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電波収集衛星(SIGINT衛星)をさらに考えてみる

 

海外のSIGINT衛星

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-200907160005HQ

 

日本の防衛白書の中に電波収集衛星という言葉があります。

このため主要国は、C4ISR機能の強化などを目的として、軍事施設・目標偵察用の画像収集衛星、弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星、電波信号などを収集する電波収集衛星、各部隊間などの通信を仲介する通信衛星や、艦艇・航空機の測位・航法・時刻同期や武器システムの精度向上などに利用する測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打ち上げに努めている。

令和2年版防衛白書 第2節 宇宙領域をめぐる動向 宇宙領域と安全保障

電波収集衛星と言われて何を思い浮かべるでしょうか。

 

少しまとめてみました。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

今回は、海外の電波収集衛星にはどれだけのプロジェクトがあるのか羅列してみます。

 

電波収集衛星を単語で調べると、SIGINTという言葉が出てきます。

Signal Intelligence(信号諜報)をSIGINTと称してており、人工衛星の場合は、SIGINT衛星と呼ばれることがたまにあるようです。

 

アメリカのSIGINT衛星は、ネット上での俗称としてMentor(メンター)でしたり、過去はOrion(オリオン)と呼ばれています。

初期のプロジェクトとしてもPoppy(ポピー)に始まり、Canyon(キャニオン)やVortex / Chalet(ボルテックス/シャレー)、Mercury(マーキュリー)といったプロジェクトで打ち上げられていきました。

 

今回の防衛白書にある電波収集衛星の目的に近いと個人的に思っているアメリカ海軍広域海上監視システム (Naval Ocean Surveillance System:NOSS)も存在しています。

2つの衛星で構成され、超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry:VLBI)と呼ばれる手法により対象物の位置を追跡します。

人工衛星そのものも高速で回転しているため、追跡対象の電波に対してドップラーシフトも考慮する必要はあります。

 

アメリカ以外にもフランスやインドで人工衛星保有しています。

 

フランスでは、Essaim(エッサイム)という質量120kg、低軌道の小型衛星の4基のコンステレーションで上げられます。最近の計画としてCapacitÉdeRenseignementÉlectromagnétiqueSpatiale(CERES)も存在しています。

 

インドでも4基のコンステレーションを行っているEMISATがあげられます。

質量220kg、低軌道750kmで、複数基の小型の衛星であることから低価格で実現しており、複数の衛星で検出する電波などの目的を変えているようです。

 

ロシアや中国でもいくつかの衛星がSIGINT衛星だといわれています。

 

アメリカにしろフランスにしろ、国全体として保有しているだけで、管理している組織が違うこともあり、一貫したミッション、目的であるかは不明なところです。

 

そもそもSIGINT衛星は光学衛星よりも情報が出てこないのでよく分からないところがあります。

 

 

 一方日本で、SIGINT衛星はあまり聞きません。(なので、今回のような記事が書けるのですが)

 

電波収集衛星と 範囲を拡大して考えると、自動船舶識別装置(Automatic Identification System:AIS)の電波を受信するAIS受信システムを搭載の小型衛星SDS-4が あげられます。現在は、スカパーJSATに運用を移管済み。 

 

衛星システム製造したのは、メーカーではなくJAXAとなります。(なので以前の記事には記載していませんでした。)

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

同型のAISシステムは、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)にも搭載され、2021年打上げの先進レーダ衛星にも搭載予定です。

こちらは、三菱電機が衛星システム製造メーカーとして製造しているようです。

 

ちなみに、人工衛星によるAISシステムは、2008年Orbcomm社が商用のサービスを提供して以降、exactEarth社が参入しています。

 

スカパーJSATも、SDS-4によるAISデータと衛星画像データを組み合わせた船舶の自動検出サービスを始めています。

 

防衛白書にある電波収集衛星は、どのような人工衛星の形態をとるのか

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-s61e0021

このような海外・国内事情を考慮して、防衛白書にある電波収集衛星は、どのような人工衛星の形態をとるのでしょうか。

 

電波収集としていることから、電波傍受解析の面が強いCOMINITシステムではなく、ELINTやFISINTの方が可能性が高いでしょう。

 

不審船舶の監視や海上遭難対応、ミサイル・ロケット信号の監視といった面で使用されるのではないでしょうか。

 

衛星本体はどんなサイズになるでしょう

予算が付けば、アメリカの所有するNOSSと同様のシステム(複数の大型衛星)を構築することができるでしょう。

 

予算が付かなければ、フランスやインドのような100kg以上500㎏未満の複数の小型衛星となるでしょう。

 

