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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

人工衛星とロケットのアンビルカルケーブルとホット/コールド・ローンチ方式【人工衛星のアンビリカルケーブルと打上げ方式】

 アンビリカルケーブルとその周辺

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-s65-30427

この写真は、1965年の船外活動の写真です。

今回の表題であるアンビリカルケーブル(Umbilical cable)ですが、写真に映っている宇宙飛行士のエドワード・ヒギンズ・ホワイト2世(Edward Higgins White, II)のへその近くから出ている金色の線です。

 

アンビリカルケーブルというと、新世紀エヴァンゲリオンの電源供給ケーブルや、海底ケーブル、命綱のことを指しています。

宇宙関係でいうのであれば、ミサイルやロケットに対しての電源や信号の供給ケーブルに当たります。

これは人工衛星でも同じなんですね。

 

今回はアンビリカルケーブルの話です。

 

 

アンビリカルケーブル(Umbilical cable)実際のところ、へその緒(Umbilical cord)

 

初めに述べた通り、アンビリカルケーブルにも様々な意味を持ちます。

海底ケーブルの場合、中を流れる物体の流量や水深、圧力、温度の状態によって、長さや厚さ、丈夫さが大きく変わります。

電源だけでなく、光ケーブル(通信ケーブル)、ガスがケーブルの中を通っています。

すなわちインフラでありライフラインの一部になっているんですね。

 

海底ケーブルのほとんどは保護対策がされておらず、漁業中に切れてしまったり行為的に切断してしまう事件も発生してしまうほどなんですね。

アンビリカルケーブルが切断されてしまうと電力やガスの供給量が減ってしまうとともに、インターネットの通信速度の低下が起きたりと大変なことも起きているんですね。 

 

海底ケーブルにも限らずアンビリカルケーブルは製品にとっても重要なパーツになるんですね。

 

Subsea Umbilical - Daleel

海底ケーブルは想像以上に脆い|WIRED.jp

インターネット、最悪のシナリオが現実に —— 国全体がオフライン

 

 

人工衛星におけるアンビリカルケーブル

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ロケットやミサイルにおいてアンビリカルケーブルは燃料を充填したり、電力供給、有線通信を行い最後の要となります。

 

人工衛星ではどうでしょうか、おそらくは組織によりけりではありますが、地上での試験検証で使用することもあるようです。

アンビリカルケーブルと呼称されていないかもしれませんが、人工衛星としてはインタフェースとなる最後のアクセスポイントのことを指しています。

 

 

軌道上以外では打上げ途中で使用されることがあります。

ロケットからの電力供給や有線による信号受信を行います。

ロケットからすると余剰にバッテリーや信号発信装置を搭載しなければならないため、いろいろ制限が出てきます。

例えば、ペイロードと言われる搭載する重量が減ったり、信号発信機のインターフェース仕様と装置の製造、人工衛星の開発組織によっては試験検証をすることもあります。

その分、搭載時の追加料金がかかったりするのですが、近年の小型衛星ではあまりないかもしれませんね。

 

アンビリカルケーブルのデメリットとしては、軌道上でコネクタがむき出しになるという点ですね。コネクタがむき出しになるということは、ゴミが入り込む可能性があるということです。

構体と呼ばれる人工衛星を包む箱のパネルに接触すれば防げるところ直接ぶつかってしまうと、、、ほぼ人工衛星の喪失となってしまいます。

なんて言ったって、電力や通信などの主要な部分で固められているため、電力の供給回路が壊れたりしてしまうかもしれません。

ただ真空であることから、錆の浸食や電蝕の発生の可能性はほぼないといわれれています。ただし、人工衛星でもこのような劣化を気にします。それは、地上での製造及び検証期間が長いため、浸食してしまうことがあるためです。

宇宙機器の表面技術

 

そんな人工衛星アンビリカルケーブルですが、接続口をアンビリカルコネクタと呼称することもあります。

アンビリカルコネクタは、コネクタのメス(female)と呼ばれるコネクタのピンであるピンコネクタが出ていない方を使われる場合が非常に多いです。

これは前述のゴミの付着に関わってきます。ゴミの付着により隣り合うピンが接続された場合、瞬時に不具合が発生するからです。設計時にピンアサイメントとよばれるコネクタのピンに流れる信号を工夫していれば隣り合うピンが接触しても問題の程度は少なく済むかもしれませんがほとんど稀といってもいいでしょう。

少なくともコネクタのメス側であればその心配は減るからです。また、コネクタには色々あり、メス側と呼ばず、ジャック側と呼ぶ場合もあるので注意です。

 

さて、このアンビリカルコネクタですが小型衛星では、ロケット搭載時はむき出しになっていない可能性があります。

いわゆるコールド・ローンチ方式による打上げがあるからです。

 

 

EpsilonLaunch Vehicle ユーザーズマニュアル AppendixA

http://www.jaxa.jp/projects/rockets/epsilon/pdf/AppendixA_PAF-937M_Interface.pdf

 

