アンカーテナンシー(Anchor tenancy)契約について
アンカーテナンシー(Anchor tenancy)という言葉を知っているでしょうか。
あまり使われる機会がないのですが、偶に宇宙業界の文書や記事で出てきます。
政府の方針で注目されている業界や技術を取り扱う企業に対して行われることが多いです。
限られた条件において、政府が企業と契約して商品を継続購入し、企業もしくは業界を存続させるために行うことをいいます。
政府目線でいうと産業基盤の安定のために契約し、事業継続の機会を提供することをいいます。
特にベンチャー、スタートアップ、未上場企業に対して行います。
目次
日本では宇宙業界ぐらいでしか聞きません。
宇宙業界ぐらいでしか言われないのは、宇宙業界が古くからありつつも政府主導で行われた業界であり、他の業界の領域を侵食するする部分が少ない(利害関係が薄い)からかもしれません。
現在の宇宙業界は政府主導から民間(宇宙業界では政府あるいはJAXA以外を指す)でビジネスする風向きになっています。
宇宙業界でアンカーテナンシーが使われるということは、産業として安定させるために政府介入が行われる稀有な業界と言えるかもしれません。
というのも、宇宙産業従業者人口が1995年以降減少しており、事業の撤退も増え、重要な部品の一部が製造不可能になっています背景があるようですね。
日本語では広義に捉えられることが多いため、補助金や助成金もアンカーテナンシーと勘違いするかもしれません。
補助金や助成金は、政府や自治体の政策目標に合わせて、事業者の取り組みをサポートするために資金の一部を給付するというものであり、性質が違います。
アンカーテナンシーとは、資金の一部を給付するのではなく、事業者の提供する商品またはサービスを特定条件下のもとに政府と契約するものです。
NASAでのアンカーテナンシー契約
米国の宇宙機関NASAではアンカーテナンシー契約を結ぶにあたり、次のような条件を提示しています。
- 商品またはサービスがNASAのミッション要件を満たしていること。
- 費用対効果のある商業目的の商品またはサービスであること。
- 商品またはサービスが、競争入札で調達されること。
- 米国政府以外の既存または潜在的な顧客が特定されていること。
- 政府が継続的に市場介入することで長期的に存続可能なビジネスではないこと。政府の支援に依存するビジネス形態ではないこと。
- 未上場企業であり、ベンチャーキャピタルによるリスクがあること。
- 政府責任で契約を終了させた場合、終了責任に基いて契約者に支払う場合があること。
- 終了責任には、期間が決められた契約が含まれる場合として、契約を終了させなかった場合に政府が支払うべき金額を越えないものとする。
- 終了責任による支払いは、終了時に購入可能な商品またはサービスの購入で行われることがあること。
- 契約期間が10年を越えないこと。
- 固定価格で商品またはサービスを提供すること。
- 実現可能で、合理的な性能仕様であること。
- 契約が実行できない場合は、終了責任による支払いを行うことなく、部分的に終了させる権利を政府側が持つこと。
上記内容を確認すると、アンカーテナンシー契約は特定の企業に対して支援するのではなく、特定の要件で業界を支援、競争させ活発化させる意味合いの方が多いようです。
特定の場合は随意契約になってしまいますからね。
特有の技術でない場合は、市場での公平性を欠いてしまうことになるので、競争入札になるのでしょう。
一部では長期購入契約をアンカーテナンシーとしていますが、継続的に契約するという意味で長期購入契約と呼んでいるようですね。
ただ産業での公平性を考え、10年の間に近い技術をもつ事業者が現われることも考えた上で、契約期間が10年未満というのは適当な気もします。
競走した方が技術革新が生まれやすいともいいますのでね。
ちなみに、アンカーテナンシー契約が最初に使われたのは、1980年代にヒューストンのスペースインダストリーズ社が商業用微小重力研究および製造施設の開発を提案したときだそうです。
日本によるアンカーテナンシー契約
日本によるアンカーテナンシー契約はどんなものがあるでしょうか。
実際、どれがアンカーテナンシー契約なのかよく分かりません!
政府主導であると特定分野に偏りそうですが、JAXAなどの国立研究開発法人経由で考えると、継続的な研究目的にも使用できそうですね。
政府が買い上げて、安価に国内ユーザーに提供する機会を与えるのもありかもしれません。
現在、これがアンカーテナンシー契約だというものが調べきれていないので想像で上げると次ぐらいですかね。
- 衛星画像データの継続的な購入契約
- 衛星画像データの災害・防衛時の優先購入契約
- 人工衛星の継続開発及び購入契約
- 特定画像の画像処理契約
- 観測ロケット及び人工衛星用ロケットの使用契約
- 宇宙機開発設備及び試験設備の使用契約
- 月面あるいは惑星探査データ取得契約
理学系の研究ではなくビジネスとして今後成立できる可能性があり、競争できる程度の技術力のある企業が複数あり、未上場企業であることを考えるとプレイヤーが絞られてきますが、案外行けるのではないでしょうかね。
研究レベルとしても国に有用な環境データで政策の方針に則っており、地球の大気観測用人工衛星あるいはロケットを継続的に開発する能力があれば、アンカーテナンシー契約を結べるかもしれませんね。
参考文献
NASA/NOAA Anchor Tenancy
https://www.space.commerce.gov/law/anchor-tenancy/
Commercial Acquisition; Anchor Tenancy
用語集
産業維持のためのアンカーテナンシー
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/seisaku_kaigi/dai5/siryou5_2.pdf
NASA Anchor Tenancy Change Encourages Commercial Space Backers
https://spacenews.com/nasa-anchor-tenancy-change-encourages-commercial-space-backers/