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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

人工衛星製造時に発生した有名な事故から学ぶこと【宇宙機と製造、転倒】

事故の原因

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-KSC-2009-1373

 

極軌道気象衛星NOAA-19が製造中に事故を発生させ、1億3500万ドルなのか2億1700万ドルの修理費用が発生しました。

 

打上げスケジュールの影響は1年程でしたが、開発期間は4年程度伸びた大事故に繋がりました。

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

 

2003年9月8日に人工衛星のベテラン作業員が工場内で人工衛星を移動治具に取り付け、人工衛星を回転させ、ミッション機器の一つを搭載する予定でした。

 

ミッション機器を搭載するには人工衛星を水平方向に傾ける必要があり、移動および垂直回転移動治具(ターンオーバーカート)を使用することになりました。

治具人工衛星を取り付けて回転させようとしたときに事故が発生してしまったのです。

 

直接の原因は、4日前の2003年9月4日に、同じ移動および垂直回転治具を別の人工衛星の作業チームが使用しており、しかも、文書の記録もしないで治具から24本のボルトを取り外してしまったことがあげられています。

どうも、抜いたボルトは別の作業に使用されていたという話です。

 

抜いてしまったボルトというのは、人工衛星を設置するためのアダプタを治具に固定するプレートのボルトだったのです。

 

当時のNOAA-19の作業チームは、治具が数日前から使用されていたために、治具の状態を数日前から確認することしていませんでした。

 

さらに、プレートは80本の締結穴に40本だけ固定していればよく、すべての締結穴にボルトが固定されていなくても問題ない設計でもあり、一部のボルトが抜けていることが正常な状態であったのです。

それは、動かすときにボルトが嵌っていない状態であっても、だれもが正常な状態だと誤認してしまう状況でもありました。

 

 

レポートやニュース情報からいくつかの原因があげられていますので軽くまとめてみました。

 

1つ目は、ベテラン作業者が手順書に従わずに、衛星を固定するボルトをはずしたままにしたこと。

2つ目は、ベテラン作業員が治具の状態を確認しないまま操作を開始したこと。

3つ目は、同じ作業が日常化されており、作業員の気のゆるみがあったこと。

4つ目は、ボルトを外すなどの作業内容の変更を手順書に明記しなかったこと。

5つ目は、作業手順書にあいまいな用語(「assure(安心)」など)が含まれていたこと。

6つ目は、手順書の監督者による作業確認(例えば目視)がされずに作業を進めることが慣習化されていたこと。

7つ目は、衛星を固定するボルトを外したことをチーム間で共有できていなかったこと。

8つ目は、すでにいくつかの作業を中止・修正しなければいけないほど、スケジュールが遅延していたこと。

9つ目は、作業員の疲労があった可能性があること。

 

10番目に、システム安全プログラムが機能されていなかったこと。

11番目に、組織的に人工衛星システムの安全性を監視するようなリソースがほとんどなく、安全性の監視がされていなかったこと。

12番目に、3つ目の同一作業の日常化(ルーチン化)により、慢心や過信による潜在的な事故を防ぐような対策が組織的に実施されていなかったことも挙げられています。

 

 

事故の詳細とその分析については、2004年に発行された調査レポートを参照してみてください。

 

NOAA N-PRIME Mishap Investugation Final Report

https://www.nasa.gov/pdf/65776main_noaa_np_mishap.pdf

 

 

転倒は労働災害で最も発生している

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Credits: 厚生労働省 平成30年の労働災害発生状況を公表

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04685.html

 

前項でいろいろな要因があげられましたが、そもそも発生した転倒という事象は労働災害の中で、発生の可能性が高く、死傷率も高い危険な作業です

 

グラフは、物的事故ではないのですが、他の災害に比べても転倒が発生しやすいということが分かります。

 

転倒に関しては、転倒角を計算し、作業エリア内での規定を設け、リスク回避するということもいくつかの企業を行われています。

 

決して油断するべき作業ではないのです。

 

最後に、転倒事故への防止対策がありましたので、紹介します。

 

 1.すべりによる転倒事故防止について
①濡れた(油・水)床面を放置しない。

②階段(特に鉄製)の昇降には、かかとの低い靴を着用する。

③職場内は走らない。

④マンホールのふた等、金属製上を歩くときは滑ると思い通過する。

⑤安全靴の底の摩耗度の定期検査をする。

⑥滑りやすい床は滑り止めの対応をする。

 

2.つまずきによる転倒事故防止について
①床面の凹凸・段差の有無を確認してから歩行する。→ まずは目視化し、将来的には廃止する。(ステッカー活用)

②通路と作業場の分離を明確にし、通路に物を置かない。→ 移動時は必ず通路を通ること。

③職場内の物の定位置化。→ 作業中の移動を考えた配置にする。

④両手を使った運搬作業は、極力避ける。→ 台車の活用。

⑤床上の配線・配管を無くす。→ やむを得ない時は安全対応をとる。

 

3.踏み外しの転倒事故防止について
①両手で荷物を持って階段を降りない。→ 前が見えるようにする。

②考え事をしながら歩行しない。

③段差等が判断できる照度を維持する。

2019年9月度 転倒災害防止について | ヴェルサス派遣・バイト・パートの求人情報

 


 

参考文献

Engineering & Scientific Mishaps – NOAA-19

https://www.technologyallthewaydown.com/2018/09/22/engineering-scientific-mishaps-noaa-19/

NOAA-N-Prime Satellite Mishap Investigation Report Released

http://www.spaceref.com/news/viewpr.html?pid=15189

Investigators blame factory workers for satellite accident

https://spaceflightnow.com/news/n0410/04noaanreport/

Lockheed Martin Profits To Pay for NOAA N-Prime Repairs

https://www.space.com/417-lockheed-martin-profits-pay-noaa-prime-repairs.html

Back from the Brink: Broken Satellite Fixed and Ready to Fly

https://www.space.com/6081-brink-broken-satellite-fixed-ready-fly.html

平成30年の労働災害発生状況を公表

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04685.html