材料データベース
人工衛星に関わらず機械設計をしている人は材料のデータベースや製品のスペックシート、Web上に記載されている仕様情報を確認する人が多いと思います。
熱構造系、機械設計者であれば強度や熱物性などを使っていきます。
これらの要素は主に強度計算や熱計算で使用することになります。
宇宙機の設計の場合はオフガス・アウトガスの情報も事前に確認しておく必要があると思います。もし確認できなくても、試験で確認するという手段もあります。
JAXA(NASAの日本版)ではサンプルを提供して測定してくれます。設備使用費や分析費がかかりますが、一般企業に測定を依頼するよりは安く済むことが多く、必要なデータも理解しているため、余計なことを考えなくとも結果データをそのまま使用できます。(多分)
一般の企業サービスでしたり、他の研究機関の場合ですと、データの使い方はユーザーにお任せになります。となります。
勉強にもなりますが、ユーザー側で使用できる値を再確認するという作業をする必要になります。
人工衛星に限らず、ロケットや宇宙輸送機に搭載される前に取得したデータを蓄積してJAXAは提供しています。
もちろん、取得したデータを公開しない様にすることもできたはずです。
熱光学物性に関していれば、国内でもトップのデータ量を提供しています。
ただ、宇宙機ぐらいでしか光学物性の物性値に注目が浴びないのかもしれませんね。
せっかくなので、JAXA以外の材料データベースも記載しておきます。
参考
JAXA 材料データベース
http://matdb.jaxa.jp/main_j.html
黒の役割
JAXAの材料データベースの中で材料評価データを選択することで、光学物性のデータを検索することができます。
せっかくなので、黒と検索してみると、垂直赤外放射率と太陽光吸収率の値がともに0.9に近い値を取っています。
検索結果には、視覚マーカーとか面白そうな単語がありますがここは置いておきましょう。
気になるのは太陽光吸収率が黒色アルマイトあるいは、黒色陽極酸化処理で0.6近い値を取得していることです。アルマイトは商標で、陽極酸化処理を示すことが多いです。
表面を黒色塗装にするか黒色陽極酸化(被膜)処理とするかで、光学物性に違いがみられるんですね。この違いは熱バランスを考える上で、重要な要素となります。
熱をコントロールしたい
光学物性を考えたうえで、宇宙用のコンポーネントに黒色が多い理由が見えてきます。
黒は外から受ける熱を吸収し、内から出す熱を放出しやすい特性を持つことが分かります。
これは人工衛星に搭載されたときに隣り合う黒色の機器がお互いに近い温度になることを示します。
また機器はそれぞれ起動しているため発熱している状態になります。人工衛星としては熱くなる傾向になるため、機器同士、総じて人工衛星全体として暖かくなる方向になります。ここに物体の熱の保持力である、物体の熱容量が関係してくるのですが、とりあえず置いておきましょう。
このようになぜ人工衛星全体を温める必要があるのかというと、答えは単純、宇宙空間が寒いからです。
宇宙空間はだいたい3K(ケルビン)、-270℃であるため、常に冷やされる方向にあります。機器が起動していないと人工衛星の温度が下がってしまうため、人工衛星全体を暖かくするために衛星の機器は黒色をしていることが多いんですね。
人工衛星の内部を映したとき、人工衛星内部が黒いのにもちゃんと理由があるんですね。
これは宇宙製品以外の機器でも同じことが言えますが、吸収率や放射率(輻射率)は伝導や対流に比べて影響が少ないため、気にしないことが多いです。
また、人工衛星全体の温度より機器の発熱が大きく、機器の適温から外れる場合には、放熱面を設けて冷やす必要があります。
参考
白の役割
白と検索してみると、垂直赤外放射率の値が0.9に近い値を取っていますが、太陽光吸収率の値が0.25に近い値を取っています。
白は外から受ける熱をあまり吸収せず、内から出す熱を放出しやすい特性を持つことが分かります。
人工衛星の機器の中には、熱を持ちすぎると、性能を落としてしまう機器があります。
性能を落としてしまうと、最悪機能不全となり、人工衛星が動かなくなってしまったり、目的を達成できなくなります。
衛星の白い機器というと、一番に出てくるのはアンテナかと思います。
これは地上でもいえることなのですが、パラボラアンテナ(parabolic antenna, parabola antenna)は、反射鏡(parabolic reflector)を持っています。
ちなみに、反射鏡はディッシュやお皿とも呼ばれており、通信系の勉強をした方だと、デッシュの方が通じるかもしれません。
反射鏡は電磁波を集中させる機能を持っています。反射鏡のカーブがとても重要になるため、熱を持ってしまうと反射鏡に歪みが生じてしまいます。
アンテナの反射鏡に歪みが生じると、人工衛星と地上にある管制局あるいは中継局への電波が弱くなったり、届かなくなるため、アンテナが白い場合が多いんですね。むしろ人工衛星の外についているもので白いものは大抵アンテナと言えます。
なかには推進機器の発射口である場合もありますが。
先ほどの紹介した黒色陽極酸化処理は太陽光吸収率が0.6です。宇宙機器に使用されている理由としては、なるべく熱エネルギーを吸収したくないけど、放出したい機器に使用されることが多いといえます。
もちろん、宇宙開発につきものの予算やスケジュールにより選択している場合もあるので、一概には言えません。
さらに特性の違うMLIや金属素地の表面の光学特性を活用して、人工衛星がうまく動くように考えられています。
このように光学特性で、機器の温度を調整しているんですね。
なので、赤が好きだから、赤い人工衛星を打ち上げるのが夢なんですといわれると、なかなか難しい所です。
赤い人工衛星を作るために、内部機器の配置や、ヒーターを追加したり、熱容量の適した物質の検討や検証などなど、成立する解はあると思いますが、コストは数倍~数十倍は跳ね上がると思います。
ただ、人工衛星ではなくなんの機能も持たない場合ですと、ロケットで打ち上げて放出すればいいだけなので、問題はないかもしれません。
また一つ、流れ星を作ってしまった。みたいな。