往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた人が人工衛星の機械システムや横道に反れたことを覚え書き程度に残していくブログ

精度の高い結合に接着剤を使用するか?ボルトを使用するか? | Lessons Learned

Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。

 

得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。

Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。

  

NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めてみました。

 

機械的結合に接着剤を使用するか?ボルトを使用するか? 

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宇宙業界では放射線や急な温度サイクルによって劣化する可能性がある接着剤(高分子材料)を使用することは多くはありません。

 

それでも接着剤を使用するメリットがあるため、いくつか使用されます。

  • ボルトよりも重量が少ない
  • 振動環境で位相がずれない
  • 精密な位置に固定できる
  • 修正が容易(材料による)

一方でデメリットもあります

  • 放射線や温度サイクルによる劣化
  • オフガスやアウトガスによる他の機器への悪影響
  • はく離
  • 修正が困難(材料による)
概要

発生した箇所は、Jason-2 / OSTMのマイクロ波放射計の反射鏡の部分です。振動試験とバーンアウト(ベーキング)を実施した後に、チタン製の金属継手とグラファイト複合材料に熱応力が掛かり、層間剝離が発生しました。

処置としては、結合部をボルトで補強しました。

 

接着剤による結合は、メリットでも上げたように正確な位置に固定できます。ボルトによる結合は機械環境による破損リスクを考慮した安全マージン設定する必要があります。安全マージンを十分に考慮する必要があることから、十分な事前検討を行う必要があります。

設計フェーズの早い段階で、用途に合わせたクーポン試験(試験片による試験)や解析を行い、接合部の熱応力を評価する必要があります。 

発生メカニズム

低温でのチタンの継手とグラファイト間での熱膨張係数の不一致により発生しました。

また、初期に発生した不十分な検査により、同コンポーネントにおいて再発されました。 

発生の分析・解析法
  • 80xボンドライン検査
  • 超音波画像
  • 有限要素法による熱応力解析 
恒久処置

許容温度における熱応力に対して安全率を考慮した構造設計を実施する規則を追加。 

Lessons Learned

残念なことに国際武器取引規則(ITAR)により詳細はHPから削除されていますが、抜粋して紹介します。

  1. 接着剤は、宇宙機のフィッティングをコンポーネント(構造体)に結合するために使用すると、機械環境によるズレのない、正確な固定を可能とします。しかし、接着は熱応力の影響を受けやすく、適切な評価および検査をすることが難しいことがあります。
  2. 安全マージンを考慮した上でのボルト(ファスナー)などの代替の結合方法。
  3. 接着の熱応力解析の有用性。
  4. 試験片試験(テストクーポン)の実施とガイドラインの整備。
  5. コンポーネント(構造体)に過度の負荷を加えない結合する方法を選択するための材料特性基準。

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

  1. 構造設計の早い段階で、宇宙機のフィッティングに接着剤を使用する場合は、熱応力と応力緩和を評価します。アプローチは熱サイクル試験に限らず、接合部のひずみ分布が発生する環境も含めて検証する必要があります。
  2. 金属継手を宇宙機の構造物に取り付けるため、接着剤以外の接合方法も検討してください。たとえば、機械的ファスナーは、結合部の分析に不確実性がある場合に、別の結合方法あるいは、補強として機能します。
  3. 熱膨張係数が大きく異なる材料と結合される場合は、有限要素法を用いて熱応力解析を実行してください。
  4. 正確な評価を行うために、構造、剛性、および環境条件でのクーポンテストを実行します。
  5. 宇宙軌道上と、地上試験環境の両方の材料を評価します。 
最後に

この事象が発生したのはJason-2 / OSTM(2008年打上げ)で発生したそうです。

想像よりも最近で発生しており、NASAで進められているプロジェクトでもこういうことは発生するのだというに驚いたものです。

 

観測機器の高度化により、ボルトでは十分な組立公差、製造公差による安定した性能を得られないことから、このようなことが発生していたのだと思います。

 

数ミリ、数マイクロ、数ナノメートルのズレが観測範囲だけではなく、歪みに影響します。

 

カメラによるボケが発生してしまうという表現の方が想像しやすいかもしれません。

このボケとなるズレが蓄積することで、性能がどんどん落ちていきます。

 

自分が業界にいた時は、ハニカムサンドイッチパネルには接着剤が使用されていますが、構造を支持する側に使用することはNGと聞いておりました。

そのため、支持構造に接着剤を使用していたとは驚きでした。

 

先に書いたように、ボルトなどの機械的ファスナーの精度では得られない、高性能化を目指したうえで発生した事象なのだと類推されます。

 

小型衛星の性能で、接着剤を使用する程の精度まで到達するのか楽しみではあります。

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

To Bond or to Bolt, That is the Question 

https://llis.nasa.gov/lesson/2038

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