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振動試験時における「オーバーシュート」(目標値を越える振動の負荷)の注意 | Lessons Learned、失敗学、事故事例

振動試験時における「オーバーシュート」(目標値を越える振動の負荷)の注意

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-AFRC2020-0012-13

振動試験装置にはオーバーシュートと呼ばれる事象が発生します。

 

オーバーシュートは、振動の入力レベルを越えた値が発生することを指しています。

 

加振の制御方法によっては、ある程度のオーバーシュートは発生します。

しかし、ある程度のオーバーシュートが発生することを知らないまま、振動試験装置を使用すると、初動で大きな加振レベルが発生することに驚くことでしょう。

 

後述のLessons Leandでは振動試験装置を扱う上での注意点がまとめられていますので、その前に、オーバーシュートを防ぐ方法の紹介します。

 

  1. 振動試験装置の設置環境条件で特性が変わることもあるため、使用する振動試験装置に熟知した作業者が運転する
  2. 低加振レベルを長時間負荷し続けることになるが、設計の上限を理解した上で、徐々に加振レベルを上げていく。
  3. 本加振前に、オーバーシュートの兆候が見られたら、時間経過による"ならし"を行い、振動レベルの挙動が安定するまで待機する。
  4. 低加振レベルにおいても、長時間、異常な振動レベルの挙動を見せる場合は、一度停止し、供試体のトルク確認や固定方法を見直す。
  5. 異常な挙動が、加速度センサーあるいは加速度センサーのケーブルによるものではないか、確認する。

 

 

概要

宇宙機の筐体・ハードウェアの認定試験及び受入試験において、振動試験はとても重要です。

 

打上時や軌道上に放出された後に故障するか確認するため、打上げ時の機械環境を模擬することになり、宇宙機の筐体・ハードウェアに対して大きな負荷を与えることにあんります。

 

基本的に、振動試験では負荷を掛けても壊れないという考えのもと実施されます。

 

付与される振動に対して、筐体・ハードウェアの設計・製造が耐えられなければ壊れます。

 

しかし、実際のプロジェクトにおいては、適切な設計を行い耐えられるように製造されているため、振動試験に掛けても異常や故障はなく、筐体・ハードウェアに十分な強度があることを確認する試験となっています。

 

また、振動試験装置も十分に強度がない対象を試験するように設計されている話ではないのです。

  

発生タイミング

 全球降水観測(GPM)のミッション用電力制御機器の振動試験時に、オーバーシュートが発生した。

Lessons Learned

 

  1. 試験装置のシャットダウン(緊急停止)は、振動試験装置の一般的な保護システムであり、試験対象(供試体)に想定以上の(設計上、耐えられない)衝撃を付加与える可能性があります。
  2. 振動加振パラメータ(振動テーブル)へのランダムな振動の入力は、特定の条件では過度の加速度を負荷する可能性があります。
  3. 加振におけるオーバーシュートは、加振レベルを徐々に上げていき、目標となる加振レベルに到達する前に発生し、振動試験装置の計測範囲を越えた振動レベルによるオーバーシュートによる負荷を引き起こすること多いです。
  4. オーバーシュートが発生する小さな兆候や、振動試験装置の計測範囲を越えた負荷は、供試体に対して深刻な問題が発生していることを示すことがあります。
  5. 異常に対する兆候、またはオーバーシュートの発生を想定した試験手順がない場合は、試験の目的を達成せず、無駄に終わる可能性があります。

 

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

 

    1. 可能な限り、試験装置の緊急停止を防ぐためにあらゆる注意を払ってください。軌道上に放出されるハードウェア(フライト品、FM品)を試験するときは、試験装置の保護よりも、ハードウェア(フライト品、FM品)の安全性を優先するようにしてください。
    2. ランダム振動試験を実施する場合は、ランダム信号の不連続性に基づいて、許容レベルを狭くし過ぎて、試験がシャットダウンしないことを確認してください。
    3. 振動試験装置に供試体を配置し、振動試験装置のシステムに電源を入れた瞬間から、リアルタイムの加速度測定値が取得できることを確認してから、試験を開始してください。
    4. 振動試験装置の不具合と計測範囲外に及ぶ加振レベルの挙動に注意してください。怪しい挙動が確認された場合は、無理に試験機を使用しないでください。
    5. 故障や異常を予期して、すべての試験に参加し、発生した事象を分析して学ぶ準備をしましょう。

 

最後に

たまに使用するというレベルではなく、熟知した作業者がいる場合は、おまかせしていてもオーバーシュートに関しての知識があるため、問題はないでしょう。

 

しかし、作業者の都合やスケジュール、コストにより対応できないこと、自分でやるしかありません。

 

手順書があったとしても、もしかすると、オーバーシュートという表現がないかもしれません。

手順の中には、オーバーシュートを防ぐ手順があるかもしれませんが、知っている場合と知らない場合では、作業のタイミングが変わり、より安全に試験を実行することができます。

 

振動といえば、共振現象が有名です。

データを見ただけでは、オーバーシュートを共振現象と勘違いして、試験をやり直したり、異常データと切り捨てたりする可能性もあります。

 

共振現象は供試体由来によるもので、オーバーシュートは振動試験装置の制御由来によるものという明確な違いがあります。

 

まあ、振動試験装置にも共振となる周波数帯があるため注意は必要です。 

Lessons Learned

Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。

 

得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。

Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。

  

NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めています。 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

Understand What 'Cleaning' Means In The Context Of The Flight Item

https://llis.nasa.gov/lesson/18601

JERG-2-130-HB003 振動試験ハンドブック

http://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-130-HB003B.pdf

オーバーシュートを抑えたい

https://www.chino.co.jp/support/technique/controllers_index/control_controllers/pid_method/#Overshoot