事業

とても分かりにくいサイトですが、JAXAのサイトでも宇宙関連事業として紹介されています。

aerospacebiz.jaxa.jp

https://aerospacebiz.jaxa.jp/partner/#partners

aerospacebiz.jaxa.jp

https://aerospacebiz.jaxa.jp/venture/

マイナビ

就活メインのサイトでは、マイナビの宇宙業界地図がまとまって分かりやすいですね。

他の宇宙業界地図はロゴマークでまとめられていて少しわかりにくいですので笑

宇宙ビジネスの業界地図

ちなみにサイト内の検索で調べると人材派遣会社も多く含まれてしまうため注意が必要です。

JAXA新卒採用サイト

もちろJAXAの新卒採用を直接確認した方が最新情報を入手するには便利です。

stage.tksc.jaxa.jp

https://stage.tksc.jaxa.jp/recruit/

 

あまり知られていませんが、リモート・センシング技術センター(RESTEC:レスレック)も宇宙に関係しています。

www.restec.or.jp

https://www.restec.or.jp/recruit/

転職サイトから実情を調べる

新卒の情報サイトの検索条件では絞り切れないばあいは、転職サイトから現在必要な人材や求人情報などの目星をつけて、サイトの採用ページから直接アクセスするのも一つのやり方です。

doda.jp

https://doda.jp/keyword/%E5%AE%87%E5%AE%99%E9%96%A2%E9%80%A3%E3%80%80%E6%AD%A3%E7%A4%BE%E5%93%A1/

 

文系で宇宙関係の就職が可能なのか

可能です。

 

JAXAの仕事でいうのでしたら予算管理(会計事務)や法務関係、広報、教育で関わることができます。

英語力を生かして、国際組織間の調整を行う仕事を行うことも定常業務としてあります。

現在はニュースペースに代表されるように、新しいビジネスや法律が作れていることから、ルールの整備などに関わることになることでしょう。

 

JAXA外となると、営業や事務、技術サポート業務がメインになります。

企業としては、宇宙関係を取り扱う商社や保険業が文系職としての需要になります。

 

商社は主に海外メーカーとやり取りすることが多いため、英語力は必須となります。

むしろ、英語力の高さから海外の宇宙関係のメーカーとの担当になる可能性もあります。

入ってからは技術英語や各種機械の性能を読み取れる以外に、技術職より先に世界的な製品需要など宇宙業界を広く知ることができます。

 

保険業はまだ未知数ですが、大手の保険業者が手を上げており、国内よりも海外の方が件数が多くなりそうなので、こちらでも英語力が必要になってきます。

保険業の場合は、入ってからで問題ないとは思いますが、ロケットや人工衛星の打ち上げや運用での流れを知り、どこで保険が必要となるのか、人工衛星の開発・製造費や市場規模などを知っていくことができるでしょう。

 

fanfun.jaxa.jp

https://fanfun.jaxa.jp/topics/detail/5571.html

 


 

インドの宇宙開発 衛星ナビゲーションシステムNaVIC

インドのNASAJAXA版ともいえるインド宇宙研究機関(ISRO)があります。

 

インドは1975年にISROが初めて人工衛星を打ち上げて以来、通信衛星地球観測衛星、航法衛星、軍事衛星をはじめ、何十機もの宇宙機を打ち上げています。

世界的にみると、アメリカ、ロシア、中国、日本、欧州に並ぶ宇宙開発国の一つです。

 

1975年、インドの初の人工衛星はロシアのロケットによって打ち上げられました。

衛星自体は、電力系統の故障によって5日後には通信が途絶えてしまいましたが、その後も継続的に宇宙機を開発し続けています。

 

また、1980年代後半からロケットを開発し打ち上げるようになり、1993年の初回打上げは失敗したもののその後は極軌道や対地同期軌道向けに継続した軌道輸送能力を有しています。

 

インドの衛星ナビゲーションシステム

現在、ISROでは2018年からインド洋を含むインド地域に限定した衛星測位システム(あるいは、衛星航法システム)が運用されています。

 

衛星航法システムは、人工衛星から発射される電波信号から地球上での位置の測定や時刻を知るシステムを言います。

 

地域を限定せず、地球全周をまたがる場合はGlobal Navigation Satellite System (GNSS、全地球航法衛星システム) とも言い、アメリカのGPSがとても有名です。

 

インドではNaVIC(Navigation with Indian Constellation)と呼ばれています。

また、2013年に開始されたインド地域航法衛星システム(IRNSS)と2019年に統合されています。

インドは、当初の表向きの目的としてインドの民間航空部門の支援を目的に、2008年以降、航法衛星を打ち上げています。

 

NaVICのシステムは、周波数帯(L5バンド(1176.45 MHz)、Sバンド(2492.028 MHz))を採用することにより、アメリカのGPS(L1バンド)よりも正確な位置を観測できます。

といっても、アメリカのGPSは、1978年から1993年に打ち上げられた測位衛星によって構築されているもう古いシステムではありますが。

 

NaVICには現在8つ程度の人工衛星により構築されており、そのうち3つの静止軌道(GEO)にあり、高度24,000kmの遠地点と250kmの近地点に5つの静止衛星(GSO)があります。

 

NaVICのシステムでは、インドおよび隣接国では10m未満で、インド洋地域では約20m程度の精度を誇ります。

現在では、地上、航空、海上ナビゲーション、災害管理や車両追跡、携帯電話との統合、正確な時刻やマッピング、測地データの取得、旅行者向けの地上ナビゲーションシステム、電力ラインとの同期、リアルタイム車両情報システム、漁師の安全などの一般的なアプリケーションの使用から、国家プロジェクトにも利用されています。

 

NaVICのシステムは、国際的な衛星航法システムとは異なり、インド政府としても推進しているため、2019年には国内のすべての商用車両に対してNaVICベースとなる車両追跡装置とスマホにも搭載すること搭載することが義務付けられました。

 

世界中でドローンが使用されるようになり、インドは2021年にドローンの規制を更新しています。その中には、NaVICのデバイスを搭載することも含んでいます。

 

インドの航法システムの今後

このようなシステムは、日本の準天頂衛星QZSSに非常に近いです。

全世界という意味では、先ほどから上げているアメリカのGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国の北斗があります。

 

現時点では、8つの航法衛星で構成されているNaVICですが、GEOの衛星寿命は9.5年、GSOの衛星寿命は11年であることから、次世代あるいは代替衛星も打ち上げも進んでいます。

 

日本では、一般でも近年に発生したロシアのウクライナへの軍事侵攻により、宇宙大国の一つであるロシアのロケットをはじめ技術が使用できなくなったことで、宇宙業界では大きな衝撃を与えました。

独自でGPSと同等レベルの航法システムを持つことの重要性を認識するようになりました。

 

NaVICの始まりは、印パ戦争と呼ばれるインドとパキスタンの間で行われた戦争(インド・パキスタン戦争)に始まります。

1999年、インドの北部とパキスタン北東部の国境にある山岳部で発生したカルギル紛争で、インドはアメリカの所有する衛星航法システムであるGPSに、この地域の衛星データの提供を求めました。

 

しかし、アメリカはデータの提供を拒否したことにより、インドでも独自での衛星航法システムの重要性を認識させました。

 

