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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

衛星搭載型2波長赤外線センサの紹介

2波長赤外線センサとは?

赤外線センサといっていますが、いわゆる赤外線カメラのことです。

赤外線は、人間の目に合わせた可視領域外にある光の波長域のことで、可視領域では識別しにくい物体や現象を観測するために用います。

2波長という、それぞれ別の光の波長域を観測することで、通常では見逃してしまったり、疑似的に模造した物体を識別し、本物を当てることができます。

 

赤外線を用いる技術は多くあり、特に熱を観測できることから熱源探知機としても利用されています。

 

兵器の視点でいうと、赤外線はミサイルの推進剤が燃焼する熱やCO2などの炭素ガスを検知することができます。通常の可視光では単なる蒸気のような白い雲のようで見分けることができません。

紫外線でも観測することができますが、観測できる波長の領域が少ないため、赤外の方が視野的に広い範囲で、確率も高く検出することが可能です。

 

もちろんミサイルだけではなく、爆発や火災、飛行機の落下など、いずれも危険な状態を宇宙という何からも邪魔されないところから観測することができる利点があります。

この利点は、現在のミサイル防衛に利用されている赤外線センサ(レーダ)の欠点を補完しています。

 

地上に配置されたレーダーは地平線により、長距離からの検知に遅れてしまいます。

長距離のミサイル、例えば弾道ミサイルを利用されたとして、どうでしょうか?

弾道ミサイルは、ミサイルが発射されるときに推進剤が燃焼される時間はわずか数分(十数分?)で打ち上り、大気圏を突入し、自由落下します。

自由落下するので、特徴的な熱の観測が難しく、目視できた時には対応が難しい距離にある可能性があります。

 

そこで人工衛星に装備された赤外線センサが利用することで広範囲で観測することができ、対応に時間を作ることができます。

ただし、現状人工衛星の赤外線センサは、細かい部分を観測するには、まだまだ精度が低いという欠点があります。

そこで、2波長赤外線により、多角的(多くの波長帯域)に観測することで精度を向上させる目的があるものと思います。

 

ミサイルなどの高速で飛行する物体の検知は、赤外線だけではなく、電波を放出して反射してきた電波観測するレーダー(Radio Detection and Ranging) も存在することから、これらの技術を組み合わせて、ミサイルの検知などの精度を高めています。

 

例えば、先ほど挙げた弾道ミサイルの場合、打上げ時点では人工衛星などによる赤外線センサで観測できるのですが、高高度から落下する期間は、ミサイルが比較的低温になることから観測が難しく、落下の際の大気の抵抗により再度加熱するのですが、赤外線で追うよりも、レーダーによる観測の方が精度が高く対応できます。

初動の際に利用されることが多くなります。

 

弾道ミサイルと変わり、巡航ミサイルというのも存在しています。

巡航ミサイルは、エンジンを搭載し大気の空気から酸素を利用して飛行し、機動力が高く、低高度で飛行します。

ただし、巡航ミサイルは大気の酸素を使用し、燃焼しちえることと、大気抵抗により熱を放出していることから、赤外線センサで比較的に検知することができます。

 

このように通常の技術と使い分けを行っています。

 

ちなみに、アメリカや中国、ロシアは、軍用の赤外線センサを搭載した人工衛星を所有しているかは公開されていません。

 

[目次]

 

先進レーダ衛星の搭載される衛星搭載型2波長赤外線センサ

先進レーダ衛星(ALOS-4、だいち4号)には人工衛星名にもなっているレーダのミッション以外にも、ミッションが存在しています。

 

メインのレーダのミッションはLバンド合成開口レーダ(PAKSAR-3)、船舶自動識別信号受信器(SPAISE3)の2つはJAXAやリモート・センシング技術センターのWEBページをはじめ紹介されており、そこには記載されていない衛星搭載型2波長赤外線センサも搭載されています。

 

衛星搭載型2波長赤外線センサの有用性については述べた通りですが、そのほかの面も調べていきたいと思います。

 

名称がない人工衛星のミッション

また、ALOS-4ではミッションの名称としてPAKSAR-3やSPAOSE3があるのですが、2波長赤外線センサには名称がありません。

人工衛星は複数のミッションが搭載されていることが多く、データ内容も違うことからミッションの名称で分析しているデータを識別していたこともかつてはありました。

 

ちなみに、人工衛星に開発時の名称(ALOS-4)とは別に愛称(だいち4号)がつけられます。

これは日本に限らず、アメリカのアポロやソ連ソユーズなど海外でも愛称が使われています。

 

人工衛星の愛称には、言葉の力、象徴として名付けられることが多く、同時に宇宙業界外の人たちに向けた親しみやすさを作りだしているといわれています。

 

日本軍や自衛隊にて艦船に名前を付けてきたことから、何かしらつけると思っていたのですが、なかなかそうではないようです。

 

ただ、人工衛星は打ち上げが失敗することもあり、打ち上げられなかったときは愛称が使われないこともあるため、打ち上ってから公表するのかもしれませんし、名前を付けないことで、あまり表に出さないようにしているのかもしれません。

搭載されている赤外線センサは?

