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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

慣らし運転の重要性と影響具合【宇宙機コンポーネント】

人工衛星と慣らし運転

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慣らし運転を知っていますか?

 

慣らし運転は、機械部品や電子部品を実装した後に、初期の故障を発見したり、急激な運転をすることでの部品同士の擦れや摩耗を防止することを目的とします。

 

電子部品も品質誤差があるため、実性能が中央値より低い場合があり、予期しない動作を生じさせたりすることを防ぎます。

 

機械部品の場合は、急激に力を加えると、応力が集中して機械部品の寿命を減らしてしまいます。

そのため、ある程度の力で動かし、機械部品にいびつな癖や応力を発生させないように、良好な癖をつけます。

 

最終的には、製品としての寿命を延ばすことにあります。

 

駆動部品の多い自動車やバイクの新車、スピーカーも慣らし運転をするとよいといわれています。

 

慣らし運転と言われると、各種部品や機器の調整と頭の中で変換できる人もいるのではないでしょうか。

 

この慣らし運転ですが、人工衛星に搭載するコンポーネントの製造の中でよく使われます。

 

今回は、そんな慣らし運転についてです。

 

慣らし運転は何時間が適切か、経験則によるところが多い

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慣らし運転というと駆動部品、機械部品、機構部品のかみ合わせを馴染ませるというとイメージが分かりやすいかもしれません。

 

回転機構を持つ機器、人工衛星の機器の中ではリアクションホイールやコントロールモーメントジャイロを始め、アンテナや光学機器に使われるモータを使用した駆動機構がある場合、駆動時に使用されるオイルが充分に機構部分になじんでいないと、突然機構部が動かなくなったり、急な速度で動くなどの異常動作を発生させます。そのため、オイルがなじむように、動かします。

 

そんな慣らし運転ですが、何時間駆動させればいいのでしょうか。

 

それは経験則ですね。

 

何十台、何百台、何千台と製造している自動車及び自動車関連部品や汎用量産品の場合は、多くの基礎データを取得することができ、その中から馴染むことができる時間のデータを蓄積できます。

 

一方で、人工衛星部品は、ほとんどが単品です。

電子部品の場合は生産中止もありますので、製造に何年もかかった人工衛星では、同種の電子部品を使って製造することもままなりません。

 

各機器に適切な慣らし運転時間は分からないのです。

 

故に経験則となります。

この辺りは各製造組織のノウハウとなります。

 

まあ、各種機器によるのですが、人工衛星機器の場合、長時間の慣らし運転はあまり聞きません。

 

よく聞くのは、1時間、3時間、5時間、8時間ですね。

もしかすると、知見があれば、7日間や14日間など、比較的長時間実施しているかもしれませんね。

 

さきにいう通り、これらの時間に根拠はありません、口伝やノウハウですので、だいたいそのぐらいというものです。

もしかしてちゃんと各電子部品や機械部品の特性を分析すれば割り出せるかもしれませんが、どうなんでしょうね。

 

この辺りは、日本より海外の方がノウハウを持っているような気がします。

 

理由は、日本より海外の方が、人工衛星専門のコンポーネント製造メーカーとかあるので、製造数は日本より多いはずなので。

 

何時間なんでしょうね。

 

といいつつ、慣らし運転をスピーカーのノイズ環境を良好にする時間と同等に、何十時間も何百時間、何千時間も動かすことはありません。

 

人工衛星開発は、ロケット打上げのスケジュールに縛られることが多いので、なるべく短時間で行われるからです。

打ち上げるロケット数が増えればその限りではありませんけど。

 

といっても、それは地上試験の話です。

 

人工衛星を軌道上に放出した後、初期フェーズと称して、いくつかの駆動を行います。

 

性能試験確認試験や初期故障、打上げ時のロケット振動の影響確認にもなるのですが、慣らし運転も兼ねているのです。

 

30日間連続で動かしていれば720時間、3か月連続で動かしていれば2,160時間、十分な慣らし運転になっているかもしれませんね。

 

ただ、人工衛星そのもののリソースが少ない小型衛星は、初期フェーズをそんなに長く使えないですけどね。

まあ、人工衛星の初期フェーズは、慣らし運転を中心に考えているわけではなく、各種性能試験、確認試験に実際かかる日数から割り出しています。

 

慣らし運転と確認試験

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一般に慣らし運転は、製品の寿命を延ばしたり、品質を安定化させるときに行います。

 

人工衛星でも、その面はあります。

ただ、人工衛星の場合は、初期故障の検出に使われることもあります。

もちろん主目的にはなりませんけど。

 

さて、ロケット打上げに適合している確認試験であるコンポーネントの受入試験(AT)に慣らし運転は必要か。

 

正直難しい所です。

 

なぜなら、コンポーネントメーカーは、人工衛星でどのように動かすのか分からないので、適切な慣らし時間を算出することが難しいからです。

 

最初は低レベルで鳴らすのもいいのかもしれませんが、人工衛星の運用で最も使用されるレベルが中レベルであった場合、中レベルの負荷での慣らし運転をした方が、実運用での負荷が減ることが多いからです。

 

ここで、問題となるのは、起動回数や保証回転数などに制限がある場合ですね。

慣らし運転で、挙動の安定や機器自体の寿命を延ばすのはよいですが、動かすことで耐久回数がゴリゴリ減っていく機器も、たまにあるので注意です。(まあ、今はそれほどシビアなコンポーネントはほとんど聞きませんけどね)

 

 

簡単にまとめると、新品のコンポーネントは、機構関係でなく制御系機器であっても、すぐに急激な負荷を与えず、慣らしていくことを忘れてはいけません、丁寧に扱っていきましょうということですかね。

 

コンポーネントメーカー側は、適切な慣らし運転をすること、などの注意書きを取り扱い説明書や仕様書に明記しておいた方がいいでしょうね。