その結果、インド独自の衛星航法システムを構築するに至ったのです。

 

参考資料

Everything You Need To Know About NavIC, India’s Version Of GPS

https://www.indiatimes.com/explainers/news/everything-you-need-to-know-about-navic-indias-version-of-gps-587540.html

India’s Road To Space Superpower: NavIC, The Indian GPSIndia’s Road To Space Superpower: NavIC, The Indian GPS

https://bharatshakti.in/indias-road-to-space-superpower-navic-the-indian-gps/

India to launch replacement navigation satellites NVS-0: Jitendra Singh

https://www.business-standard.com/article/technology/india-to-launch-replacement-navigation-satellites-nvs-0-jitendra-singh-122120701186_1.html

Centre States About The Increased Usage Of Indian Regional Navigation Satellite System

https://indiaeducationdiary.in/centre-states-about-the-increased-usage-of-indian-regional-navigation-satellite-system/

India’s satellite sector enters high growth phase

https://www.fiercewireless.com/5g/indias-satellite-sector-enters-high-growth-phase

Satellite Navigation Services

https://www.isro.gov.in/SatelliteNavigationServices.html

それは基礎研究から始まった

https://www.nikkei-science.com/beyond-discovery/gps/04.html

NavICで武装し、インドは自立は主張!

https://www.indiaperspectives.gov.in/ja/armed-with-navicindia-asserts-self-reliance/

地球周回衛星の周回数と回帰日数について

地球周回衛星の周回数とは、地球周回衛星は1日に地球を何周も回っており、1日に何周回っているかを示したものです。

 

地球周回衛星の多くは地球観測衛星であることが多く、日本の組織が保有している衛星では、JAXAALOS-2ALOS、アクセルスペースのGRUS、synspectiveのStriX-1、キヤノン電子CE-SAT、ソニーが打上げ予定のSTAR SPHEREが該当し、いずれも地球観測衛星です。

アメリカのSpaceX通信衛星であるStarlinkも地球周回衛星になります。

周回数

周回数(N)は、地球の軌道周期24時間(=86400sec)に対し人工衛星が地球を1周するのに要する時間(T)からから求められます。

 N=86400/T

 

周回数を計算すると、端数となることがあります。というか、ほとんどがその場合となります。

 

周回数で算出した端数分は、周回数が地球を1周する時間なので緯度の位置は同じになりますが、経度がずれていくというイメージです。

 

また、周回数が整数値になった日数がいわゆる回帰日数となります。

回帰日数

回帰日数(M)は、地球上のある地域を再度観測するには何日かかるかの日数となります。Lは整数として、次の条件で求められます。

 L=M×N

 

地球周回衛星の観測の特徴

地球周回衛星は、地球のほぼ全球を観測するために、太陽同期準回帰軌道であることが多いです。

地球周回衛星における軌道の違いの特徴の一つとして、回帰日数が変わります。

太陽同期準回帰軌道は、数十日で同じ位置を観測することができます。

太陽同期回帰軌道は、1日で同じ位置を観測することができます。

赤道軌道は、1日で何度も同じ位置を観測することができます。

 

あまり意識していないかもしれませんが、災害が発生した際の次のような特徴があります。

・1時間半前後の写真が連続して取得されている。

・1日後の写真が少し位置がずれている。

これは人工衛星の周回数と回帰日数の違いによって発生します。

 

ただし、1時間半前後の写真を取得していたとしても、人工衛星の観測範囲により元の位置から大きくずれてしまします。

 

同じ位置を観測するには、観測幅の広い観測装置を利用するか、観測装置が駆動式であったり、人工衛星自体の指向を動かして同じ位置を観測する、軌道制御装置を利用して移動するという方法があります。

 

ただし、これには小型衛星レベルだと難しい問題があります。

 

それぞれ、観測装置に駆動装置を取り付ける、指向性を動かせるだけの指向性誤可能な装置を取り付ける、軌道制御装置を取り付けるといった方法が取られます。

 

しかし、小型衛星ではそれらの装置を取り付けるスペースと電力、駆動する際に発生する振動を相殺させることが難しくなります。

 

これらに対しては、小型衛星の短納期、小コストという利点をとって衛星コンステレーションとすることで解決するのがここ数年の業界の動きとなります。

 

大型衛星では装置を搭載できれば対応可能なのですが、装置を搭載する分、スペースや電力、駆動の際の振動に影響され、観測装置そのものに制限が発生する可能性があります。

 

もちろん使用される電力が増大することから、バッテリーの配置や数量、放熱設計による観測装置への影響なども考慮しなければならず、開発期間に影響が発生してしまいます。

 

この開発期間の長期化と、一品物の開発中の不具合によるプロジェクト全体の影響をから、小型衛星が主流となっている要因の一つとも言えます。

 

参考

 

基本宇宙計画の重点事項(2022年5月版)の内容を年表で書き出してみた

基本宇宙計画とは

基本宇宙計画は、宇宙の大きな可能性と、現在我が国が直面している厳しい状況を認識し、今後20年を見据えた10年間の宇宙政策の基本方針を以下のとおり定め、官民の連携を図りつつ、予算を含む必要な資源を十分に確保し、これを効果的かつ効率的に活用して、政府を挙げて宇宙政策を強化していくものです。

 

今回参照するのは、令和2年6月30日閣議決定された基本宇宙計画を元に策定された、令和3年12月28日宇宙開発戦略本部決定された基本宇宙計画工程表(令和3年度改定)における、令和4年5月20日宇宙開発戦略本部にて示された宇宙基本計画工程表改訂に向けた重要事項を元にまとめました。

 

宇宙基本計画工程表改訂に向けた重要事項は次の改訂に向けた重点事項をまとめたものなのですが、各重点項目でまとめていることから年代が分かりにくい側面があります。

 

さらに上位の基本宇宙計画工程表に年表がありますが、各項目でまとめられていることから、年間分けでまとまった情報がありません。

 

