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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

放射線で故障して止まらないようにする原子力発電所や人工衛星で使用する電子部品の対策【宇宙機と放射線】

放射線対策と電子部品 

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-0200146

 

1970年に打上げられた地球観測衛星エクスプローラー1号機と後続のエクスプローラー3号機に搭載された放射線量を測定するガイガーカウンターによって、地球の放射線帯であるヴァン・アレン帯が発見されました。

 

さて、突然原子力発電所人工衛星で使用可能な装置を作ってくれと言われたらどうでしょうか。

 

多くの人は混乱するでしょうが、今回はその中で放射線耐性のある装置の製造と言われたときのヒントをまとめてみました。

 

 

機械装置では放射線に影響があるものは半導体電子部品、高分子材料、金属、表面処理(熱制御コーティング材)とされています。

 

この中で金属劣化は影響が少ないといわれており除外しておきます。

地上での装置を考えるのであれば表面処理による物性影響も、数年程度の短期間であれば影響は少ないため除外します。

 

大きな影響のあるものは半導体電子部品と高分子材料で。

その中でも半導体電子部品に注目していきます。

 

放射線に感受性の高い電子部品として挙げられる半導体電子部品ですが、具体的にはバイポーラトランジスタTTLCMOS、メモリ素子、FPGAです。

それ以外の電子部品は、とりあえず無視して、普通に設計していても問題はありません。回路設計での追加検討事項はありますが。

 

電子部品に対してどのような影響があるかは、JAXAの共通技術資料の耐放射線設計標準にまとめられています。

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JERG-2-143 耐放射線設計標準

http://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-143_N2.pdf

 

放射線を持つ電子部品Rad HAED品を聞いたことがあるでしょうか

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-PIA16938

 

電子部品での放射線対策の電気側の基本は回路設計となります。

どんな回路設計かは、今回詳細を省きます。

 

回路設計を含めた基本的な耐放射線対策は次の3点が上がります。並行で搭載しても良いですし、一つ一つでも効果はあります。

ただし、確率の問題もあるので、人工衛星では全て対応していることが多いです。

  1. 放射線による劣化を吸収するために回路まはた構造上のマージン
  2. 放射線耐性の強い部品、材料に変更
  3. 放射線シールドを付加し、宇宙放射線を減衰

 

電子部品の回路設計での対策の次は、放射線耐性の強い部品を使用することです。

放射線性電子部品ともいわれ、RADHAED品とも呼ばれます。

 

部品メーカーで販売しているRADHAED品は基本、製造工程の管理、試験を実施している対象を指しています。

部品によっては、線量である10kradでしたり、100kradまで対応可能などの選択肢があります。

試験も低線量率耐性試験や高線量率耐性試験といわれ、どちらもトータルドーズ試験といいます。ややこしいですね。

 

また、RADHARD品にも規格があり、MIL-STD-38535やMIL-STD-883等の規格に基づいたQualified Manufacturer List(QML)のクラス5(略称QMS-Ⅴ)というものがあります。この中に放射線試験の規格があるのです。

製造メーカー泣かせではありますが、品質管理の一つとして、製造ロットごとに放射線ロット受け入れ試験も実施するため、コストが上がったり、入荷時期が限定される可能性もあります。

そのほかにも、放射線耐性の認定として、JANS認定やESCC認定も存在しています。いや、把握できていないぐらい色々ありますね。

 

ただ、QMS-Vのような規格を取得していない場合でも、懇意にしている宇宙機JAXANASAESAの耐放射線規格に基づいて、試験を実施して、認定を取得している場合もあります。

 

その辺りは各宇宙機関の部品認定情報を取得する必要がありますが、基本は共有されているので各組織に聞かなくても、日本の場合はJAXAに確認することで取得できる可能性はあります。(やったことないけど)

 

JAXA宇宙用部品データベース

https://eeepitnl.tksc.jaxa.jp/jp/info/history.htm

 

人工衛星では、軌道に基づいて適切な線量率を当てて試験するということも並行して実施されています。

それは、RADHARD品は値段が高いことと、認定に時間がかかるために必要な時期に必要な量で、必要な性能の部品点数を確保できない可能性があるため、並行して放射線試験をしています。

 

原子力発電所用であれば、RADHARD品を素直に使用するのが良いかもしれません。

 

放射線シールドを追加してみませんか

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-jsc2002e20491

最後は放射線を減衰、反射する壁を追加してみることです。

 

