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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

構造と温度変形に影響する観測機器【宇宙機と構造】

光学観測機器の構造系の重要性

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Credits: NASA

人工衛星の構造系において、構造系自体の性能を上げるという問題はなかなか起きません。

 

人工衛星の構造系の山場の一つは、ロケット打ち上げによる振動環境にあります。

ロケットの振動から、人工衛星内部機器を保護することにあります。

そして、軌道上での温度変化を各機器から保護するということにあります。

 

さて今回は、光学観測機器に影響する構造が関係している3つの誤差要因である擾乱、温度変形、材料の吸湿性のうち、温度変化を取り上げていきます。

 

 

温度変化における影響 

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-GRC-1999-C-02482

 

地球での軌道上での温度変化は 、太陽や地球からの熱に起因することが多いです。

 

熱の影響が変わることと言えば、温度になります。

温度が増減することによって、物体の体積も増減していきます。

 

物体の体積が増減することで、伸びや反りが発生するのです。

この伸びや反り、いわゆる熱のひずみが残っていることにより、観測機器の構造的なずれが生じてしまったりします。

構造以外でも影響はあります。光学観測機器の場合は、センサー素子に熱がかかることによって性能が劣化します。特に高性能の赤外受光素子の場合は、素子を冷やさないとS/Nが悪くなります。非冷却型のセンサー素子もありますが、まだまだ冷却型のセンサー素子の方が性能が高いのです。

 

物体の体積の増減は、熱膨張係数(CTE: Coefficient of Thermal Expansion)と呼ばれる物性値で確認していくことができます。

 

熱膨張係数が低い対象を、低熱膨張係数といいます。

 

主要な具材に低熱膨張率係数を使用するのはもちろんですが、接触する具材も熱膨張係数が低いものである必要があります。

 

熱膨張係数が違う対象が接触していると、熱的な偏りが生まれ、どちらかの具材に対しての変化が大きくなることになります。

 

一方で、熱膨張係数が違うものを使用しても問題ない場合があります。

 

微小な調整機器(補正機構)を搭載するという方法です。

熱ひずみを相殺する方向に動作する機器を付けることで、多少の熱膨張係数が違うもの具材があったとしても問題相殺が可能です。この調整機器はカメラでいうとハードウェア的な手振れ機能ですね。

 

もちろん、調整機器の動作範囲もあるために、何でも使用できるわけではないのです。手振れ機能があったとしても、ブレる画像はブレるのです。

 

手振れ補正機能も、デジタルカメラの手振れ補正機構について確認すると記載されているのですが、ブレの状態を観測する検出センサーや補正用のレンズをもお受けることでアクチュエータを用いることによって相殺される方法があります。

もちろん、ハードの方面以外からソフト側でも補正機能がありますが、ソフト側でいくら補正したとしても、元画像が大きくぶれてしまっていては補正することもままならないのです。

ディジタルカメラの手ぶれ補正機構

 

そもそも地上で性能の検証試験をしているため、軌道上に上がったときにがどうしても予測しなければいけないのです。自動車産業と使い方が違いますが、モデルベース手法による検討を加えていく必要があるのです

 

 低熱膨張係数 

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-KSC-20190710-PH_GEB01_0285

 

低熱膨張係数を持つ対象とすると、一つにチタン合金が挙げられます、他にはインバー合金やステンレス材です。

 

チタン合金は、強度が高く硬いことからスポーツ用品はもちろんのこと、水筒に使用されることも多いです。

 

ステンレス材とほとんど同じ使われ方をしているのですが、性能はチタン合金の方が上で、コストが高いのが特徴です。まあ、高いです。

 

次に、インバー材ですが、あまり聞いたことがない人多いかと思います。主たる原料はニッケルと鉄が含まれている合金です。さらに、スーパーインバー材、ステンレスインバー材と言われる、コバルトやクロムを混合することで、さらに熱膨張係数を抑えた合金も製造されているのです。

インバー - Wikipedia

 

インバーと呼ばれている対象以外でも、ニッケル合金となる各種商標登録された様々なニッケル合金が、低熱膨張係数の物質として広がっています。

 

 材料の厳選はもちろんですが、構造上でもトータルで変形しにくい研究も行っているのです。

「変形」しても「変化」はしない熱膨張対策のカラクリとは | 日経 xTECH(クロステック)

 

 

参考文献

 高安定構造のための高精度変位計測技術及び変位補正技術の研究

 JAXA Repository / AIREX: 高精度熱ひずみ評価試験設備の開発

JAXA Repository / AIREX: 周期外乱を受けるトラス構造物の高精度なポインティング制御

 

JAXA Repository / AIREX: ひので衛星搭載の超高精度太陽センサーUFSSの性能検証

 

JAXA Repository / AIREX: 構造技術の研究:衛星搭載アンテナの軌道上熱歪評価を支援する解析技術

JAXA Repository / AIREX: 部材長さの不確定性を考慮した高精度伸展式光学架台のポインティング性能解析

 

JAXA Repository / AIREX: 熱膨張アクチュエータの熱真空環境下における熱特性評価

JAXA Repository / AIREX: 光学架台の高精度ポインティング制御の基盤技術開発

JAXA Repository / AIREX: Solar-C_EUVST望遠鏡構造設計進捗報告

数値解析的アプローチに基づく大型宇宙構造システムの熱変形抑制に関する研究

JAXA Repository / AIREX: アンテナ反射鏡の変形計測手法と装置設計

 https://www.researchgate.net/publication/259128762_Thermal_Analysis_of_MIRIS_Space_Observation_Camera_for_Verification_of_Passive_Cooling

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6412686/