宇宙産業でのロッキード・マーティン
ロッキード・マーティン(ロッキード・マーチン)は2020年現在世界最大の軍需企業です。
2019年の売り上げは598億ドル(1ドル109円として、6兆5182億ドル)で日本の代理店は三菱商事です。
日本に対しては人工衛星よりも防衛庁向けの提供が多いようです。
今回は少し前に紹介した製造中に事故を起こした人工衛星NOAA-19を製造したロッキード・マーティンの人工衛星について、前回の記事を書いている中で情報が浮き出てきたのでまとめてみます。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
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ロッキード・マーティンの2019年の宇宙事業の売上は108億ドル(1兆1772億円)で、ロッキード・マーティン全体の18%です。ちなみに、最大の事業は航空機関連で237億ドルに上ります。
衛星プラットフォーム(衛星バス)A2100シリーズ
ロッキード・マーティンは現在2つの衛星バスを持っています。
A2100シリーズとLMシリーズです。
過去にもいくつかのシリーズがありましたが現存として2つになります。
衛星バスとは人工衛星に必要な共通の機能をキット化した汎用機です。
目的に合わせてミッション機器を変更することで、様々な人工衛星のミッションに対応していくことが可能です。
最近では衛星プラットフォームとも呼ばれており、日本では三菱電機のDS2000や日本電気のNEXTARがそれにあたります。共通化している機能とは、姿勢制御系、電力系、熱制御系、推進系、構体系がそれにあたります。
今まで特注品であった人工衛星のパーツやコンポーネントを共通化し、設計にかかるコストや製造スケジュールを圧縮させることが可能になります。
現在の人工衛星を製造する企業は、最初は特注品を製造し、そののちに同型の人工衛星を販売し、共通部分の設計を最適化し衛星バスとして販売するというのがオーソドックスな流れのようです。
A2100シリーズは、スカパーJSATの静止軌道通信衛星としていくつも販売されており、ロッキード・マーティンの公式サイトでも記載されているほどです。
GPS衛星の一つであるGPS Block IIIもA2100が使われています。
本シリーズの最初の人工衛星が1996年に打ち上げられ、2020年現在に至るまでに100機以上製造されています。累積1000年以上の軌道活動実績を誇っています。
公式サイトによると、今後、A2100シリーズはLM2100と名前を変えて販売されていくようですが、A2100の方が名前に馴染みがあるため残りそうな気もします。
衛星プラットフォーム(衛星バス)LMシリーズ
LMシリーズも2017年より公開、販売されています。
使用可能なミッションは、IMAGING(画像)、REMOTE SENSING(観測技術)、COMMUNICATIONS(通信)、INTERPLANETARY(惑星探査)で、低軌道から中軌道を目的に製造されています。
- LM50は、低軌道で発生電力25w~250W、50㎝、最大100kg、製造期間12~18か月、衛星寿命6か月
- LM400は、低・中軌道で発生電力400W、1m、最大800kg、製造期間24か月以上
- LM1000は、低・中軌道で発生電力10,000W、1.8m、最大2,200kg
- LM2100は、中軌道で発生電力20,000W、3.7m、最大6,500kg、製造期間18~36か月、衛星寿命15年
LM50とLM400の短期間製造は3Dプリンタを使用することでスケジュールの短縮化を行っています。
LM50シリーズは、Pony Express 1に使用されており、9か月製造されました。
この衛星プラットフォームとは別にロッキード・マーティンは2030年頃を目途に「SmartSat」という技術の開発を始めました。
「SmartSat」はスマートフォンのようにアプリをインストールすることで、そのアプリに沿ったミッションを軌道上で変更することができるというのです。
今までこのような技術ができなかったのは人工衛星に搭載されるメモリに問題がありました。メモリによっては放射線に弱かったり、起動時のみ記録できたり、電源が落ちると記録されていた情報が消えたりしていました。
いわゆる耐放射線性を向上させた人工衛星の提供を始めるということです。
その次はソフトウェアのセキュリティ面になるかと思います。
SmartSat uses a hypervisor to securely containerize virtual machines. It's a technology that lets a single computer operate multiple servers virtually to maximize memory, on-board processing and network bandwidth. It takes advantage of multi-core processing, something new to space. That lets satellites process more data in orbit so they can beam down just the most critical and relevant information—saving bandwidth costs and reducing the burden on ground station analysts, and ultimately opening the door for tomorrow's data centers in space.
