人工衛星が上手くいったことは、ニュースの記事になりにくい
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今まで、技術・業務的な引継ぎとしていたが、初めて衛星開発に触れる人が、一般人に対して説明するときの一例を紹介する。
人工衛星はどの段階で成功か、人工衛星に関わり合いのない人からすれば、ロケット打上げ後に無事放出されたこと、という印象を持たれるのではないだろうか。
人工衛星で「わかりやすい」衝撃的な映像は、ロケット打上げである。
むしろ、ロケット打ち上げ後、見えないのだからしょうがない。
その中でも衝撃的な映像はロケット爆発である。
人工衛星ではないが、スペースシャトルの爆発は、知っている年代からすると衝撃的であった。
普通に打ち上がるよりも、爆発が発生すると印象に残る。
爆発で失敗と、爆発しなかったら成功という印象が付いている人が多いのではないだろうか。
むしろ、その後の人工衛星の成功が、それほど衝撃的な映像がないため、忘れられてしまっている可能性もある。
爆発せずに打ち上げて放出することは、人工衛星の成功というよりは、ロケット側の成功に他ならない。
年齢が高い方ほど、ロケットの打ち上げ成功=人工衛星成功としてしまっている人が多い。
まあ、それだけ衝撃的だったのだから、しょうがないのだけれども。
しかし、2010年代頃からは風向きが変わっている。
惑星探査機はやぶさの成功だ。
地球に帰ってくるという目に見えてわかるミッションの成功事例が、人工衛星開発の成功を目に分かる形で示してくれた。
人工衛星は打ち上がって終わりではないということ。
衝撃、人工衛星の寿命
人工衛星は打ち上がって終わりではない。
ではどこで人工衛星は終わるのだろうか。
ミッションが達成できなくなったときである。
多くは、通信ができなくなった、あるいは通信をできないようにしたときに寿命となる。
内部のコンポーネントが動作しなくなっただけでは終わりではない。
通信機が生きていれば、通信が続けられれば終わりではないのだ。
では、何年間生きれいられるのかというと、軌道によるが早くて数分、長くて数十年である。
衝撃かもしれないが、数分で終わる人工衛星も存在する。
地球のどの高度から宇宙かという定義にもよるが、気球や小型ミサイルでも宇宙に到達でき、その地点で放出する人工物を人工衛星と呼ぶ人もいる。
通信やミッション達成を目的とするならば、それも十分に人工衛星と言える。
缶サットと呼ばれる、空き缶のサイズの人工衛星が放出されるイベントは、もう何年も続けられている。
もちろん、衛星軌道に投入されていないから、人工衛星と呼ばないという説もなくはない。
宇宙あるいは軌道上に放出するというと、最近はISS(国際宇宙ステーション)から放出という事例も多い。
サッカー場レベルの大きさであるISSから小型人工衛星が打上げられている。
ISSは複数の国が共同で運用している共同宇宙実験施設で、数多くの実験を行う研究者として何人もの宇宙飛行士が生活している。
このISSから小型の人工衛星を放出する設備を、日本が開発し、運用している。
小型の人工衛星の放出機構が、日本のISS施設内に存在することを知っている人は、一般の人では少ないのではないだろうか。(今回は新人向けですので)
高度460km付近にいるISSから放出される人工衛星の寿命は1か月から3か月程度である。頑張れは1年行くかもしれませんが。
先ほどの数分から何倍にもなるが、それでも衝撃の寿命の短さである。
一方で長期間運用されているものも存在する。
日本の人工衛星でいうと気象衛星ひまわりであろう。
アメリカの人工衛星ではGPS衛星がよく知られている。
GPS衛星が出たついでに書いておくが、GPS衛星はスマホや携帯電話、自動車から位置情報を送受信しているわけではない。
GPS衛星の電波を受信して位置情報を算出しているのだ。
たった24台の、下手をすると現在販売されているノートパソコンやスマホよりも処理能力の低い数十年前の制御機器が搭載されているGPS衛星に、数十億人レベルの情報を処理できないだろう。
