宇宙機電子部品実装の中にハーネス設計はある
宇宙機電子部品実装というくくりで、ハーネス設計が行われます。
宇宙機の電子機器の実装について振り返ってみましょう。
- 絶縁繊維樹脂材の板に、薄くて細い銅のラインを引き、似たような板を数枚から十数枚以上重ねてプリント基板を製造する。
- プリント基板の上に部品を配置し、はんだと呼ばれる鉛と錫を主とした合金により接合する。
- プリント基板を筐体に配置し、ハーネス(ケーブル)をプリント基板と接合し、コネクタにより筐体外部との接続するラインを作る。
- 別の筐体・電子機器を接続するために、ハーネス(ケーブル)を伸ばし、コネクタで接続する。
詳細は省くにしても、だいたいはこの流れで実装が進みます。
それでは、ハーネス設計を紹介していきます。
宇宙で使用されているハーネス(ケーブル)は
結論の3項目
- 宇宙機器ではAWG8~AWG28が良く使われている。
- 電線はフッ素系が使用されており、アウトガスの結果も良好で、ベースの白色であることは熱的にも良好である。ただし、硬く、配線しにくい。
- ノイズ低減策としてシールド線やシールドコネクタが使用される。
最初の設計は、単線結線図などの回路の設計が進められているかと思います。
図面を描いていく中で、実現可能な電線の線種を選定していくかと思います。
が決まっているのであれば、電線はどの線種を利用すればいいのかという話になるでしょう。
ワイヤディレーティング設計標準では、単線の最大電流が次のように示されています。
条件としては周囲温度が70℃で、熱真空環境下の推奨電流なのですが、周囲温度が上がれば、電線の材料の抵抗値が上がるため、注意が必要です。
表中ではAWG4~AWG30の電線を例にあげていますが、AWG30となると線種の直径は0.2546 mmで、JIS規格で示すと0.05097 SQとなります。
なかなかの細さです。
標準に書かれているとはいえ、振動時の振れを考えると細すぎるも要注意ですね。
実際のところはAWG8~AWG28を使用されることが多いようです。
さて、線種が確定すると、ハーネスの材料(電線被覆)に進むと思います。
そこで使用するのはJAXA材料データベースですね。
そこで挙げられているのは、次の二つですね。
- フッ素系(ETFE Raychem、PEA)
- ポリエーテルエテールケトン系(PEEK)
フッ素系の電線はよく使用されており、白色が使用されることが多いです。
フッ素系の電線が使用されているのは、アウトガス測定の結果、他の電線被覆よりも有利だったのがあると思いますが、少し硬いので配線には注意が必要です。
白色なのも熱的に有利に働いており、熱が吸熱しにくい表面色であり着色もないため劣化されにくいとされています。
また、電流が多くノイズを発生する場合は、ノイズ低減策としてシールド線やシールドコネクタを使用することもあります。
地上機器/一般製品ではノイズ対策にフェライトコアを使用することもあるのですが、磁石を搭載すると姿勢制御機器で磁力を発生させたり、検知する装置に影響を与えるため、人工衛星では大きいフェライトコアが使用されることは限りなく少ないです。
これらの電線は、電力ケーブルや信号ケーブルに使用されます。
通信ケーブルには柔らかい被覆ではなく、Semi-Rigid(セミリジット)ケーブル、Rigid(リジット)ケーブルとも呼ばれる同軸ケーブルが使用されることが多いです。
Semi-Flex(セミフレックス)ケーブルもあるのですがロス分や通信電波の安定性を考慮して、人工衛星内部には使用されることは限定されています。(人工衛星の電波を受ける地上局側では、使用されてはいます。)
これらの組み合わせで何百、何千という人工衛星のケーブルが血管のように張り巡らされているのです。
つづいて、人工衛星に配線(ルーティング)する実装設計に進んでいきます。
ハーネスルーティング実装について
結論の2項目
宇宙機器に限らず、ケーブルの曲げ半径を考慮しながら配線していかなければいけません。
標準記載の下記に示しますが、恐らく通常の曲げ半径より厳しい条件ではないでしょうか。
人工衛星は配線する空間も限られ、電力ケーブルや信号ケーブルのノイズも考慮して配線を考慮する必要があります。
搭載機器数や人工衛星のミッション数が少なければ、机上の設計を実機にて再現可能かもしれません。
しかし、大型衛星に限らず小型衛星でもハーネスボードを使用してハーネスの曲げを確認し、ケーブルに曲げの癖をつけた状態で実機に結合させることも多いです。
ハーネスボードとは、人工衛星と原寸のモデルを作成し、ハーネスの配線及び必要な個所にコネクタの金具を取り付け、ハーネス長や配線、組立性を確認するモデルのことを指しています。
人工衛星のEM(エンジニアリングモデル)品を流用したり、清浄度環境に影響の少ない範囲の強度を持つ材質を使用することが多いようです。
日本マルコのサービスに三次元ハーネスアセンブリというものがあり、近いサービスなのかもしれません。
衛星用三次元ハーネスアセンブリ - 日本マルコ株式会社|小型・多芯・光コネクタ、ハーネスの専門メーカー
サービス上はCADによるモデル作成のようですが、モデルの作成である程度のハーネス長さを検討し、実機で確認するということが実施していた方がリスク低減にはなるかと思います。
ハーネスの縛り方
宇宙機器内部のハーネスを拘束する場合は結束紐(結束糸)を使用することが多いです。
今時、紐で結ぶと思う人もいますが、結束バンド(呼び方が多数あり、インシュロック、ケーブルタイ、結束帯、結束タイ、配線バンド、ケーブルストラップ等)は、宇宙機器内部では比較的サイズが大きく高密度で各部品が密集しているため、振動でぶつかってしまったり、固定箇所が無かったりするので、結束糸を使用しているのです。
どのように縛っているかですが、JAXA標準やNASAスタンダードにも記載があるのですが、下記記事が分かりやすいので紹介しておきます。
ただ、結束糸の量が半端なく多くなったり、連続でつないでいく必要があるので、適用している組織は少なくなっているのではないでしょうか。
片結びやこま結びはさすがにありませんが、もやい結びや二重結び、二重巻き結びをされているところが多いと思います。
結び目に関してはポッティングによる接着をしていることが多いのかもしれませんね。
宇宙機器内部はともかく、宇宙機器間のケーブルについては結束バンドにケーブルをまとめています。
JERG-0-041 宇宙用電気配線工程標準の中には結束バンドの締め付け方法や取付方法の記載があるので合わせて記載しておきます。
ケーブルに対してする注意点は、他のJAXA標準の記述の中でも細かい部類に入るのかもしれませんが、数多く不具合の上で書かれているため、実装前に確認しておいた方が良いと思います。
ありがたいことに、結束紐や結束バンドの間隔も書かれているので、合わせて載せておきます。
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mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
参考文献
衛星用三次元ハーネスアセンブリ
http://www.nihon-maruko.jp/case/harness02/
ノイズ対策の基礎 【第8回】 フェライトコア
https://article.murata.com/ja-jp/article/basics-of-noise-countermeasures-lesson-8
結束バンドとは?/結束バンド選定のポイント
https://www.hellermanntyton.co.jp/information/lnsulok/point.html
ロープの結び方
http://trpla.nrc.gamagori.aichi.jp/kyoiku/musu/musu/
メタルマウント パンドウイット(PANDUIT)