JAXA認定品とは、人工衛星、宇宙ステーション、ロケットなどの宇宙機に使用可能な品質レベルを満たしていること部品に対して、製造する設備も含めて認定した対象の電気電子機器及び部品のことをいいます。
また、JAXAでは電気電子機器及び部品のことを認定品に関わらず総じて、EEE(Electrical, Electronic, Electromechanical)部品、あるいはトリプルイー部品と呼ぶことがあります。
JAXA認定品は、宇宙機に使用できる部品であるという認識があるのかもしれませんがそれだけではありません。
品質を維持するために、製造設備も含めて審査するのですが、JAXA以外にも公的な認定品というものは存在し、設備含めた認定を行うことがあります。
JAXAの認定品はそれだけではなく、製造メーカーに対して品質管理体制も求めてきている点が違います。
今回はそんなJAXA認定品の話です。
JAXA認定品取得のメーカーメリット
JAXA認定品を取得することは、単純に宇宙機に使用できるだけではありません。
宇宙機に使用できる部品を生産
少量生産品の品質管理技術の取得
品質管理体制の確立
各種不具合のフィードバックと恒久処置対策の助力
肩苦しいメリットとしてはこのぐらいですかね。
メーカーにおいて品質管理は独自に構築する必要があるのですが、認定を取得していれば、対外的にも信用に値するレベルであると示すことができます。
ISO9001の品質マネジメント認証取得でも対外的に品質管理体制を確保していることを示しているのですが、より実用に準じた体制を構築することができます。
正直、認定を取得できるレベルのメーカーが宇宙機用の部品を製造するべきという話もあるかもしれません。
しかし、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、独立行政法人あるいは国立研究開発法人という公共性があり、日本の経済の発展を資することを目的とすることから、必要に応じて、どのメーカーであっても、メーカー側が望むのであれば認定を取得することをサポートするという性質があります。
もちろん、中長期的に目的の細部は変わるかもしれませんが。
現状、認定を取得できるレベルにないメーカーであっても、その門戸を開くためにJAXAのような機関が存在しています。
JAXAの認定取得には、ISO9001取得は必須ではありませんが、近い性質も要求がされます。しかも、ISO9001のような自由度が狭められ、より宇宙機に対して実用的な品質管理が必要になります。
宇宙機は他の民間製品よりも歴史が短く、実例が現在広まっているどの製品よりもはるかに少ないといえます。
わずか半年前に発売した製品よりも実例が少なく、ノウハウの蓄積があっという間に抜かされてしまいます。
そのうえ、故障が許されない上に、新車1台と同等かそれ以上の価格の機器が、人ひとり持ち上げられる10㎏にも満たないことも過分にあります。
非常に扱いづらいのですが、徹底した故障リスクや性能の安定性を重視するためのノウハウが必要になります。
そんな稀有なノウハウを社内に蓄積することができれば、宇宙機以外のやっかいなお客にも十分対応できる社外にアピールすることができます。
社外からすれば、正体不明だが絶対に失敗が許されない宇宙機の認定部品を製造している企業なので、他の製品についても十分な品質管理ができているであろうという印象をつけることができます。
いわゆる箔をつけることができるともいえるのです。
JAXA認定品取得のメーカーデメリット
一方で、デメリットもあげておきます。
- 管理体制の維持
- 不具合対応
- 廃番の困難さ
- 認証試験の厳しさ
- 試験環境の構築
認証試験などは、現在、人体含む安全性において宇宙以外でも認証試験があり、試験数としてはあまり変わらないかもしれません。
ただ、試験条件が厳しいことが多いです。
軌道上という特殊な環境では、容易に温度が下は氷点下、上は100度を超えてしまいます。
人工衛星内であれば条件も緩和されますが、厳しいことには変わりません。
そのほかに、ロケット打ち上げ環境に耐えうる振動条件や性能の安定性が求められてきます。
一部の条件は自動車の試験の方が厳しい場合もありますが、相対的に宇宙の方が厳しいことが多いです。
さらに、有人宇宙用はもっと厳しくなります。
