往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機とリスク】宇宙は一品物/特注品で何をリスクとするか

リスクが大きい機器とは何か

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宇宙に打ち上がる製品として、よくよく、よく言われることは、宇宙に行ったら手が出せない、ということです。

 

  

人工衛星が打ち上がるまでの考え方としては、物は壊れるものであり、それをどう設計で保証していくのか、製造でどう担保するのか、ということを突き詰めているだけであって、特別なものではないということです。

現代の部品の高密度設計、高機能設計の中では、試験の中では宇宙機に課せられる同等以上の負荷を掛けていることもあります。

もちろん、振動試験でいうならば、高周波域が試験範囲であったり、いわゆる真空状態のマイナス温度環境下での連続試験を実施したりするといった特殊な環境もありますが、想像以上に特別なことはしていないのです。

 

それは今までのノウハウの中で、地上で実現可能な試験環境を検討しつつ、試験そのものも最適化してきているのです。

 

その最適化した中で、リスクが大きい機器とは何でしょうか。

リスクが大きいとは、目的が達成できない確率が高くなる機器のことです。

 

人工衛星システム全体で考えるのであれば、人工衛星の生死にかかわる機器、ミッション機器の生死にかかわる機器、この二つがリスクが大きくなる機器と言えます。

 

この機能とは別に、壊れやすい機構部品であったり、宇宙線耐性が低い機器もリスクが高いのですが、今回はミッション機器の生死にかかわる機器と人工衛星の生死にかかわる2つに絞っていきます。

 


ミッション生存を優先する

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ミッション機器というと、望遠鏡であったり、はやぶさのような小惑星サンプルリターンなど目立つものもありますが、最も多いのは通信機器ではないでしょうか。

 

通信機器というと、地上にあるアンテナと通信をするための機器で、最も古い人工衛星は、地上に向けて電波を送るというもので、人工衛星からの電波を受信することを第一の目的としていました。

 

最近では通信ができることが、通常化しているため、通信機器をミッション機器というカテゴリーから外していることはあります。

 

さて、ミッション生存を優先するとはということを指しているのかというと、人工衛星が何かしらのトラブルが発生したとしても、ミッションが何かしらの形で実行できることです。

 

 

ミッションを地球観測として、カメラあるいはレーダー機器をミッション機器として考えてみます。

例えば、電力・電源系に異常が発生した場合でも、省電力でミッションを達成できるようにするというものです。

ミッション機器は稼働に時間がかかり、電力にも負荷がかかるため、撮影範囲を限定した運用として、撮影の距離幅を減らしたり、低画質画像での撮影を可能としたり、撮影の期間を地球1周1回(1日十数回)撮影であったのを、1日1回撮影とする、ミッションで作られたデータの地上送信を複数回に分けるなどの方策を可能な設計としておきます。

もちろん、単発ではなく通常の運用として連続して稼働できるようなシステムを最初から設計しておくことです。

 

設計の段階から、このような運用に切り替えられるようにしたり、軌道放出後の確認フェーズでも、緊急運用への切り替えが可能か確認するシナリオを入れておくといったことが考えられます。

 

同じく、姿勢・軌道制御系に異常が発生した場合も、異常が発生した機器なしで目標地点を向くことができる運用を設計に含めているというものです。

姿勢を動かす機器の一部が動けない場合は、一部の機器のみで目標地点へミッション機器の指向を地球方向へ向けておけるようにするが、ゆっくり動かすことになるので電力収支が満足するか、検討に入れておく。

人工衛星自身の軌道位置を把握する機器の一部が故障した場合、精度が高い機器が故障したとしても運用が可能な範囲で確度の高いデータを取得できるようなロジックや機器配置にしておいたり、姿勢駆動と通信の感度からの軌道位置把握などができるか検討に入れておく。

 

なにより、ミッション機器からのミッションデータ以外の状態データを優先して地上に送付できるようなシステムを構築しておくということですね。

 

 

もちろん、クリティカルな故障が発生した際は、人工衛星を早期に廃棄運用として、次の人工衛星を打上げるというのも手ですね。

人工衛星コンステレーションも、故障した際に素早く他の人工衛星でフォローができるようにする施策の一つとも言えます。

 

人工衛星の生死を優先する

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ミッションを達成できなければ、人工衛星は軌道上にいる必要はないかと思われますが、軌道上にいるだけでも有益なデータを取得できます。

 

主に各機器の劣化状態(これはMLIも含む)やミッション機器があるとミッション優先の運用になるところ、様々な限界性能を取得することができ、それは次号機の人工衛星の設計製造において重要なデータとなります。

 

確度が高く、より長寿命な人工衛星を製造するためには必要なデータとなります。

 

これは主に、初期号や実証・実験人工衛星を打上げた際に継続ミッションのように扱われ、人工衛星に致命的な故障が発生しない限り運用を続けます。

 

さて、人工衛星の生死を優先するとはどういった運用をするのでしょうか。

例えば、電力・電源系の一部を故障したとしても、太陽電池パネルや内臓バッテリの経路を並列化することで、ミッション機器といった大容量の電力を使用する機器の使用は難しいですが人工衛星生存のみに注力するというものです。ただこれは質量的にリソースが過大となるため実施されないことが多いかと思います。内臓バッテリが故障してしまった場合、太陽光を受けている間の省電力運用が可能な設計をしておく。

 

姿勢・軌道制御系の一部を故障した場合は、プログラム上で常に電力を確保できるような姿勢を取り続けるようにしておく。ミッション機器を動かすことはできないが人工衛星そのものは喪失する可能性が低く、アンテナの指向によってはデータを受信することが可能でもあります。

 

制御系が動かなくなっても、アナログ回路設計でデータの記録や通信機の起動と送信を行えるようにしておく。

そもそも人工衛星は軌道上の宇宙線の環境からデジタル信号ではなく、アナログ信号回路によって構成されています。デジタル信号は宇宙線によってデータにバグが発生してしまう可能性があるため、そのほとんどがアナログ回路によって成立しています。

 

 

人工衛星は軌道に打ち上がってからでは、ほとんど手を入れることができません。そのうえリソースも決まっていることから、常に取捨選択を求められます。

人工衛星を使用するユーザーからすれば、ミッション機器を優先した方が良いという面もあり、開発者からすればデータの蓄積が欲しいため人工衛星が生き残ることを第一とするでしょう。

 

現在のようにユーザーを求め、ビジネスとするためにはミッション優先の人工衛星が増えてくるでしょう。

そうなってくると、人工衛星での研究が一時的に縮小していく可能性もあります。民間優先になると、科学人工衛星をつくる研究が減ることも危惧されています。