宇宙用でなくても使える
高品質、耐放射線性と言われる宇宙用電子部品ですが、一般に売られている電子部品との違いは何でしょうか。
簡単には販売されるまでの次のような流れとなっています。
- 決められた評価試験を実施していること
- 製造までの工程が管理されていること
- 工程を含む製造設備の変更が管理されていること
- 管理された対象の影響評価がされ問題ないレベルであること、
- 専門の組織(NASA、ESA、JAXA)による認証を受けていること
評価試験の種類や数によってクラスが変わっており、クラスの低い部品については使用用途を限定化したり、交換性や回路上の重要度から部品の選定などを行います。
この評価試験は、電子部品で実施されているスクリーニング試験とは違います。
構造解析や、125℃で2000時間での動作環境を確認する寿命試験、真空で物体が発生するアウトガスが規定量発生しないか調べる試験、放射線を電子部品に当てて放射線への耐性をすることをいいます。
スクリーニング試験は、X線により部品を透過させて確認する試験、電子部品に対してのシリアルナンバーで識別されていること、-55℃~+125℃で10サイクルより厳しい温度条件での試験、パッケージ部品の場合に行うParticle Impact Noise Detection(PIND :微粒子衝撃雑音検出)試験、バーンインといわれる慣らし試験前後の電気特性の記録、125℃で240時間あるいは105℃で445時間あるいは85℃での885時間の試験、Percent Defective Allowable(PDA:不良率)5%以下、気密性確認、目視検査を総じてスクリーニング試験と言っています。
宇宙用でないスクリーニング試験は、電気特性を測定し、製造時のばらつきを排除する試験を指す場合が多いです。
電子部品は製造時にあるていどのばらつきを排除していますが、電子部品全体のバランスを考慮して、さらに狭い範囲に絞り、製品に使用するか判断しています。
これらの試験を行うためには多くのコストが発生し、そのため宇宙用電子部品は高価と言われています。
人工衛星の運用にあたり、宇宙線によって電子部品に故障が発生するために評価試験の一つである放射線への耐性を確認する試験を実施するところが多いですが、そもそも放射線を発生させる装置(というか設備規模)が少なく、評価できる組織も多くはありません。
放射線を発生させる設備は、大学を含め研究機関が予約して使用できるレベルであるため、すぐに使用できることは難しく、放射線を発生させる設備の維持費も高いため、使用費もかかります。
このようにスケジュール的な制限が発生するために、試験時には複数の候補サンプルを測定したり、試験対象もすべての機器ではなく、本当にクリティカルな部品のみ試験をおこなっていたりします。
放射線の試験をしなくても人工衛星の運用は可能ですが、長寿となるか短命となるかは、運の要素が大きくなることでしょう。
人工衛星打ち上げ後はクリティカルフェーズや初期フェーズと呼ばれています。この期間に故障する場合は、放射線の影響やヒューマンエラーも少なからずありますが、搭載されている機器の設計不良によるものが多いでしょう。
初期フェーズを過ぎて、運用フェーズに入り、人工衛星の想定寿命や軌道高度にもよりますが、半年から2年では放射線による機器の故障から1発で壊れる場合もあれば、制御不能となり、制限運用になり力尽きることがあります。
この時に、各電子部品の信頼性に強く影響されることが多いのです。経済産業省の民生部品データベースを閲覧していくと、いくつか放射線により故障していることが分かります。
経済産業省の超小型衛星搭載民生部品データベース公開のお知らせ | NEWS | 新着情報 | JAXA新事業促進部
複数号機打上げて実績も積んでいくという方式もとることが可能ですが、スケジュールをとるかコストをとるかのプロジェクト判断に強く影響されるかと思います。
今日はこんなもんで。
参考
JERG-2-023 宇宙転用可能部品の宇宙適用ハンドブック(長寿命衛星編)
http://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-023.pdf