認定された宇宙用部品は、単純に高品質の部品を作るだけではなく、継続して、安定した性能が出せるような体制が必要になってきます。
しかも少数品に対してです。
その分、値段は高く売り出せることはできますが、設備の維持も含まれるためなかなか高い投資になります。
ただ、認定品として売り出せないのですが、試験数を限定した高品質版として売り出すことは可能にはなります。
認定品で品質を求められる理由は
認定品で特性に対しての品質が求められます。
製品としてだけではなく、メーカーの部品の管理体制に対してもそれなりのレベルを求められます。
大きな理由はトレーサビリティにあります。
人工衛星は何台も打上げられ、運用されます。
いわゆるニュースペースと呼ばれる2010年後半より台頭してきた世界中の小型衛星の製造・運用しているメーカーも継続して打上げられています。
今まで打上げられた人工衛星でもほんの数例をのぞいて、一度軌道上に放出されれば物理的に手を入れることはできません。
人工衛星によっては、内部のコンピュータのプログラムを書き換えることも可能な場合もありますが、プログラムを書き換えるぐらいです。
何か故障して、運用できなくなっても、人工衛星を分解して中を見ることはできません。
もしかして、ヒータの故障で必要以上の温度が掛かっている場合もありますし、人工衛星にスペースデブリと呼ばれる秒速7.8kmの物体がぶつかっても見れないので分かりません。
打ち上げの衝撃で光学レンズが割れたのか、レンズの接合部が弱くて外れたのかも分かりません。
もちろん、電子部品のはんだによる接合が取れても、電子部品自体が異常を起こしても、そもそも部品をつけ忘れていても、打ち上がってしまったら分かりません。
そこでトレーサビリティ、物体の経歴を追うことが重要になります。
人工衛星は、1台だけではありません。
SpaceXが製造し運用するスターリンク衛星は別として、軌道上で同時に運用可能な人工衛星はニュースペースでも100台以下ではありますが、継続して打上げられます。
何か故障が発生した場合、次の人工衛星には同じ失敗が発生しない様に処置を行う必要があるのです。
その時に、トレーサビリティができなければ、原因を十分に追究できません。
対策処置を実施したとしても、見当違いの可能性もあります。
人工衛星の製造には多くの時間が掛かることから、リソースを集中しなければなりません。
不具合の総当たり対策を行っていては、時間とコストが不足してしまいます。
トレーサビリティの情報により、原因を狭める必要があります。
そのため、管理体制も含めて、認定品は要求するのです。
かつての人工衛星の製造には、1台で数十億、数百億円以上かかっていました。
時間とコストを考慮して、原因対策を絞り込むことは管理の節約になりました。
ただ、現在、ニュースペースによる人工衛星の製造価格は、小型であり、価格も何十分の一以下まで下がってきています。
あらゆる部品に対してトレーサビリティを行うよりも、製造して試験をして、実験・実証を通して、不具合の処置を行って、製造するというサイクルを繰り返した方が時間的にも短くなります。
コストも下がるかどうかはミッションによりけりですが、物を作った方が早い場合があります。
軌道上に突入させなくても、地上で何台も製造して試験して比較して改善点を洗い出した方が、時間的にも、コスト的にも安く済ませることも可能になります。
このようなニュースペースの宇宙機の製造手法により、考え方を変えられているのが現在の宇宙業界です。
もちろん、不慮の事故で部品が故障した場合であっても、原因追及のすることがあります。
部品自体が高価であるため予備以上の部品を購入することが困難である場合は、トレーサビリティなどを利用しているということはあります。
製造し運用する組織のリスク許容範囲を共有した上で、トレーサビリティの情報が必要か否か決めて進めることをお勧めします。
認定品を使用するか否か、試験を実施するか否かは、結局どこまでリスクを許容できるのか。
チャンスが少なく、製造期間が短い場合は、性能に対して担保している認定品を選択することが多いです。
結局は、打上げられたら物理的に手を出せないため、基本は壊れにくい部品を使用し、壊れたとしても、なぜ壊れたか分析することがある程度可能なように、高い品質を要求がされるのです。