光学観測機器の構造系の重要性
構造系において、性能を上げるという問題はなかなか起きない。
構造系の山場の一つは、ロケット打ち上げによる振動環境から人工衛星の各機器を保護することにある。
もう一つは、軌道上での温度変化を各機器から保護するということにある。
これらを満たすことで、人工衛星の構造系の役割はほとんど完了していた。
構造系は熱構造系と言われるように、熱制御に関わることが構造系に近いため、まとめられることが多かった。
実施される作業も、ロケットの振動から守ることを第一に考え、振動試験にどう持たせるのかを考えられていた。
もちろん、ロケットペイロードに関わる質量や重心にも関わるために、バランスや軽量化を目指すのが主たる目的であり、目標でした。
ところが、今までは姿勢機器が支配的であり、姿勢・軌道制御の機器が取り持っていた指向決定精度と指向安定度が構造系に配分されるなったのです。
光学観測機器を持つ人工衛星においては、小型であっても、センタが向いている方向(指向)が、正しくとらえているのかを示す指向決定精度と、センサの指向が時間軸に対してブレが少ないかを示す指向安定度が求められてきています。
向いている方向なんて、姿勢制御機器によって制御されていると思っていたのですが、光学観測機器の性能を求めるようになったことにより、姿勢制御だけではカバーできない以上の精度・誤差が求められるようになってきました。ユーザーからの期待と要求が高くなってきたとも言えますが。
姿勢制御の機器だけではカバーできない誤差要因を低減するために、人工衛星の構造系には3つの課題があるそうです。
1つ目は、擾乱です。
人工衛星に搭載されている機器には、稼動しつつ、振動を発生するものがいくつかあります。
リアクションホイール、コントロール・モーメント・ジャイロ、冷凍機用コンプレッサ、パドル駆動機構、ミッション機器/アンテナ駆動機構 と少なくともこれら搭載機器は擾乱が発生します。
2つ目は、温度変形です。
投入されている軌道にもよりますが、人工衛星の温度変化は大きく、材料によって伸縮していきます。
3つ目は、材料の吸湿性です。
吸湿性というと、大気においては、大気中の水分の吸収のしやすさを示しています。軌道上では大気中に材料に保持されていた水分が抜けていきます。
この抜けていくという挙動が地上では再現が難しく、軌道上でどれほど水分が抜けていく(脱湿)か、予測が難しい。脱湿によって発生する変化量が影響されることが分かってきているのです。
参考文献
擾乱に関する情報の少なさ
一つ目に上げている擾乱ですが、擾乱の情報の少なさは断トツではないでしょうか。
日本語に関する情報がとても少ないのです。
ちなみに本記事では、末尾に人工衛星の擾乱対策に関する文献を紹介しているので、本気で擾乱対策を検討している方は、末尾を参照にした方が良いです。
古くからあるのは宇宙環境における擾乱として電離圏擾乱/電離層擾乱となります。
本記事で上げるような構造に関係する擾乱はほとんど見られないのです。
運用時に微小な振動を発生するものがあります。衛星の姿勢制御に使用するリアクションホイールがその典型例です。
姿勢制御用モーメンタムホイールや機械式ジャイロ等の発生する振動擾乱の周波数や大きさの測定を行ってきた。しかしながら、これらの振動が望遠鏡の指向精度にどのように影響するかは、微小振動が衛星構体をどう伝わるか、共振する部分があるかなどに依存する。
機械式ジャイロスコープは回転部分を有するために回転体のマスアンバランスによる擾乱の発生
おそらく最も詳しいのがJAXA共通技術文書ではないでしょうか。
その中の擾乱管理標準には、擾乱を管理するべき事項がつらつらと書かれています。
もちろん、すべての人工衛星で擾乱を管理する必要はなく、擾乱で発生する誤差が、目的となるミッションに対して影響を及ぼすようであれば、管理する必要があることが記載されています。
先に述べた通り、ミッションの高度化により、大型衛星・小型衛星に限らずある程度の擾乱の管理をしなければならないほど、ユーザーからの要求が大きくなっているのだ。
システムが複雑になればなるほど、擾乱の発生源も変わる。
コンポーネントが、小型あるいは大型化するだけでも、発生する擾乱は変化する。
小型のコントロール・モーメント・ジャイロと大型のコントロール・モーメント・ジャイロを想像すれば、分かります。
まあ、無茶だという気がしたので、国際宇宙ステーションのコントロール・モーメント・ジャイロの画像をお見せします。
1枚目は交換している姿です。
https://images.nasa.gov/details-iss015e22355
