衛星の開発はいくつかのフェーズに分かれています。
- 概念設計フェーズ
- 予備設計フェーズ
- 基本設計フェーズ
- 詳細設計フェーズ
- 維持設計フェーズ
各フェーズの定義は、各組織によって違いますが、だいたいハーネス設計は基本設計フェーズから始まります。
基本設計フェーズでは、搭載するミッション機器(通信機器、光学観測機器、レーダー機器など)をはじめ多くの機器が確定しています。
機器が確定してからハーネス設計を開始することができます。
ハーネス設計は構体設計や機器配置設計に大きく関わり、重量配分や製造時のリードタイムにも影響していきます。
今回はハーネス設計のルーティング検討のポイントをまとめていきます。
ハーネスの実装や配線の基礎に関しては過去の記事を参考してください。
ハーネス設計の検討ポイントの洗い出し
ハーネス設計の検討ポイントは次の通りです。
こう並べるとたくさんあるようですが、単体ではシンプルで分かりやすく、そして、多量にあるため間違いやすい。
それがハーネス設計です。
- ハーネスのたわみ
- ピンアサイメント
- ノイズ
- 機器配置
- 機器のコネクタ方向
- コネクタのオス側/メス側
- クロス配線
- 配線の固定
- シールド線
- シールドコネクタ
- 環境試験用ハーネス(温度センサ、加速度センサ)
ハーネス設計のルーティング検討の基本設計フェーズ編
ルーティング(配線)検討は誰が行うのか。
機械設計者?
電気設計者?
通信設計者?
実装/艤装作業者?
個人やある設計者グループではありません。全員で実施します。
機械設計者が取りまとめを行うことが多いのは事実です。
それは機器配置を機械設計者が実施することが大きな理由ではないでしょうか。
ただし、機械設計者だけで確認してはダメな理由が3つあります。
- ハーネスのたわみ/曲げ
- ピンアサイメント
- ノイズ
ハーネスが集合し過ぎてたわみの考慮が抜けてしまう。
人工衛星の規模にもよりますが、ハーネスは大型になると成人男性の腕周り、太もも周りより太くなります。
キューブサット級と呼ばれる手乗りレベルの人工衛星ではハーネスのたわみの影響は少ないです。
しかし、50cm級ぐらいを越えた辺りから、サインペン/マジックペンよりも太いハーネスが出てきます。
スペックシートやWEB情報やカタログ情報で出てくる曲げ半径は、1本あたりの曲げ半径です。
ハーネスの線径にもよりますが、5本を越えた辺りから曲げた時のたわみの影響が出てきます。
3DCAD上で検討し始めていたら、理想的なハーネスルーティングと現実的なハーネスルーティングにギャップが生じることを汲んで設計する必要があります。
経験のある実装/艤装作業者に確認したり、サンプルのハーネスを束ねて再現してみた方がよいでしょう。
フッ素系のケーブルや通信仕様、シールドケーブルは硬くて曲げにくいと言うことを念頭において設計しましょう。
ピンアサイメントは機械設計者だけでは対応しきれません。
こちらも人工衛星の規模にもよりますが、電気設計者や通信設計が協力して情報を提供する必要があります。
開発する衛星が複雑であればあるほど、似たようなコネクタが出てきます。
電源機器1、電源機器2などであれば、機器設計の中で見分けがつくようにピン数を変更することは可能です。
しかし、電源機器1、通信機器1、制御機器1などと別の機器が混ざると混乱のもとになっていきます。
他の設計者と共に確認しておく必要があります。
ノイズは機械情報だけでは読み取れません
電流ノイズが通信/制御信号に影響を与えることぐらいは感覚として分かるかもしれません。
機器配置において、電力用のハーネスと通信/制御信号用のハーネスを近づけなければ配線できないこともあります。
ノイズの影響を受けやすい機器の情報などを提供したり、配線結果から確認しておく必要があります。
機器配置がほぼ確定していれば、ノイズの問題があるため、電気設計者が最初期のハーネスのルーティング案を考えることも以降の開発を考えれば有用といえます。