大型でも小型でも複数基としているのは、AIS信号受信だけではなく、VLBIにより対象物の3次元的な位置空間を把握する必要があると考えているためです。

 

AIS信号は現在、多くの船舶に搭載されていますが、小型船舶への搭載義務がないことや、操作して信号を切ることも可能です。

多くの船舶から送信されるため電波干渉も発生しているのようなので、AIS信号だけに頼るシステムは作らないのではないでしょうか。

 

軌道はどのような軌道を取るでしょうか。

大型衛星であれば、軌道制御も可能で、長期間同じ位置にいられる静止軌道を取るのではないでしょうか。

ただ、近年小型の軌道制御機器もあることから、小型衛星による静止軌道の可能性も0とは言い切れません。

 

低軌道による周回軌道を取る場合は、大型衛星の場合も、小型衛星の場合もどちらもあり得ます。

 

あとは予算と配備計画によるところが多いと思います。

 

小型衛星であれば短期間製造が見込まれますが、いくつか機能を限定した特化型の人工衛星の可能性があります。

大型衛星であれば、小型衛星より製造期間が長いですが、多くの機能を持ち、小型衛星よりも軌道維持のための燃料を搭載できることから軌道寿命や衛星寿命も長い可能性があります。

 

防衛省通信衛星の運用経験もあることから、最初から大型衛星の可能性は捨てきれません。

ただ、予算次第では小型衛星のコンステレーションを配備する可能性が高いような気もします。どうなんでしょうね。

 

製造メーカーはどうなるのでしょうか?

防衛関係ですと、海外の人工衛星製造メーカーを使用することが少ないと思われる人もいますが、現在配備しているXバンド通信衛星はいくつかが海外製です。

なので海外メーカーで製造される可能性はあります。

 

日本となると、どこが候補にあがるでしょうか?

 

防衛省では人工衛星を開発から予算を付けるところはあまりない印象があります。

開発要素が少なく、確実に、計画的に製造・生産できるメーカーが候補に挙がるのではないでしょうか。

 

そのため、現在のベンチャー企業では、もともと電波収集用のアンテナの開発や運用経験が少ないことから、大手2社の三菱電機NECが候補にあがる気がします。

 

将来は分かりませんが、現在の状況では、海外メーカーか日本の大手2社になる気がします。

 

 

製造される人工衛星のポイント

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-s37-96-009

 

日本でSIGINT衛星を作るのには、キューブサット級の超小型人工衛星はかなり難しいでしょう。

 

理由の一つとして、通信系の電力が不足すると予想されるからです。

  

通常の人工衛星でも、通信系はバッテリーに次いで、電力系ユニット、ミッション機器やコマンド及びデータ処理とならび、消費電力を使います。

 

人工衛星は地上と通信ができなければ、(バッテリー次第ですが)打上げ後、数日と持ちません。

そのため、機器冗長系はなくとも、アンプ(増幅器)やフィルタや送受信切り替えのためのダイプレクサを搭載しており、人工衛星全体としても消費電力の比率が高い特徴があります。

 

 

人工衛星の構成によっては、ミッション専用にデータを送信するためのアンテナが搭載されることもあります。

 

アンテナと通信機をキューブサット級に搭載するには、それこそコンステレーションの必要があるでしょう。

 

人工衛星システム全体の成立性を考えるのであれば、50cm級以上の小型衛星の方が実現性が高い気がします。

 

 

機能を分割し、収集する周波数のアンテナをそれぞれ人工衛星1基あるいは2基に搭載すればバランスが取れるのではないでしょうか。

 

小型衛星であれば、構成のバランスを考えて、人工衛星1基で3つ以上の周波数帯を扱うことが可能でしょう。

 

 

 通信機だけではなく、運用するための電力を確保するために、太陽電池セルパネルのパドルも必要になるでしょう。

 

人工衛星には、太陽電池セルパネルを搭載したパドルがなく、人工衛星の外壁面に太陽電池セルを貼り付けている衛星もありますが、通信機を複数台搭載するなど、電力消費が激しいと、電力的に成立できません。

 

パドルを始め展開機構はロケット環境により故障する可能性があるため、技術的にやや難しくなります。

 

地上での振動試験で展開機構で破損したり、軌道上で展開機構が動かずに、衛星寿命がとても短くなった人工衛星もいくつか存在しています。

開発のハードルが少し高くなります。

 

 

すぐに考え付くのは、通信系の構成と消費電力の成立性が課題となります。

あとは、受信した電波のデータを人工衛星内に格納する機能も必要になります。

 

 

追加機器や要素として、小型衛星では通信系の構成も含めると難しいですが、軌道制御機器があります。

 