軌道上ですが、軌道上で飛び交う宇宙放射線は、銀河宇宙線、太陽粒子線、補足粒子線という大枠の 3 分類されます。

その大枠の中で、主に陽子(線)や電子(線)、および重粒子(線)が飛び交っているのです。放射線の分類上は、これら陽子(線)、電子(線)、重粒子(線)も放射線の一つです。

 

これらとは別に、アルファ線ベータ線ガンマ線X線中性子線といった放射線も宇宙上で存在しています。ややこしいですね。

 

原子力発電所では、核分裂によりこれらアルファ線ベータ線ガンマ線中性子線を発生させます。

 

 この中で電子部品に影響が大きい放射線の種類は、ベータ線ガンマ線です。

 

この二つを遮蔽するため、止めるためにはどうすればいいのかというと、ベータ線についてはアルミニウムや薄い金属板で止められます。ガンマ線(ついでにエックス線)は鉛や厚い鉄の板が必要になります。

 

放射線の透過には、物質の密度や使用されている原子により変わります。さらには受ける放射線の種類によっても、使用する厚さが変わってきます。

 

ガンマ線の遮蔽に問題となるところは単純に重くなるということです。

 

人工衛星において重すぎると問題になるのは打ち上げコストが上がります。

次に問題になるのは、打上げ後に人工衛星の姿勢制御が愚鈍になることです。微重力である軌道上では自らトルクを発生させなければ、十分な動きができません。

 

地上においても重すぎれば、それなりの動力が必要になります。

動力が大きいということは、装置が大きくなり、移動に制限が出てきます。

 

また、この遮蔽にも欠点があり、隙間があればそこからガンマ線が入り込んでしまいます。一度入り込んでしまえば、逆に逃げ出すことができなくなってしまいます。

 

これは遠隔自動駆動装置を使用することも難しくしています。

 

結局のところ、放射線の遮蔽は制限付きになってしまうのですね。

 


 

 参考文献

cost-effectiveで長寿命な衛星搭載部品のガイドラインーINDEX衛星 を例にしてー

http://www.isas.jaxa.jp/home/saito_hirobumi_lab/_src/sc1163/2013.3INDEX959495i_8D8289B783G838C83N83g838D83j83N83X.pdf

Radiation hardening

https://en.wikipedia.org/wiki/Radiation_hardening

 米国のプロジェクト向けの認定を取得したクラス最高のRad-Hard製品を発表

https://www.renesas.com/jp/ja/solutions/key-technology/rad-hard.html

ST、航空宇宙産業向けにQML-V規格認定のアナログICラインアップを拡充

https://news.mynavi.jp/article/20110929-a115/

半導体に対する三つの放射線影響とその照射試験

http://www-vlsi.es.kit.ac.jp/SERconf/2011/3-2_onoda.pdf

リニアテクノロジー、広く使用されている放射線耐性を強化した製品に対応するQMLクラスVの標準マイクロ回路図面(SMD)を提供開始

https://www.chip1stop.com/JPN/en/news/detail?no=NC00015174

航空宇宙 & 高信頼性ESCC/JANS/QML認定製品

https://www.st.com/content/ccc/resource/sales_and_marketing/promotional_material/selection_guide/group0/55/34/14/d0/e4/7a/48/09/Aerospace_and_Hi_rel_ESCC_JANS_QML_products/files/RGAERO0719_lr.pdf/jcr:content/translations/ja.RGAERO0719_lr.pdf

 

https://japan.cnet.com/release/10459615/

放射線はどこで生まれる?

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1s-01-2.pdf

ガラス容器で霧箱を作ろう

https://www.jrias.or.jp/seminar/pdf/kyouiku-jikken-note.pdf

宇宙放射線

http://edu.jaxa.jp/contents/other/seeds/pdf/2_radiation.pdf

https://www.rikanenpyo.jp/FAQ/seibutsu/faq_sei_003.html

RADFETによる宇宙機環境におけるトータルドーズ計測法

https://ir.kagoshima-u.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=6850&item_no=1&attribute_id=16&file_no=2

放射線の種類

http://rcwww.kek.jp/kurasi/page-32.pdf

ガンマー線の遮蔽(しゃへい)

http://www.tak-corp.com/sub14-3.html

医療用高エネルギー電子加速器使用室に対する遮蔽計算指針

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrt/44/6/44_KJ00001361311/_pdf

放射線遮蔽用ガラス

https://www.neg.co.jp/assets/file/rd/archive/rd_102-p004.pdf