往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機とケーブル】人工衛星は常に痩せたがっている

ハーネスの重さを甘く見てはいけない

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ハーネス、ケーブル、ワイヤ、電線、線材など呼び方はそれぞれあるが、どうもハーネスという呼び方が自分の居た業界では多いように感じています。

 

人工衛星に限らず、ハーネスは人間でいうと、血管や食道、神経といった役割を持ちます。どれか一つでもでも失えば、健常的な生活を送ることが不可能であるように、人工衛星もとても厳しい環境に陥ります。

 

 

宇宙機でハーネスに発生する問題としては、ハーネスのルーティング(配線)、質量、拘束箇所などがあります。

 

人工衛星設計の中で質量は、ロケットペイロード(ロケットに搭載可能な質量や形状)の問題で限られた分しか搭載できません。

人工衛星製造の中でどのように軽量化していくかを検討していくことも重要になっていきます。

 

人工衛星の中でハーネスが占める質量は10%を超えることが多いです。いくつか理由がありますが、その一つにハーネスルーティングがあります。

 

ハーネスは3Dモデル上で検討する場合もありますが、実物大の人工衛星を模擬したハーネスボードを使用して実際にハーネスのルーティングを検討することもあります。

また、宇宙用のハーネスは、被覆からのオフガス・アウトガスが発生しないようにフッ素加工のケーブルを使用します。JAXAの材料データベースで確認してみてください。

 

フッ素加工されると、ハーネスの曲げ率が変わり、とても硬くなります。

一般のハーネスで検討していると、あまりの硬さに再検討を余儀なくされます。

 

さらにハーネスを製造するということはコネクタも接続していかなければならないことも忘れてはいけません。

コネクタにハーネスを接続させるところから製造は始まるのです。人工衛星の規模にもよりますがとても時間がかかります。さらに時間がかかりますが、導通チェックの必要もあるでしょう。

 

そこまで準備・検討して、機器の取り付け場所までハーネスを伸ばし、他の機器と干渉しない様に検討しつつ、パワーラインと通信ラインはノイズの関係からなるべく重ならない様に設計します。

ノイズ低減を考えるのであれば、EMI用コネクタやシールドコネクタと呼ばれているコネクタ、アルミや銅フィルムでハーネスを包んだりと質量の許す限り考えなければなりません。

 

ハーネスが束になりすぎると、放熱効果が薄れ、予想以上に発熱することもあります。

ハーネスが発熱すると、被覆が溶けることもありえますが、ハーネスの中を通る銅線も熱により抵抗率が上がることも考えられます。

 

宇宙に限らず、ハーネスの熱による影響は十分に考慮しておく必要があります。

 

そう考えていくと、ハーネスのルーティング当初の予定より長くなっていくことも考えられます。ハーネスの長さが足りない場合は、電線のカットから始めなくてはなりません。

 

さらに、人工衛星に限らず、一品ものの製品は、コネクタに挿入されるハーネスが必ずしもストレートで端部に取り付けられているコネクタ同士が同じ番号のハーネスを通るわけではありません。中には、途中で2つのコネクタに分かれることもあります。

 

そうこう検討しているうちに、1週間、2週間と経過していきます。

 

この作業をハーネスボードを使用し、検討する場合もあれば、フライト用モデルであったり、地上試験用モデルであったり、予備モデルを用いて設計していきます。

以下に3つの例を示しますが、大型であろうと中型であろうと、大体似たような密度になります。

 

福井県製造の量産型 3U 超小型人工衛星の公開について

https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/sinsan/fukusat/3uem_d/fil/detail.pdf

小型衛星“れいめい”の開発

https://www.ssken.gr.jp/MAINSITE/download/newsletter/2010/20101021-joint/lecture-04/SSKEN_joint2010_saito_PPT.pdf

www.index.isas.ac.jp

 

参考

JAXA材料データベース

 

www.nihon-maruko.jp

www.wako-elc.co.jp

www.kae-gifu.co.jp

t-tosaki.co.jp


振動試験でハーネスは切れる

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振動試験でハーネスは切れます。

ハーネスは軽いため高周波域で触れていきますが、その触れ方はとても細かい振れ幅になります。

 

細かい振れ幅で、回数も多いため近くに鋭利な部分がなくとも、角(カド)があると接触した時に簡単に被覆が切れます。

 

被覆が切れ銅線が見えると短絡が発生します。

これが振動試験前後に電気試験を実施している理由の一つでもあります。

 

振動試験前に確認しなければ、振動試験でハーネスが切れたのか、そもそもの設計が間違っていたのか、コネクタの接続不良だったのか、異物混入だったのかわかりません。

 

振動試験後に確認しなければ、上記の理由のほかに、振動による切断という観点も入れて調べなおさなければなりません。

すべてのハーネスを再製作することは不可能ではありませんが、言葉でいう以上の時間のロスになります。

 

もちろん、振動試験でハーネスが切断できない程度の太さにする検討もありますが、それでは質量問題が浮上していきます。

人工衛星の中でも数割の質量比率をもつハーネスが数%でも増えたら、その分を減量しなければなりません。

 

このハーネスの振動を減らすにはどうする必要があるのか。

人工衛星のパネルや機器の筐体に拘束して、ハーネスの不要なたるみを減らす必要があります。

 

このたるみは重要で、あまり拘束し過ぎるとハーネス動かなくなるため、コネクタに直接振動が伝わり、接触不良や脱落の危険性もあります。

 

角にかかる場所は無理に拘束せずに、テープなどを貼り付け、パネルの摩擦を減らし切断力を弱めるということもしていくとよいでしょう。

 

ハーネスというくくりでいうと、機器内にある基板のジャンパーにも十分気を付けましょう。