ということで勝手にまとめました。太字は重点項目ですね。

2021年度
  • 11 月にロシアが衛星破壊実験を行った
2022年度
  • X バンド防衛衛星3 号機を打ち上げる。
  • 即応型小型衛星システムである短期打上型小型衛星の実証を打ち上げる
  • SAR、AIS 複合利用で把握した船舶情報や各種衛星情報等との組み合わせにより船舶の識別や行動を分析するデータを取得するALOS-4を打ち上げる
  • 宇宙状況把握運用システムの一部として整備する民間事業者等に宇宙状況把握に関する情報を無償提供する機能の運用試験を行う
  • 準天頂衛星システムの衛星安否確認サービスとスマートフォンによるアドホックネットワーク技術を組み合わせ、一般の通信回線が途絶した状態でも、比較的低コストで広範囲に渡って災害直後から安否情報の収集等が可能になる技術を開発し、システムの評価を継続して実施する
  • X線分光撮像衛星(XRISM)及び小型月着陸実証機(SLIM)を打ち上げる
  • 商業デブリ除去関連技術実証に取り組む
  • 衛星通信における量子暗号技術の基盤技術を確立する
2022年度以降
  • HTV-X の 1号機、2号機、3号機を打ち上げる
2023年度
  • 宇宙状況把握システムの運用開始する
  • 気象庁総務省が連携して、台風・集中豪雨の監視・予測、航空機・船舶の安全航行、地球環境や火山監視等、線状降水帯等の予測精度向上に向け、大気の3次元観測機能など最新の観測技術を導入した次期静止気象衛星の製造に着手する
  • 温室効果ガス観測センサ 3 型(TANSO-3)、高性能マイクロ波放射計 3(AMSR3)及
    び両センサを搭載する温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)を打上げる
  • イプシロン S ロケットの実証機を打ち上げる
  • 準天頂衛星システム7 機体制構築
  • 宇宙状況把握運用システムの一部として整備する民間事業者等に宇宙状況把握
    に関する情報を無償提供する機能の本格運用を開始する※政府側と民間側で意図的に分けられているのか不明
  •  ESA が行う衛星システムEarthCARE/CPRの打ち上げる(日本側は支援する)
  • 革新的衛星技術実証プログラム3号機を打ち上げる
  • フルデジタル通信ペイロードを搭載した技術試験衛星9号機を打ち上げる
2023年度以降
  • JAXA の宇宙状況把握システム(レーダ、光学望遠鏡および解析システム)を用いて、解析能力の向上を行うとともに、防衛省が運用する我が国の宇宙状況把握システムへ観測データを共有し、我が国の宇宙状況把握能力の強化を図る
  • 宇宙分野の人材育成の強化に向けた検討を行う
2024年度
  • 人類初の火星圏からのサンプルリターン実現に向け、火星衛星探査計画(MMX)の探査機を打ち上げる
  • 深宇宙探査技術実証機(DESTINY+)を打ち上げる
  • 海外向け高精度測位補強サービス(MADOCA-PPP)の実用サービスを開始する
  • 災害・危機管理通報サービスによる配信情報の拡張のためのシステムを運用開始する
  • 測位信号のなりすまし(スプーフィング)を防ぐ信号認証機能の正式運用を開始する
  • 将来の宇宙輸送システムの研究開発の、国際協力による1段再使用飛行実験を行う
  • アジャイル開発・実証の実現に向け、小型技術刷新衛星研究開発プログラムの衛星として 2024 年度に初号機を打ち上げ、実証実験を行う
  • 革新的衛星技術実証プログラム4号機を打ち上げる
2020年代前半
  • 国内での事業化を目指す内外の民間事業者における取組状況や国際動向等を踏まえ、必要な環境整備の在り方及びその実現に向けた進め方について、早期に具体化する
2025年度
  • 地球低軌道から地上へのマイクロ波方式によるエネルギー伝送の実証を開始する
  • 災害・危機管理通報サービスのアジア・オセアニア地域での正式運用を開始する
  • 日本の民間事業者による小型 SAR 衛星コンステレーションの構築する(国側としては支援する)
  • 欧州宇宙機関と協力し、国際水星探査計画(BepiColombo)の探査機の水星到着し、運用を開始する
  • 高精度な航空用の衛星航法システム(SBAS)の整備のため、準天頂衛星 7 機体制による安定した測位補強サービスを開始する
2025年度以降
  •  ISS 運用期間への参加の可否については検討中
  • 商業デブリ除去技術実証を取り組む(2022年度は関連技術実証)
2026年度
  • 宇宙状況監視衛星(宇宙設置型光学望遠鏡)を打上げ、宇宙状況把握システムの体制強化を完了する
  • 高感度太陽紫外線分光観測衛星(Solar-C(EUVST))を打ち上げる
2027年度
  • 赤外線位置天文観測衛星(JASMINE)を打ち上げる
2028年度
2029年度
  • 線状降水帯等の予測精度向上に向け、大気の3次元観測機能など最新の観測技
    術を導入した次期静止気象衛星を運用開始する
  • 人類初の火星圏からのサンプルリターン実現する
2020年代後半
  • 日本人の月面着陸の実現を図る
2050年
参照サイト

宇宙基本計画 - 内閣府

https://www8.cao.go.jp/space/plan/keikaku.html

重点事項(令和4年5月20日 宇宙開発戦略本部決定)

https://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/kaitei_fy04/juten_all.pdf

地球軌道上の熱環境 | Lessons Learned

地球軌道上の熱環境

地球軌道上の熱環境というのは、人工衛星の熱解析やデブリ落下解析で使用されます。

 

宇宙機を製造するにあたり、どんな熱環境を意識する必要があるのかといったことは他に譲るとして、今回は熱解析で利用されるパラメータについてまとまった情報を紹介します。

ドライビングイベント

地球の軌道の熱環境を正確に予測するには、次の要素を考える必要があります。

  • 公差のある季節変動
  • 太陽
  • アルベド:天体に入射する光に対する反射光の比率
  • 地球の放射エネルギー

 

太陽定数

まずは太陽定数を考えます。

 

太陽の定数とは何のことだと思うかもしれませんが、単位面積当たりの単位時間のエネルギー量を示しています。

 

公称の太陽定数値は1367.5 W/m2です。

 

ただしこの平均値は地球と太陽の距離により変動し、季節変動によって公称値から±3.5%変わります。今までの観測結果より太陽定数の精度は±0.5%です。

 

下記に北半球における季節値を示します。

 

公称 1367.5 W/m2 
冬季 1422.0 W/m2(NOM + 4.0%)
夏季 1318.0 W/m2(NOM-4.0%)

 

この季節値や近日点が冬にある通り、冬の方が太陽から受ける(放射)エネルギーがが大きいことが分かります。

 

ちなみに北半球において、冬の方が寒いのは地球の地軸が約66.5度、太陽から遠ざかる方に傾いていることが理由です。

 

あくまで地球の中心から太陽との距離であることから体感とは感覚が違う現象が起きています。

アルベド係数

アルベドは天体に入射する光に対する反射光の比率のことです。

公称アルベド係数は0.30で、変動が±0.05程度です。

また、地球の温度とアルベドは緯度によって異なるため、軌道が極軌道または赤道軌道のいずれかの極値に近づくにつれて、詳細な値が変わります。

 

ただし、熱容量が小さく、形状も軽い物体でない限り、特定の軌道において詳細な変動値を考慮する必要はありません。

 

熱解析におけるワーストケース(最悪ケース)を実施する場合は、以下の値を用います。

 

ノミナルケース(定常ケース):0.30

ホットケース(高温ケース):0.35

コールドケース(低温ケース):0.25

 

熱設計においてはホットケースやコールドケースを先に解析することが多いですが、通常運用時の熱バランスも衛星運用の成立性を検討するために、ノミナルケースも早期に解析を行う必要があります。

地球の放射エネルギー

地球が放射する赤外線エネルギーの公称されている地表面温度は255Kで、241W/m2のの加熱率となります。

 

太陽、アルベド、および地球の放射熱には次の関係式が成り立ちます。

 

 地球の放射エネルギー(熱)=[(1-アルベド係数)×太陽定数]/4.0

 

地球の放射エネルギーを計算するソフトウェアプログラムは、適切なホットケース、ノミナルケース、またはコールドケースの太陽定数とアルベド値、地球温度を使用する必要があります。

 

