宇宙は宇宙放射線に常にさらされている
宇宙環境では多くの電子機器に放射線を受けます。
放射線を受けると、電子部品の性能が劣化します。
また、放射線のエネルギーを受けて、デジタル信号も変化することがあります。
これらは放射線の1つ1つのエネルギーによって起きる現象が変わります。
陽子線(プロトン)や電子線、重イオン/He粒子の高エネルギーの場合は、後者のデジタル信号が変化する「など」の影響が発生します。
そしれこれらは目に見えません。
高品質と宇宙放射線(銀河宇宙線)
さて、宇宙のスタートアップ企業が続々と生まれる中、数十年以上の歴史を持つメーカーから宇宙事業に手を出す企業は少ないです。
なぜか?
宇宙での動作することを考えた場合、各メーカーが今まで積み上げてきた品質を保つことができない、とメーカー側から言われることがあるからです。
高品質・高信頼性という言葉が独り歩きした結果、宇宙の領域は厳しい環境であり、技術的には可能かもしれませんが、品質を保つのにコストが掛かり、メーカー側にメリットがないことが多いと思われてしまうのです。
高いコストは置いておいて、負荷環境を受けたことを考えると、日常生活で使われている航空機に使用される機器や自動車、人命にかかわる医療機器の方が、条件として厳しいことが少なくありません。
熱環境や振動環境、電磁場環境が最たるものですね。
それでもメーカーの人たちが危惧している負荷環境は宇宙放射線です。
ただ、放射線の種類の比率は大きく変わりますが、宇宙放射線(銀河宇宙線)と言えど、 医療機器に使用される放射線と現象として大きな違いはありません。
医療機器と宇宙機器に使用される放射線対策に違いでてくるだけなのです。
医療機器の場合は、放射線漏れが発生しない様に、強力な防護対策が施されることがありますが、宇宙機器の場合は、防護対策を施せるほどのリソースがとても少ないのです。
リソースが少ない理由として、ロケットの打上げ性能、完全リモート操作であること、駆動エネルギー源が少ないことが少なからずあげられます。
この少ないリソースの中で制御することが必要あり、より困難にしています。
今回は、日常で使用される機器にはない宇宙放射線という環境についてまとめてみました。
地球軌道上の放射線危険高度:トータルドーズ効果が発生しやすいかもしれない高度
宇宙放射線は、太陽光のようにほぼ一定のエネルギーを常に放出しているわけではなく、目に見えない粒が広い宇宙空間に放射されるのです。
地球圏内(軌道上含む)に入り込む宇宙放射線の量は、太陽活動に影響しているようで、太陽活動が激しい時は宇宙放射線量が少なく、大人しい時は宇宙放射線量が多いことが観測結果からいわれています。(2009年の太陽活動の低下)
一方で、太陽活動が活発になると発生する太陽フレアによって、多くの宇宙放射線が観測されたともいわれています。(2017年の大規模フレア時)
いやいや、どっちなの? といった状況ではあります。
太陽活動が低くても宇宙放射線は多くなりますし、太陽フレアでも宇宙放射線は多くなります。
これらの情報が何に使われるのというと、打上げタイミングをずらすことで宇宙放射線の量が少ない時期に打上げるという手段が取れます。
ロケットの打上げ機会が少ない場合、人工衛星の寿命を延ばす観点では、とても重要な要素になります。
ちなみに、このように太陽活動如何で発生するのは、シングルイベント効果と呼ばれる現象が起こりやすくなります。
シングルイベント効果は、陽子線(プロトン)や電子線、重イオン/He粒子の中で高いエネルギーによって引き起こされます。
具体的には、データの反転(0、1の反転)が発生したり、過度な電圧変化が起こります。
宇宙放射線で発生する現象として、シングルイベント効果とは別に、トータルドーズ効果(Total Ionizing Dose Effect::TID)があります。
トータルドーズ効果は、シングルイベント効果のような高エネルギーの宇宙放射線ではなく、宇宙線の中で陽子線や電子線が周囲の物質にぶつかることでガンマ線(γ線)が発生し、半導体に入射することで、電離作用を及ぼし、電荷が生成します。
やがて半導体(CCDセンサ、COMSセンサ、LSI、RAM、太陽電池セルなど)の特性を劣化させていくのです。
現在、各所で人気の低軌道衛星は、このトータルドーズ効果の影響が少ないといわれています。
その理由の一つに、低軌道では静止軌道より放射線量が少ないためだといわれています。
今回は、過去の観測データや環境モデル(予測モデル)を紹介して終わりとします。
高度毎の放射線量観測データ
4mmのアルミニウムに入り込んだ放射線量(地域は不明)
SPACE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS
宇宙用材料と放射線(2004年07月)
Spacecraft Charging and Hazards to Electronics in Space (2001)
Spacecraft Charging and Hazards to Electronics in Space (2001)
Single-Event and Total Dose Testing forAdvanced Electronics
参考資料
美術大学で宇宙気候学に取り組む異色の研究者、宮原ひろ子教授が開発した世界初の解析手法とは
https://www.rikelab.jp/study/8528
宇宙線と雲形成
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/119/3/119_3_519/_pdf/-char/ja
太陽の活動と地球への影響
https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/chigakukiso/archive/chigakukiso19_08.pdf
航空機高度での宇宙線被ばく量を2024年まで予測~前回の太陽活動極小期(2009年)前後に比べ約19%増大する可能性
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20170512.html
宇宙放射線
https://edu.jaxa.jp/contents/other/seeds/pdf/2_radiation.pdf
「地球に到来する宇宙線」が増大:太陽活動と関連
太陽フレアなど宇宙天気による社会への影響を評価~宇宙天気は日本にどのような影響を及ぼすか~
https://www.nict.go.jp/press/2020/10/07-1.html
8.1 How come the Van Allen radiation belts didn’t kill the astronauts?
http://www.moonhoaxdebunked.com/2017/07/82-how-come-van-allen-radiation-belts.html
SPACE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS
https://www.researchgate.net/publication/234447132_Space_Environment_Analysis_Experience_and_Trends
Total Ionizing Dose
http://holbert.faculty.asu.edu/eee560/tiondose.html
宇宙用材料と放射線(2004年07月)
https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_08-04-01-10.html
https://atomica.jaea.go.jp/data/fig/fig_pict_08-04-01-10-05.html
Spacecraft Charging and Hazards to Electronics in Space
https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/0906/0906.3884.pdf
Single-Event and Total Dose Testing forAdvanced Electronics
https://nepp.nasa.gov/files/25176/NSREC2012_Pellish_SC.pdf
Welcome to the NASA/GSFC Radiation Effects & Analysis Home Page!
https://radhome.gsfc.nasa.gov/top.htm
GSFC Radiation Data Base
https://radhome.gsfc.nasa.gov/radhome/RadDataBase/RadDataBase.html