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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

構造と観測機器の関係-温度変形編-【宇宙機と構造】

光学観測機器の構造系の重要性

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Credits: NASA

人工衛星の構造系において、構造系自体の性能を上げるという問題はなかなか起きません。

 

人工衛星の構造系の山場の一つは、ロケット打ち上げによる振動環境にあります。

ロケットの振動から、人工衛星内部機器を保護することにあります。

そして、軌道上での温度変化を各機器から保護するということにあります。

 

性能は抑えつつ、機能を最大限することを目的にすることが多いかと思います。

しかし、ミッション機器や姿勢制御・軌道制御機器では、構造系と接続されるインターフェース部分で性能が決まる重要なポイントとなります。

 

ミッション機器である光学系観測機器の性能に影響を及ぼす要素は次の3つがあげられます。

  • 擾乱
  • 温度変形
  • 材料の吸湿性

 

今回は、温度変化に関わる構造系の要素を見ていきます。

 

 結論の7項目

  1. 太陽からの放射熱や地球からの反射熱の影響は大きく、人工衛星の温度は変化する
  2. 温度サイクルにより材料の熱のひずみが発生する。
  3. 低熱膨張係数の低い材料をミッション機器のインタフェースに使用する
  4. 熱の伝達を抑える断熱特性の高い材料を使用する
  5. 人工衛星の構造側のインタフェースも熱のかたよりが発生しない材料を使用する
  6. 低熱膨張係数の実例として、チタン合金やインバー合金、ステンレス材がある
  7. 材料以外に焦点調整機器などでひずみをキャンセルする機器を搭載する

 

温度変化における影響 

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宇宙軌道上での人工衛星の温度変化は 、太陽の放射熱や地球の反射熱に起因します。

 

人工衛星が受けた熱は、構造体に影響を及ぼし、材料の温度が変わります。

 

材料の温度が変わると物体の体積も増減し、伸びや反り、いわゆる熱のひずみが発生します。

 

熱のひずみは、観測機器の構造的なずれを生じさせます。

 

観測機器のひずみを減らすには、熱が伝わりにくい断熱特性の高い材料を使用するとともに、熱膨張係数(CTE: Coefficient of Thermal Expansion)が低い材料を使用することです。

 

そして、断熱特性が高い材料や低熱膨張係数を使用する場合は、接触する対象によっては熱的な偏りが発生し、熱のひずみが発生する可能性もあります。

 

構造的なひずみが発生してほしくない部分はもちろん、インターフェース側の材料の選定にも注意が必要です。

 

主要な具材に低熱膨張率係数を使用するのはもちろんですが、接触する具材も熱膨張係数が低いものである必要があります。

 

熱膨張係数が違う対象が接触していると、熱的な偏りが生まれ、どちらかの具材に対しての変化が大きくなることになります。

 

 

 低熱膨張係数の実例と他の対策 

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-GSFC_20171208_Archive_e000538

 

低熱膨張係数を持つ材料の例としては次の3つがあげられます。

  • チタン合金
  • インバー合金
  • ステンレス材

 

チタン合金は、強度が高く硬いことからスポーツ用品はもちろんのこと、水筒に使用されることも多いです。ステンレス材とほとんど同じ使われ方をしていますね。

 

コストが高いのが特徴です。まあ、高いです。

 

 

インバー材ですが、あまり聞いたことがない人多いかと思います。

主たる原料はニッケルと鉄が含まれている合金です。

 

さらに、スーパーインバー材、ステンレスインバー材と言われる、コバルトやクロムを混合することで、さらに熱膨張係数を抑えた合金も製造されているのです。

インバー - Wikipedia

 

インバーと呼ばれている対象以外でも、ニッケル合金となる各種商標登録された様々なニッケル合金が、低熱膨張係数の物質として広がっています。

 

もちろん、構造以外でも影響はあります。

 

光学観測機器の場合は、センサー素子に熱が伝わることで性能が劣化します。

特に高性能の赤外受光素子の場合は、素子を冷やさないとS/Nが悪くなります。非冷却型のセンサー素子もありますが、まだまだ冷却型のセンサー素子の方が性能が高いのです。

 

 材料の選定の他に、構造として変形しにくい検討も行われています。

「変形」しても「変化」はしない熱膨張対策のカラクリとは | 日経 xTECH(クロステック)

 

構造系以外の工夫としては、調整機器を搭載することです。

光学機器であれば焦点調整機器などがそれにあたります。いわゆる、手振れ補正機能ですね。

 ディジタルカメラの手ぶれ補正機構

 

もちろん、焦点調整機器はモーターなどの駆動系が含まれるため、搭載重量や空間が取られて、そもそも搭載不可ということもあります。

 

参考文献

 高安定構造のための高精度変位計測技術及び変位補正技術の研究

 JAXA Repository / AIREX: 高精度熱ひずみ評価試験設備の開発

JAXA Repository / AIREX: 周期外乱を受けるトラス構造物の高精度なポインティング制御

 

JAXA Repository / AIREX: ひので衛星搭載の超高精度太陽センサーUFSSの性能検証

 

JAXA Repository / AIREX: 構造技術の研究:衛星搭載アンテナの軌道上熱歪評価を支援する解析技術

JAXA Repository / AIREX: 部材長さの不確定性を考慮した高精度伸展式光学架台のポインティング性能解析

 

JAXA Repository / AIREX: 熱膨張アクチュエータの熱真空環境下における熱特性評価

JAXA Repository / AIREX: 光学架台の高精度ポインティング制御の基盤技術開発

JAXA Repository / AIREX: Solar-C_EUVST望遠鏡構造設計進捗報告

数値解析的アプローチに基づく大型宇宙構造システムの熱変形抑制に関する研究

JAXA Repository / AIREX: アンテナ反射鏡の変形計測手法と装置設計

 https://www.researchgate.net/publication/259128762_Thermal_Analysis_of_MIRIS_Space_Observation_Camera_for_Verification_of_Passive_Cooling

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6412686/