2枚目は、地上での様子です。輸送前ですね。
https://images.nasa.gov/details-KSC-2009-2486
3枚目は宇宙飛行士によって輸送中ですね。故障したコントロール・モーメント・ジャイロを交換している最中みたいですね。
https://images.nasa.gov/details-s118e06997
大きいですね。
日本の代理店はここかな。
小型はこんな感じみたいです。おそらくこの小型は1軸でしょうね。
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小型と大型の違いは、コンポーネントの構造もあるのですが、大きさです。
大きさが違えば、回転させるホイールの質量も大きく、回転させるモータの出力も大きく、ホイールの軸受けの長さも太さも変わります。
物性が変わることで、剛性も変わるために、共振周波数(固有振動数)も変化します。
この固有値振動数が擾乱を分析するカギになります。
振動に限った擾乱の低減方法の検討
擾乱は振動という物理現象になり、様々なところに影響を及ぼします。
もちろん擾乱は外乱となる太陽光による圧力や電磁波もありますが、ここでは省略します。
振動の影響というのは、隣接している構造体も揺れさせるために、人工衛星に接続されているすべての物体、機器に影響を与えていくのです。
人工衛星は、他に隣接する物体がないので、発生した振動は、何もしなければ人工衛星から発散させることはできないのです。
振動のエネルギーを消費させる現象として、振動の伝達、熱エネルギーの変換などがあります。
人工衛星ではこの個別の消費の他に、姿勢・軌道制御機器によってエネルギーを相殺することもしています。リアクションホイールでしたり、コントロール・モーメント・ジャイロで逆方向のベクトルにトルクを掛けたり、磁気トルカを使用しているのです。
では擾乱を相殺するときにも、姿勢・軌道制御機器を使用すればいいという話になりますが、これらのコンポーネントで発生させるエネルギーが大き過ぎるため十分に擾乱の相殺効果を発生させることができないのです。
一番考えられているのは、制振手法です。
地震で使われている制振手法が挙げられているのです。
機械的に逆ベクトルの微細振動を与えるコンポーネントを搭載するということも考えらえています。
搭載されているコントロール・モーメント・ジャイロやリアクションホイール、駆動機構のあるアンテナや観測機器、太陽電池セルパドルに対してカウンターとして搭載させることもありえます。
普通に難しそうですけど。
現行の人工衛星では、アイソレータという名称で呼ばれていることが多いです。
多くは、粘弾性物質(高分子材料)、金属が使用されます。
金属とは、かなり大きなくくりですが、形状により振動エネルギーを伝達や熱エネルギーに変換しているのです。
もちろん、振動を発生させる機器に対しては、振動緩衝を目的としたオイルやダンパーを使用していることも多いのです。
関連文献
Spacecraft Micro-Vibration:A Survey of Problems, Experiences, Potential Solutions, and Some Lessons Learned
https://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20180006315.pdf
Microvibration in spacecraft
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mer/1/2/1_2014se0010/_pdf
Modelling, Design and Analysis of Low Frequency Platform for Attenuating Micro-Vibration in Spacecraft
http://eprints.iisc.ernet.in/33932/1/jsv-10.pdf
Recent advances in micro-vibration isolation - ScienceDirect
Design and experiments of an active isolator for satellite micro-vibration - ScienceDirect
Attitude Analysis of Small Satellites Using Model-Based Simulation