往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機と試験機器】人工衛星の地上品ってどうしていますか

フライト品とノンフライト品

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宇宙業界では軌道上まで送り届ける対象をフライト品、軌道上までいかない対象をノンフライト品といいます。人によってはフライトアイテム、ノンフライトアイテムとも言います。

 

 

主にロケット搭載時に使われることが多い言葉で、打ち上げ直前に搭載する対象なのか、そのまま地上に残していく対象なのかを分けることが多いです。

 

主に、光学機器用のフタであったり、機構部品に必要以上の負荷を掛けないようにするサポータ、コネクタにゴミが入らない様にするコネクタカバー/コネクタキャップなどが該当します。

 

一方で、評価用として地上に残しておくものもあります。

 

開発・製造中に、試験用に機械的に大きな負荷を掛けたり、電気的にも厳しい試験をすることを念頭に開発された機器及び人工衛星があります。

 

人工衛星は特注品であることが多く、試験による蓄積ダメージを気にすることがあります。人工衛星はリソースに対してギリギリの設計をしている場合が多く、今までの経験上、地上で実施する試験で多くの不具合・破損が発生した経緯があるのかもしれません。

 

現在の人工衛星開発ではマージンを多く含んだ設計となり、特に機械系でいうならば、設計値を間違えていなければ、破損することはありません。電気系でも冗長設計により回路規模が大きくなっていたということがあるかもしれません。

 

現在では、プロジェクトごとで人工衛星運用にクリティカルなダメージを与える部品や回路、機構を検討して、試験用に一部の機能を再現した地上モデルを作成したり、フライト品と同型品を試験することが多いようです。

 

フライト品に掛かる以上の負荷を掛けて、限界性能を確認するために使用するモデルをエンジニアリングモデル(EM)であったり、地上用モデルと呼ばれたりします。機械負荷を確認することがメインの場合は、ストラクチャモデル(SM) と呼ばれることもあります。


分析が必要だからEMの役割

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提供:NASA

試験で確認することがEMの役割ですが、打上げらるフライトモデル(FM)が地上にいるとき以外に、打上げられた後にも使われます。

 

地上にいるときは、FM以上の負荷を掛ける製品としていることが多いですが、試験負荷以外はFMと同じであるためFMで不具合が起きた時に、交換用としてEMを使うこともあります。これは人工衛星の部品が高価であったり、納期が長かったり、部品実装の時間がかかったりするため、基板や筐体など事情があるためです。中には保管環境が悪くて、使用できないこともあります。

このような理由から、人工衛星の機器を製造する際は、機能をユニットごとに分けて交換しやすいようにする工夫がされていたり、故障個所を修復しやすいような基板構成にしています。すでに、多くの実績を持つ場合は、回路構成をまとめ、高密度化にして基板を縮小して、機能を追加する場合もあります。

 

打上げた後もEM品は使われます。軌道上での不具合が発生した時に、地上に送られたきたデータを分析するために、EMが使われることがあります。主に不具合が発生した時ですが。さらに言うのであれば、人工衛星が喪失したときに、すぐに次号機を打上げられるようにしておくということも可能です。

人工衛星は、民生部品/工業用部品を使い、コストや納期を短縮している方向ではありますが、どうしても信頼性の高い部品を使う場合に、納期が長く、コストがかかる場合があります。その時に、EMとしてFMと同時か先行して購入しておくことで、リスク分散をしているのです。

 

もしかするとユーザーからは、なぜ人工衛星を二つ作るのか、削減できないかということを言われるかもしれません。しかし、様々なリスクを考慮するとコストやスケジュール的にEMを製造していた方が、成功する可能性が高いのです。

大量に製造し提供される一般製品でも不具合が起きるのに、1品しか製造しない製品で不具合が起きたら、スケジュール的に困難なものとなるでしょう。

人工衛星の製造期間は数年規模なので、様々な計画に乗らなくなるのです。

 

ただ、同じ人工衛星を何基も製造することで、不具合の発生する箇所を修正していくことで、EM品を製造しなくても済むようになります。

 

初期の計画で、長納期の部品を大量に購入しておく計画であれば、組立と試験期間のみで打ち上げることも可能です。

組立と試験期間さえ済んでいれば、保管期間後の簡易的な確認試験を実施することで、さらに短くできます。

 

注意することは、国際周波数調整だけです。

この期間は必ず必要になるため、人工衛星を製造したらすぐに打上げられるということはできません。

恐らくこの国際周波数調整も工夫することで時間短縮は可能かと思います。