人工衛星の蓋の存在はあまり知られていないかも
展開機構の中には人工衛星に搭載される望遠鏡あるいは光学レンズの蓋が存在します。
日本の衛星でいうと太陽観測衛星ひのでや赤外線天文観測衛星あかりが該当します。
一挙両得のために、蓋に太陽電池セルを貼り付けて展開と同時に太陽電池セルを任意の方向に向けるということも行われます。
そもそも望遠鏡に蓋が存在する理由としては 、光学レンズ部分にゴミが入らないようにするためである。いわゆるコンタミネーションといわれるゴミがレンズにつかないようにする。
通常のカメラでなくとも、スマホのカメラを使用したことがある人ならば、レンズにゴミがつくという経験をしたことがある人は多いでしょう。
地上であればレンズにゴミがついたとしても、拭いて洗浄することは可能ですが、宇宙空間ではそれができません。
初めからゴミがつかない様に管理していく必要があるのです。
宇宙からの画像の一部にゴミが付着したとして、それを判別する方法には時間がかかります。複数の画像を取得して同じ個所にボケや画像欠損、黒色物があるか確認する必要が出てきます。
中には、高い温度によって膨張して初めてレンズに映るものもあれば、低い温度でレンズに吸着して映るものもあります。
光学機器の使用をメインの目的としている人工衛星は、コンタミネーションへの管理は重要な要素なのです。もちろん、その分管理コストが増すので、どこまで管理するか。打ち上げ直前に洗浄すればいいのではないか、という考え方もあります。
人工衛星のユーザーがどこまで許容できるかによって決まってきます。
また、人工衛星の光学面に蓋を付けるのは、コンタミネーションへのリスクを低減することと、さらに打ち上げ直後のリスク管理も同時に行っています。
打上げ直後の光学面へのリスクは、温度の急冷によるレンズへのコンタミネーションの吸着があります。物体は、温度が高い所より温度が低い所に動く性質があります。これはロケット内部に搭載されていた空気が関係しており、空気が気流を生み、温度が低い所に向かってコンタミネーションが向かいます。
カメラを扱った人なら経験があるかもしれませんが、カメラレンズは冷えやすく、すぐ霜がつきます。単なる霜であればレンズや周辺機器、人工衛星全体の温度を上げて、気化させることで深宇宙側に放出させることは可能です。
しかし、コンタミネーションがついてしまうと、水分と一緒にコンタミネーションも放出できるかは、それこそ何回もシミュレーションや実験を行っても、答えを出すのは難しいのです。
このリスクがあるために光学機器に蓋を付けています。
コンタミネーション以外でも、打上げ直後のリスクはあります。
放出後に太陽の光が強すぎて光学機器が劣化・故障してしまう。あるいは、深宇宙を向いて冷却されすぎて、故障してしまうというリスクが発生してしまうのです。
さらにはレンズを支える筐体の熱収縮が起きることで、焦点がずれてしまったりする可能性が発生します。
参考
科学衛星の熱設計の歩みと熱物性研究について
http://www.netsubussei.jp/group/onishi.pdf
クリーンルームとパーティクルカウンター
コンタミネーションの付着のリスクを考えた時、光学機器だけでなく周辺機器もゴミがあると、機器の温度が高くなると放出されるので、近くにある機器に付着していきます。
これはロケット内部のゴミが付着することよりも近くにあることから、光学機器へのコンタミネーションの付着の可能性が大きいために、普段からクリーンルーム内で開発・製造していきます。
もちろん、ロケット搭載時に他の人工衛星がある場合は、他の人工衛星に影響を与えない様にするためでもあります。
打上げ直前、ロケットへの受け渡し前に、人工衛星を恒温槽に入れて、加温することでコンタミネーションを放出するということも実施しているところもありますし、ロケット側から清浄度の要求をされることもあります。
このコンタミネーションを計測する機器を浮遊微粒子測定器あるいはパーティクルカウンターなどと呼ばれています。
