往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

「2025年の崖」と製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の関係

「2025年の崖」

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「2025年の崖」を知っているでしょうか?

 

「2025年の崖」とは既存システム(レガシーシステム)が古くなり、技術格差が追い付けないレベルにまで達する可能性のある予想時期のことである。

 

この壁を越えた先に何があるのかというと、何も日常生活では起きない。

過去にプログラミングの設定上で誤動作が起きた2000年問題や、宇宙天気上で多くの放射線を受ける太陽コロナ問題、かつてドイツに存在していた物理的なベルリンの壁といったものではない。

 

2025年を超えると日本は毎年約12兆円の経済損失が発生するというものだ。

 

毎年約12兆円の経済損失とは、赤字が12兆円ぐらいになるというわけではなく、本来得るはずであった利益が12兆円ぐらい減るということだ。

経済損失というより、機会損失といった方がしっくりと来る人もいるかもしれない。

 

この「2025年の崖」を越えるために、デジタルトランスフォーメーション(DX)と称して、国を上げて改革・変革を推し進めているのだ。

 

DXは主に製造業に注目されているが、製造業だけではなく、他の業界でも改革・変革を進めなければ、売上が目減りしていく。

目減りしていくなら分かりやすく徐々に対応していかなければいけないと考えるのだが、急に売り上げが立たなくなることも発生する。

 

売上が、他社の台頭で増減したり、会社が成り立たなくなるなんていうことは、今まででもよく発生していた、よくある事例ではある。

しかし「2025年の崖」を越えた辺りから、日本全体が落ち込む可能性があるといっているものだ。

 

DXの記事でよく言われているのは、単純作業を自動化し、人間にはよりクリエイティブな、付加価値の高い業務を行い、スピーディーな供給・対応、コスト削減を行うことを挙げている。

 

まあ、ぶっちゃけ、DX、DXと言っているが、導入としてやっていることは過去の農業改革のような流れを使用している技術が違うけれどにたことを、製造業を始め他の業界でもやりはじめたのである。

 

農業は、人の手が必要であった時代から、多くの農業機械によって人の手を減らし、効率的に、スピーディに収穫するシステムを作り上げていた。

現在では品質を一定化させるために、糖度判定や色判別による一定の品質を提供している。

さらなる効率化のため、人の手を減らすために、衛星画像から植生の成長具合を確認するまでになっている。

 

このように、一部の企業、業界ではDXと呼ばれることを実施しているのだが、それでも多くの組織では、人の勘や経験だよりで組織を回しており、国の方から警告を出したというわけである。

 

この警告を無視していると、やがて事業が立ち行かなくなる。

 

DXは事業効率のみに注視しているが、人の勘や経験だよりの場合、技術の継承者もいなくなり、やがてロストテクノロジーとなる。

 

それも含めて、国として危惧しているのだ。

 

という説もある。

 

 

レガシーシステムとDXの関係

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レガシーシステムはDXを妨げる要素になる。

 

レガシーシステムは、過去から使用され、様々な人を介して、カスタマイズし、最適化した結果、新たに手を出す人からすれば、複雑であり、巨大でコントロールが効きにくいシステムを独自に構築し進化させてしまっているのだ。

 

巨大で複雑なシステムはコントロールがとても難しい。

 

微妙なバランスで構築されているため、保守・メンテナンス・改修作業に時間が掛かる。

結果、隠れた負債を社内にため込むことになっている。

この負債は、毎年あるいは数年ごとに費用が掛かる固定費になり、知らず知らずに経営を圧迫し、デジタル化による効率化を妨げる要因となっている。

 

 

よりシンプルで、修正しやすいシステムを構築しておくことがよし。

 

このレガシーシステムを新しいシステムに変えることで、DX化を進めることができるなどと単純に書かれているところもあるが、その場合は、新しいシステムがレガシーシステムになるだけである。

 

そもそも、システムが複雑化する前に、常に新しいシステムと取り入れるか、可能な限りシンプルなシステム構造で構築していくということを前提に考えなければいけない。

よく分からないがDXに有効なツールだからといって取り入れても、使いこなせなければ意味がない。

 

このレガシーシステム化を防ぐためには、システム構築のためのシステムエンジニアリングやプロジェクトマネジメントにより、要求を洗い出し、整理していく必要がある。

 

これは、数年前に台頭してきたデータ分析、データサイエンティストの役割の一つではなかろうか。

 

各工場や部署とコミュニケーションを行い、要求をまとめ、必要なデータを洗い出し、改善を提案する。

実行は各部署で行い、業務改善を行っていく。

 

そんな横断組織を見直すというのも一手かもしれない。

 

DXで求められていること

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正直、業務改善や作業効率の向上だけがDXで求められていることではない。

 

一つ目として、業務改善や作業効率の向上のために、デジタル化を行うのかもしれないが、そこからさらなる付加価値を生み出すところがDXである。

 

二つ目は、業務改善や作業効率により空いた時間をより、知識の継承やシステムのレガシー化を防ぐために知識を「見える形」で残していく。

 

三つ目は、「見える形」で残っている技術を分析したり、付加価値を与え、新しい製品やサービスを提供する。

 

最終的には、DXを利用することで、一つの組織に留まらず、業界あるいは組織間を巻き込んだ新たな事業領域の構築を行うことを狙っているように思える。

 

これら4つすべて行うのではなく、最終的に業界あるいは組織間を巻き込んだ新しい事業領域なり、戦略で「2025年の崖」に挑んで行けということのような気がする。

 

 

DXと言われて、今までの業務改善と何が違うのか疑問に思う人たちは、一つ目の情報しかいきわたっていないからなのではないだろうか。

 

事実、多くの記事では一つ目に留まっている。

 

理由は、一つ目では業務改善のサービスやソフトウェアの需要が高まり、その分野の業界がにぎわうからである。

 

マーケティングに踊らされているのですよ。みなさん。

 

もちろん、DXの取っ掛かりとしては問題ないのだが、「2025年の崖」を乗り越えるには、さらに、デジタル技術による新規サービスなり製品を提供する土台を作り、新しい製品やサービスに目を向けていくことも必要である。

 

では、そんな事例がどこにあるのか

 

 

衛星とレガシーシステム

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レガシーシステムは別に業務システムのことを指すわけではない。

 

多くの人が手を入れることによって、複雑化し、ブラックボックス化してしまったシステムもその一つである。

 

人工衛星システムは、実績主義であると聞いたことがある人もいるかもしれない。

 

実績がゆえに、システムを変更することで発生する「変更点による不具合」を恐れている。

そこで従来より人工衛星を製造してきた組織は、現在、変更点管理に重点を置いている。

 

 

変更点管理をすることで、実績を着実に積み重ねていけるのだが、ここ数年で人工衛星事情も変わってきた。

 

変更点管理により蓄積してきたデータと比類して、小型衛星を製造し、多くの人工衛星を軌道上に放出することで、新しい制御の実績を蓄積することが可能となった。

 

表面上分からなくなっているかもしれないが、人工衛星の制御に関して従来の大型衛星と同等のレベルまで到達しやすくなっているのではないだろうか。(到達しているとは言っていない)

 

参考文献

衛星の揺れを止めろ

https://jpn.nec.com/ad/cosmos/shizuku/story/02/page02.html

 

森林破壊抑制先進国ノルウェー高解像度の無料衛星画像データでの森林監視体制

森林破壊抑制先進国ノルウェー

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ノルウェーは、森林破壊につながる製品を使用しないと宣言した世界で最初の国家です。

 

世界では毎年12万km2から15万km2の森林が失われています。

過去40年で、ヨーロッパ全体に匹敵するサイズの森林が消えています。

 

森林破壊を最も促進させるものは農業です。

焼き畑式農業や整地により、家畜の放牧地域を作るために森林を伐採していきます。

 

2000年から2011年の間に、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、パラぐらいの牛肉、食料パーム油、ろうそくあるいは食用大豆、木製品が世界の40%を占めていました。

 