推奨されるケース

ノミナルケース

 太陽定数:1368 W/m2

 アルベド係数:0.25

  地球放射エネルギー:256W/m2

  地球表面温度:258K

 アルベド係数:0.30

  地球放射エネルギー:239W/m2

  地球表面温度:254K

 アルベド係数:0.35

  地球放射エネルギー:222W/m2

  地球表面温度:250K

冬季ケース

 太陽定数:1422W/m2

 アルベド係数:0.25

  地球放射エネルギー:267W/m2

  地球表面温度:262K

 アルベド係数:0.30

  地球放射エネルギー:249W/m2

  地球表面温度:258K

 アルベド係数:0.35

  地球放射エネルギー:231W/m2

  地球表面温度:253K

夏季ケース

 太陽定数:1318W/m2

 アルベド係数:0.25

  地球放射エネルギー:247W/m2

  地球表面温度:256K

 アルベド係数:0.30

  地球放射エネルギー:231W/m2

  地球表面温度:251K

 アルベド係数:0.35

  地球放射エネルギー:214W/m2

  地球表面温度:246K

 

地球を周回する人工衛星の熱設計は、外部エネルギー源を考慮する必要があります。

 

人工衛星に入射する最も重要な外部エネルギー源は、太陽、地球の熱放射、および地球から反射された太陽エネルギー(アルベド)です。

 

地球と太陽の距離の変動によって人工衛星に入力されるエネルギーの変化、および太陽定数の測定の精度は、熱解析を実施する重要なパラメータとなります。

 

学んだ教訓

このガイドラインで説明されているように環境の熱効果の変動を考慮しないと、熱分析が不完全になります。

 

宇宙船の温度変化は大幅に過小評価される可能性があり、それによってその信頼性が低下します。

 

推奨事項

地球オービターの熱収支を計算するときは、太陽定数、アルベド、および地球放射について現在受け入れられている値を使用してください。

 

この方法では、スペクトル効果やコリメーションを考慮せずに、黒体の場合の加熱速度を提供します。

終わりに

地球軌道上の熱環境は教科書にはまとめられていない項目です。

 

JAXA共通技術文書でも近い内容がまとめられており、宇宙環境標準に記載されていると思いきや熱制御系設計標準に記載されています。

内容の重複を避けるため、今後も熱制御系設計標準が更新されていくことでしょう。

 

熱解析を実施する場合、パラメータとして与えられている条件ではあります。

ゼロから調べる場合、理科年表などの情報から算出するのですが、本記事のように場合分けで記載されてはいません。

 

参考に値を使用してください。

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

Earth Orbit Environmental Heating

https://llis.nasa.gov/lesson/693

宇宙エンジニアの「失敗する機会」を許容する文化 | Lessons Learned

エンジニアに「失敗する機会」を提供する

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宇宙業界は失敗してはいけない文化だと聞いたことはありませんか?

 

失敗しないように試行錯誤を繰り返すのは事実ですが、それでも失敗はおきます。

 

Lessons Learnedシリーズでは宇宙業界という技術力の高いエンジニアである人たちでも盲点となり起きてしまった事例を紹介し、宇宙業界関係なく他の製品開発や運用にも応用できそうなものを紹介していきます。

 

さて、今回記事では実際に開発視点ではなく、現場から離れて管理者視点となったときにどのように宇宙開発のチームをまとめ上げていけば良いかのヒントを示したいと思います。

 

組織の文化として、失敗したとしても素早く共有でき、解決できるような組織であることのほうが、より挑戦的でミスが起きたとしてもすぐにフォローでき、致命的な失敗を起こさない組織を作ることができます。

 

宇宙開発の組織とは失敗をしないのではなく、成功するために試行錯誤し続ける組織と言えます。

 

確実に成功するような試験や開発からは経験値が少ない

宇宙のエンジニアがリスクを冒すことに臆病になってしまうような風土は、挑戦し続ける宇宙飛行ミッション※の壁になってしまいます。

※宇宙開発の場合は最終的に得られる成果や目的に対してミッションと呼ぶことがあります。

 

NASAでの取り組みは積極的な研究発明と挑戦的な宇宙探査のために突き進んでいます。

 

宇宙開発では、膨大なコストと犠牲の上にあり、大きな成果を生み出してきました。

 

NASA /カリフォルニア工科大学のジェット推進研究所(JPL)が管理する宇宙飛行プロジェクトは、日々複雑さを増していき、まだ確立されていない技術も活用していることから、多くのリスクが潜んでいます。

 

それでも宇宙機の設計プロセスでは、リスクが顕在化し失敗したとしても、失敗を評価し、止まることなく経験値を蓄積していっています。

 

JPLNASAにある組織の中でも、誰も挑戦したことがない高リスクのミッションに着手することが求められています。

 

NASAのエンジニアが考える失敗しても許容する組織文化(風土)の重要性

JPL Engineering&Science Directorate(ESD)のチーフエンジニアは、従業員に「失敗する機会」を提供するエンジニアリング文化の重要性について次の項目を挙げています。

 

  • 十分にプロジェクトを支援できる体制のある組織文化が根付いていること。
  • 「失敗する機会」はプロジェクトの管理者や組織の上長が組織としても失敗することを受け入れるような制度であること。
  • 従業員も「失敗する機会」があるという考えが根付いていることも重要であること。

 

JPLでは、いくつかの盲目に実施していた標準的な分析、評価、および試験を再評価することで削減していくことで、低コストかつ高リスクの宇宙飛行ミッションの成功を進めています。

 

そんな環境で宇宙開発を進めているため、一人一人の心理的ストレスが高く、リスクを避け、挑戦的な技術を避けてしまう可能性があります。

 

学術的な科学の世界では、既存の理論に対して否定する実験結果が出たとしても、しっかりと証明されれば、受け入れる風土があります。

しかし、エンジニアは否定する結果が出たとしても、簡単に受け入れられるような風土があまりありません。

 

あなたの組織には「失敗する機会」が与えられていますか?

「失敗する機会」が与えられるというJPLでは、次の質問に全て「YES(はい)」と答ええられます。

 

  • 会議の中で(まるであなたに全責任があるかのように)「間違った」考えをあなたに言わせるようなことは無いと言えますか?
  • 失敗が(組織外の)他の誰かに見つかることを恐れずに、組織外の人間と仕事や製品の情報を共有することができていますか?
  • 失敗したとき、再度チャレンジできる機会が与えられていますか?
  • 懲戒処分を受けたり、組織から追い出されることもなく、失敗から学ぶことが奨励されていますか?
  • 組織外で自分のアイデアを積極的に挑戦することが推奨されていますか?
  • イデアを考えたり、行動するために、十分な時間が与えられていますか?
  • 心理的なストレスがなく、失敗を教訓として学び、組織全体で共有できる風土がありますか?
  • 「失敗はあなたが課題を解決するために必要な兵器庫の弾薬であり、悪いストレスを与えるものではない」と考えることができる文化ですか?

 

「失敗する機会」が提供されていた火星探査ミッション

ESDチーフエンジニア(および元MSLチーフエンジニア)は次のように言っています。

 

エンジニアも人間であり、人間は間違いを犯すにもかかわらず、24億ドルのローバー(MSL)が火星に着陸することに成功したのはなぜか。

 

ローバーは、非常に複雑な設計の上で開発されており、たった1回のミスでミッションが失敗するようなポイントが何千か所もありました。

 

ではチームのメンバーは間違いを犯さない人間なのか?

