熱解析は構造解析と一味違う
熱解析は通常の解析が難しいのです。
最悪のパターンであったり、最良のパターンの解析の方が解析しやすいんですね。
最悪のパターンと、最良のパターンの平均が必ずしも通常の熱環境というわけではないのです。
だけど、多くの人が通常の熱環境を知りたがるのです。
それは一般にして、通常、何も起きていないときにどうなっているのか、今の状態を知りたい、今の状態を足を付けて見てみたいというのがあるのかもしれません。
CAEって知っているでしょうか。CAEとはComputer Aided Engineeringの略です。
略を言っても分からないですが、熱や構造、電磁場などの解析のソフトウェアを指すことが多いです。
さて、熱解析をしている人は構造解析もしている方が多いのではないでしょうか?
そんなことないか。
人工衛星の解析の中で、ロケットの振動に保つ構造解析に並んで、熱解析もたくさん行われています。
人工衛星において構造解析と違い、熱解析は運用後も解析する可能性もあり、息が長い解析です。
熱解析は、ロケット搭載時のロケット内部の熱放射の解析から、放出後のクリティカルフェーズとか呼ばれる、放出初期の人工衛星がうまく稼働するかそのまま稼働せずに、電源オンされないまま宇宙のゴミとなるのか大切なタイミングの解析も行います。
さらには、大抵大量の電力を消費するミッション機器の熱解析も行います。
人工衛星において、大きな制限になることの一つに熱があります。
これは人工衛星に限らず、多くの電子製品でも同じではないでしょうか。
人工衛星の熱解析は、軌道上に放出されてから、慣らし運転を行い、安定する温度に至るまでの解析を行います。
周回衛星の場合は、地球を1周や2周、あるいは地球を1日回って安定する温度に至る場合もあります。
その多くは、人工衛星の持つ熱容量と、内部と外部の熱収支によりバランスを取っています。
人工衛星の持つ熱容量とは、人工衛星のボディの熱の溜め安さや人工衛星に搭載されている各機器の熱の溜め安さをまとめて考えたものと考えればいいのです。
熱の溜め安さとは、物体の温まりやすさ冷めやすさです。水は温まり難くて、鉄は冷めやすいという現象を数値化したものを熱容量と呼んでいます。
人工衛星の内部の熱収支とは、人工衛星内部に搭載されている機器の発熱量のことです。
人工衛星においては、電力効率のロスにより発生する熱もとても大事なんですね。
人工衛星の外部の熱収支とは、太陽光でしたり、地球からの照り返しといった人工衛星から発生しない熱のことです。
と、ここまであげたように考える要素が多くあるんですね。
特に外部熱収支とか、どう考えるのか初めは分からないかもしれません。
電力がそのまま(ではないのですが)熱として考えるなんではじめ解析に携わったときはわかりませんでした。
そもそも化学系なので、電力と熱のつながりがパッと浮かばなかったわけですね。
さて熱解析ですが、手計算で実施する場合は、かなりの要素を限定しなければなりません。
その限定する要素を見極めるのが大変です。
大抵の場合は、ワーストケースにします。
その次に需要が多いのは、ワーストでもチャンピオンでもなく、通常の時の解析になります。
一番難しい解析ですね。
通常の状態の解析が一番難しいのです。
試験ジグ模擬するとか、本気なのか
熱解析は多くの要素を含んでいます。
熱解析ではなく、熱試験は熱解析のデータの下地となります。
熱解析は、経験則による解析です。
なぜならば、物体と物体の接続は百人百様です。人ではないですが。
全く同じものを作ったとしても、製造メーカーが違うだけで、その熱的な環境が違います。
A社のカーテンと、B社のカーテンでは、その保温効果が違うのと同じです。
同じ黒でも、インクの黒と表面処理による黒は違うのと同じです。
近い値を得ることはできますが、変わってしまいます。
この変わったときの差はどこに出るでしょうか、熱解析なので、各電子機器の温度にダイレクトに伝わります。
電子機器の温度条件が厳しい場合はどうでしょうか、たまたま試験せずに、解析上で温度バランスがとれていたとしても、軌道上の値と全く違います。
試験をして解析をしていれば、誤差といえる範囲まで抑えることができます。
もちろん解析者の力量に関わるところもあると思います。
熱解析は多くの要素を含むために、可能な限り条件を一致する必要があります。
ずれたり、省略した条件は、必ず軌道上の結果として跳ね返ってきます。
軌道上の結果とは何でしょうか、機器の温度が高すぎて、ノイズの混じったデータが送られてくるのです。
温度が低すぎて、通常の性能でさえでない結果が返ってくるのです。
そのため、熱解析は想像以上に重要です。
もしシリーズで人工衛星を作るのであれば、軌道上でのフィードバックは必須なものです。
全く同じ人工衛星でなくとも、その知見は大きなものです。
ただ、初めて打ち上げる衛星では軌道上のデータはありません。
地上での熱試験の結果を生かすしかないのです。
熱試験の中には、人工衛星の耐性であったり、電子機器の慣らしにより浮かび上がる不具合や、熱に弱い電子機器の条件を炙り出す目的もあります。
しかし、熱試験の熱担当としての目的は、軌道上での熱を模擬できないので、可能な範囲で模擬して、解析の条件にフィードバックを行うのです。
可能な範囲をどう考えるかによりますが、条件によっては、熱試験ジグも模擬するのです。
熱試験の外部熱環境を模擬したヒータの面積や電力量、距離、どのような表面処理をした板に取り付けたのか。
さらには、治具の熱がどのように逃げるか模擬することも必要です。
とても時間がかかるのです。
たった1mmずれても、解析結果は変わるのです。
1mmずれるとどうでしょうか、人工衛星が板にめり込みます。
ヒータが物体の中にめり込んで、現実と違う解析結果になります。
とても大変なのです。
もちろん、重要視していなければ、ある程度の解析をして、だいたい、ある程度当たっているものと見て進めていけばいいのです。
どこまで模擬するのか、悩ましいのが熱解析なのです。