これらの製品の購入・輸入を停止することで、ノルウェー政府は、森林破壊を止める政策を進めました。

 

購入・輸入を停止するだけではなく、ブラジル、インドネシアリベリアに多くの投資を行い、各国が森林破壊を減らすための支援も行いました。

 

ブラジル・アマゾンの森林破壊

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アマゾンは過去50年間で約17%の木が消え失せています。

 

アマゾンの森林は、私たちが呼吸する酸素の5分の1を作り出しています。

 

2008年にノルウェーは、アマゾンの熱帯雨林の保護のために、ブラジルに対して10億ドルを提供していました。

 

この投資は、2015年までにブラジルの森林破壊の75%も減らしています。

8,5000km2の熱帯雨林を保護し、32億トンの炭素量の増加を防いでいます。

 

炭素排出量は、1年間アメリカ軍の活動を停止させた炭素排出量に相当します。

 

ブラジルでは、1970年代より衛星画像を活用して、伐採監視を行ってきました。

過去、日本でも陸域観測技術衛星「だいち」を実験的に利用して、100件以上の違法伐採を特定することができました。

 

古くから衛星画像を活用していたので、土地台帳を照合して、違法か違法じゃないか判別し、警察に連絡できるようなシステム体制も構築されていました。

 

ブラジル・アマゾンの場合は、だいちを利用した場合、総面積が約350万km2と広範囲であるため、全体図を作るのに約300シーンの画像が必要になります。

このデータを確保するのに、2009年頃の場合、1回で9000万円ほどかかり、年に数回更新しなければならない状況を考えると、予算から考えて断念せざる得ない状況でした。

 

ノルウェーは、2010年のインドネシアとの協定を行い、炭素排出量を数年で半減させることに成功しました。

 

ノルウェー政府の提供するGlobal Forest Watch

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2020年にノルウェーは、Airbus、KSAT、Planetと4,350万ドルの契約を結び、64か国をカバーする衛星画像に無料でアクセスできるシステムすることとなりました。

 

PlanetのDove衛星(解像度3.7m)は、毎日、地球全ての大地の写真を撮っていきます。

これらの写真を組み合わせることで、地球全土の森林を把握することを可能としました。

 

Airbusは、2002年以降、衛星によってキャプチャした画像のアーカイブを保管しています。

これらにより、現在の森林情報と数年前の森林情報を比較することを可能とします。

 

KSATは、これらのデータをまとめ、Global Forest WatchまたはPlanetからファイルを表示あるいダウンロードできるシステムを構築しています。

 

人工衛星により毎日画像が更新され、森林破壊を確認するタイミングを検知することができます。

例え、森深くでひそかに伐採していても、従来のように、隠れ逃げることができなくなっています。

 

地球規模の森林監視における革命は、アメリカ政府が2007年にLandsatの衛星画像を無料で利用できることになり、多くのツールを使用することができたことです。

しかし、高解像度の衛星画像派依然として高価である。

この発表により世界中の人々がLandsatよりも10倍以上の高解像度の商用衛星画像にアクセスできるようになった。

この機会を利用するかどうかは、我々全員の行動にかかっている。

Crystal Davis

 

www.youtube.com

 

しかもこのサービスは、ノルウェー政府がサービスの費用を負担しているため、すべて無料にしています。

 

日本でも衛星画像データとしては、似たようなサービスがありますが、このサービスは森林破壊に特化しています。

 

主に次の項目になります。

  • 森林の炭素排出情報
  • 寿樹被覆損失データ
  • 森林破壊検知レーダー
  • 森林破壊と火災警告を出すスマホアプリ
  • ブラジル・アマゾンでは森林破壊を検知すると24時間から48時間の間に警察に連絡

 

このように人工衛星のデータは世界規模なんですね。

 

ビジネス視点で考えると、少しずつインフラ情報が既存の企業に抑えられて、後続の企業が厳しくなっていきますね。

 

ここで無料サービスはすごい、森林データは他にも活用できるので、これが無料とは。。。

 

参考資料

Global Forest Watch←無料画像

https://www.globalforestwatch.org/

Terrabrasilis – Plataforma de dados geográficos

http://terrabrasilis.dpi.inpe.br/en/home-page/

Active Fire DEFORESTATION

http://terrabrasilis.dpi.inpe.br/app/dashboard/alerts/legal/amazon/aggregated/

 

Norway Is the World’s First Nation to Ban Deforestation

https://www.nathab.com/blog/norway-is-the-worlds-first-nation-to-ban-deforestation/

日本の宇宙技術が世界の森を守る ブラジルでの森林監視の実績をもとに

https://fanfun.jaxa.jp/feature/detail/8244.html

Footing the Climate Bill for the World

https://www.sspi.org/cpages/footing-the-climate-bill-for-the-world

Norway funds satellite map of world's tropical forests

https://www.bbc.com/news/science-environment-54651453

Planet, KSAT And Airbus Awarded First-Ever Global Contract To Combat Deforestation
Tara O'Shea | September 22, 2020

https://www.planet.com/pulse/planet-ksat-and-airbus-awarded-first-ever-global-contract-to-combat-deforestation/

 

新人引継ぎ教育シリーズ:人工衛星打ち上げ後に言われる衛星寿命や製造コスト

人工衛星が上手くいったことは、ニュースの記事になりにくい

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mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

今まで、技術・業務的な引継ぎとしていたが、初めて衛星開発に触れる人が、一般人に対して説明するときの一例を紹介する。

 

人工衛星はどの段階で成功か、人工衛星に関わり合いのない人からすれば、ロケット打上げ後に無事放出されたこと、という印象を持たれるのではないだろうか。

 

人工衛星で「わかりやすい」衝撃的な映像は、ロケット打上げである。


むしろ、ロケット打ち上げ後、見えないのだからしょうがない。

 

その中でも衝撃的な映像はロケット爆発である。


人工衛星ではないが、スペースシャトルの爆発は、知っている年代からすると衝撃的であった。


普通に打ち上がるよりも、爆発が発生すると印象に残る。

 

 

爆発で失敗と、爆発しなかったら成功という印象が付いている人が多いのではないだろうか。


むしろ、その後の人工衛星の成功が、それほど衝撃的な映像がないため、忘れられてしまっている可能性もある。

 

爆発せずに打ち上げて放出することは、人工衛星の成功というよりは、ロケット側の成功に他ならない。


年齢が高い方ほど、ロケットの打ち上げ成功=人工衛星成功としてしまっている人が多い。


まあ、それだけ衝撃的だったのだから、しょうがないのだけれども。

 

しかし、2010年代頃からは風向きが変わっている。

 

惑星探査機はやぶさの成功だ。

 

地球に帰ってくるという目に見えてわかるミッションの成功事例が、人工衛星開発の成功を目に分かる形で示してくれた。

 

人工衛星は打ち上がって終わりではないということ。

 


衝撃、人工衛星の寿命

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人工衛星は打ち上がって終わりではない。

 

ではどこで人工衛星は終わるのだろうか。

 

ミッションが達成できなくなったときである。


多くは、通信ができなくなった、あるいは通信をできないようにしたときに寿命となる。

 

内部のコンポーネントが動作しなくなっただけでは終わりではない。


通信機が生きていれば、通信が続けられれば終わりではないのだ。

 

では、何年間生きれいられるのかというと、軌道によるが早くて数分、長くて数十年である。

 


衝撃かもしれないが、数分で終わる人工衛星も存在する。

 

地球のどの高度から宇宙かという定義にもよるが、気球や小型ミサイルでも宇宙に到達でき、その地点で放出する人工物を人工衛星と呼ぶ人もいる。


通信やミッション達成を目的とするならば、それも十分に人工衛星と言える。

 

缶サットと呼ばれる、空き缶のサイズの人工衛星が放出されるイベントは、もう何年も続けられている。

もちろん、衛星軌道に投入されていないから、人工衛星と呼ばないという説もなくはない。


宇宙あるいは軌道上に放出するというと、最近はISS国際宇宙ステーション)から放出という事例も多い。

 