SmartSat uses a high-power, radiation-hardened computer developed by the National Science Foundation's Center for Space, High-performance, and Resilient Computing, or SHREC. Lockheed Martin helps fund SHREC research, and in turn gains access to world-class technologies and student researchers.
https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/t/technologies#16
また、「SmartSat」として、実証衛星である「Tyvak-0129」が2020年1月に打ち上げられました。
少しややこしいのですが人工衛星名としては「Tyvak-0129」であり、Tyvakによって製造されました。衛星プラットフォームとして技術実証でもあったのですが、ロッキード・マーティンの「Pony Express-1」のミッションであるソフトウェアの「HiveStar」や通信機も使用されているようです。さらにはAccion Systemsが電気推進システムを提供しており、NASAも関わっていることから少しだけ登場人物の多い人工衛星となっています。多分。
ソフトウェアである「HiveStar」を利用することで、同じ人工衛星「SmartSat」間の通信を行うことを可能としています。地上と通信している人工衛星とは別の人工衛星に指示を送り、別の人工衛星に搭載されているミッション機器を利用することが可能らしいです。
現在は軌道上に同型の「SmartSat」システムを搭載した人工衛星がないため、地上にある模擬機(あるいは「Pony Express-2」)と通信を行い確認しているのかもしれませんね。
地上との通信は、大気による電波減衰を考慮すると、宇宙間での通信の方が品質が高くはなります。あとは、軌道計算やアンテナの指向精度に効いてきますが。
そのほかにも、複数のRF機能や3Dプリントによるアンテナの実証も行うようです。
しかし、軌道上でミッションを変更することができるというのは画期的ですね。
今までは、開発失敗や打ち上げ失敗などのリスクが付きまとっていたところ、打上げている人工衛星を購入できれば、そのリスクを考えなくても済みます。
例え、打上げている人工衛星が割高であろうとも、軌道上で動いている人工衛星を購入できるのであれば、人工衛星開発スケジュールに一喜一憂しなくても済みますし、周波数の調整やロケットとの調整も使用ユーザーは極力減らすことができます。
参考文献
Lockheed Martin(公式)
https://www.lockheedmartin.com/en-us/index.html
Satellite Solutions | Lockheed Martin
https://www.lockheedmartin.com/en-us/products/satellite.html
Lockheed Martin Reports Fourth Quarter And Full Year 2019 Results
Lockheed Martin A2100
https://en.wikipedia.org/wiki/Lockheed_Martin_A2100#cite_note-10
All In The Family: Lockheed Martin Introduces New Satellite Lineup
A decade on, smartphone-like software finally heads to space
https://www.france24.com/en/20190320-decade-smartphone-like-software-finally-heads-space
Lockheed Martin Launches First Smart Satellite Enabling Space Mesh Networking
Lockheed Martin's First Smart Satellites Are Tiny With Big Missions
Tyvak Successfully Demonstrates Next-Generation Spacecraft Technologies
自衛隊も御用達!年間売上5兆円を誇る世界No.1軍需企業「Lockheed Martin」
https://strainer.jp/notes/5934
世界最大の軍事企業、隠されたもう一つのビジネスとは
https://zuuonline.com/archives/210857
ロッキード・マーティン、宇宙でのメッシュネットワーキングを可能にするスマート衛星を打ち上げ
https://engineer.fabcross.jp/archeive/200221_pony-express-1.html
Lockheed Martin develops smart satellite that can be reprogrammed in orbit
https://newatlas.com/lockheed-martin-smart-satellite/58957/
Pathfinder Risk Reduction (Tyvak 0129, Pony Express 1)
https://space.skyrocket.de/doc_sdat/pathfinder-risk-reduction.htm
宇宙線がコンピューターを狂わせる
https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-057-10-02-g364
トレンド解説: 医療分野向けFRAM - 富士通セミコンダクター
組み込みメモリの基礎:EEPROM、FRAM、eMMC、SDカード
https://www.digikey.jp/ja/articles/the-fundamentals-of-embedded-memory