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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

人工衛星のシステム設計-まずは人工衛星の機能から知ってみよう-【宇宙機とシステムエンジニアリング】

システム設計について、なんとなく書いてみる

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-GSFC_20171208_Archive_e001387

今回のこの写真では、人工衛星が回転テーブルの上で1秒に約1回転の速度で回っています。扇風機が1秒間に50か60回転するので、扇風機よりは遅い速度で回転しています。

さて、何を確認している試験なのでしょうか。

 

 

この試験では回転させることで、人工衛星のバランスを見ているのです。

人工衛星の重心の偏りを確認し、要求値に近づけるようにウェイトを追加していきます。

 

今回は人工衛星の設計のバランスを取るシステム設計について話していきます。

 

システム設計の言葉をはじめて聞いた人は、システムエンジニアリングという似た語感に惑わせられた人もいれば、惑わされていない人もいるでしょう。

 

システムエンジニア、あるいはシステムエンジニアリングとシステム設計は、そこそこ近いのです。

 

システムエンジニアシステム開発を行う人を示しているのですが、一部ではプログラマーと同意語に捉えている人は多いのです。

システムエンジニアリングは手法を示しています。

システム設計は設計手法を示しており、システムエンジニアリングと呼ばれる手法に包括されるものでもあります。

 

今回は人工衛星のシステム設計について、一部を紹介します。

人工衛星に限らず、システム設計は多岐に渡りますので、この記事だけですべてを語り切れるものではありません。

 

また、システムエンジニアリングは手法ですので、大枠の考え方は人工衛星以外とも共通しています。

アプローチ方法も多数ありますが知られた方法から大きく逸脱することはありません。 

 

人工衛星に限らず、システムエンジニアリングを実践として行うには、各個人での好みや組織の枠組み、集っているメンバーによって多種多様になります。

 

つまりは、計算結果のような定められた答えに収束するわけではないので、各個人での応用が必要であるのです。

 

本記事も人工衛星のシステム設計の一例と考えていただければと思います。

 

システム設計は最終目的と機能を把握することから

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ここでは、人工衛星を何も知らずにプロジェクトに放り込まれたものとして、述べていきます。

 

まずは、システム設計といって、いきなりシステムプロセス(システムライフサイクル的な何か)がどうこうという話をしていても、なかなか頭が切り替わらないのではないでしょうか。

 

特にまだ開発を経験していない人からすれば、まあそういうものだろうという記憶しか残らないかと思います。

 

頭で分かっていても、現在のプロセス(仕事や作業)と直結しないからではないでしょうか。

 

直結しない理由の一つに、最終目的が具体的に述べられていないことにあるのではないでしょうか。

 

手法の説明をしていても、その人工衛星が何をするものか分からなければ、最終目的がブレにブレるのです。

 

 

 何も浮かばず、最終目的も分からないままだとどうなるのでしょうか。

 

単なる作業者であれば問題ありません。

ただ、身体で覚えたノウハウだけが蓄積されるので、システム全体を把握する機会を失います。

 

作業者は指示されたことを必死に忠実に実施します。そこに注力してしまうがゆえに、なぜその指示が出されたのか意図までは汲み取れないことがあります。

 

忠実に実行するのに必死なんですからしょうがありません。

そうして、気づかずに時間が過ぎてしまい、機会を失うのです。

 

初めに教わったシステムプロセスを実感できずにプロジェクトは終わってしまうでしょう。

 

なので、最終目的を把握することは大事です。

 

ただし、最終目的が分かっていても、そこに至るまでの、目的達成に必要な機能も抑えておく必要があります。

 

機能も抑えておく必要があるのは、個々の要素が多岐に渡るために、どんな機能があり、その機能が、どう最終目的に必要なのか、繋がらないからです。

 

あとで機能を個別に話していても、頭の回転が速かったり、事前知識がある人でないと、繋がらない人も少なからずいるのです。

 

最終目的と、そこに至るまでの機能が抑えることが、各論に入る前の、システム設計を実行することの予備知識になるのではないでしょうか。

 

 人工衛星の機能を知る

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まず、人工衛星の軌道上の環境を知ることから始めましょう。

 

もし予備知識があれば、ロケットの打上げから軌道上への放出も含めて考えると理解がいいかもしれませんが、今回は省きます。

繰り返しますが、人工衛星を何も知らずにプロジェクトに放り込まれたものとして、述べていきます。 

 

地球を周回する人工衛星に関わる軌道上の環境を挙げていきます。

細かいことを挙げていくと発散してしまうので、絞っていきます。

とりあえず、これだけ挙げていれば大丈夫です。

 

次に目的です。

一例を地球観測衛星にするか、通信衛星にするか、悩むところです。

まあ、違うところはその都度、注記していきましょう。

細かい機器を述べていると長くなってしまうのでその辺りは省略します。 

 

そして、機能を簡単にまとめると次の通りです。

ついでに人間の機能にも何が対応しているのか、合わせて書いておきます。

まあ、ミッション機器は無理やりな感じはありますし、通信がミッションである場合は、通信機器もミッション機器と言われます。

 