サッカー場レベルの大きさであるISSから小型人工衛星が打上げられている。


ISSは複数の国が共同で運用している共同宇宙実験施設で、数多くの実験を行う研究者として何人もの宇宙飛行士が生活している。

 

このISSから小型の人工衛星を放出する設備を、日本が開発し、運用している。


小型の人工衛星の放出機構が、日本のISS施設内に存在することを知っている人は、一般の人では少ないのではないだろうか。(今回は新人向けですので)

 

高度460km付近にいるISSから放出される人工衛星の寿命は1か月から3か月程度である。頑張れは1年行くかもしれませんが。

 

先ほどの数分から何倍にもなるが、それでも衝撃の寿命の短さである。

 

一方で長期間運用されているものも存在する

 

日本の人工衛星でいうと気象衛星ひまわりであろう。
アメリカの人工衛星ではGPS衛星がよく知られている。

 

GPS衛星が出たついでに書いておくが、GPS衛星はスマホや携帯電話、自動車から位置情報を送受信しているわけではない。


GPS衛星の電波を受信して位置情報を算出しているのだ。


たった24台の、下手をすると現在販売されているノートパソコンやスマホよりも処理能力の低い数十年前の制御機器が搭載されているGPS衛星に、数十億人レベルの情報を処理できないだろう。


某国のGPS機能を持った人工衛星が打ち上がったから、某国に情報を取得されるというのは、今のところ幻想であるし、人工衛星の機能が追い付かない、とだけ書いておこう。

 

ひまわりは、衛星寿命として5年から10数年と言われている。


GPS衛星は、衛星の「想定」寿命を越えて20年以上使用されている。


想定寿命を越えても使用できるのは、人工衛星製造に、高い信頼性の部品や冗長設計、太いシステム設計によるものといえる。

 

一般に売られている商用製品の場合でも、だいたいそのぐらいの年数である。


商用製品でも、人工衛星でも、結局は使用されている部品の寿命に依存していることが多い。


特に、スイッチ機能をもつ電子部品や、高温低温を何度もサイクルする部品の寿命劣化は激しく、その中で最も劣化しやすい部品の期待寿命を、そのまま製品の期待寿命としていることが多い。

 

商用製品や工業製品は、交換することで製品の寿命を延ばすことが可能だが、人工衛星ではそれが不可能である。


その中で冗長設計というものが、人工衛星の寿命を延ばすことで重要となる。


最近の事情では、1台当たりの製造コスト/打上げコストを下げ、人工衛星の寿命を延ばすことより、人工衛星の寿命が来る前に打上げるような時代にシフトしている。

 

既に数千台もの通信人工衛星を打上げているスペースXのスターリンクシリーズであるが、おそらく1台当たりの製造コスト/打上げコストを下げて、短周期で人工衛星を打上げて、衛星寿命は短いかもしれないが、人工衛星を利用したサービスを長期間化された分かりやすい例である。

 

サービスの長期間の見通しが立てば、資金の投資側からすれば、長期的なリターンが見込めるために、より資本が集まりやすいという事情もありそうである。知らんけど。

 

人工衛星の製造コスト

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大型衛星といわれる人工衛星の価格は、近年の高機能化、新開発要素などから100億円弱から400億円弱ぐらいである。


サイズから比較的小型衛星に近い、惑星探査衛星はやぶさ/はやぶさ2も、130億円~150億円の“製造コスト”がかかっている。


そこにロケットによる打上げコスト50億円弱~200億円程度もかかってくる。

 

大型衛星の製造期間もリピート設計があったとしても、4年以上10年未満と言われている。

 

だいたい、製造コスト/打上げコストに600億円以上かかり、4年で製造したとして年間150億円である。


いやいや、最近の人工衛星はもっと価格が下がっています、と言われるかもしれないが、なかなかの衝撃である。

 

有名どころの企業で言うと、2020年の当時では、高島屋(160億円)、京浜急行電鉄(156億円)、カネカ(140億円)、ワークマン(133億円)が生み出す利益が毎年必要になる。


株主にも社内にも還元せずに、将来投資としてつぎ込むのだから、株式会社としてはもっと利益構造の高い企業でないと、耐えられないことから、かつては最高級品とも、嗜好品とも呼ばれていた時代があったとか、なかったとか。


結局、個人や企業で大型の人工衛星を所有することは日本ではなかったと、認識している。


ただ、アマチュア無線衛星といった、アマチュア無線の周波数帯を使用していた人工衛星が存在しているが、少し資料がないので、なんとも言えない。

 

それに対して、小型衛星は諸説あるが、5000万~15億の製造コストで済ませられる
開発も2年以上5年未満といわれていることから、年間コストでも10倍以上の価格差が出ている。


打上げ費用は、無料から数千万と言われている。


もちろん人工衛星でできることが限定されるのだが、スターリンクシリーズが出たことで、現実味を帯びてきている価格帯になっている。

 

これらの事情が相まって、小型衛星の寿命も、だいたい2年程度が目安になってきている。


人工衛星の長寿命化から短命短サイクル化に変化してきている。

 

ただし、低軌道衛星に限る。

 

静止軌道にある通信衛星は、打上げコストが高く、通信の電波強度や周波数取得、運用の簡易化の関係から、現在でも5年以上の長寿命なものが選ばれる。


もちろん、人工衛星自体の価格を減らすために、リピート設計であったり、いわゆる量産化された設計構造であるバス衛星が選定されることが多い。

 

ざっくり、だいたいこんな感じかな。

日本の自然災害発生前後で最新情報を確認できる公的サイト2選

 

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6月になり、台風の季節も近づいてきたので、日本における自然災害発生時に画像を公開しているサイトを紹介します。

 

むしろ自分用な気もしますが。

 

防災科研クライシスレスポンスサイト

http://crs.bosai.go.jp/

国立研究開発機構防災科学研究所が運用している情報サイトです。

衛星画像を始め、過去の災害情報もまとまっており、過去情報を含めて収集するときにはとても便利です。

光学画像とレーダ画像があり、民間の情報から国保有の情報収集衛星の情報もあり、正直これより整った国内の災害に特化した情報システムは今のところないですね。

民間の情報システムの中で、特定地域を特化させた高解像度画像であったり、画像分析に力を入れなければ、勝つことは難しいでしょう。

過去、情報収集衛星画像は、グーグルの画像と比較されているときもありましたが、情報の提示が比較にならないほど高頻度であるところがとても良いですね。

 

“気象”×”水害・土砂災害”情報マルチモニタ

https://www.river.go.jp/portal/#80

国土交通省が川やダムなどの情報をリアルタイムで公開している情報サイトです。

クライシスレスポンスサイトは直前あるいはリアルタイムの情報を公開することは難しいのです。

しかし、こちらのサイトは、現在発生している災害をリアルタイムで確認することができます。

各地の公共施設の情報サイトを見に行かなければならなかったのが、情報がまとめられて探しやすくなっています。

台風被害や降水量など、テレビや防災用ラジオの情報では頭の中を整理できなかったり、実感できないこともあるのですが、映像として目のあたりにすると、より危機感をもって素早い非難行動ができるのではないでしょうか。

 

おまけ: ハザードマップポータルサイト

https://disaportal.gsi.go.jp/

国土交通省 国土地理院が運用している情報サイトです。

リモートセンシング画像というより、地図に各市町村のハザードマップをまとめた情報です。

以前は、各市町村レベルでの役所サイトから表示するしかなかったのですが、ここに集約されました。

居住区を決める際にも便利なサイトになりますね。

 

 

赤の女王仮説ー新しい場所に行きたければ全力の2倍を出しなさい―

赤の女王仮説を知っていますか?

