宇宙での技術転用はスピンオフと呼んでいる
スピンオフと聞くと、物語の派生あるいは外伝を思い浮かぶかもしれませんが、宇宙での技術転用もスピンオフと呼んでいます。
今回は、有名なスピンオフや思わぬスピンオフについて紹介していきます。
NASAで生まれたスピンオフ技術
低反発・衝撃吸収素材
1970年代にNASAの技術を利用して、飛行機の座席のシートクッションに、衝撃吸収のために開発されました。
現在では、マットレス、枕を初め、飛行機以外の自動車などの乗り物に使われることが多くなっています。
フリーズドライ食品
長期的な宇宙飛行計画であるアポロ計画で研究が進み開発された技術による食品です。初期は水分補給が難しい乾燥食品でしたが、お湯と組み合わせることにより宇宙空間で温かい食事を提供してくれた技術です。
この技術はただ単に食品を提供するだけでなく、栄養価も高く軽量であるため、宇宙飛行士の健康状態を維持することができることも可能になりました。
この技術は、カップ麺やみそ汁など多くの食品に使われるようになった技術です。
NASA - Food for Space Flight | NASA
消防設備
消防設備のスピンオフ技術はいくつかあるのですが、最も有名なものは消防服の耐熱素材です。
1950年後半に、カールマーベル博士がポリベンズイミダゾール(PBI)を合成し、空軍向けの素材を研究し始めました。1963年に、NASAとAFML (米空軍材料研究所)によって、不燃性で熱的安定性の高い繊維素材を開発していきました。
この研究は、1967年に起きたアポロ/サターンの試験中に発生した火災事故で宇宙飛行士が亡くなったことも少なからず開発を邁進させるきっかけになったのでしょう。
PBIは、耐熱性及び難燃性はもちろんのこと、柔軟性もよく、耐薬品、耐摩耗性、電気特性を持っています。1978年にアメリカの消防に展開されて以降、モータースポーツや軍事にも使用されています。
Polymer Fabric Protects Firefighters, Military, and Civilians
CMOSイメージセンサー
世界で最初にデジタルカメラを開発したのは、イーストマンコダック社で世界最大の写真用品メーカーです。奇しくも破壊的イノベーションの犠牲になったとされる会社です。
しかし、デジタルカメラの概念を研究開発していたのはジェット推進研究所のユージン・F・ラリーでした。その後、数十年間、宇宙環境で使用できる小型で軽量なイメージセンサの研究を続けていきました。
1993年に同じくジェット推進研究所のエリック・フォルサムがCMOSイメージセンサーを小型化する研究を報告しました。さらにフォルサムは、CMOSアクティブピクセルセンサー(active pixcl sensor:APS)を開発し、この技術が宇宙だけではなく地球上の画像取得でも有効であること認識しました。
フォルサムは、同僚とともにPhotobit社を創設し、CMOSセンサーを商品化した最初の企業となりました。
Image Sensors Enhance Camera Technologies
Image Sensors World: Photobit History
日本で生まれたスピンオフ技術
耐火スクリーン、消化布
固体ロケットから吹き出す高温ガスに耐えられるシリカ繊維素材が使用されています。
このシリカ繊維材及びシリカ繊維を壁面に加工する技術を応用することで、従来の防火シャッターよりも軽量な耐火スクリーンに使用されていたり、家庭火災の際に初期消火に役立つ消化布の開発が行われています。
自動車用エアバック
固体ロケットの点火に使われる火工技術が使用されています。
自動車が衝撃を受けた際に、ガスを発生させエアバックを膨らませるのですが、膨らませる際にガスを放出する火工品として使用されています。
建築用免振用積層ゴム
HⅡロケットのノズル(推進剤を噴出させる箇所)とモーターケースの間の接合部には、ゴムと鋼板をリング状に積層したいわゆる積層ゴムが使用されています。
この積層ゴムは、建築物の上下二つの構造物の間に設置する支承(ししょう)と呼ばれる部材に使用されています。積層ゴム(型)支承などと呼ばれ、建物や橋の基礎に設置することで、地震の衝撃を和らげています。
建築用断熱塗料
ロケットに搭載するペイロード(人工衛星など)を、上昇中の空力加熱から保護するために存在しているフェアリングがあります。このフェアリングには軽量で断熱性に優れ、接着力も十分な断熱材が使用されています。
接着性が良くペンキのように塗装することで、高い断熱性を持つため、建築物をはじめとして、使用されています。
室内吸音材
音による衝撃波という事象は聞いたことがあるかと思います。こちらもロケットにあるペイロードを、打上げ中による衝撃波からペイロードを守るために、数ミクロンのガラス繊維を用いた吸音材が使用されています。
高い吸音性を持つために、壁面のクッションに使用することで、防音性に優れた部屋などに使用されています。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
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最後に
JAXAのスピンオフの紹介記事って、なかなかストーリー性を消していますね。
個人より組織による知見を優先して記載しているため、何によって得られた技術であるか、どんなことにだけ使用されているかが書かれているのみですね。
JAXA内で研究というより、JAXA内のアイディアを企業が独自技術を用いて製品化したというものが多いのかもしれませんが、どこもはっきりとは書かれていません。
いつから、誰が、どのような背景でというのはなかなか書かれないものですね。
参考資料
https://www.mssf.or.jp/26fyleaflet/26d3utyuu.pdf
http://www.japanaerospace.jp/2016/files/jp/JIMTOF2014_2014.11.3.pdfreason.com