衛星搭載型2波長赤外線センサには、メインのQDIP光学センサ以外に評価用のMCTセンサが搭載されています。

 

QDIPとMCTは、いわゆる赤外線センサの種類のことを指しており、どちらも高感度のセンサの一つで、熱によるノイズの影響を受けやすく、温度の誤差が発生することから冷却装置(センサ温度を-50~0℃(77K)以下に冷却)を搭載する必要があります。

 QDIP:Quantum Dot Infrared Photodetector, 量子ドット型赤外線検知素子

 MCT:Mercury Cadmium Telluride,

メインのセンサはQIDPで、MCTの方は比較評価用に搭載されています。

 

センサ部分を冷却しなければいけないミッション機器は、人工衛星にとって厄介です。

 

まず、人工衛星の温まる要素として、地球からの輻射熱、太陽光と内部の消費電力があります。

 

人工衛星には、電池(バッテリー)や他の電子機器の中に、低温過ぎると寿命が短くなったり、挙動がおかしくなる電子機器が存在しています。

そんな温まってしまう現象と温まってしまう機器が存在している中で、冷やさなければいけません、。

 

単純に冷やしたければ、太陽側や地球側と反対方向に向ければ勝手に冷えていきます。

 

冷える方向に向けるためのアームやケーブルが必要になったりしますが、そこから伝熱して、冷やしたくない人工衛星全体も伝わって冷えていきます。

 

宇宙空間は大気がないために、伝熱や輻射など地上では無視されてしまう要素が、打って変わって効果が抜群に効いてきます。

 

さらに、人工衛星自体が(ALOS-4の場合)3,000kg近い重さで、ほとんどが金属物質であることから単純に熱容量が大きく、温度が変化しにくい特性があります。

 

温度が変化しにくいということは、冷却するのにも時間が掛かるし、温めるのにも時間が掛かります。

宇宙といっても軌道上にあれば、地球や太陽との相対的な関係により昼と夜が生まれ温度差が発生し、多少なりとも人工衛星全体の温度が変わりますが、熱容量が大きい人工衛星だと思いのほか温度の変化が少なくなっていきます。

 

そこに、どうしても冷却しなければいけないミッション機器があるとするとどうでしょうか?

 

冷却装置を搭載しなければならず、冷却装置の搭載場所の確保や発熱、断熱設計、光学設計と調整した急冷による物体の温度膨張収縮の調整、電力の確保、冷却時にモータが駆動する場合は、振動の影響によりデータ記録やデータ取得時の共振の確認など玉突きのように考えなければいけなくなります。

 

非常に面倒な設計をしなければならず、難しいものになります。

 

今回の人工衛星は、赤外線センサを搭載した土地うことよりも、冷却装置、並びに冷却装置を維持するシステムが技術的に高いものと想像しますが、あまり公開されていないようです。

搭載の理由

2波長赤外線センサは少なくとも2015年ごろから研究・計画されていました。

 

そもそも2波長赤外線センサを開発する経緯となったのは、宇宙環境に使用することができるような日本製の赤外線センサが存在していなかったということを理由としています。

 

高い画素数の赤外線センサは輸出入規制により海外から入手することが困難であることを理由に、日本製として研究開発を進めることになったそうです。

 

どうも、64x64画素レベルの赤外線受光部を搭載するところから始まっているようで、おそらくALOS-4に搭載するセンサも同レベルではないかとみられます。

 

iPhoneの画素数が1200万画素や4800万画素であるとすると、かなり分解能が悪いように思えますが、研究開発時点の状況や「赤外線」であること、実証であること、放射線体制を持つセンサであることを考慮すると実用性というより実現可能性を確認しているという目的の方が強いのかもしれません。

 

計画上も、1000x1000画素を量産目標として、挑戦的に2000×2000画素へと段階的に開発を進めて打ち上げる様子です。

2000x2000画素は、地上の装置としてもかなり高価です。

 

