NOAA-19を知っているでしょうか
それは人工衛星製造中に発生しました。
極軌道気象衛星NOAA-19(ノア19号)が打上げられたのは2009年2月です。
NOAAの名が示す通り海洋と大気に関する調査および研究を専門とするアメリカ合衆国商務省の基幹尾一つであるアメリカ海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration:NOAA)の人工衛星です。
POESシリーズによる衛星コンステレーションにより地球の気象を観測する目的で製造されました。
また、世界初の気象衛星と言われているタイロス1号機(Television Infrared Observation Satellite:TIOS)の流れを汲むシリーズ衛星でもあります。
近年では、NOAAとNASAが共同で開発したJPSSシリーズ(JPSS:Joint Polar Satellite System)が、2017年11月に打ち上げられています。
打上げ当初はJPSS-1とされていましたが現在NOAA-20と改称され2024年まで運用される予定です。現在もJPSS-2/3と開発が進められています。
そして、極軌道気象衛星NOAA-19を製造していたのは、アメリカ合衆国コロラド州にある戦闘機や人工衛星・運用機器を製造しているLockheed Martin Space Systems Companyです。
事故は製造中に発生した
問題が発生したのは2003年9月8日7:15頃、アメリカ合衆国にあるシリコンバレーを作り上げている主要都市のカルフォルニア州サニーベール。
映画『ターミネーターシリーズ』のサイバーダイン・システムズ・コーポレーションのある都市としても有名なサニーベールのロッキード・マーティンの工場で発生しました。
経験豊かな人工衛星の作業員が、人工衛星を移動治具に取り付け、人工衛星を回転させ、ミッション機器の一つであるマイクロ波放射計(Microwave Humidity Sounder:MHS)を搭載する予定でした。
ミッション機器を搭載するには人工衛星を水平方向に傾ける必要があり、垂直回転移動治具(ターンオーバーカート)を使用することになりました。
治具に人工衛星を取り付けて回転させようとしたときに事故が発生。
結果は写真の通り。
13度ほど傾けたところで、約5.5mの人工衛星が治具の一部とともに滑り落ち、約1m下にある床に激突してしまったのです。
これにより衛星に搭載されていた機器に大きな損害を与えることになりました。
ただ一つ、人的被害無かったことが救いだったでしょう。
1.4tの重量物にぶつかってしまえば、ひとたまりもありません。
Lockheed Martin Space Systems Companyは、全作業をすべて停止し、緊急措置として、人工衛星がこれ以上回転しない様に固定するとともに、危険性の高いバッテリーの放電や推進システム(タンク等)が減圧をしない様に管理しました。
その後、事故による損傷と予備品・在庫品の調査・確認が完了するまで数か月程度かかったといいます。
タイミングが良いことに、NOAA-19は同型を製造打上げるシリーズ衛星として最後の衛星で、過去のシリーズ衛星で購入してきた予備品・在庫品が使用可能だったのです。
人工衛星の主構造部分のいくつかの部分を残し、人工衛星を分解し、搭載済みのコンポーネントの約75%を、新たに振動および熱試験を実施した予備品・在庫品や新品に交換することとなりました。
修理費用の1億3500万ドル(2003年当時1ドル115円なので日本円で155億2500万円)は、完成予定であった2005年から2008年までのNOAA-19の保管維持費用や今まで人工衛星開発で得たあるいは得られるはずの利益が当てられました。
ただし、それだけでは足りずロッキード・マーチンは追加で3000万ドルを支払い、残りを政府が負担したそうです。(英文怪しいけど)
また多くのサイトにおいて修理費は、2004年の情報(1億3500万ドル)を引用していますが2009年の情報では2億1700万ドルともいわれています。
最終的には当初の開発費も含めて総額5億ドル規模になった人工衛星は、事故が起きた6年後の2009年2月に打ち上げられました。
打ち上げ計画として2008年3月の予定であったため、それほど深刻な遅延にはならなかったとされています。
くしくも、事故が起こった2003年は宇宙業界では色々と事故が起きていました。
NASAでは2月にスペースシャトル・コロンビアの事故が起きていました。
JAXAでも、JAXAに統合後の10月にNASDAの地球観測衛星「みどり2」が打上げ1年未満で機能停止し、11月にNASDAの情報収集衛星を搭載したH-IIAロケット6号の打上げが失敗、12月にはISASの火星探査機「のぞみ」の制御系が故障し火星周回軌道への投入を断念しています。
まあ、因果関係は全くないのだけれどもね。
NOAA N-PRIME Mishap Investugation Final Report
https://www.nasa.gov/pdf/65776main_noaa_np_mishap.pdf
珍しく続き
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
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参考文献
ORBITAL MECHANICS
http://www.braeunig.us/space/orbmech.htm
NOAA N-PRIME Mishap Investugation Final Report
https://www.nasa.gov/home/hqnews/2004/oct/HQ_n04158_noaa_n_mishap.html
人類痛恨の宇宙開発事故7つ
https://www.gizmodo.jp/2014/11/_space_isn.html
NOAA-19
NOAA-N Prime Update
https://www.nasa.gov/mission_pages/NOAA-N-Prime/main/index.html
Engineering & Scientific Mishaps – NOAA-19
https://www.technologyallthewaydown.com/2018/09/22/engineering-scientific-mishaps-noaa-19/
Earth Science Missions Anomaly Report: GOES/POES Program/POES Project: 6 Sep 2003
http://www.spaceref.com/news/viewsr.html?pid=10299
Septembre 2003 - tentative de mise en orbite sans fusée : chute du satellite NOAA-N Prime en salle d'intégration(画質的には良好)
Back from the Brink: Broken Satellite Fixed and Ready to Fly
https://www.space.com/6081-brink-broken-satellite-fixed-ready-fly.html
NOAA-20
https://en.wikipedia.org/wiki/NOAA-20
https://www.wmo-sat.info/oscar/satellites/view/208
(SNPP and NOAA-20/JPSS-1)VIIRS Imagery and Visualization Team
http://rammb.cira.colostate.edu/projects/npp/
大気観測衛星の不具合
http://www.jspmi.or.jp/system/l_cont.php?ctid=130401&rid=803
NOAA-N Prime auf Delta II 7320-10C D338 vom LC-2W
https://www.raumfahrer.net/forum/smf/index.php?topic=4186.0
NPOESS (National Polar-orbiting Operational Environmental Satellite System
https://earth.esa.int/web/eoportal/satellite-missions/n/npoess
Was the NOAA-N Prime satellite really dropped on the floor?
NASA: Workers Caused NOAA N-Prime Accident
https://www.satellitetoday.com/uncategorized/2004/10/11/nasa-workers-caused-noaa-n-prime-accident/
Back from the Brink: Broken Satellite Fixed and Ready to Fly
https://www.space.com/6081-brink-broken-satellite-fixed-ready-fly.html
宇宙作家クラブ、2003年の宇宙関連10大ニュースを選定(2003.12.30)
http://www.sacj.org/articles/200310.htm
Microwave humidity sounder - Wikipedia