部屋に自動で備え付けられている場合もあれば、クリーンルームと呼ばれるコンタミネーションが管理された部屋の中に小さい機器も配置されている場合もあります。
コンタミネーションが管理された部屋をクリーンルームと呼んでおり、防塵室とも呼ばれることもあります。
クリーンルームは、密閉空間ではなく空気洗浄機での空気のやり取りを行う部屋でもあります。部屋に入るのに空気ボンベをもって入らなくてもいいんですよね。
ただし、清浄度のレベルによっては、防塵マスクやクリーンウェアと呼ばれる衣服を着る必要があります。これは人間から出るコンタミネーションを外に出さないためでもあります。髪の毛や古い皮膚、汗、唾、涙や化粧などが放出されない様にするためです。
清浄度によっては完全防備を行う必要があり、それほど機敏な機器を取り扱わない場合は、簡易的な衣服として、帽子や上着、靴、マスクをつける場合もあります。
先に述べたように搭載する機器次第でもあります。
クリーンルームは宇宙機器以外では、食品工場や半導体製造施設にも使われています。特に半導体製造施設や光学機器製造施設は、コンタミネーションに厳しいため宇宙機器より厳しい条件で管理されています。宇宙機器も厳しい条件の機器もありますが、すべての機器で同様の管理をする必要性/リスク管理はされていないことが多いです。
ちなみに半導体製造施設は、ほぼすべての施設で化粧が禁止であるので、女性の見学者が少ないとかなんとか。
宇宙機器の場合は、ロケットに搭載するために、クリーンルーム外に出す必要があります。人工衛星によっては数メートルに及ぶため、クリーンルームに大きな入り口を付ける必要があります。
コンタミネーションの付着を防ぐ管理をするためには、ロケット打ち上げ施設と人工衛星開発施設を同じ施設にする必要があります。なかなかそんな施設を準備するのは大変です。
半導体製造施設と同等あるいはより厳しい条件では、施設の運用が困難になります。
クリーンルームと外気の間に、いくつかの部屋を設けて清浄度や温度を調整したり、時間を空けて、外気で舞い散ったコンタミネーションが落ち着いたときにクリーンルームに入れるといった運用をする必要があります。
コンタミネーションはややこしい
外気で管理されたコンタミネーションのほかに、各物質の含まれている水分量や気体にも気を付けなければいけません。
有機物は、内部に水分を含むことで水分の膨潤が発生したり、化学反応により気体が発生することがあります。これらもコンタミネーションの一つになります。
混合しがちですがオフガスは有機物から自然に発生するガス、過熱することで発生するガスのことを指し、アウトガスは真空中で外部に放出されるガスのことを指します。
真空中で外部に放出されるガスですが、地球上に存在する物質には空気含めてガスが表面上に付着しています。これが真空になることで、剥がれ落ちるイメージです。
つまりアウトガスの中にはオフガスも一部含まれているということです。有機物から発生したガスが大気空間では外部へ放出されることなく、有機物に付着していた場合は、アウトガスになるとも言えます。ややこしいので間違っているかもしれませんが。
JAXAではASTM E595という規格を参考に測定しているようですね。
オフガスはいわゆる化学反応により発生するものです。これは通常の食品が宇宙船内に持ち込めない理由の一つにもなります。
無重力空間ではそもそも塊として食べれないのはもちろんですが、化学反応を起こしてガスを発生させる可能性があるためです。水分が少ない食品が持ち込まれるのも、コンタミネーションになりえるからですね。
宇宙機の中で回路基板に水分が付着してショートを起こしたり、ゴミが付着して導体の抵抗を高くして電気の流れを悪くさせる可能性があるからなんですね。
参考
アウトガス
http://matdb.jaxa.jp/main_j.html
Contamination on spacecraft
https://kyutech-laplace.net/Class/2018/Class_Space-Environment/Materials/kimoto.pdf