 

そんなことは決してない。

 

それでは、設計から開発、さらには打上げ後に至るまで、何千か所もの致命的なヒューマンエラーを犯す可能性があります。

 

それでは、MSLは運が良かったのか?

 

いいえ、決して運が良かったわけでもありません。

 

メンバーが自由に自分の失敗を共有することができる機会や風土が提供されている必要があります。

 

多くの失敗が起きても、心理的に悪いストレスがなく、間違いをすぐに共有し修正することは、ミッションの成功を確実に進めるためによい兆候といえます。」

 

最初の火星探査機ミッションは、必要なコストを可能な限り、劇的に減らしたい考えがあり、そのうえで失敗のリスクを許容する方針でもありました。

 

火星バイキングミッションでは、1976年に従来のロケットを使用して表面に着陸し、1997年にマーズパスファインダーを使用しました。

 

30メートル以上上空から落下しても、エアバックを搭載することで、火星表面を跳ねることで着陸するという新しいシステムの実証を行った。

 

このシステムは、考え方としては存在していましたが実証されておらず、今回の実験で有益な知見を蓄積することができました。

 

結果、マーズパスファインダーは火星に関する23億bit以上の情報を地球に送ることができました。

 

"The boldness of my colleagues is inspirational -- the scape of the questions they want to answer, and the courage by which they go about tacking these big questions"

(意訳)「この実証に取り組んだメンバーは、刺激的で勇気がある。

 欲しい結果に対して、大きなカベに怯まず挑戦する勇気があった」

ー Ian Fenty、JPL海洋学

 

"We shouldn't do something because it is safe and easy. we shouldn't do the thing that everyone knows how to do. We might fail, we might succeed too."

「安全で、簡単な課題に取り組むべきではない。

 誰もが知っていることに挑戦するべきではない。

 その結果、成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。」

ーJennifer Rocca、JPLプロジェクトシステムエンジニア

 

"It's a very liberating kind of environment to be in because you don't have don't have to be so afraid of mistakes."

「間違いを恐れる必要がない、とても自由な環境だ」

ーTracy Drain, JPLシステムエンジニア

 

JPLは、かつて到達できなかった場所にいける道具を開発した。

 

JPLは、設計の課題を解決するためには、詳細な技術分析と試験を実施する場合、慎重なリスク回避をしていきます。

 

宇宙のエンジニアがリスクを冒すことに臆病になってしまうような風土は、挑戦し続ける宇宙飛行ミッションのカベになってしまいます。

 

推奨事項

宇宙開発にはリスクが伴う。失敗の回避は、リスクの回避につながる。

Audentes fortuna juvat. (幸運は大胆な者に味方する)

 

自分自身を含めて「失敗する機会」を許容する組織文化を作ることです。

JPLで実施している2つの制度を紹介します。

  • Openness of our people and processes. We use candid communication to ensure better results.

【意訳】個人のプロセスを許容します。コミュニケーションを重視して結果を保証することです。

  • Innovation in our processes and products. We value employee creativity in accomplishing tasks.

【意訳】プロセスや製品開発に常に革新をもたらすように挑戦すること。ミッションを完遂するため創造性を大事にする。

 

まとめ

宇宙開発は息の長い活動です。

 

プロジェクトの雰囲気、組織の文化によって、個人の体感として難易度が大きく変わります。

 

宇宙用の製品を製造する組織の課題の一つとして失敗にどのように対応していくのかという風土や制度作りです。

 

失敗を最終的に致命的なものにさせないための風土作りが、最終的に宇宙開発の成功のカギになります。

 

風土を作るには各メンバーの取り組みとともの管理者の理解や組織の制度がかかわってきます。

 

どれか一つを欠いてしまうと、メンバー個人への悪いストレスになり、結果挑戦的な開発が「継続して」できなくなってしまいます。

 

紹介した質問から、一度組織を見直して取り組むことで、失敗を公開し、教訓を蓄積し、大きな成功を得られるカギになっていきます。

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

Give Engineers ‘Space to Fail’

https://llis.nasa.gov/lesson/21601

Ian Fenty @ianfenty

https://mobile.twitter.com/ianfenty

NASA - Project Manager

https://www.nasa.gov/mission_pages/deepimpact/team/rocca-bio.html

Tracy Drain

https://en.wikipedia.org/wiki/Tracy_Drain

代替の経済性(economies of substitution):再設計するコストは新規のシステムを構築するコストを上回る【基礎から知りたい】

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代替の経済性(economies of substitution)

代替の経済性(economies of substitution)とは、最初から再利用や交換を考えて設計した製品の開発コストは、製品を再設計するよりコストが低いことを示す概念です。

 

生産までに時間がかかる製品

人工衛星は、いま世の中に広まっている製品に比べて、一部の例外であるスペースXのスターリンク衛星やOneWebの人工衛星を除いて、それほど製造されてもいません。

人工衛星としていますが、一般に生産までの時間が短縮できない製品やユーザー数が圧倒的に少ない製品と読み替えても問題ありません。

 

圧倒的に製造数が足りないにもかかわらず、長期間の運用になります。

その際にいくつかの心配事項はありますが、その一つに部品の製造停止があります。

 

電子部品や電子機器は、通常ずっと提供されるものと思われるかもしれませんが(笑)突然製造停止になります。

 

正確には突然ではなく、2,3年前に連絡があるのですが、宇宙機開発は長期スパンであることから、開発側からすると突然製造停止と感じるわけです。

 

実際大手企業であれば連絡があるかもしれませんが、ベンチャー企業、中小企業ではその連絡が突然と感じることもあるでしょう。

 

製品の製造停止

製品が製造停止となる理由はいろいろです。

 

もっと儲かる製造ラインを拡張するために従来の製造ラインが縮小されたり、工場が倒産したり、本当にいろいろです。

 

さらに部品だけではなく、電子機器も突然製造停止になります。

 

理由の一つとしては、製造していた技術者や設計者が会社から退職してしまい、十分に引き継がれることなく技術が消失してしまうこともあります。

 

あるいは十分な利益を見込めないことから会社判断で受注しないこともあります。

 

人工衛星の製造サイクルは、通常の製品よりも長く、同型品を製造するにも選定した部品や機器がマイナーチェンジをしている可能性があります。

 

宇宙業界の世界ではまだまだ過去に宇宙で使用されたという「実績」が大きなウェイトを占めています。

 

そのため、このマイナーチェンジをどの範囲まで許せるのかは各プロジェクトの方針によるところが大きいです。

 

過去と比較しても、許容する範囲は広がっていますが、一部の放射線に弱い電子部品はどこもほかの電子部品と比べて厳しい基準であることが多いです。

 

その中でもマイナーチェンジを受け入れて、振動試験を実施した結果、構造が弱くなり破損したり故障が発生することも少なくありません。

 

この微妙な違いによって発生した原因追及を含む不具合対応や、不具合が起きなくとも1台目より厳しい再確認を実施することもあります。

困ったことに1台目の設計開発者が現場から離れたことにより、よりトラブルが深みにはまることもあります。

 

そして、次号機以降も設計し直す(再設計する)ことになり、コストが積み重なっていきます。

案外、2号機目のシステム開発の方が苦労することが多いのではないでしょうか。

 

結果、タイトルの代替の経済性(economies of substitution)に繋がるのです。

 

トータルコストを減らす

人工衛星は、1台目は実証という側面が強いのですが、2台機目以降は「電子部品や電子機器が以降交換する可能性があるもの」として設計を進めた方が、トータルコストが安くなっていきます。

 

既存部品の再利用を前提とした製品システム開発コストが、システム全体を再設計するコストより低いことを示す概念です。

 

では実際何をしたらいいのか?