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赤の女王仮説(読み)あかのじょおうかせつ(英語表記)Red Queen hypothesis
 

生物の種は絶えず進化していなければ絶滅するという仮説。

 

ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する赤の女王の、「同じ場所にとどまるためには、絶えず全力で走っていなければならない」という言葉にちなむもので、進化生物学者リー・ヴァン・ヴァーレンによる造語。

 

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

 

 現在の宇宙業界は、この十数年に一気に変わりました。

 

今まで主導してきた政府とつながりのある組織から、民間企業がより表に出てくることとなりました。

 

かつては、日本ではスカパーJSATのような衛星通信企業が、人工衛星に関係する民間企業で分かりやすい宇宙関連企業でした。

 

もっとわかりやすい人工衛星やロケットを開発している宇宙開発企業もあるのですが、作られる人工衛星は政府系で、政府直下の宇宙機間から依頼を受けて発注され、製造されていたものです。

 

政府系の衛星と関係ない宇宙関連企業はほとんどありませんでした。

 

 

まあ、簡単に言うと、従来の宇宙関連企業より倍以上のパワーを持って、宇宙業界に参入する企業、スペースXが現われました。

 

まだまだ、政府系の資本が占めているところもありますが、今後、B2B主体のビジネスが、B2Cのビジネスに移行するかもしれない帰途に立っているのかもしれません。

 

そんなこと、2018年頃から言われてきているのですけどね。

 

2018年頃から衛星データを活用したビジネスが起きていますが、それでもまだB2Bに留まっているというレベルです。

 

しかし、この数年で何が起きるか分かりません。

 

一部の人たちは、2000年代のインターネットの爆発的な広がりと比較する人も出てきています。

 

 従来の宇宙業界の企業は、全力を出してきたかもしれませんが、今後、その2倍の勢いで駆け抜けていく企業が存在しそうだという話です。

 

正直、スペースXが通常の数十倍の人工衛星を一度に放出して、ちょうどこの言葉「新しい場所に行きたければ全力の2倍を出しなさい」を思い出しました。

 

従来の人工衛星は、数年がかりで開発していたものが、CubeSatの出現で、一気に縮まりました。

 

これからもどんどん加速していくでしょう。

 

今、宇宙業界にいる人たちは、常に情報収集をして、現在の宇宙業界の流れを把握していかなければ、破壊的なイノベーションが起きて、あっという間に撤退する可能性があることに気を付けておく必要があるでしょう。

 

kotobank.jp

慣らし運転の重要性と影響具合【宇宙機コンポーネント】

人工衛星と慣らし運転

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慣らし運転を知っていますか?

 

慣らし運転は、機械部品や電子部品を実装した後に、初期の故障を発見したり、急激な運転をすることでの部品同士の擦れや摩耗を防止することを目的とします。

 

電子部品も品質誤差があるため、実性能が中央値より低い場合があり、予期しない動作を生じさせたりすることを防ぎます。

 

機械部品の場合は、急激に力を加えると、応力が集中して機械部品の寿命を減らしてしまいます。

そのため、ある程度の力で動かし、機械部品にいびつな癖や応力を発生させないように、良好な癖をつけます。

 

最終的には、製品としての寿命を延ばすことにあります。

 

駆動部品の多い自動車やバイクの新車、スピーカーも慣らし運転をするとよいといわれています。

 

慣らし運転と言われると、各種部品や機器の調整と頭の中で変換できる人もいるのではないでしょうか。

 

この慣らし運転ですが、人工衛星に搭載するコンポーネントの製造の中でよく使われます。

 

今回は、そんな慣らし運転についてです。

 

慣らし運転は何時間が適切か、経験則によるところが多い

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慣らし運転というと駆動部品、機械部品、機構部品のかみ合わせを馴染ませるというとイメージが分かりやすいかもしれません。

 

回転機構を持つ機器、人工衛星の機器の中ではリアクションホイールやコントロールモーメントジャイロを始め、アンテナや光学機器に使われるモータを使用した駆動機構がある場合、駆動時に使用されるオイルが充分に機構部分になじんでいないと、突然機構部が動かなくなったり、急な速度で動くなどの異常動作を発生させます。そのため、オイルがなじむように、動かします。

 

そんな慣らし運転ですが、何時間駆動させればいいのでしょうか。

 

それは経験則ですね。

 

何十台、何百台、何千台と製造している自動車及び自動車関連部品や汎用量産品の場合は、多くの基礎データを取得することができ、その中から馴染むことができる時間のデータを蓄積できます。

 

一方で、人工衛星部品は、ほとんどが単品です。

電子部品の場合は生産中止もありますので、製造に何年もかかった人工衛星では、同種の電子部品を使って製造することもままなりません。

 

各機器に適切な慣らし運転時間は分からないのです。

 

故に経験則となります。

この辺りは各製造組織のノウハウとなります。

 

まあ、各種機器によるのですが、人工衛星機器の場合、長時間の慣らし運転はあまり聞きません。

 

よく聞くのは、1時間、3時間、5時間、8時間ですね。

もしかすると、知見があれば、7日間や14日間など、比較的長時間実施しているかもしれませんね。

 

さきにいう通り、これらの時間に根拠はありません、口伝やノウハウですので、だいたいそのぐらいというものです。

もしかしてちゃんと各電子部品や機械部品の特性を分析すれば割り出せるかもしれませんが、どうなんでしょうね。

 

この辺りは、日本より海外の方がノウハウを持っているような気がします。

 

理由は、日本より海外の方が、人工衛星専門のコンポーネント製造メーカーとかあるので、製造数は日本より多いはずなので。

 

何時間なんでしょうね。

 

といいつつ、慣らし運転をスピーカーのノイズ環境を良好にする時間と同等に、何十時間も何百時間、何千時間も動かすことはありません。

 

人工衛星開発は、ロケット打上げのスケジュールに縛られることが多いので、なるべく短時間で行われるからです。

打ち上げるロケット数が増えればその限りではありませんけど。

 

といっても、それは地上試験の話です。

 

人工衛星を軌道上に放出した後、初期フェーズと称して、いくつかの駆動を行います。

 

性能試験確認試験や初期故障、打上げ時のロケット振動の影響確認にもなるのですが、慣らし運転も兼ねているのです。

 

30日間連続で動かしていれば720時間、3か月連続で動かしていれば2,160時間、十分な慣らし運転になっているかもしれませんね。

 

ただ、人工衛星そのもののリソースが少ない小型衛星は、初期フェーズをそんなに長く使えないですけどね。

まあ、人工衛星の初期フェーズは、慣らし運転を中心に考えているわけではなく、各種性能試験、確認試験に実際かかる日数から割り出しています。

 

慣らし運転と確認試験

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一般に慣らし運転は、製品の寿命を延ばしたり、品質を安定化させるときに行います。

 

人工衛星でも、その面はあります。

ただ、人工衛星の場合は、初期故障の検出に使われることもあります。

もちろん主目的にはなりませんけど。

 

さて、ロケット打上げに適合している確認試験であるコンポーネントの受入試験(AT)に慣らし運転は必要か。

 

正直難しい所です。

 

なぜなら、コンポーネントメーカーは、人工衛星でどのように動かすのか分からないので、適切な慣らし時間を算出することが難しいからです。

 

最初は低レベルで鳴らすのもいいのかもしれませんが、人工衛星の運用で最も使用されるレベルが中レベルであった場合、中レベルの負荷での慣らし運転をした方が、実運用での負荷が減ることが多いからです。

 

ここで、問題となるのは、起動回数や保証回転数などに制限がある場合ですね。

慣らし運転で、挙動の安定や機器自体の寿命を延ばすのはよいですが、動かすことで耐久回数がゴリゴリ減っていく機器も、たまにあるので注意です。(まあ、今はそれほどシビアなコンポーネントはほとんど聞きませんけどね)

 

 

簡単にまとめると、新品のコンポーネントは、機構関係でなく制御系機器であっても、すぐに急激な負荷を与えず、慣らしていくことを忘れてはいけません、丁寧に扱っていきましょうということですかね。

 

コンポーネントメーカー側は、適切な慣らし運転をすること、などの注意書きを取り扱い説明書や仕様書に明記しておいた方がいいでしょうね。

ハイスループット衛星(HTS)とは何か

high throughput satellite (HTS)?