ちなみにレンズ情報はありません。

衛星搭載型2波長赤外線センサの運用の想像

人工衛星からのミサイルなどの兵器の検知は難しいです。

 

理由の一つに人工衛星は地球の周りはある程度周期的な軌道で動いているからです。

日本にミサイルが発射される瞬間だとしても、人工衛星が発射場所から地球の裏側にいるとそもそも観測できません。

 

気象衛星ひまわりのように、静止衛星の場合ですとその限りでもないかもしれませんが、地球との距離が離れすぎていて、観測装置の精度が追い付かないことになります。

 

従い、常にある程度の人工衛星が地球を周回している、いわゆる衛星コンステレーションを構築することができれば、問題は解決します。お金と時間の問題はありますが。

 

また、逆に観測装置の精度を向上すれば静止衛星でも問題はありません。

現段階では、どちらに行くのか明確ではありませんが、技術的には衛星コンステレーションの方が現実的な気はします。

 

さて、今回の場合は、人工衛星1機しかないため、実証というミッションとなるでしょう。

対象としては、各紛争地域の観測もありますが、時間の予想がつく日本のロケットエンジン開発地域の観測、ロケット打ち上げ時の観測があげられます。

ホリエモンが創業者であるIST社のロケット打ち上げや、キャノン電子が関わっているスペースワンの打ち上げを観測する可能性もあります。

 

それはそれで画像を見たいです。

 

その他にも、通信システムとして光データ中継衛星(データ中継衛星1号機)による衛星間通信の有用性なども確認することになるのではないかと思います。

 

実用性というより、データの蓄積を主とした運用になるのではないかと思います。

今後の課題の想像

今回のミッションを得て、今後は100kg級小型衛星や6U,12U級超小型衛星に赤外線センサーを搭載するロードマップを描いています。

いわゆる衛星コンステレーションですね。

 

ただ、小型衛星や超小型衛星に移した時、機械設計的な視点としての課題があります。

 

それは冷却方法です。

 

冷却器を小型化、省エネルギー化する必要があります。

想像ですが、ALOS-4に搭載されているであろう冷却器はサイズ的に大きく、電力消費もあり、物理的に搭載できません。

ヒートパイプやヒートシンクで-50℃(77K)にすることができるか非常に難しいところです。

 

また、冷却しすぎて、電池の寿命を削るか、短期であったとしても他の電子部品に影響が出てきます。

小型衛星は大型衛星と違い熱容量が小さいため、すぐに冷めてすぐに温まる特徴があり、電源系、制御系、通信系コンポーネントの稼働電力で温まってしまうことでしょう。

 

小型衛星の画期的な冷却手法か、常温でも高性能な赤外線センサの開発が必要になります。

この二つは人工衛星製造メーカーでは、新規に開発したり、見つけてくることが難しいいでしょう。

対応可能な協業先を見つけるか、発注元が目星をつけて提案しないと、開発がとん挫するか長期の延期に入ることになり、開発期間が長くなることは覚悟しておいた方がいいでしょうね。

 

搭載場所の余裕度合いから100kg級小型衛星の方が比較的に実現性があります。

6U、12U超小型衛星では非常に困難で、精密な熱シミュレーションが必要となっていきます。

逆に超小型人工衛星で実現したら、かなり画期的な技術になると思います。部分的な冷却技術が確立できれば、通常の分光機器で発生する熱問題も解決できるかもしれません。

 


 

参考サイト 

宇宙領域における防衛装備長の取り組みについて

https://www.sjac.or.jp/pdf/publication/backnumber/202004/20200402.pdf

平成21年度小型衛星への赤外センサの搭載可能性に関する調査研究報告書

http://www.jmf.or.jp/japanese/houkokusho/kensaku/pdf/2010/21sentan_y12.pdf

小型衛星への赤外センサ搭載可能性に関する調査研究報告書

https://hojo.keirin-autorace.or.jp/seikabutu/seika/21nx_/bhu_/zp_/21-11koho-12.pdf

ミサイル警報装置

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB%E8%AD%A6%E5%A0%B1%E8%A3%85%E7%BD%AE

先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)

https://www.jaxa.jp/projects/sat/alos4/index_j.html

ALOS-4

https://www.restec.or.jp/satellite/alos-4.html

Space-based Infrared System (SBIRS)

https://missilethreat.csis.org/defsys/sbirs/

An Overview of Sensors for Long Range Missile Defense

https://www.mdpi.com/1424-8220/22/24/9871#:~:text=Two%20main%20types%20of%20sensors,and%20may%20have%20high%20resolution.