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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機の電池】人工衛星に使われているリチウム電池の種類

リチウム電池の種類にはいくつかある

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リチウム電池を書くときに、正確にはリチウムイオン電池なのでそう記載するか悩みますが、ノーベル化学賞の名称に準じてこの2つの記事ではリチウム電池と記載しています。さらに言うならば、二次電池や蓄電池と称したほうが正確なのかもしれませんが。

  

リチウムイオンは正極材にリチウム化合物を使用したものと、一部、負極にもリチウム化合物を使用したものが存在します。

正極材にリチウム化合物を使用した場合は、負極材に炭素材(主にLiC6)を使用しています。負極材にリチウム化合物を使用している場合は、正極材にもリチウム化合物を使用しています。

 

さらにリチウムイオン化合物の化学構造によりそれぞれスピネル構造、層状構造、オリビン構造に分けられています。

というか現在も研究中の分野であるため、 識別も随時変わっていく可能性があります。

 

コバルト系:LiCoO2 層状構造

ニッケル系:LiNiO2 層状構造

三元型(NMC系):LiNi/Co/MnO2 層状構造

三元型(NCA系):LiNi/Co/AlO2 層状構造

マンガン系:LiAl/Mn/O4 スピネル構造

リン酸鉄系:LiFePo4 オリビン構造

LTO(負極にリチウム化合物):Li4Ti5O12

 

ちょっと三元型がおかしいかな。

 

さて宇宙で使用されるものは、大きく分けて熱安定性(温度範囲)、寿命、容量、質量、コストになります。

これらのうち、どれが優先順位が高いかはそれぞれの人工衛星の目的によりますので、もし衛星を開発する場合は、それぞれの用途に応じていただければと思います。

 

さて、4つの特性をそれぞれ並べると次の通りになります。これがさらにメーカー各社により善し悪しが存在します。

 

  • 熱安定性:LTO > オリビン構造 > スピネル構造 > 層状構造
  • 長寿命:LTO > オリビン構造 > スピネル構造 > 層状構造
  • 低質量:層状構造 > スピネル構造 > オリビン構造 > LTO
  • 高容量:層状構造 > オリビン構造 > スピネル構造 > LTO

 

参考

UPS における新型電池の評価・適用技術,2012

https://www.fujielectric.co.jp/about/company/jihou_2012/pdf/85-03/FEJ-85-03-235-2012.pdf

低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書,2019

https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2018-pp-06.pdf

耐久性と安全性に優れたハイブリッド自動車用新型二次電池SCiBTM,2008

https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2008/12/63_12pdf/f07.pdf

 

人工衛星に搭載されているリチウム電池の種類

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提供:NASA

人工衛星に使われているリチウムイオン電池は、どうも層状構造(ニッケル系、コバルト系)のようです。

研究により、いくつか化合物の変更はあるかもしれないが、オリビン構造やスピネル構造の電池までは手を出していない可能性が高いでしょう。

 

というのは人工衛星では、とりわけ実績を最優先することが多すぎる。

理論上問題なくとも、宇宙では何が起こるか分からないが前提であるために、層状構造を取っていることでしょう。

 

現在から、スピネル構造やオリビン構造に変更する可能性としては少ないといえます。JAXA(NASAの日本版)の研究レベルでは実施されているかもしれませんが、宇宙用となる前に、先に商業用として実用化される可能性が高いからです。

 

さらに言うなら先に述べた特性があるので、熱安定性や長寿命を優先して、層状構造から別の構造物に移る可能性は低いといえます。

これは実績優先という考えが念頭にあるように、リチウム電池単体は危険かもしれませんが、それをコンポーネント化した時に十分制御できる技術が確立されているからです。さらにいうならば、熱安定性や長寿命を天秤にかけて、質量や電気容量を減らすメリットがないからです。

 

この分だと、コスト面を考慮して三元型のリチウム電池になっている可能性はGYT社で第3世代と記載していることからも否定できませんね。

 

スピネル構造やオリビン構造が、実証用宇宙コンポーネント化を目指して時に、少なくとも質量と電気容量をどう担保するかが大きな問題となってきます。

 

この2つは、ほかも搭載機器の配分を必然的に奪うことになるため、それなりの有用性を示す必要があるのです。現時点ですでに制御できる技術が確立している中では有用性がとても薄い、つまり研究予算を取れることが難しいということになります。

 

もし、最初に打ち上げられた人工衛星リチウム電池の構造がスピネル構造やオリビン構造であったなら可能性はあったかもしれませんね。

正直、調べなおすまではオリビン構造のリチウム電池を打上げていたと思っていました。

 

それでは次の記事にて。

 

参考

宇宙用大型リチウムイオン電池

https://repository.exst.jaxa.jp/dspace/bitstream/a-is/22353/1/ARDS12095.pdf

高耐久・高容量ニッケル系リチウムイオン電池、および環境エネルギー分野向けリチウムイオン電池モジュール

https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ptj/pdf/v5602/p0104.pdf

www.gs-yuasa.com