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-KSC-00pp0712


 

直訳すると高い情報処理能力を持つ人工衛星である。

 

2022年に打上げられる技術試験衛星9号機(ETS-9)はハイスループット衛星(High Throughput Satellites:HTS)と呼ばれている。

 

ETS-9は、2006年に打上げられた技術試験衛星8号機(ETS-8)と同じシリーズ衛星ではあるが、搭載ミッションが同じというわけではなく、実証機器を搭載した大型人工衛星である。

実に15年以上も間が空いている人工衛星のシリーズである。

 

技術試験衛星は、とても簡単に言うと小型衛星を対象として実証機器を搭載して将来的なミッションへの活用を行う革新的衛星技術実証プログラムのJAXAの革新衛星の大型衛星版である。

 

横暴であるが、厳密に言うと目的が違うが、大枠としては似たようなものである。

 

 ETS-8も、HTSの機能を持っていたが、ETS-9の方がHTSを押しているような紹介である。

 

今回はそんなHTSの話です。技術試験衛星についてお話しする予定はございません。

 

HTSの特徴

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そもそも、HTSは一般名称のようなもので、小型衛星や中型衛星のように、人工衛星の区分けの一つのようなものである。

 

HTSであるハイスループット衛星の特徴は次のとおりである。

 

  1. Kaバンドなどの高周波数帯による広帯域の通信。
  2. マルチビームと呼ばれる複数のビームに異なる周波数帯域を割り当てた通信。すなわち、Kaバンド以外の周波数帯も使用される。
  3. 地上ネットワークと接続するための人工衛星の地上局(ゲートウェイ局)と人工衛星自体との通信。

 

単純には、衛星通信量の大容量化である。そして明確な定義はない。

 

HTSが増えると多くの情報量のやり取りができる。

 

現在、人工衛星の打上げ数が増大しているため、使用できる電波の周波数帯がどんどん少なくなってきている。

 

使用できる周波数帯が少なくなるが、多くの情報をやり取りしたい場合、限られた帯域で多くの情報を通信できる高周波数帯域を使用していくことになる。

 

高周波数帯域は、大気・天候による減衰が発生するため、他の低周波数帯よりも通信が困難になるというデメリットが存在しているが、それでも魅力的な帯域である。

 

このデメリットをカバーするために、衛星側の通信の電波強度を上げたり、地上側のアンテナ利得を上げたり、対象(スポット)に向けてのアンテナ指向性向上させるなどの手段が取られる。

 

このブログでは、最近はやりの低軌道衛星の話ばかりであったが、HTSの多くは静止軌道衛星が多い。

 

静止軌道である理由の一つに、デメリットに上げた指向性がある。

 

姿勢制御とアンテナ利得が充分でなければ通信ができないことから、常に地表の特定のスポットを向いている静止衛星を選択されることが多い。

 

近年、低軌道、中軌道衛星でのHTSも計画されているようだが、衛星コンステレーションが構成できるレベルでは無ければ安定した通信は困難である。

 

低軌道、中軌道でも、ある特定のスポットを視認できるような軌道を推進系で取ればいいと考えるかもしれないが、推進系の燃料の問題で採用が難しく、推進薬を使用した軌道制御より比較的長期間使用できる姿勢制御機器を使用した姿勢制御を取っている。

 

また、静止軌道に小型衛星コンステレーションを構築すればよいという話が上がるかもしれないが、静止軌道での小型衛星はコストメリットが少ない。

 

静止軌道に打上げるロケット費用に対して、衛星寿命が長くて5年程度というのは短い。

静止軌道上の通信衛星は、だいたい15年の衛星寿命である。気象観測系の光学衛星も8年程度と言われている。

 

短納期で限界品質を目指しつつある小型衛星が参入して突き進めるには、やや分が悪いのが静止軌道の衛星の世界ではある。

 

 

さらなるサービス

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-KSC-2013-1500

 

HTSは、古くから軍事通信のソリューションを提供されてきました。

しかし現在の2000年代頃から、民間で所有するHTSも増え、民間の衛星通信サービスが比較的手軽に広がってきました。

 

HTSが広がることで、以下の3つの利点があります。

 

  • 国際通信サービスの向上
  • 海事通信サービスの向上
  • 民間航空会社の機内接続サービスの向上

 

HTSとなることで今まで使用されてきた電波通信より多くの情報量を提供することができます。

 

どのくらいのレベルかというと、ガラケーフィーチャーフォン)からスマホに変わったときと同じぐらいと言えばイメージが湧くでしょうかね。

  

で、2020年代に盛り上がっているスターリンク衛星は、いわば3G回線というレベルですね。

これが、今後、スターリンク衛星並みに世界中に回線が広げられるHTSが登場すれば、安定して4G回線レベルまで進められる未来が想像できます。

 

スターリンク衛星の衛星寿命がどの程度か分かりませんが、5年程度だとして、代わりに打上げていく次世代衛星にHTSの機能を搭載していくという方針もなんとなく読めます。(静止軌道上のHTSの衛星寿命はだいたい15年)

将来的にそれを担っている企業がスペースXとは限りませんが。今のうちにユーザーを増やしていけば、対抗できる企業が現われない状況で、そのまま移行していけば、、、

 

それでも、現在のスターリンク衛星のコンステレーションが安定的となった数年先の話にはなるとは思います。

 

HTSにもう少しスポットが当たるようになれば、まだまだあやふやなHTSの定義も定まることでしょう。

 

日本でも、それを見越してのETS-9のHTS機能なのだとは思います。

 

日本では、革新的技術衛星プログラムがあるので、このプログラムが終わる前に、HTSの小型衛星まで打上げてくれればいいのですけどと思いますね。

 

やはりHTS機能を持った衛星通信機器の小型化や低軌道、中軌道の制御は難しいのでしょうかね。

 

マルチビームを小型衛星でどう実行するのか、とか。マルチビーム用のアンテナを別の衛星に搭載するにしても、複数衛星によるコンステレーション前提で計画していかなければいけません。

 

技術的には、Ka帯の導波管の開発も難しいですからね。

 

さらには電波発信のための電力の確保も難しく、静止衛星も10数kWも必要となります。電力の高出力を実現しても今度は熱的要因が邪魔をしてきます。

 

衛星だけではなく地上局側にも十分に受信可能な設備が必要で、雲や雨などの大気環境を受けやすい帯域である中で、どのように安定的に通信できるか開発する必要があります。

 

どのような技術でこれらの課題を解決させるのか楽しみです。 

 

 

参考資料

技術試験衛星9号機による次世代ハイスループット衛星の通信技術確立に向けた取組み

https://app.journal.ieice.org/trial/102_12/k102_12_1080/index.html

IPSTAR: THE WORLD’S FIRST HIGH THROUGHPUT SATELLITE CELEBRATES 15 YEARS OF EXCELLENCE

https://www.thaicom.net/ipstar-the-worlds-first-high-throughput-satellite-celebrates-15-years-of-excellence/

次期技術試験衛星に関する検討会報告書

https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-minsei/minsei-dai4/siryou4.pdf

電子情報通信学会「知識ベース」衛星通信

https://www.ieice-hbkb.org/files/05/05gun_07hen_03.pdf

What is a high throughput satellite (HTS)?

https://ses-gs.com/solutions/fixed-sat-solutions/high-throughput-satellites/

Understanding the New HTS Realities

https://spacenews.com/sponsored/hts/

Four Reasons High Throughput Satellite will be a Game Changer

https://www.ses.com/four-reasons-high-throughput-satellite-will-be-game-changer

High Throughput Satellites Delivering future capacity needs

https://www.adlittle.com/sites/default/files/viewpoints/ADL_High_Throughput_Satellites-Viewpoint.pdf

High-throughput satellite

https://en.wikipedia.org/wiki/High-throughput_satellite

 

 

