分離時に関係してくる人工衛星の熱の要素
ロケットから分離した後、人工衛星は宇宙環境にさらされます。宇宙環境といっても色々ありますが、その一つに熱があります。
絶対零度といわれる環境下に近い環境にいきなり放り込まれるのです。絶対零度といえば、摂氏ー273.15度である0K(ケルビン)、そこからわずか3度しか暖かくないのです。
ただし、人工衛星自体がすぐにー270.15度になるわけではありません。
地球からの反射熱や星自体が持つ熱の放出である輻射、太陽熱、人工衛星が起動済み(業界ではホットローンチ:Hot launch)であれば内部発熱により簡単に温度が下がることはないのです。
さらに言うなら物体がもつ比熱により簡単に冷めないのです。
比熱は単純にいうと熱の冷めやすさ、温まりやすさを数値化したもので、数値が大きければ冷めにくく、温まりにくいと覚えていただければ大丈夫です。
また、会話の中では比熱(J/(K・kg))と使わず、熱容量(J/K)を聞いてくる人が多いです。会話の中では、その物体は冷めにくいの? 冷めやすいの? という感覚を聞いてくるので、熱容量(J/K)と聞いてくる人が多いですね。
よく使われる数値としては、次のような物体ですね。
- アルミニウム:905 J/(K・kg)
- ジュラルミン(A2017):880 J/(K・kg)
- 鉄:442 J/(K・kg)
- ヒト:830 cal/(K・kg) = 3475.04 J/(K・kg)
ヒトの比熱は0.83と言われていますが、単位換算すると上記のようになり冷めにくいことがよく分かりますね。
参考
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmbe1963/24/4/24_4_226/_pdf
ロケット内部の環境と気にする要素
ロケット内部はだいたい20℃~25℃程度に保たれます。もちろん、人工衛星の搭載機器によりロケット内部に空調を入れてさらに調整することも可能です。
もし打ち上げ時の熱の解析をすると、ロケット内部の内部輻射熱や熱伝導も考慮することになります。
温度範囲の狭い機器を搭載する場合は、気にする必要がありますが、温度範囲が狭い機器は宇宙環境でも機能を確保できるように設計しているはずなので、実はそれほど気にする必要はありません。
もちろん問い合わせを受けたら説明責任として解析結果を示す必要がありますが、恐れることはないはずです。という程度の温度変化しか発生しないでしょう。
物体の大きさによると思いますが、衛星全体として各部の平均をとっても高く見積もっても2~15度ぐらい増えるのではないでしょうか。(各自計算してみてくださいね)
というのも、打上げから分離するまで、何十時間もかからないので、それほど熱を人工衛星が受け取ることは少ないんですね。
ただ、静止衛星や深宇宙用探査衛星のロケット搭載時間は数時間に及ぶので、また熱環境が変わってきます。
ロケットの熱環境は、インタフェース管理文書(ICD)やユーザマニュアルに記載していることが多いので確認してみてください。
参考
放出時の人工衛星の熱は早々に下がらないけど、日が当たるまで大変
宇宙空間に人工衛星が放出された後、いわゆる低軌道とか、地球周回軌道、地球観測衛星の軌道に入る人工衛星、国際宇宙ステーションは、90分で地球を一周します。すなわち、1日で14~15周します。
地球1周90分なので、日が当たる日照時間はだいたい45分になります。日陰時間もだいたい45分になります。
この間、周囲は3K(ケルビン)、-270.15度で、太陽放射熱の直射してくる熱はありません。人工衛星の受ける熱は、地球からの輻射と内部機器熱、そして人工衛星の熱容量の要素がメインとなります。
先に話したように、急速に人工衛星の熱が下がることはありません。
しかし、平均的に下がることはないというだけで、人工衛星に搭載されている機器の中には、冷めやすい機器を搭載していることがあります。
前述のホットローンチとは反対にコールドローンチ:Cold launchと呼ばれ、ロケット搭載時に人工衛星が起動していない状態で搭載放出されることがあります。宇宙航空研究開発機構の提供している小型副衛星はこの方式となります。今後もコールドローンチで打ち上がる人工衛星は多いことでしょう。
コールドローンチで、冷めやすい機器を搭載している場合は、設計が固まってきた段階の熱解析を始めた時に、確認しておいた方がいいでしょう。
ロケット搭載時とは違い、空調調整がされていないので、ただ冷えるだけです。軽量化して熱容量が小さくなった場合、急冷しやすくなっていることでしょう。
結果、コールドローンチ方式の人工衛星において、温度低下の勾配を減らすための人工衛星の起動(衛星内部熱)タイミングにも関わってきます。
熱構造系の打ち上げ後の山場の瞬間になるので、ぜひ押さえておきましょう。
しかし会話の中でホットローンチ/コールドローンチでなくてホットロンチ/コールドロンチって聞こえるので検索じゃすぐに引っかからないんだよね。
熱設計者で熱解析ツールを持っている人は、45分といわず、ひたすら日陰として計算を行って、どこまで人工衛星が温度的に保持できるのか見てみるとよいかと思います。
打上げ後のトラブル発生時の事前分析にもなりますし、人工衛星の温度変化の感覚をつかむために、よい機会のなるかと思います。
参考