往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

振動試験よりも、実は熱試験が山場【宇宙機と熱試験】

機械系は熱試験において温度調節の条件も確認あるいは指示する必要がある

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Credits: NASA

唐突ですが、コンポーネント担当として、熱の条件すなわち温度範囲を設定しておく必要があります。

この温度範囲をもとに、熱試験の温度調節を行う必要があります。

 熱試験の温度調節の考え方は悩むポイントであるががいくつかあります。

そもそも、どの温度に設定するか、試験の目的によって違うということを認識しておく必要があります。

 

一つは可能な限り、実環境に近づける考え方です。

言わずもがな、実環境を模擬して、温度分布や物体間の熱の接触具合を確認します。

実環境とは、宇宙環境のことです。 

 

ただ、完全模擬するのは困難なため、試験基準も組織によってまちまちであることが多いのです。

 

次に、供試体の許容温度ギリギリまで温度を上げます。

 これは供試体の性能が許容温度まで保つのか確認するためのものです。

 

オーソドックスな試験は以上の通りです。

 

オーソドックスな試験以外にも熱に敏感で、かつ人工衛星システムの中で、ミッション等と呼ばれているコンポーネントあるいはサブシステムでは目的に応じた熱試験を実施する場合があります。

 

長期熱環境試験とか、長期真空環境試験とか、全体の人工衛星システムでは細かい調整ができないため、必要に応じて実施する試験です。

 

長期と言っても1年、2年のレベルではなく、数日から数カ月のレベルだとは思います。

 

 

そのような長期間の試験を行わず、通常の真空の熱試験を実施するのにも1ヶ月弱以上かかります。

 したがい、2ヶ月を越えるような熱試験は、傍から考えても、かなり長期な試験と言えます。

 

ここまでくると、研究の域に達することもあるでしょう。

人工衛星という分野に限らず、大学と共同で研究してもおかしくないレベルになるかもしれません。

 

そんな特殊な試験も場合によっては実施する必要があります。

特殊な試験という通り、熱の問題はトライアンドエラーという経験則による積み重ねで検証していく必要があるのです。

 

熱設計は経験則とはどこかで聞いたことがないでしょうか。

理論的に求めたとしても、複雑系に入り、多くの要素が関わる面倒な設計なのです。

 

その分、試験の結果がとても重要な部分を占めているのです。


振動試験では壊れないものがたくさん壊れるのが熱試験

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熱試験では電子部品が壊れます。

 

壊れはしないかもしれませんが、異常な動作を起こします。

 

電子部品単体では問題ない部品が、多くの部品が絡み回路となることで異常な動作を起こします。

 

磁力によるノイズが理由も場合もあります。

発信と呼ばれる、周期の変動が発生する場合もあります。

 

組み合わせにより必要な出力が出なかったり、波形にヒゲが発生することもよくあります。

 

このように熱試験ではいろいろ発生してしまいます。

 

振動という物理現象より、熱という物理現象の方が壊れるんですね。

 

振動試験は、構造モデルのようなものがあれば、一度、強い振動を加えても壊れないことが確認できていれば、その構造を真似ていけば、そこそこ壊れないものが開発できるのです。

 

しかし、電子部品は、ロット違いであったり、新規部品の追加により壊れることが多いんですね。

ここまでくると可能性が高くというより、リスクが高くなっているために、顕在化していたリスクが吹き出したとても表現するべきではないでしょうか。

 

したがい、現在打上げているコンステレーション人工衛星の場合は、おそらくですけど、数百点以上を超える部品を数千から数万単位である程度のシリーズすべてが近いロットで製造できるように準備していたのではないかと思うと、なかなか恐ろしいものがありますね。

 

ある程度が同ロットで、熱試験を実施ていれば、信頼度なり故障率も(故障が起きていない前提であれば)抑えられるために、一度に打ち上げられることができるんですね。

 

このように、事前の資金的な体力がないと、打上げも連続で続かないうえに、軌道上での故障の可能性も多くなるのです。

 

もちろん、ロットとか合わせずに打上げたという可能性も捨てきれませんが、人工衛星の開発や打ち上げ費用を考えると、成功率を上げるために試験をしたいと考えるプロジェクト方針もなくはないのです。

 

24時間、ほぼ目視管理である

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Credits: NASA


試験の中でも目視管理が長いのが熱試験です。

 

十分な熱設計であり、各コンポーネントが壊れるギリギリを確認する試験でなければ、設備によりますがほとんどオートで実施することができます。

 

ただし、おそらくは熱の1周期分(高温から低温/低温から高温)は目視の場合が多いのではないでしょうか。

 

1周期と呼んでいるのは、温度がオートというかプログラム上で最低温度設定と最高温度設定になったところです。

 

1周期で温度の傾向を見れば、危険な個所がないかある程度見極められるのです。

また、温度センサと連動している試験機の場合は、特定箇所が限界温度の±3度や±5度の範囲になったときに保護するような方向で動けばいいだけなのです。

 

一方で、目視で管理している試験機もあるのです。

 

今製造しているスタートアップの企業の人工衛星ではあまり経験がないかもしれませんが、目視で温度管理することもあるのです。

 

いくつか事情もあるかもしれませんが、施設を改修するのにはとてもコストがかかるのです。

 

特に熱試験機であるチャンバーは、大量生産しても売れないために特注品なので、とてもお金がかかるのです。

 

企業であったとしても、ある程度の見込みがなければ一新しないのです。

 

ただ、現在宇宙開発に追い風になっているので、装置を一新することも組織上も説明がつきやすくなっているかもしれませんね。