ETS-9*衛星通信プロジェクト

https://www2.nict.go.jp/spacelab/pj_ets9.html

 ニーズに合わせて通信容量や利用地域を柔軟に
変更可能なハイスループット衛星通信システム技術の研究開発

https://www2.nict.go.jp/spacelab/hts/researchH.html#RDall

 ニーズに合わせて通信容量や利用地域を柔軟に変更可能なハイスループット衛星通信システム技術の研究開発

https://www2.nict.go.jp/spacelab/hts/

 宇宙システムのデータ構成-データの流れ

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sangyo_cyber/wg_seido/wg_uchu_sangyo/pdf/002_03_00.pdf

 大型宇宙システムを支える最新のシステム開発マネジメント技術 高信頼性システムを目指して

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjsass/51/588/51_7/_article/-char/ja/

 Monte-Carlo value analysis of High-Throughput Satellites: Value levers, tradeoffs, and implications for operators and investors

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0222133

 Defining High Throughput Satellites (HTS)

http://satcompost.com/defining-high-throughput-satellites-hts/

いまさら聞けない『衛星ブロードバンド』とは?

https://www.planet-net.jp/blog/column0001/

洋上での衛星通信について

https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001340485.pdf

Ka帯を用いた移動衛星通信システムの動向

https://www.soumu.go.jp/main_content/000473510.pdf

How Will High Throughput Satellites Impact the Satellite Industry?

https://www.vizocom.com/internet/blog/will-high-throughput-satellites-impact-satellite-industry/

新人引継ぎ教育シリーズ:地上システムも忘れずに。参考になるJAXA標準。

もし人工衛星開発部署に入ってしまったらの参考ケースつづき

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今回はつづきである。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

前回は、新人向けに次のことを最初に教えておくとよい、としていた。

 

  1. システム系統図を教えておく。
  2. 状態遷移図で人工衛星の動作を教えておく。
  3. 不具合の共有を行う。

 

ちなみに、ベテラン向けには、検討課題項目と、リスク管理シートを出しておけばよいと、なかなか乱暴な感じであった。

 

上記の一連の説明は、ロケットの射場から人工衛星の放出と軌道上で動き(初期運用)まで説明することで、まとめて説明することができる。


ついでに、その時に人工衛星が受ける環境も伝えることで、振動試験や電気試験についても説明することができる。

 

人工衛星単体は、複雑なシステムの集合体であり、様々な技術が凝縮された製品であることは間違いない。

 

しかし、それだけでは嗜好品を作り上げた、というだけで終わってしまうだろう。


それではダメである。

 


現在は、人工衛星を使ったサービス、体験といったものに注目が集まれるような環境が整いつつある。

 

昔の自動車の広告がどのようなものだったか知っているでしょうか。

 

ボディがスマートでかっこよく、タイヤのデザインもきれいで、高級感を打ち出し、持っていることがステータスである。

そんな広告を中心に販売していた。

 

現在はどうだろうか。

 

自動車の中に家族が居て、家族で旅行して、旅行先で遊ぶ。

持っていることがステータスではなく、持っていることで新しい体験を、感動を与えてくれるツールであるという広告が多いのではないだろうか。

 

もちろん、高級感を打ち出す車種は存在しており、持っていることでのステータスを示す広告が残っているのは確かである。

しかし、見かける広告の種類としては逆転しているように感じないだろうか。

 

人工衛星も持っているだけではなく、どのようなサービスを提供できるツールであるかが重要になってきている。

 

それを打ち出さなければ、失速してしまうのだから。

 

そこで重要なのが地上局システム(地上システム)である。管制システム/運用システムという場合もある。

 

サービスをどのように提供するかは、最終的なアウトプット創出側となる地上局システムを考えておく必要がある。

 

地上から通信を行い、人工衛星を制御するという説明だけではなく、地上局で何をしているのかも含めて説明した方がよい。

 

なぜなら、人工衛星開発者は、地上局システムで実現可能な操作を越えた、ウルトラCな検討をすることがあるからだ。

 

そして結局は、人工衛星の機能として搭載されていても、使えないまま、使わないではなく使えないまま終わってしまう機能を開発してしまうからだ。

 

地上局で何をしているのか、なぜ電波を変更するのか、なぜ暗号化処理をするのか、暗号を複合するにはどうするのか、ミッションデータ(画像データ、観測データ)をどのように処理して提供するのか。

 

詳細とは言わず、ある程度の流れを知っておかないと、人工衛星単体の電気試験はもちろんだが、地上局と連携した地上試験の試験項目にも抜けが出てしまう。

 

開発終盤になって、地上局側でデータ処理を行うつもりだったのが、搭載しておらず、人工衛星側である程度のデータ処理を行うつもりと考えていたなどのすれ違いが発生してしまう。

 

地上局側にも、小規模でなければ、人工衛星と同様に機能に特化したサブシステムが存在することを忘れてはならない。

 

人工衛星側の運用設計あるあるで、トラブル対応やイレギュラー動作による対応を重点的に考えすぎており、平時の運用が驚くほどぼんやりとしており、決められていない(正確ではない・実現不可能)ことがある

 

逆に、平時の運用のみ重点的に考えられているが、トラブル発生やイレギュラー動作への対応を全く考えていない、という両極端であることが多い。

 

声を上げても、優先度は、自分たちの開発している側しか考えられておらず、検討の優先度が下がるばかりで、結果、合同試験の半年前や数か月前なんてことは、よくある話である。

 

設計の抜けは、新人は知らないので抜けてしまうことはあるが、中途あるいは経験者でも、今まで考えてこなかったから問題ないと考えて、設計が抜けてしまうこともあり、十分注意が必要である

 

 

日本であればやっぱりJAXA標準を参考にした方が早い

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そしてJAXA標準である。

 

JAXA標準は、公開している部分だけでも総数500ページを超える巨大な知識の集合体である。

 

最初の説明は、エッセンスだけ抜き出すとよい。

 

そして、JAXA標準はあくまで標準である。

 

罰則があるわけでもなく、技術の革新が起こっている現状では、すべてカバーしきれているわけでもない。過去の情報をもとに作成されたであろう文書も残っているところもある。

 

JAXA標準を目安として、適合しないところは、理屈をつけて、別途プロジェクトごとの基準文書に詳細に記載したり、社内規則/手順書を更新していくのが、効率の良い使い方である。

 

このJAXA標準だが、実は公開されていない標準や付随文書としてハンドブックというくくりも存在する。

 

そこにはJAXA内部の実験データやノウハウが蓄積されている。

 

現在、民間の人工衛星が広がり、JAXAがサポートに回るようなことがたまに言われたりもするが、JAXA衛星のみが許された蓄積情報を存分に使って、人工衛星開発の統括を進めてもらいたいものである。

 

話が逸れたが、JAXA標準は前述のようにあくまで参考にして、基準文書として自分たちの人工衛星の指針をまとめていくとよい。

 

少なくとも、社内の設計規則に準じた基準書を作成することで設計の抜け防止にはつながる。

 

人工衛星の「継続的な」開発は、時間との勝負である。

 

開発期間が長くなりがちで、個人に依存した技術がある場合は、その人が退職や転職により、あっという間にロストテクノロジーになってしまう。

 

技術の蓄積は継続して進めるべき活動である。

 

そのためにも、JAXA標準は参考にした方がよく、新人の方には、検討不足がないように一通り目を通しておくように進めると、案外、経験者よりも地に足の着いたコメントを出してくれるはずだ。

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

新人引継ぎ教育シリーズ:知識ゼロの人が人工衛星開発に配属されたときの一歩目

もし人工衛星開発部署に入ってしまったらの参考ケース

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もう2か月も経っていますが、新年度に入り、日本では多くの人が様々な企業に入社されていることでしょう。


人工衛星の開発プロジェクトは、企業において立ち上がり段階から軌道に乗るまでは、人工衛星でなくとも何かしらの開発経験者が中心となって進めていくことが多いことでしょう。