 

試作機をどこまで仕上げるかによりますが、すでに世界中で並走している宇宙機の電子機器(コンポーネント)の特徴を調べ、ある程度適合していくように設計していることです。

現在は小型衛星市場が活発であることから、電子機器の小型化が進んでいます。

それに伴い、その小型化に適合できるような拡張性のあるインターフェースを設計していくことになります。

参考情報として、この考え方はスケーラビリティ(scalability)といってシステムの拡張性を指すときに使用されたりしますが、今のところ宇宙業界ではあまり使われていません。

 

構造面からいうと、インターフェースといえば、設置する固定穴だけではなく、排熱や蓄熱の設計、信号や電力の流れるケーブルの配線位置、電磁波の影響を考慮した配置、振動の影響を考慮した設置部などを考えた上で、現在採用している機器以外も適用される可能性を考慮して設計していかなければなりません。

ちなみに、発熱だけではなく蓄熱を考慮する必要がある理由は、中・大型衛星ではそれなりに巨大な構造物となるため熱が逃げにくいため排熱を考える必要があり、超小型・小型衛星では熱を留まらせるほどの構造物ではないため蓄熱を考える必要があります。

 

これは電子機器側だけを標準化などといって設計の制限をするのではなく、電子機器の設計が変わったとしても対応できるようなメインとなるシステム側も拡張性を考慮した設計にしなければ、後続のベンチャー企業や途中参入してきた大企業にあっという間に技術面で追いつけなくなってしまう可能性を留意しなければいけなくなることでしょうね。

 

これは、1台目の設計にかかる設計者への負荷が大きいかもしれませんが、プロジェクト全体のトータルコストや後続の参入者に対して優位性を示すことができるのではないでしょうか。

 

もちろん、限られた資金や計画の中で成立させるのは非常に難しいのですけどね。

 

システムエンジニアのジレンマ:コストとリスクとパフォーマンス

最後にNASAで公開されている「Systems Engineering Handbook」からシステムエンジニアのジレンマを紹介します。

 

At each cost-effective solution:
• To reduce cost at constant risk, performance must be reduced.
• To reduce risk at constant cost, performance must be reduced.
• To reduce cost at constant performance, higher risks must be accepted.
• To reduce risk at constant performance, higher costs must be accepted.
In this context, time in the schedule is often a critical resource, so that schedule behaves like a kind of cost.

https://www.nasa.gov/seh/2-5-cost-effectiveness-considerations

それぞれの費用対効果の高いソリューションで:

  • 一定のリスクでコストを削減するには、パフォーマンスを低下させる必要があります。
  • 一定のコストでリスクを軽減するには、パフォーマンスを低下させる必要があります。
  • 一定のパフォーマンスでコストを削減するには、より高いリスクを受け入れる必要があります。
  • 一定のパフォーマンスでリスクを軽減するには、より高いコストを受け入れる必要があります。

スケジュールの時間は、重要なリソースとなるため、一種のコストのように考えることもできます。

 

限られた資金でプロジェクトを成立させることは難しいのですが、何をつかみ、何を切り捨てるか、もっとも端的でわかりやすい考え方だと思ったので載せておきます。

 

参考文献

コア部品サプライヤーを中心する企業間分業における知識獲得と意思決定権限―スマートフォンの開発事例―

https://www.jstage.jst.go.jp/article/amr/16/4/16_0161205a/_pdf/-char/ja

NASAが打ち上げのアウトソーシングに依存していることは、宇宙機関にジレンマを引き起こします

https://theconversation.com/nasas-reliance-on-outsourcing-launches-causes-a-dilemma-for-the-space-agency-44013

Biden’s China space dilemma

https://www.politico.com/newsletters/politico-space/2020/12/18/bidens-china-space-dilemma-491186

Bringing Space Law Into the 21st Century

https://www.realcleardefense.com/articles/2020/12/15/bringing_space_law_into_the_21st_century_653203.html

データベース・パフォーマンス・チューニング・ガイド

https://docs.oracle.com/cd/E82638_01/tgdba/designing-and-developing-for-performance.html#GUID-F8511B21-9EEA-4F1D-A1A0-C7CCEF914503

民生品を宇宙機に利用した際に寸法が許容できずに発覚した不具合事例 | Lessons Learned、失敗学、事故事例【機械設計向け】

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民生品を推奨して、人工衛星の価格を下げるというのが小型衛星開発の設計の流れがあります。

 

しかし、民生品を利用するということはいくつかのリスクを含んでいます。

 

少し時間がたっている事例ではありますが、民生品を使用した際に発生しうるリスクを簡単に紹介します。

 

概要

現在国際宇宙ステーションに搭載されているISERV(ISS SERVIR Environmental Research and Visualization System)という、災害監視や地球観測データ取得を行っているCONTS品(Commercial-Off-The-Shelf)の光学機器についてです。

 

このISERVでの教訓は、適合試験によるCONTS品の品質確認、図面と同一ではなくバラつきのある部品の寸法、CONTS品を使用したからといって開発工程が早くなるわけではなく、国際宇宙ステーションで実現したい能力を発揮するわけではない。

また、CONST品を宇宙用に転用する際の確認プロセスの明確化と、解析による確認ポイントや国際宇宙ステーションに取り付けるためのインファーフェースの考え方に対する知見が挙げられています。

詳細な内容

国際宇宙ステーションに搭載されているISERVは、光学機器(カメラ)であり、地球を観測しています。

 

ISERVによって撮影された画像は、世界中に展開され各地の洪水や地滑り、森林加算内dの災害の影響を管理し、様々な環境問題へのヒントを与えてくれます。

 

今回はISERVの開発中に遭遇したトラブルと、学んだ教訓をまとめていきます。

 

COTS品のハードウェアの宇宙用への転用プロセスへの明確な基準が欠けていました

 

プロジェクトでは、宇宙用に転用し、受け入れられるかどうかの条件の多くは口頭で合意されたものであり、内容も限定的なものでした。

 

宇宙に使用される材料や開発工程の考え方から、通常、COTS品であっても宇宙用と同じ品質に保たれるはずでしたが、フライトハードウェアと同じ基準に保たれていますが、ISERVにはそれを行うための下地がありませんでした。


使用されている材料は問題ありませんでしたが、カメラ内部に搭載されているチップが既定の範囲以外での電磁放射を放出したため、電磁波障害試験(EMI)でNGとなりました。

 

カメラの製造元では認識されていなかったのですが、ベンダーで製造しているカメラを構成する機器に、内蔵されているカメラのチップにGPS機能が搭載しているされていることが分かったのです。

 

また、EMIでのトラブルシューティング中に、試験チームは観測データからカメラの望遠鏡部分のポインティングマウントに多量のノイズを受けていることを発見しました。

 

