地球軌道上の熱環境 | Lessons Learned
地球軌道上の熱環境
地球軌道上の熱環境というのは、人工衛星の熱解析やデブリ落下解析で使用されます。
宇宙機を製造するにあたり、どんな熱環境を意識する必要があるのかといったことは他に譲るとして、今回は熱解析で利用されるパラメータについてまとまった情報を紹介します。
ドライビングイベント
地球の軌道の熱環境を正確に予測するには、次の要素を考える必要があります。
- 公差のある季節変動
- 太陽
- アルベド:天体に入射する光に対する反射光の比率
- 地球の放射エネルギー
太陽定数
まずは太陽定数を考えます。
太陽の定数とは何のことだと思うかもしれませんが、単位面積当たりの単位時間のエネルギー量を示しています。
公称の太陽定数値は1367.5 W/m2です。
ただしこの平均値は地球と太陽の距離により変動し、季節変動によって公称値から±3.5%変わります。今までの観測結果より太陽定数の精度は±0.5%です。
下記に北半球における季節値を示します。
公称 1367.5 W/m2
冬季 1422.0 W/m2(NOM + 4.0%)
夏季 1318.0 W/m2(NOM-4.0%)
この季節値や近日点が冬にある通り、冬の方が太陽から受ける(放射)エネルギーがが大きいことが分かります。
ちなみに北半球において、冬の方が寒いのは地球の地軸が約66.5度、太陽から遠ざかる方に傾いていることが理由です。
あくまで地球の中心から太陽との距離であることから体感とは感覚が違う現象が起きています。
アルベド係数
アルベドは天体に入射する光に対する反射光の比率のことです。
公称アルベド係数は0.30で、変動が±0.05程度です。
また、地球の温度とアルベドは緯度によって異なるため、軌道が極軌道または赤道軌道のいずれかの極値に近づくにつれて、詳細な値が変わります。
ただし、熱容量が小さく、形状も軽い物体でない限り、特定の軌道において詳細な変動値を考慮する必要はありません。
熱解析におけるワーストケース(最悪ケース)を実施する場合は、以下の値を用います。
ノミナルケース(定常ケース):0.30
ホットケース(高温ケース):0.35
コールドケース(低温ケース):0.25
熱設計においてはホットケースやコールドケースを先に解析することが多いですが、通常運用時の熱バランスも衛星運用の成立性を検討するために、ノミナルケースも早期に解析を行う必要があります。
地球の放射エネルギー
地球が放射する赤外線エネルギーの公称されている地表面温度は255Kで、241W/m2のの加熱率となります。
太陽、アルベド、および地球の放射熱には次の関係式が成り立ちます。
地球の放射エネルギー(熱)=[(1-アルベド係数)×太陽定数]/4.0
地球の放射エネルギーを計算するソフトウェアプログラムは、適切なホットケース、ノミナルケース、またはコールドケースの太陽定数とアルベド値、地球温度を使用する必要があります。
推奨されるケース
ノミナルケース
太陽定数:1368 W/m2
アルベド係数:0.25
地球放射エネルギー:256W/m2
地球表面温度:258K
アルベド係数:0.30
地球放射エネルギー:239W/m2
地球表面温度:254K
アルベド係数:0.35
地球放射エネルギー:222W/m2
地球表面温度:250K
冬季ケース
太陽定数:1422W/m2
アルベド係数:0.25
地球放射エネルギー:267W/m2
地球表面温度:262K
アルベド係数:0.30
地球放射エネルギー:249W/m2
地球表面温度:258K
アルベド係数:0.35
地球放射エネルギー:231W/m2
地球表面温度:253K
夏季ケース
太陽定数:1318W/m2
アルベド係数:0.25
地球放射エネルギー:247W/m2
地球表面温度:256K
アルベド係数:0.30
地球放射エネルギー:231W/m2
地球表面温度:251K
アルベド係数:0.35
地球放射エネルギー:214W/m2
地球表面温度:246K
地球を周回する人工衛星の熱設計は、外部エネルギー源を考慮する必要があります。
人工衛星に入射する最も重要な外部エネルギー源は、太陽、地球の熱放射、および地球から反射された太陽エネルギー(アルベド)です。
地球と太陽の距離の変動によって人工衛星に入力されるエネルギーの変化、および太陽定数の測定の精度は、熱解析を実施する重要なパラメータとなります。
学んだ教訓
このガイドラインで説明されているように環境の熱効果の変動を考慮しないと、熱分析が不完全になります。
宇宙船の温度変化は大幅に過小評価される可能性があり、それによってその信頼性が低下します。
推奨事項
地球オービターの熱収支を計算するときは、太陽定数、アルベド、および地球放射について現在受け入れられている値を使用してください。
この方法では、スペクトル効果やコリメーションを考慮せずに、黒体の場合の加熱速度を提供します。
終わりに
地球軌道上の熱環境は教科書にはまとめられていない項目です。
JAXA共通技術文書でも近い内容がまとめられており、宇宙環境標準に記載されていると思いきや熱制御系設計標準に記載されています。
内容の重複を避けるため、今後も熱制御系設計標準が更新されていくことでしょう。
熱解析を実施する場合、パラメータとして与えられている条件ではあります。
ゼロから調べる場合、理科年表などの情報から算出するのですが、本記事のように場合分けで記載されてはいません。
参考に値を使用してください。
参考サイト
NASA Lessons Learned
https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html
NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)
Earth Orbit Environmental Heating