電気設計者側は、ルーティング案を考えなくとも、機器Aと機器B間のハーネスαは、機器Cと機器Dのハーネスβと可能な限り離すことなどの注意点を洗い出しておくことが、設計の出戻りを減らす一歩ではないでしょうか。
注意事項を洗い出しておかないと、製造後半で急遽変更が発生した時に、大きく影響します。
リポート品でも類似設計、流用設計であってもベースとなる注意事項/制限条件をまとめておくことが必要となります。
センスのいい人に任せてもいいですけど、2台目、3台目と製造していくにつれて、属人的になり、再現性が低くなるので注意が必要です。
機器配置から派生するハーネス設計のルーティング検討
機器配置はだいたいミッション機器の配置が先に決まります。
もちろん標準衛星バスと呼ばれるバス機器の標準セットを購入する場合は、ミッション機器の配置が最後の方になります。
その場合はハーネス設計も比較的簡単であるのでそもそもハーネス設計なる担当の出番が限りなく少なくなります。
バス機器:人工衛星が動くために必要なすべての機器。無いと人工衛星が動かなくなるほどに必要な機器。人間で言うと内蔵といわれる。
ミッション機器を配置し、姿勢制御機器と軌道制御(推進)機器を配置します。
姿勢制御機器や軌道制御機器は、ミッション機器をのどの方向に向けるか、地表を向けるのか宇宙空間を向けるのか、やりたいことを考えて決断していきます。
次に通信機器の配置を決めていきます。
主にアンテナが含まれます。
ミッションが成立するような姿勢制御を行い、その姿勢制御の範囲で通信が可能なように配置していくという流れです。
そして、電力電源機器や制御機器を配置していきます。
機器を配置した後に、太陽光電池の配置を考えていきます。
今まで選択した機器で電力が充分であればよいのですが、十分でない場合は展開パネル(パドル)方式の検討や選定していた機器のグレードをダウンさせたりと選定をし直していきます。
既存の人工衛星の配置をもとに設計したり、人工衛星開発の経験者であれば、先に太陽電池配置や蓄電池配置を行う設計者の方が多い気がします。
既に機器選定の目途がついているため、制約条件になりうる太陽電池配置を先に検討しているのでしょう。
一から始めると、電力系の解析を含めて、機器配置を抜本的に見直したり、微調整しています。
機器の配置には、さらに電磁、通信ノイズの影響がないように、感度の高い観測機器に気を付けたりします。
電磁、通信ノイズ以外にも、姿勢制御に使われるホイール系やモータ駆動がある機器のノイズや振動による観測機器の精度ずれに気を付けて配置する必要があります。
小型衛星の場合は、抜本的対策ができるだけの電力は質量配分の余り分が少ないために対応できなくなることが多いので、何かを優先とするか方針が必要となります。
優先を決めずにバランスを取る場合、汎用品となりますが、高性能なミッション機器の搭載が難しいということだけ知っていれば良いかと思います。
これらの配置をした上で、ハーネスの配線を行います。
この時点で気を付けるべきことは、信号ハーネス、電力ハーネス、通信ハーネス(同軸ケーブル)は、ノイズの影響から並行して一気に決めていきます。
そして、ハーネスのルーティング(配線)ではなく、信号ハーネスなどの種類が出そろっていること確認することをあげておきます。
もしヒータの検討が済んでいれば、しっかり盛り込んでおくことが大事です。
初期段階、いわゆる概念設計や基本設計フェーズの初めの方では、コネクタのピンアサイメントなどの情報は不要です。
現時点での実現性がありそうな実装レベルと、使用するハーネス(信号、電力など)に不足がないことまでとします。
実装の実現性に近いのですが、ハーネスの線種やハーネスを束ねた時の太さも目星をつけておいた方がよいですが、スケジュール次第で優先度として低いですね。
また、質量配分にハーネスの項目を入れるべきかは要検討ですね。
非接触充電などを行わない限り人工衛星全体の15%~35%近くになることが多いハーネスは基本設計フェーズでの詳細化がかなり困難です。