原因中級の中で、望遠鏡マウントの内部の写真を撮ったのですが、多量のノイズは振動試験中に発生した可能性があることが分かりました。

 

答えは単純で、カメラの望遠鏡部分がしっかり固定されていなかったのです。

 

振動試験中に固定が不十分であると、カメラ感度にも影響する望遠鏡部に傷がつく可能性があり、是正処理が必要な事象となりました。

 

そしてカメラがしっかり固定されていなかったのは試験作業者のミスではなありませんでした。

 

購入したCONTS品が寸分の狂いもなく製造されているわけではないことが理由でした。

 

図面と実際のバラつきのある寸法の差は、機械設計者を驚かせ、これは事実ではなく、一般的にはそうではありません。

 

寸法と構成の違いに気づくのが遅れため、想定していた光学機器の機械的な停止スイッチが機能しないことも確実となりました。

 

プロジェクトはいくつかの止められない工程、開発のクリティカルポイントが過ぎ去ってから、光学機器を分解し、正確に実寸して、再度組み上げて、機械的にも適合するソリューションを設計開発する必要がありました。


COTS品を使用する場合、CONTS品が動作するためのケーブルを含むカスタムオプションパーツが必要になり、電源も新たに設計する必要があります。

 

国際宇宙ステーションで使用するための条件として、すでに搭載されている機材にトラブルが発生しないように、多くの条件に適合する必要があり、規定もされています。

 

ただしこの条件は、当たり前かもしれませんが開発されたシステム(機器/装置)が国際宇宙ステーションで目的に合わせて動作できるかについては含まれていませんでした。

 

プロジェクトチームが十分に認識していれば、システムが国際宇宙ステーションの環境の中で、確実に動くように、条件を洗い出し、今回のようなトラブルを発生する可能性を減らすようなプロセスで進めることができたはずでした。

 

機械設計者/構造解析者は、試しに機器を分解して実寸するなどのサンプル用の製品を準備しておらず、実際に搭載されているパーツに対して、図面から部品の厚さ、質量、およびその他の構造特性を見積もったため、過小評価された状態で見積もることになってしまいました。

 

この不確実性により、機械設計/構造解析の時点で致命的なリスクが内在することになりました。

結果、COTS品と機械的にも適合するソリューションを設計する際に、確実性の低いインターフェース情報で検討したため、想定の機能を発揮できないことが明らかになったのです。

 

インターフェースの条件を定義する際は、各インターフェースに対して分析(今回は分解して実測)し、明確にする必要があります。


学んだ教訓

クラスDハードウェア上のCOTS機器をISSWORFラックに統合するには、ISS要件と、クラスAおよびBハードウェアでより一般的な付随する血統のトレーサビリティ、検証、および妥当性確認の要件に注意を払う必要があります。

 

プロジェクトチームは、クラスDハードウェアをクラスA施設に統合する際に、これらの暗黙の要件を認識する必要があります。


COTS機器の使用は必ずしも安価ではありません。

 

暗黙の要件を満たすには、NASAの最小基準を満たす必要があります。

 

これは、追加の品質エンジニアリングサポート、特定のテスト要件、および部品のトレーサビリティを意味します。


ハードウェアを上位クラスのシステムに統合する必要がある場合に発生する可能性のある資格要件を理解するだけであっても、S&MAを事前に関与させることをお勧めします。


機器とサポートハードウェアのプラグアンドプレイの性質についてあまりにも多くの仮定が前もって行われている場合、チームは設計とテストのアクティビティを繰り返すためにより多くの時間を費やします。


暗黙の要件を理解せずにCOTSが印刷ごとであると想定すると、スケジュール、予算、および納品契約を満たさないリスクが不必要に高まります。


一貫性のない構成と部品の寸法、およびベンダーによるCOTS機器の構成制御の欠如により、購入したハードウェアの追加の注意と調査が必要になります。


未知の違いを特定および定量化するために分解および調査できるエンジニアリング評価ユニットとして、追加のユニットを購入する必要があります。

 

エンジニアリング評価用の4番目のユニットを購入することで、チームは、クリティカルパスや制約のあるリワークスケジュールに影響を与えることなく、予期しない構成や設計の問題をトラブルシューティングでき、迅速なターンアラウンドリワーク状況を引き起こしました。


プロジェクトチームは、購入したユニットが同一である、または設計プロジェクトに関連するすべての情報がベンダーから正確に提供されると想定することはできません。

 

エンジニアリング評価ユニットは、プロジェクトサイクルの早い段階でいくつかの環境テストを受けて、設計、建設、および関連するエンジニアリングデータの欠陥を特定する必要があります。


COTSであろうとなかろうと、すべてのペイロードは、ISERVが行ったインターフェースを満たす必要があります。 


COTSハードウェアには、明確な飛行認証プロセスが必要です。すべての分野の資格要件は、事前に明確かつ明示的に述べる必要があります。 


ライフサイクルのすべての段階でインターフェースの分析と評価を賢明に使用することで、構築、テスト、およびマイルストーンのレビュー中の時間とリソースの支出を節約できます。


COTSを使用するための合意は、機器に関する限られたエンジニアリングデータと、リスクを定義して受け入れるためのそれほど厳密ではないライフサイクルの初期プロセスによる安全性とリスクへの影響を理解することで、多分野にわたる必要があります。

 

推奨事項

COTSには、スケジュールに固有のリスクがあります。限られた情報、構成制御の欠如、およびCOTSを含むシステムが統合されるハードウェアからの暗黙の要件を含む、要件の全体的な範囲のリスクを把握します。


COTSの外部提案が、仮定を検証するためのエンジニアリングで精査されていることを確認します。


あなたのハードウェアを知っています。


フライト、フライトスペア、および認定ユニットに加えて、エンジニアリング評価ユニットを購入します。キックオフ時にCOTSの資料と仕様のデータを取得して、起こりうるリスクと軽減手順の定義に役立てます。


プロジェクトの開始時にすべての利害関係者を合意交渉に参加させて、資格要件とプロセスを事前に明示的に定義して同意します。書面で要件を取得します。


チェックリストまたはその他のガイダンスを確立して、MSFCでCOTSを含むシステムを開発するためのベストプラクティス、統合システム要件の場所、およびCOTS機器を使用して導入されるリスクを特定する方法を定義します。


COTSデバイスを使用すると、通常のMSFCワークフロー以外のプロセスステップが発生します。

COTS機器の構成、情報、および認証を処理するように調整された作業プロセスを導入して、開発、テスト、および認証の課題を予測するプロジェクトを支援する必要があります。

 

終わりに

CONTS品は出来合いのものが多いので、寸法にばらつきがあったため、いくつかの工程を再度実施することになりました。

 

実際のところ、機械的に適合するソリューション側に、ある程度のズレも想定して設計した方がよい。

ハードルは上がりますが、カメラの製造側に公差を考慮した図面の提供を依頼した上で、インターフェース条件を定義していく方がよい。

といった対策も立てることもできます。

 

おそらく、今回も同様の対策案を考慮したうえで選定した案のみが記載されているのでしょうね。

 

この考え方は宇宙機開発に限らず、どの製品でも起きうる事象であり、どこかのパーツが不具合が起きないように、リスク対策の上でどこかの部品や機器が影響を吸収していることでしょう。

 