  • 姿勢制御機器(その1):人工衛星の姿勢を制御し、また動力を発生させる機能【筋肉】
  • 電力制御機器:機器を動かすための電力を発生し、制御し、貯蔵し、分配する機能【食道、心臓、血管、脂肪】
  • 情報制御機器:各機器をコントロール・制御する機能【脳、神経】
  • ミッション機器:人工衛星の目標を達成する機能【脳、手足、生殖器
  • データ保管機器:ミッションデータを一時的に保管あるいは待機する機能【脳】
  • 通信機器:地球と通信する機能【声、手足】
  • 構造:各機器を収まめる機能【全身】
  • 計装:各機器を動作させるためにつなげる機能【神経、血管、心臓】
  • 姿勢制御機器(その2):人工衛星の位置情報や姿勢を把握する機能【目、耳、手足、鼻、舌】
  • 軌道制御機器(推進機器):人工衛星の軌道を変える機能【筋肉】

 

それでは、さらにこれらの機能がどのように噛み合うのか見ていきましょう。

初めに考えるのは目的を達成するために何をする人工衛星なのかというところからです。

 

地球観測衛星は、地球の画像を取得します。

通信衛星は、電波・情報を地球に送信します。

 

どうやって達成するのか。

 

そもそも、今回の地球観測衛星通信衛星の目的達成の場合は、どちらも地球に向いている必要があります。

向けるのは、レンズであったりアンテナのちがいにはなりますがやることは一緒です。

 

人工衛星を地球に向けるにはどうすればいいのでしょうか。

 

軌道上では無重力であるため、摩擦も何もない状態です。

 

そこで必要なのが人工衛星の姿勢を制御する機器になります。動力を発生させるのですね。

いやいや、そもそも機器を動かすために電力が必要であるため、電力の発生する機器、電力を制御する機器、そして電力を貯蔵し、分配するの機器が必要となります。

さらには、電力があっても、そのままでは動かないため、コントロールする機器が必要になります。厳密にいうと、アナログ回路によるある程度の制御が可能ですが、その場合ですとできることが限られてしまうため、情報やデータをコントロール・制御する機器も必要になります。

 

そんないくつかの機器を用いて、姿勢制御機器によって地球表面に対して向くことができました。

そのあとに、ミッション機器と総称される機器を起動させます。

 

地球観測衛星の場合は、カメラのシャッターを押し、通信衛星ではデータを受信します。受信はともかく、写真を押すタイミングは前述の情報やデータを制御する機器によって指示されることがもあります。

 

次に人工衛星に必要なのは、得られたデータを一時的に保管あるいは待機する機器が必要になります。

ミッション機器に含まれる場合もありますが、制御機器に含まれることもあります。

 

保管・待機したままにせず、データをどうにか地球に向けて送り出す必要があります。

そこで必要になるのが、通信機器となります。アンテナもこの通信機器の中に含まれます。

 

通信機器を用いて、地球にデータを送り届けることができました。

 

しかしここで終わりではないんですね。

 

この流れを正常に行うためには、常にメンテナンス・点検を行う必要があるのです。

各機器の情報を吸い上げ、各機器が正常に動いているか判断する必要もあります。

 

判断するのは地上で待ち構えている人でも。軌道上にいる人工衛星でも構いません。

各機器の情報を吸い上げ、通信機器で地上に送る必要があります。人工衛星が判断する場合は、地上側に記録情報のバックアップをとるというイメージでも構いません。

 

人工衛星がどこにいて、どのような姿勢で、どんな温度で、どんな機器が動いていて、どんな機器が止まっているのか、通信できていない時に何が起きているのか、ハウスキーピング(HK)データと呼ばれるデータも地上に送り届けます。これは、前述の情報制御機器や通信機器が担います。

 

最後に、そもそもこれらの機器を一つの物体に収める構造、機器を一つにつなげる計装系と呼ばれるケーブル類が必要になります。

 

ここではさらに、運用の効率化や精度の高いミッション機器によるデータを取得するために、人工衛星の位置情報を把握する機器も含めれば、人工衛星の性能が向上することでしょう。

 

軌道を変えるための機器を搭載している場合もあります。

 

まあ、こんなところではないでしょうか。 

ミッションが変わっても、これらの機能はほとんど変わることはありません。

 

 

さて、だいたい人工衛星に必要な機能がイメージで来たでしょうか。

 

これら近い機能を持つ機器の集合体をサブシステムと称することもあります。

一つの機器で複数の機能を受け持つ場合もあります。

 

 

 

人工衛星のシステム設計の第一歩で、下地になる情報ということになります。

 

機能が、何やらいろいろありますが、ほんのり明確になったのではないでしょうか。

 

いつになるか分かりませんが、もし第2弾があれば、軌道上以外の機能要求と各種試験を見ていきましょう。

あとは、リスクと安全審査とかでしょうかね。

製造、運用、インテグレーション、インタフェース管理、文書管理とかもありますが、どうなんでしょうかね。