しかし、すべての企業において、開発経験者を毎年人工衛星の開発プロジェクトに送り込むことはない。


大学で人工衛星の開発をしていたものもいるかもしれないが、毎年、配属できるわけでもない。

 

スタートアップ企業であれば、早急な結果を出す必要があるため、経験者を取るだろう。


優秀で熱意と、勤勉さを兼ね備えていれば大学を出たばかりでも配属されることはあるかもしれないが、大多数はそんなことはない。


そんなのは正直レアケースだ。

 

今回は、企業あるいは組織側に、人工衛星ってなんなの?何の役になっているの?親や友人になんて話せばいいのか分からないレベルの人が、どのように既存のプロジェクトに参入して、人工衛星開発を学んでいくかをまとめてみた。

 

[まとめ]
  1. 現在のシステム系統図で説明
  2. 「私たちの作っている」人工衛星はどのような機能・特徴を持っているのかを説明。システム系統図と一緒であった方が理解は早い
  3. ベテラン領域の人材の場合、検討課題項目と、リスク管理シートを提示しよう
  4. 状態遷移図を説明
  5. 過去の不具合を共有
  6. 人工衛星の機器は手作業で組立製造
  7. ベテランあるいは人工衛星経験者には、各機器を対象に既存開発、改善開発品、公開情報開発品、新規開発品を識別して提示

 

新規プロジェクト参入者への説明者が認識しておくべきこと

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恐らく、教育担当から人工衛星とはなんなのか。どこに使われて、どんな風に役に立っているのか、テレビのニュースに色を付けた説明をすることになるのが多いのではないか。

 

しかし、プレゼンが上手ければ別だが、そんなことは新入社員からすれば、重要ではないというか、あまり記憶に残らない。


彼らが思うことは簡単

 

私がこれから何をするかを知りたい。何ができるのか知りたい。

 

ただ、それだけである。

 

ニュースや、業界関係者が分かりやすいとしている説明は、人工衛星とは?で説明されるものばかりである。

 

彼ら、彼女らが知りたいのは人工衛星開発とは?ではないのだ。

 

システム系統図から説明してみよう

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自主的に課題や不明点を探し、自分なりに構築して、既存のメンバーとすり合わせるだけの能力を持っていればよいのだが、全員が全員持っているわけではない。

 

人数が多い組織では、その傾向が潜んでいる。

全員ができる現場であれば「アタリ」だけど、そんなことはない。

開発の立場から、地道に学んでおく必要がある。

 

そこで説明には、現在のシステム系統図が便利だと感じた

 

しかも、なるべく詳細のシステム系統図を用意した方が良い。

 

開発初期であれば、過去に製造した人工衛星のシステム系統図を使用することでも問題はない。

 

その時注意するべきなのは、システム系統図をもとに、「私たちの作っている」人工衛星はどのような機能・特徴を持っているのかを説明することだ。

特に秀でているわけでなければ、汎用の量産機という説明でもいい。

 

教育担当は、同業他社から、あなたの人工衛星の特徴は?と聞かれたときに、絞り出せるすべてのことを最初から新入社員にぶつけるのだ。

 

そうでないと、多くの場合、取り組み始める新人が組み上げる人工衛星の設計思想がブレてしまう。

 

ニュース記事などで他の人工衛星を知ると、どうしても比較してしまう。

 

比較した時に違いを出せるように、最初のうちから説明した方がいい。


人工衛星開発は、各機能が複雑に絡み合っている集合体である。

 

人工衛星の分野に特化した、いわゆるサブシステム(姿勢軌道制御特化、構造特化、電源特化、通信特化など)を将来に渡り担当してもらうのであれば、システム系統図は不要である。

 

むしろ、コンポーネントやサブシステムの場合は、機能ブロック図を伝えた方が良い

 

しかし、近年の人工衛星の小型化や高性能を出すための課題は、1つのコンポーネント、サブシステムの範囲を越えてた複的な範囲で影響し合うことが多い

 

構造的に解決しても、電源的に不成立になったり、姿勢軌道制御的に解決しても、通信的に不成立になることも多い。

 

全体のバランスを取るのがとても難しいレベルに人工衛星開発がある。

 

システム系統図をもとに、どのような機能を持っているのか説明することをお勧めする。

 

人工衛星ではない、携帯や車のシステム系統図と比較するものよいだろう。

 

先にシステム系統図を説明しようといいつつ、一度は説明しても、謎の物体である人工衛星は、分かったような気でいて、実はぼんやりとした理解であると、配属されて一年弱ぐらいで気づかされるのだ。

 

身近な商品と比較することで、知識を馴染ませる方が、比較的理解が早かったと感じている。

 

身近な物体と比較することで、複雑なシステムを、ぼんやりと靄のかかったものではなく、シンプルに考えてもらう土壌をつくるのだ。

 

経験者であっても、システム系統図から学ぶことは多い。


例えば、自分の知っている人工衛星のシステム系統図を比較して、機器の数が違ったり、名称が違ったりすることがある。

 

名称が違うのは、組織内の文化による可能性も大いにあるが、細かく機能を見ていくと、自分の知っている人工衛星と近いけど違う機能をもつ機器であるという発見もできる。

 

機器が2つ以上ある場合は冗長系なのか、性能・機能の問題で2つ以上ないと目的(ミッション)を達せられないのか、といった気づきを得ることができる。

 

ちなみに、ベテラン領域の人材の場合だと、検討課題項目と、リスク管理シートがあれば、とりあえずは問題はないし、理解が早い。(課題とリスクは違うので、必ず分けて考えること)

 

なぜなら、細かい違いはあるが人工衛星のシステムは似ているからだ。

 

そこに作業のリソースを掛けるよりも、過去の経験則からこの組織では知らない検討課題の解決方法や、リスクの潰し方で、現在の人工衛星開発を前に進ませた方がいいと理解しているからだ。

 

人工衛星は打上げ日程が決まっている。

短い期間に多くの検討課題を素早く解決していく必要があるという経験を持っているはずだからだ。

 

システム系統図で全体を知ってもらったあとは、状態遷移図で衛星システムが、どのような状態を持っているのか知っておいた方がいいだろう。

 

状態遷移図は、姿勢軌道制御に関わる状態遷移図の方が理解が早いと感じている。
姿勢制御以外では、電源制御や通信の状態遷移図もある。

 

しかし、最初の説明では詳しすぎる。

 

姿勢制御と担当の状態遷移図があれば、それを説明するにとどめておいた方がいい。

 

開発フェーズによっては状態遷移図を見せられない時がある。

 

その場合は、最近の会議でよく話されている状態遷移を絡めて教えていくと、聞き手側も、後々の会議の理由を知ることができ、効果があるだろう。

 

そして、過去の不具合を共有すること

 

過去の不具合で、作業者あるいは設計者の経験不足のために発生した、と分析をした経験はないだろうか。

 

まさしく、経験不足の作業者あるいは設計者がが今から作業を行う。

 

過去の不具合が再度発生する可能性は高い。

 

通常の手順書通りの作業の流れだけではなく、過去発生した不具合事項も含めて概要だけでも展開しておいた方が良い。

 

一覧表にするなり、列挙一覧としても問題はない。

 

不具合は各組織のフォーマットで提示するとして、少なくとも概要(数行)、発生詳細、原因/背景(具体的に記載)、対策、効果確認結果あるいは効果確認時期がある方がよい。
過去の不具合を経て手順書を反映しているので同じ不具合は発生しない。

 

それは正しいのだが、大抵、不具合を出した手順の少し後の方で違う不具合を出していることも多い。

 

集中力切れであったり、過去不具合を出した担当者は、これ以上不具合を出せないという集中力で後工程をカバーしていた可能性もあるのだ。

 

人工衛星の機器は、手作業で組立製造していることが多い。

 

今後、オートあるいはセミオート製造になれる部分が増えていくだろうが、まだまだ手作業の割合が多い。

 

単純作業であるからといってミスを発生させずに、不具合が発生したことのある作業であると伝え、緊張感をもって作業を行うようにした方がよい。

 

