忘れていませんか? 振動試験機が動くとチリやホコリが舞いますよ?
振動試験をすると、試験機が揺れます。
それはそうなのですが、試験機が揺れるとホコリが舞うので清浄度が悪くなります。
清浄度管理がされていない振動試験の場合は 考える必要はないので、他の業種ではほとんど考えられていません。
清浄度管理が、宇宙機において通常の試験施設と違うところであり、悩ましい所です。
清浄度管理要求はこちらの記事を参照してください。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
人工衛星試験の清浄度管理方法にはいくつかあります。
設備に対しては、
人工衛星に対しては、
- 人工衛星全体を包む試験用保護カバーを取り付ける
- 清浄度管理が厳しい対象のみ試験用保護カバーを取り付ける
管理方法に対しては、
- 試験時の清浄度管理の規定を緩める
- 清浄度管理が厳しい対象はダミーウェイトを使用して厳しい対象のみ清浄度管理された試験設備で試験する
- 振動試験をしない
だいたいこれらの手段が取られるのではないでしょうか。
人工衛星の振動試験と清浄度管理
設備に対しては、清浄度管理の可能な振動試験設備を使用するというのがオーソドックスな手段ではないでしょうか。
いわゆる、クリーンルームの中に振動試験設備があるというパターンです。
振動試験によって清浄度が上がるため、試験中の清浄度の許容を限定的に下げるなどして対処を行います。
クリーンルームがある振動試験設備というのは、組織内管理の施設であることが多いです。
一般に振動試験とすると、自組織内に設備がなければ、各県の産業技術総合センターや工業技術総合センター、試験センターを利用することになります。
しかし、それらの施設はクリーンルームではありません。
クリーンルームでの公共施設があるとすればJAXAの試験センターになります。
その一つの手段として、試験設備内にHEPAフィルターを備え付けた簡易クリーンルームを作成するという手段です。
可搬型(移動式)の簡易クリーンルームが存在するか不明ですが、1から作り出す場合には1週間以上かかるのではないでしょうか。
その間、施設を借用することになります。
簡易クリーンルームが作れない場合は、試験用保護カバーを取り付けるという手があります。
簡易クリーンルームでなくとも、設備操作エリアと試験設備を別にすることで、最大の汚染物質となる人間と人工衛星を分けていれば、清浄度悪化はある程度避けられます。
試験設備に人間と人工衛星があった場合でも、基本は必要以上に人間が動かないこと、それが大事になりますけどね。
試験用保護カバーとしていますが、振動試験治具で人工衛星を囲み、密封状態にして振動試験するという手段です。
振動試験を実施する際に、試験機と固定するための治具がほぼ必須となります。
必須の治具であるため、振動試験治具の設計時に密封することを考慮していれば、余計なコストもかからることはありません。
もちろん密封時にはクリーンルームなどの清浄度が管理された部屋で実施することが望まれます。
振動試験治具を密封するという手段は、人工衛星が小型なもの限定となります。
これらがベースの手段となります。
残りは、人工衛星すべてに対してではなく、清浄度管理が厳しい光学機器などのミッション機器にのみ保護カバーを取り付けるという方法です。
前提として、人工衛星に保護カバーが取りつく構造であることが必要となります。
ただしこの方法を取ると、人工衛星本体が汚染されてしまいます。
人工衛星が汚染される場合に気を付けなければならない点は、打上げの際に、ライドシェア(相乗り)を行い時に他の人工衛星も汚染されてしまうということです。
振動試験後にベーキングや洗浄を行い、汚染物質を脱離させておく必要性も考えておいた方がいいかもしれません。もちろん、プロジェクト判断によるものだと思いますが。
このように施設や人工衛星の構造上、対策できない場合はどうすればよいでしょうか。
簡単です。
試験時の清浄度管理の規定を緩めるのです。
宇宙機において、清浄度を管理する一番の理由は、ミッションへの影響や打ち上げロケットへの影響を低減させるものです。
もちろん、宇宙船を利用して、人や動物が乗り込む場合は、有害物質が混ざることは大きなリスクを伴うため、清浄度管理は必須です。
最近は惑星探査において。探査機に付着した地球由来の物質が混ざってしまい、分析が難しくなるため、清浄度管理は必須なのです。
ロケットやライドシェア衛星への影響を無視しつつ、ミッションへの成功率を下げても良ければ、清浄度の管理の規定を緩めることは可能なのです。
ミッションへの影響は、光学観測機器が汚れることにより十分な観測、十分な性能が出ないこと。
汚染物質により、有機材料であるケーブルやMLI(熱制御材)、接着剤といったものが劣化し、人工衛星の軌道上での活動期間を短くさせます。
もっと致命的なことを忘れている気がしますが、こんな感じです。
それらのリスクを考慮しつつ、清浄度管理を下げるのです。
例えば、振動試験という限定的な時間帯であることを加味しつつ、振動試験後に清浄度が向上できる対策である人工衛星自体のベーキングや真空による物質の脱離、重要部品の洗浄を実施するというのも一つの手段です。
あとは、すべての機器が一律で高い清浄度を求められているわけではないので、一部の試験においてはダミーウェイトを使用するのありだと思います。
別途、機器は振動試験する必要もありますが、機器単位であれば、保護対策の手段が増えます。
ここで問題となるのは、組み合わせた状態で振動試験を実施しないことで、ワークマンチップの確認ができなくなるということです。
ここでいうワークマンシップとは、人間の手で作られた製造物であるため、ヒューマンエラーが発生する可能性があるため、試験することでヒューマンエラーがないこと(炙り出すこと)を確認するというものです。
正確には人工衛星の仕上がりを意味するところですが、使用される場面ではヒューマンエラーがないことが多いです。
環境試験の多くはワークマンシップの確認の積み重ねでもあるのですから。
一方で、全てをオートメーションで製造する場合は、ヒューマンエラーはなくなりますが、オートメーションの機械による製造差から発生する不具合も考慮していく必要があります。まあ、それはともかく。
簡単に言うと、失敗確率を下げる振動試験を実施するということです。
振動試験をしないことはワークマンシップとのせめぎあいになります。
製造組織のルールにより、どの程度苛烈になるか分かりませんが、人工衛星全体の失敗か、ミッション単体の汚染か、というコストや信頼をパラメータとした天秤になるのではないでしょうか。
さらには打上げスケジュールなどにも関係していきます。
ただ、ワークマンシップに対しては、二重・三重の製造管理をすることで対策するというのも組織にとっては有りです。
環境試験や電気試験の短縮化は、ワークマンシップを減らすことになるため、別の手段で担保していくのも有りです。
まあ、ロケットの打上げタイミングが多ければ、短いサイクルで人工衛星を製造し、トライ&エラーを繰り返し、信頼性・技術の向上を高くするのもありですが、現状では厳しいです。
最後話がずれましたが、清浄度超過対策を話しました。
もちろん、清浄度管理に時間制限を付けて、X分以上超えないように管理するというのも有りです。
その場合は、汚染物質の塊である人間が作業場から脱出する必要がありますけどね。