往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

赤外光学観測機器を冷やして性能を上げろ!!【検出器と温度、熱雑音】

カメラを冷やしたことはあるでしょうか?

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宇宙に使用される観測機器の中には冷却機が含まれていることがあります。

 

宇宙の温度はマイナス270度と言われています。

これはマイクロ波による宇宙電波雑音の観測によって明らかになったのですが、宇宙がこれほどまで寒いのに、なぜ冷却機が必要なのでしょうか。

 

 

ポイントとなるのは次の2点です。

  • 検出器の熱雑音
  • 測定レンズや筐体の熱変形

 

 

極寒という便利でアバウトな表現で表されるような環境でカメラを使用すると、うまく動かないことがあります。

 

一番の理由は、バッテリーの使用温度限界を超えているために、十分な電力なりなんなりを使用することができないのです。

 

これは灼熱の環境でも同じことが起きます。

 

動作環境がバッテリーに引きずられることが多いのです。

 

軌道上ではバッテリーの熱環境は光学観測機器とは別に管理されている場合が多いので、動作環境で使用できなくなることは別問題になります。

 

では、なぜ光学観測機器では、冷却する必要があるのでしょう。

 

そもそも、光学観測機器を冷却するなんて初めて聞くかもしれません。

軌道上に限らず、一般で使用するときにも光学観測機器の一部を冷やすのです。

 

 特に赤外線センサの中で、冷却型と呼ばれるセンサでは熱的な影響に過敏に検出してしまうのです。熱により発生するノイズ/雑音、いわゆる熱雑音により検出の感度が悪くなってしまうのです。

 赤外線センサの中には非冷却型と呼ばれる種類もありますが、冷却型よりも検出能力が悪いのです。

 

軌道上でなくとも、冷却を忘れて、赤外線感度が悪くなった状態で測定をしてしまった経験があるのではないでしょうか。

 

軌道上で冷却機が必要な理由

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-KSC-02pd0027

 

赤外線センサで冷却する必要があるのですが、軌道上でなぜ冷却する必要があるのでしょうか。

 

軌道上で人工衛星は、特に低軌道と呼ばれる軌道において1日24時間で14~16回程度地球周回します。

 

地球を周回するということは、日照日陰を繰り返します。

その分、人工衛星の温度差が発生します。

 

温度差が発生するということは、それだけ観測機器に限らず電子部品にダメージを与えます。

人工衛星では温度差を低減させるため、熱制御を行います。

 

熱制御を行うことで、人工衛星はある一定の温度範囲に保たれます。

熱制御を行うことで、人工衛星内が冷却しにくくなります。

 

もちろん、熱放射により宇宙側へ人工衛星内部の熱を逃がすということは検討されるかもしれません。

この対策を行うと人工衛星全体の影響に関わり、結局のところバッテリーの温度低下にも影響されます。そこでヒータによる対応も対策として挙げられます。

という形で、数珠繋ぎのように、ピタゴラスイッチのように関連する部分の影響を考えていくことになります。

その結果、バランスの良い所に落ち着けば問題ありません。

 

落ち着けなかった結果、冷却機を使うという選択肢にいくのです。

 

 

光学観測機器と機械的インターフェースと熱変形

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-ARC-1972-AC83-0010-4

 

赤外線センサといった光学機器を使用する場合は、インターフェース部分の温度範囲条件が厳しく設定されている場合があります。

 

理由はインターフェース部分の熱変形です。

 

日本においても冬と夏の温度差で、様々なものが歪み影響を与えています。

電車のレールの話はとても有名ですね。

 

光学機器で歪みが発生するとレンズが歪んたり、レンズを向ける方向がずれたりします。

熱変形を防ぐために光学機器は断熱設計がされていることが多いです。

 

つまり熱が流入、流出しにくくなっているのです。

 

それは先述した熱放射による冷却対策があまり効きにくいことを示しています。

どうにか熱流路を作ることで、必要以上に温度を上げない様に工夫することはできるのですがそれでも限度があります。

 

限度を超えつつも光学観測機器としての十分な性能を獲得したい場合に冷却機を使用するのです。

 

ただし、小型衛星では冷却機の搭載スペースや重さの兼ね合いでほとんど搭載されることがありません。

冷却機にはパルスチューブとスターリングの2つの方式があるのですが、どちらも圧縮機を使用して場所を取ることと、非冷却型のセンサの性能向上等によるところが大きいです。

 

冷却機の小型化や赤外領域のリモートセンシングの利用発展によっては、高性能の赤外領域を観測する小型衛星のために、冷却機が通常搭載されることもあるかもしれません。

 

 

参考資料

宇宙背景放射 - 宇宙情報センター - JAXA

http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/cmb.html

赤外線宇宙観測と低温実験 (2回目)

http://www-ir.u.phys.nagoya-u.ac.jp/~ishihara/kadai/monodukuri2_print.pdf

 赤外線検出素子の特性と使い方
https://www.hamamatsu.com/resources/pdf/ssd/infrared_kird9001j.pdf

ラン ドサ ッ ト4号TMセ ンサーの ラジオメトリック、幾何学的性能及び利用検証の現状

https://www.researchgate.net/profile/Kohei_Arai/publication/317141306_Early_Results_on_Radiometric_and_Geometuic_Pertormences_and_Usefullness_of_Landsat-4_TM_Data/links/59d90a9eaca272e60966cc58/Early-Results-on-Radiometric-and-Geometuic-Pertormences-and-Usefullness-of-Landsat-4-TM-Data.pdf

平成21年度 小型衛星への赤外センサ搭載可能性に関する 調査研究報告書

http://www.jmf.or.jp/japanese/houkokusho/kensaku/pdf/2010/21sentan_12.pdf

宇宙用小型冷却機の開発と現状

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsj1966/27/1/27_1_9/_pdf

小型パルスチューブ冷却機

https://www.fujielectric.co.jp/company/jihou_archives/pdf/75-05/FEJ-75-05-299-2002.pdf

空と宙 vel.48

http://www.aero.jaxa.jp/publication/magazine/pdf/sorasora_no48.pdf