人工衛星のコールド・ローンチとホット・ローンチ

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従来の人工衛星もそうだったかは定かではありませんが、人工衛星はホット・ローンチ方式が多いです。

 

ホット・ローンチやコールド・ローンチは軍事用語でもあります。

ホット・ローンチとは発射機の中でロケットエンジンが起動した状態で放出されることを指しています。ミサイルに搭載した燃料が、発射のタイミングで噴出するというものです。

コールド・ロンチとは発射機の中でミサイルが起動していない状態(ロケットエンジンに点火していない状態)で放出されます。起動していない状態というと、ロケットに搭載されている電子機器がOFFの状態であったりします。発射してからロケットエンジンに点火して推進していくのです。

この方式で潜水艦では海上に浮上しなくともミサイルを発射することができるそうです。探知においてもホット・ローンチより少し遅らせることができるようです。

ミサイルの大きさやパワーによっては発射車輛が燃損する可能性もあり、コールド・ローンチでしか発射できないミサイルもあるそうです。

 

コールドローンチとは何? Weblio辞書

 

さて、人工衛星におけるホット・ローンチとはどういう状態を指すのでしょうか。

簡単です、ロケット打ち上げ中に電源がONされているかどうかです。

 

コールド・ローンチはロケットから分離した後に電源がONになるかどうかです。

コールド・ローンチの場合は、分離後に電源をONする挙動が入ります。電源をONするにはロケットからの信号を受信したり、ロケット分離後のスイッチが起動するタイミングでONにする回路を搭載する必要があります。

 

ロケットに人工衛星が1台だけ搭載される場合は、ホット・ローンチの場合が多いです。

人工衛星がホット・ローンチの場合はとても楽ができます。

 

どこまでロケット側に要求するかによりますが、打上げ途中まで人工衛星にとっての死活問題である電力供給が可能である点です。人工衛星の搭載に限らず、バッテリーである電池が自己放電するため、保有している電力が落ちてしまうし、試験に使うとその分バッテリーが劣化してしまうのです。

劣化分を考慮した人工衛星寿命を考慮するのも有りですが、実際のところ打上げ前に入れ替えるという手段を取っていることも少なくありません。だって、限界まで使用したいのですから。

バッテリーというのは保存環境にも影響しますが、サイクル数でも劣化してしまう上に、満充電をずっと保持していても劣化していくという繊細な保管・維持管理が必要なコンポーネントなのです。

 

バッテリー以外でも ホット・ローンチ方式であれば初めから人工衛星が起動しているため、ロケットからの分離後の起動シーケンスが必要ないのです。

起動シーケンスは、ロケットからの分離後の第一の障害とも言えます。

ロケットからの分離から人工衛星が定常ともいえる環境になるまで多くの障害があるため、その一つを解決しなくても次のステップに進めるというのは大変有利になるのです。

 

これはバッテリーでも同じことが言えます。

人工衛星が放出され、不意に地球からの通信ができなくとも、充電分の電力は人工衛星が生き残れるのです。

 

日本の大学衛星の多くがCubeSatを打上げていた頃、通信ができなかったという事例は少なからずあります。通信ができなければ、人工衛星で何が起きているか分からない。そこで重要なのは人工衛星の電力となります。

 

 

電力が保てば通信機が動き、地球側と通信できます。

通信機にも電力が必要であるため、最初の通信ができなかった時に、もともと充電していた電力でどの期間まで通信ができるか分かります。

姿勢によっては太陽電池セルにより充電できるかもしれませんが、最も可能性の高い人工衛星が動ける期間は想定できるのです。当人たちにとっては残酷なことかもしれませんが。

 

現在、イプシロンのユーザーズマニュアルによると複数衛星打ち上げの場合は、原則としてコールドロンチとしています。

多くの衛星を打上げるためには、打上げが可能なペイロードは、人工衛星の搭載数に振り分けた方がコスト的にも有利です。

しかも、充電用に限らずバッテリーはかなりの重量物であるため、充電用のバッテリーをミサイルに搭載しないだけで、小型人工衛星が追加で複数機搭載することも可能なのです。

 

 

ameblo.jp

参考サイト

ハリボテか? それとも脅威か? 北朝鮮が披露した新型「大陸間弾道ミサイル」の正体 | ハーバー・ビジネス・オンライン

Space Launch Report

https://www.spacelaunchreport.com/

EpsilonLaunch Vehicle ユーザーズマニュアル

http://www.jaxa.jp/projects/rockets/epsilon/pdf/EpsilonUsersManual.pdf

イプシロンロケット初号機の射点設備と運用状況

https://repository.exst.jaxa.jp/dspace/bitstream/a-is/4246/1/SA6000016014.pdf

イプシロンロケット試験機の機体組立・発射整備作業

https://repository.exst.jaxa.jp/dspace/bitstream/a-is/4339/1/SA6000016015.pdf

H_IIA ロケットの新技術と初号機打上げ結果

https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/391/391002.pdf