参考文献

https://llis.nasa.gov/lesson/7216

ISERV INSTRUMENT

http://catalogue.servirglobal.net/Product?product_id=16

Service Catalogue

https://www.servirglobal.net/ServiceCatalogue/

静電放電(ESD)による人工衛星破壊を最小限にするための設計手法 | Lessons Learned【電気・機械設計者向け】

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静電気でパソコンが壊れるという話を聞くことはありますが、あまり人工衛星で壊れるという話は聞いたことがないかもしれません。

 

人工衛星も電子機器であることから静電気で壊れます。

 

人工衛星は軌道上に上がると故障の原因を調査することがかなり難しいです。

人工衛星からの信号で故障を分析するのですが、静電気による影響で故障された場合は、想定がかなり難しくなります。

 

比較的低軌道の場合は大気による空間電荷により静電気による故障を発生する可能性もあるのですが、軌道上の場合ですと放射線による影響で故障する事象が先に上がります。

 

低軌道の場合は、放射線による電子部品の完全破壊の可能性が「比較的」少ないのですがゼロではなく、正直、静電放電による破壊か判別がつきません。

 

静電放電の可能性として、打上げから放出までの間に帯電して破壊されるというケースもあるのですが、打上げ後に信号を受信することができないために判断不能になります。

 

数ある人工衛星をほぼ一撃で破壊する可能性のある静電放電。

今回はそんな静電放電に対する設計対策を紹介します。

 

[目次]

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

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概要

静電放電(ESD:Electrostatic Discharg)は、電気回路に対して、電圧スパイク(過渡電圧)を引き起こし、内部のデータを壊し、壊れたコマンドを生成したするため、システム障害を引き起こす可能性があります。

 

ESDに対して注意していないと、表面の劣化によりアーク放電や電荷が蓄積される可能性があります。

 

この静電放電に対する悪影響を次の対処法を取り込むことで最小限にすることができます。

 

  1. 宇宙機の外表面を導電性として、主要構造に接地します(グランドをとります)。
  2. 内部の金属体および、導電性のある材料に、主要構造へ電気的な(ESD導電性のある)パスを接続することです。
  3. すべての電気回路に対して導電性の筐体(ファラデーケージ:Faraday cage)で囲むことです。

 

静電放電は2つの異なる物体が高い電位差を保持した状態で近接した際に発生します。

 

最初の2つの対処法では、電位差がESDを引き起こすのに十分な高さになる前に、電荷を放散させておく必要があります。

 

3つ目の対処法では、例え放電が発生した場合でも、電気回路への電気的な接続が低下しており、干渉の可能性あるいはリスクが低下していきます。

 

アンテナのレドーム、レンズ、ソーラーパネルなどの外部に接地されている誘電表面には、光学/赤外/RF放射の透明性を損なうことなくわずかに導電性になるようにコーティングされています。

 

各電子機器に適した材料を選択するには、予算と対策の効果をトレードオフする必要があります。

 

導電性は、1m^2の中で10^9 Ω未満で、主要構造に接続している必要があります。

 

ケーブル、コネクタ、回路基板、シールド、およびその他の導電性があり未接続のワイヤ、面積3cm^2または長さ25cmを超える内部に搭載されている金属には、100Ω未満の抵抗を有するグランドに導電性のパスを接続しておきます。

 

接地が十分でない場合、小さな金属物体(<3cm^2)は接地されていない可能性があります。

 

サーマルブランケット(MLI)の各金属層は、主要構造に接地しています。

 

すべての外部金属コンポーネントは、主要構造の共通アースに電気的に接続されています。

 

各電子機器は、導電性の筐体でシールドされた箱体で納められています。

 

導電性の筐体の外側に接続されているケーブルは、導電性の筐体の挿入口には全方位囲まれたバックシェルを備えたコネクタシールドによって保護されていることがあります。

 

電子回路基板は、各リード線とそのリターン部分が一緒にねじれた(クロスした)配線を使用する必要があります。

 

また導電性の筐体に入るすべての電子回路に対してフィルタリングします。

ローパスフィルターとトランジェント電圧抑制回路が一般的ですが、デジタルロジックディスクリミネータ(波高弁別器)も使用されています。

 

すべての導電性材料を共通のグランドに接続することにより、電子機器間の高い差動電圧の発生を防ぎます。

 

宇宙ステーションなどの大型構造物の場合、外部の電離プラズマ源を使用して表面帯電を制御できます。

 

ESD試験として、宇宙プラズマ環境を模擬することは現実的ではないため、抵抗測定と、人工放電に対する電子回路内の耐性に依存しています。

 

対策に対する数値的な制限は、宇宙機が軌道に対して想定される帯電条件によって異なります。

 

すべての宇宙船設計者は、宇宙船の設計において空間電荷を考慮しておく必要があります。

空間電荷は、材料が高エネルギーの宇宙プラズマを受けたときに発生します。

表面抵抗が異なる材料は、電圧降伏の限界を超えるほどの電荷を蓄積する可能性のあります。

これが発生すると、放電が発生し、電気回路の過渡現象や材料の劣化または再堆積を引き起こします。

 

Lessons Learned

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

 

この静電放電に対する悪影響を次の対処法を取り込むことで最小限にすることができます。

 

1.宇宙機の外表面を導電性として、主要構造に接地します(グランドをとります)。

2.内部の金属体および、導電性のある材料に、主要構造へ電気的な(ESD導電性のある)パスを接続することです。

3.すべての電気回路に対して導電性の筐体(ファラデーケージ:Faraday cage)で囲むことです

 

この手法は、Voyager, Magellan, Galileo, and Ocean Topographic Experiment (TOPEX)で使用されています。

 

最後に

静電気は電子機器が壊れます。

 

人工衛星に限らず開発品では静電気防止のためにリストストラップを付けたり、帯電の可能性があれば電子回路基板に接触する前に導電性のある金属体に接触することで製品を壊すことを避けます。

 

実際に静電気と思われる事象で壊れた人工衛星用の電子機器を何台か見ています。

試験によりけりですが、BBM (ブレッド・ボード・モデル) の試験で壊れたり、不具合対応で電子回路基板をチェックしているときに一部の電子部品が壊れたりしていました。

 

まだ、宇宙用の電子機器では手はんだが大部分を占めています。

機械実装では対応していない電子部品を使用していることもあり、部分的な手はんだ実装が残っていることが多いです。

 

現在の宇宙機は量産といっても数千台という台数を生産するほどではないため、すべてを機械実装に対応できる電子部品を選定するよりも汎用性のある電子部品を採用していることがコストや電子部品の入手性、実績からも優位であるからです。

 

電子機器レベルでいうと、いわゆるオールドスペースといわれる古くから宇宙用電子機器を製造している組織では、全て機械実装であったりフレキシブル基盤を利用している組織も存在しています。

 

静電放電を考慮すると機械実装の方が手はんだよりもリスクが少ないことが多いので、製造という面での静電気による製品故障は、減る方向になっているのではないでしょうか。

 

機械実装は、部品選定や製造設備に依存することが多いのでニュースペース系の組織ではまだ難しい気はしているのですが、それもこの5年以内で変わりそうな気もしますね。

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

Design Practice to Control Interference from Electrostatic Discharge (ESD)

https://llis.nasa.gov/lesson/773