軌道制御機器(スラスター)を追加すれば、目的の衛星に、より接近することが可能となります。

 

これらは検討項目としては単純ですが、派生していくつかの細かい課題を解決していけば、電波収集衛星の完成に至ることができると思います。(そりゃそうだ)

 

もちろん、前提条件として、周波数帯域、頻度、地域の項目には目安を立てておく必要はあります。

でないと、大規模な構成になり、予算内にも開発スケジュールにも対応できないでしょう。

 

通常の人工衛星の運用と同じく、想定する地上局や新規の地上局開発、さらにはロケットの確保も考えると、、、

 

さて、どのような人工衛星を打上げる予定ないのか、あるいはそのまま破棄されるのでしょうかね。

  

参考資料

What is SIGINT? 

https://mark20x.blogspot.com/2018/12/isros-emisat-electronic-spy-in-space.html

Signals intelligence operational platforms by nation

https://medium.com/@cryptonomad.info/signals-intelligence-operational-platforms-by-nation-7dc14906ebe4

CERES SIGINT Satellite System

https://www.airforce-technology.com/projects/ceres-sigint-satellite-system/

Poppy (satellite) wiki

https://en.wikipedia.org/wiki/Poppy_(satellite)

メンター (人工衛星) wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC_(%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F)

Orion (satellite) wiki

https://en.wikipedia.org/wiki/Orion_(satellite)

Orion (spacecraft) wiki

https://en.wikipedia.org/wiki/Orion_(spacecraft)

ネメシス (人工衛星) wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%A1%E3%82%B7%E3%82%B9_(%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F)

アメリカ海軍広域海上監視システム

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E6%B5%B7%E8%BB%8D%E5%BA%83%E5%9F%9F%E6%B5%B7%E4%B8%8A%E7%9B%A3%E8%A6%96%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0

American Geosynchronous SIGINT Satellites

https://fas.org/spp/military/program/sigint/androart.htm

エッサイム (人工衛星)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A0_(%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F)

Canyon

https://www.globalsecurity.org/space/systems/canyon.htm

VLBIとは

https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/vlbi-about.html

超長基線電波干渉法

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E9%95%B7%E5%9F%BA%E7%B7%9A%E9%9B%BB%E6%B3%A2%E5%B9%B2%E6%B8%89%E6%B3%95

ISRO's EMISAT: Electronic Spy in Space

https://mark20x.blogspot.com/2018/12/isros-emisat-electronic-spy-in-space.html

EMISAT (Electromagnetic Intelligence-gathering Satellite)

https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/content/-/article/emisat

Signals intelligence operational platforms by nation wiki

https://en.wikipedia.org/wiki/Signals_intelligence_operational_platforms_by_nation

A radiotelescope in the sky: the USA-202 ORION satellite

https://satelliteobservation.net/2017/09/24/a-radiotelescope-in-the-sky-the-usa-202-orion-satellite/

Galactic Radiation and Background

https://en.wikipedia.org/wiki/Galactic_Radiation_and_Background

小型実証衛星4型「SDS-4」とは

https://www.jaxa.jp/projects/sat/sds4/index_j.html

IMINT Gallery

https://fas.org/irp/imint/

SIGNALS INTELLIGENCE

https://spaceacademy.net.au/intell/sigint.htm

静止放送衛星は静止しているか

https://www.emc-ohtama.jp/emc/doc/009-R2_emc_reference.pdf

GRAB: First Signals Intelligence Satellite

https://www.cia.gov/news-information/blog/2018/grab-first-signals-intelligence-satellite.html

TacSat-2(AISシステム搭載)

https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/t/tacsat-2

Satellite AIS (Automatic Identification System) | ORBCOMM

https://www.orbcomm.com/en/networks/satellite-ais

exactEarth

https://www.exactearth.com/

高頻度船舶検出サービス

https://www.skyperfectjsat.space/news/detail/post_22.html

安全保障のためのMDA 平成29年1月

http://www.co-jaspa.or.jp/aboutus/data/proposal%20mda%20for%20n%20security%20abstract%20201707.pdf

海事の国際的動向に関する調査研究事業報告書(海上安全) 別冊 AISの国際的動向

https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00037/contents/0003.htm

船舶運航リスク・非常時の対応 海上安全と海洋環境保護への宇宙の利用

http://www.marine.osakafu-u.ac.jp/osakafu-content/uploads/sites/368/Risk-control-of-ships-Distress-communications-GMDSS-2017-0119.pdf

次期Xバンド衛星通信整備事業に関する基本的な考え方

https://www.mod.go.jp/j/procurement/release/pfi/xband/pdf/xband.pdf