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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

光学機器搭載の人工衛星に必須な汚染対策 | Lessons Learned、失敗学、事故事例

宇宙機搭載イメージングカメラの汚染への対応(1999)

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人工衛星において光学観測は、その結果が見た目でも分かりやすく、直観的にも出来を判断されてしまいます。

 

地上のカメラにおいても、保管方法を間違えてしまえば、レンズにカビが生えたり、汚れが付着してしまいます。

 

洗浄方法はいくつかあるのですが、人の手がない宇宙空間ではその対応が難しいのです。

 

今回は宇宙空間でのカメラの洗浄方法とロケットで打ち上がるまでの管理についての教訓です。

 

概要

カメラに汚染物が付着した場合、その分析は汚染源や複雑な付着経路を必ずしも特定できるとは限りません。

 

設計・製造では、カメラシステムと熱制御面をわずかな侵入口から遠ざけたり、感受性の高い面を覆ったり、密閉したりする必要があります。

 

設計・製造時に、水蒸気汚染の対策(例えば、温度環境管理)を考慮する必要があり、複合材料を使用する場合は、低吸湿性材料の選択あるいは非ガス放出のコーティングを使用も考慮する必要があります。

 

発生タイミング

打上げ直後、初期動作確認で、NASAディスカバリー計画の探査衛星スターダストに搭載されたイメージングカメラの光学面が汚染されていることが判明し、画質が低下されていることが確認されました。

 

カメラのCCD検出器と光学系の低温動作温度により、汚染分子が物体に付着しやすい「コールドシンク」現象を発生させます。

 

この現象は遊離分子が最も冷たい表面に移動します性質を持っています。

 

付着する汚染物質は、宇宙船のガス放出、カメラ内に閉じ込められた汚染物質が付着している可能性があります。

 

探査衛星スターダスト以外でも、過去に米国および米国以外の低温動作温度環境に曝される機器で発生することが分かっていました。

 

イメージングセンサーの品質を悪化させないために主な対策としては、内部ヒーターや付着物が無機物の場合は太陽の熱によって、汚染物質を除去することが知られています。

 

ただし、加熱することで汚染物質の除去した後、宇宙船とカメラの光学部品の間の温度勾配により暖かい汚染源と冷たい光学面という状態になると、再びカメラの光学面に汚染物が付着することも分かっています。

 

その場合は、再度、内部ヒーターを使用して、再び汚染物質を除去する必要があります。

 

Lessons Learned

カメラに汚染物が付着した場合、理論的に分析しても、汚染源や複雑な付着経路を必ずしも特定できるとは限りません。

 

そのため、ミッション運用中に光学面の予期しない除染が必要になる場合があります。

 

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。


特に汚染に敏感な光学システムを扱う場合は、設計・製造と運用時に特に注意して取扱う必要があります。

 

光学システムの関連機器をガス放出源から遠ざけ、実現可能な範囲でガス放出経路を管理した光学システムを構成できるように、開発する必要があります。

 

宇宙船の主構造または機器に複合材料を使用する場合は、吸湿性の低い材料の使用を検討してください。

 

また、吸湿を減らすために、複合構造に非ガス放出コーティングを使用することを検討してください。

 

これらの対策により、ガスによる汚染の可能性がさらに減少します。


汚染の可能性がある期間中は、カメラの光学部品を露出させたりせずに、カバーまたは密閉してください。

 

また、汚染分子を付着させる可能性のあるため、光学面がを冷やす/冷えることを避け、暖かく保温させてください。


宇宙空間で付着したら、光学機器のラジエーターに、ヒーターまたは直射日光を当てて内部温度を上げ、汚染物質を吹き飛ばしてください。

 

ただし、汚染された光学面に直射日光を当てないでください。

 

汚染物質が有機物である場合、太陽光の紫外線に化学反応を起こし、光学面または熱制御面に恒久的に付着する可能性があります。

 


 


 
最後に

汚染物の付着は、必ずしも打ち上げ直前だけとは限らないことを覚えておいてください。

 

打上げ後、長期間、金色のフィルム(MLI)に付着していた汚れが、フィルムから分離して光学面に付着することもあり得ます。

 

時間が経過しているから問題ないと考えるのは、まだまだ故障分析が足りていないといわれるかもしれません。

 

画像を取得して、毎回同じところが、ボケたり、黒点があったり、画素抜けがあったりとすれば、汚れの付着や放射線によるCCDあるいはCMOS素子の異常という可能性があります。

 

CCDあるいはCMOS素子の放射線での影響は、主に白抜けといった現象がみられるので、厳密には原因を分けることができるかもしれませんけどね。

 

今回のコールドシンクと呼ばれる、浮遊物が冷たい所に移動するという現象は、真空温度試験でものぞき窓があれば確認することができます。きっと清掃が大変です。

 

さらに言えば、光学面より冷える場所を作ってしまえば、より安全と言えるかもしれません。

 

だた、冷えやすい光学面より低温の面を少ないリソースの中でどうやって作り出すかが問題となるかもしれませんね

 

Lessons Learnedとは

Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。

 

得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。

Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。

  

NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めています。 

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

 Spaceborne Imaging Camera Contamination (1999)

https://llis.nasa.gov/lesson/992