某国のGPS機能を持った人工衛星が打ち上がったから、某国に情報を取得されるというのは、今のところ幻想であるし、人工衛星の機能が追い付かない、とだけ書いておこう。
ひまわりは、衛星寿命として5年から10数年と言われている。
GPS衛星は、衛星の「想定」寿命を越えて20年以上使用されている。
想定寿命を越えても使用できるのは、人工衛星製造に、高い信頼性の部品や冗長設計、太いシステム設計によるものといえる。
一般に売られている商用製品の場合でも、だいたいそのぐらいの年数である。
商用製品でも、人工衛星でも、結局は使用されている部品の寿命に依存していることが多い。
特に、スイッチ機能をもつ電子部品や、高温低温を何度もサイクルする部品の寿命劣化は激しく、その中で最も劣化しやすい部品の期待寿命を、そのまま製品の期待寿命としていることが多い。
商用製品や工業製品は、交換することで製品の寿命を延ばすことが可能だが、人工衛星ではそれが不可能である。
その中で冗長設計というものが、人工衛星の寿命を延ばすことで重要となる。
最近の事情では、1台当たりの製造コスト/打上げコストを下げ、人工衛星の寿命を延ばすことより、人工衛星の寿命が来る前に打上げるような時代にシフトしている。
既に数千台もの通信人工衛星を打上げているスペースXのスターリンクシリーズであるが、おそらく1台当たりの製造コスト/打上げコストを下げて、短周期で人工衛星を打上げて、衛星寿命は短いかもしれないが、人工衛星を利用したサービスを長期間化された分かりやすい例である。
サービスの長期間の見通しが立てば、資金の投資側からすれば、長期的なリターンが見込めるために、より資本が集まりやすいという事情もありそうである。知らんけど。
人工衛星の製造コスト
大型衛星といわれる人工衛星の価格は、近年の高機能化、新開発要素などから100億円弱から400億円弱ぐらいである。
サイズから比較的小型衛星に近い、惑星探査衛星はやぶさ/はやぶさ2も、130億円~150億円の“製造コスト”がかかっている。
そこにロケットによる打上げコスト50億円弱~200億円程度もかかってくる。
大型衛星の製造期間もリピート設計があったとしても、4年以上10年未満と言われている。
だいたい、製造コスト/打上げコストに600億円以上かかり、4年で製造したとして年間150億円である。
いやいや、最近の人工衛星はもっと価格が下がっています、と言われるかもしれないが、なかなかの衝撃である。
有名どころの企業で言うと、2020年の当時では、高島屋(160億円)、京浜急行電鉄(156億円)、カネカ(140億円)、ワークマン(133億円)が生み出す利益が毎年必要になる。
株主にも社内にも還元せずに、将来投資としてつぎ込むのだから、株式会社としてはもっと利益構造の高い企業でないと、耐えられないことから、かつては最高級品とも、嗜好品とも呼ばれていた時代があったとか、なかったとか。
結局、個人や企業で大型の人工衛星を所有することは日本ではなかったと、認識している。
ただ、アマチュア無線衛星といった、アマチュア無線の周波数帯を使用していた人工衛星が存在しているが、少し資料がないので、なんとも言えない。
それに対して、小型衛星は諸説あるが、5000万~15億の製造コストで済ませられる。
開発も2年以上5年未満といわれていることから、年間コストでも10倍以上の価格差が出ている。
打上げ費用は、無料から数千万と言われている。
もちろん人工衛星でできることが限定されるのだが、スターリンクシリーズが出たことで、現実味を帯びてきている価格帯になっている。
これらの事情が相まって、小型衛星の寿命も、だいたい2年程度が目安になってきている。
人工衛星の長寿命化から短命短サイクル化に変化してきている。
ただし、低軌道衛星に限る。
静止軌道にある通信衛星は、打上げコストが高く、通信の電波強度や周波数取得、運用の簡易化の関係から、現在でも5年以上の長寿命なものが選ばれる。
もちろん、人工衛星自体の価格を減らすために、リピート設計であったり、いわゆる量産化された設計構造であるバス衛星が選定されることが多い。
ざっくり、だいたいこんな感じかな。