もちろん、組織によっては訓練制度もあるだろうから、十分な練度を積んだほうがよい。

 

最終的には、ワークマンシップと呼ばれる人工衛星の仕上がり品質に関わるため、忘れてはならない。

 

そして、ベテランあるいは人工衛星経験者に対しては、各機器を対象として、既存開発、改善開発品、公開情報開発品、新規開発品を識別して提示するなど、バックグランドをまとめておくと、実績具合を分かり、リスク管理もしやすくなる。

 

新人向けには、このあと、JAXA標準とかの話をはじめたりするのだが、まあ今日はこんな感じで。

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

地球軌道上の放射線危険地域の南大西洋異常帯(SAA):シングルイベントが発生しやすい地域

 地球軌道上の放射線危険地域:南大西洋異常帯

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-PIA14441

 

さて、前の記事では地球圏の高度における放射線量をまとめています。

 

これらのデータは、主に電子部品の劣化させていく、トータルドーズ効果Total Ionizing Dose Effect::TID)の原因になります。

 

現在、低軌道では比較的低いのでTIDの影響を無視する考えもあります。

低軌道の場合、人工衛星が推進機構などの軌道制御機構を持っていなければ、地球の重力に従い、地表面に近づき、大気によって燃焼してしまうほど衛星寿命が長くないのです。

 

しかし、低軌道衛星が宇宙放射線対策をしなくてもよい理由にはなりません。

 

地球の軌道上には南大西洋異常帯(South Atlantic Anomaly, SAA)、南大西洋異常域とも、ブラジル異常帯とも呼ばれる地域があるからです。

 

ここは、非常に多くの宇宙放射線の線量が検出される地域でもあります。

困ったことに、ほとんどの高度で発生してしまい、多くの人工衛星が被害に合います。そのため、人工衛星ではこの地域を通過する場合、放射線対策が必要になるといわれています。

 

なぜ、この地域が異常帯とされているのか、その理由の一つに地軸(S極側)に近いという説があります。

 

他にも理由はあるかもしれませんが、今までの現象上いわれています。

 

この地域で放射線により電子部品(半導体)に発生してしまう現象は、シングルイベント効果と呼ばれ、回路上のデータ反転(デジタル信号の0、1の反転):(シングルイベント)アップセット(SEU:Single Event Upset)や、過度な電圧変化による異常事象:(シングルイベント)ラッチアップ(SEL:Single Event Latch up)を発生させます。

 

シングルイベント効果は、陽子線(プロトン)や電子線、重イオン/He粒子の中で高いエネルギーによって引き起こされることが知られています。

また、このような高エネルギーを持つ放射線が酸素ぶつかることでオゾンを発生させています。

 

 

これらの事実から、SEUの回数、プロトンやオゾンの観測によって、シングルイベントの発生しやすい地域のデータが現在そろってきています。

 

実際、データベースやいくつかの情報から環境モデル(予測モデル)が構築されています。

今回は比較的、ネット上で収集しやすいこれらの情報をまとめてみました。

 

 

高度400kmの観測情報

国際宇宙ステーションISS)のプロトンの観測情報

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https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/rosat/gallery/misc_saad.html

 
 

高度354~865kmの観測情報

1984年に打上げられた日本の科学衛星あおぞらの1984年から1988年のプロトン観測情報

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宇宙環境についての調査

 

高度400kmの予測情報

SPENVISを利用したISSのある1日のプロトンの予測情報

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Standard Radiation Environment Monitor- Simulation and Inner Belt Flux Anisotropy Investigation; Martin Siegl

高度500kmの予測情報

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Space Weather impacts on satellites at different orbits
  

高度520~670kmの予測情報

1992年に打上げられた米国NASA人工衛星SAMPEXの1992年6月から2004年6月のSEU情報

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Single-Event and Total Dose Testing for Advanced Electronics; Jonathan Pellish

 

高度561~681kmの予測情報(2009年)

AP-8 MIN modelを利用した2001年に打上げられたESA人工衛星であるPROBA(Project for On-Board Autonomy)2009年3月31日のプロトンの予測情報

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Standard Radiation Environment Monitor- Simulation and Inner Belt Flux Anisotropy Investigation; Martin Siegl

 

高度650~750kmのプロトン領域情報

APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

 

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

  

高度690kmのSEU実測情報(1988~1992年)

1984年に打上げられた英国サリー大学の1988年9月から1992年5月の9000回のSEU情報

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Space Weather Effects on Communications Satellites; H.C.Koons, J.F.Fennell

 

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 SPCE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS  (UoSAT-2[UO-11])

高度690kmのSEU実測情報(1987~1995年)

 1987年に打上げられた日本のNASDAの海洋観測衛星もも1号(MOS-1)のSEU情報と陽子量強度比較

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人工衛星太陽電池用ガラス材料の電荷蓄積特性に関する研究 : 直流課電及び電子線照射における電荷蓄積過程の実験的考察; 三宅弘晃

 

高度705kmのSEU実測情報(1987~1995年)

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SPACE AND ATMOSPHERIC ENVIRONMENTS: FROM LOW EARTH ORBITS TO DEEP SPACE

 

高度1250~1350kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度1750~1850kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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Single-Event and Total Dose Testing for Advanced Electronics; Jonathan Pellish

 

高度1500~1999kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度2450~2550kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度2450~2550kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度2450~2550kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

補足

AP-8のモデル

AP-8のモデルは、地球軌道上の陽子線のモデルのことで、0.1~400MeVまでのエネルギーをカバーしている。

1976年にVettleにより提唱され、いくつかの人工衛星の測定日に基いています。

さらにAP-8 MINとAP-8 MAXが存在し、MINとMAXは、それぞれ太陽との距離を示してる。

Space Environment Information System (SPENVIS)

ESAが開発した、宇宙環境のモデル情報を含んでいる宇宙環境情報システム

 

参考資料 

South Atlantic Anomaly

https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/rosat/gallery/misc_saad.html

Space Environmental Effects

https://www.nasa.gov/sites/default/files/files/NP-2015-03-015-JSC_Space_Environment-ISS-Mini-Book-2015-508.pdf

Standard Radiation Environment Monitor- Simulation and Inner Belt Flux Anisotropy Investigation

http://ltu.diva-portal.org/smash/record.jsf?pid=diva2%3A1021593&dswid=2562

Space Weather Effects on Communications Satellites

https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?arnumber=7909358

宇宙放射線環境における衛星開発~情報通信社会における衛星事故と宇宙環境計測の取り組み~

http://www.comm.tcu.ac.jp/kiyou/no7/1-09.pdf

Single-Event and Total Dose Testing for Advanced Electronics

https://nepp.nasa.gov/files/25176/NSREC2012_Pellish_SC.pdf

SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

https://radhome.gsfc.nasa.gov/radhome/papers/crux_98.pdf

Analysis of LEO Radiation Environment and its Effects on Spacecraft's Critical Electronic Devices Spacecraft's Critical Electronic Devices

https://commons.erau.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1101&context=edt

Space Weather impacts on satellites at different orbits

https://ccmc.gsfc.nasa.gov/RoR_WWW/SWREDI/2014/SWimpacts_YZheng_060914.pdf

SPACE AND ATMOSPHERIC ENVIRONMENTS: FROM LOW EARTH ORBITS TO DEEP SPACE

http://adsabs.harvard.edu/full/2003ESASP.540...17B

宇宙環境についての調査

http://lss.mes.titech.ac.jp/~matunaga/SpaceEnvironment.pdf

SPACE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS

https://www.researchgate.net/publication/234447132_Space_Environment_Analysis_Experience_and_Trends

Total Ionizing Dose

http://holbert.faculty.asu.edu/eee560/tiondose.html

 

Welcome to the NASA/GSFC Radiation Effects & Analysis Home Page!

https://radhome.gsfc.nasa.gov/top.htm

GSFC Radiation Data Base

https://radhome.gsfc.nasa.gov/radhome/RadDataBase/RadDataBase.html