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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

ハイスループット衛星(HTS)とは何か

high throughput satellite (HTS)?

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-KSC-00pp0712


 

直訳すると高い情報処理能力を持つ人工衛星である。

 

2022年に打上げられる技術試験衛星9号機(ETS-9)はハイスループット衛星(High Throughput Satellites:HTS)と呼ばれている。

 

ETS-9は、2006年に打上げられた技術試験衛星8号機(ETS-8)と同じシリーズ衛星ではあるが、搭載ミッションが同じというわけではなく、実証機器を搭載した大型人工衛星である。

実に15年以上も間が空いている人工衛星のシリーズである。

 

技術試験衛星は、とても簡単に言うと小型衛星を対象として実証機器を搭載して将来的なミッションへの活用を行う革新的衛星技術実証プログラムのJAXAの革新衛星の大型衛星版である。

 

横暴であるが、厳密に言うと目的が違うが、大枠としては似たようなものである。

 

 ETS-8も、HTSの機能を持っていたが、ETS-9の方がHTSを押しているような紹介である。

 

今回はそんなHTSの話です。技術試験衛星についてお話しする予定はございません。

 

HTSの特徴

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そもそも、HTSは一般名称のようなもので、小型衛星や中型衛星のように、人工衛星の区分けの一つのようなものである。

 

HTSであるハイスループット衛星の特徴は次のとおりである。

 

  1. Kaバンドなどの高周波数帯による広帯域の通信。
  2. マルチビームと呼ばれる複数のビームに異なる周波数帯域を割り当てた通信。すなわち、Kaバンド以外の周波数帯も使用される。
  3. 地上ネットワークと接続するための人工衛星の地上局(ゲートウェイ局)と人工衛星自体との通信。

 

単純には、衛星通信量の大容量化である。そして明確な定義はない。

 

HTSが増えると多くの情報量のやり取りができる。

 

現在、人工衛星の打上げ数が増大しているため、使用できる電波の周波数帯がどんどん少なくなってきている。

 

使用できる周波数帯が少なくなるが、多くの情報をやり取りしたい場合、限られた帯域で多くの情報を通信できる高周波数帯域を使用していくことになる。

 

高周波数帯域は、大気・天候による減衰が発生するため、他の低周波数帯よりも通信が困難になるというデメリットが存在しているが、それでも魅力的な帯域である。

 

このデメリットをカバーするために、衛星側の通信の電波強度を上げたり、地上側のアンテナ利得を上げたり、対象(スポット)に向けてのアンテナ指向性向上させるなどの手段が取られる。

 

このブログでは、最近はやりの低軌道衛星の話ばかりであったが、HTSの多くは静止軌道衛星が多い。

 

静止軌道である理由の一つに、デメリットに上げた指向性がある。

 

姿勢制御とアンテナ利得が充分でなければ通信ができないことから、常に地表の特定のスポットを向いている静止衛星を選択されることが多い。

 

近年、低軌道、中軌道衛星でのHTSも計画されているようだが、衛星コンステレーションが構成できるレベルでは無ければ安定した通信は困難である。

 

低軌道、中軌道でも、ある特定のスポットを視認できるような軌道を推進系で取ればいいと考えるかもしれないが、推進系の燃料の問題で採用が難しく、推進薬を使用した軌道制御より比較的長期間使用できる姿勢制御機器を使用した姿勢制御を取っている。

 

また、静止軌道に小型衛星コンステレーションを構築すればよいという話が上がるかもしれないが、静止軌道での小型衛星はコストメリットが少ない。

 

静止軌道に打上げるロケット費用に対して、衛星寿命が長くて5年程度というのは短い。

静止軌道上の通信衛星は、だいたい15年の衛星寿命である。気象観測系の光学衛星も8年程度と言われている。

 

短納期で限界品質を目指しつつある小型衛星が参入して突き進めるには、やや分が悪いのが静止軌道の衛星の世界ではある。

 

 

さらなるサービス

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-KSC-2013-1500

 

HTSは、古くから軍事通信のソリューションを提供されてきました。

しかし現在の2000年代頃から、民間で所有するHTSも増え、民間の衛星通信サービスが比較的手軽に広がってきました。

 

HTSが広がることで、以下の3つの利点があります。

 

  • 国際通信サービスの向上
  • 海事通信サービスの向上
  • 民間航空会社の機内接続サービスの向上

 

HTSとなることで今まで使用されてきた電波通信より多くの情報量を提供することができます。

 

どのくらいのレベルかというと、ガラケーフィーチャーフォン)からスマホに変わったときと同じぐらいと言えばイメージが湧くでしょうかね。

  

で、2020年代に盛り上がっているスターリンク衛星は、いわば3G回線というレベルですね。

これが、今後、スターリンク衛星並みに世界中に回線が広げられるHTSが登場すれば、安定して4G回線レベルまで進められる未来が想像できます。

 

スターリンク衛星の衛星寿命がどの程度か分かりませんが、5年程度だとして、代わりに打上げていく次世代衛星にHTSの機能を搭載していくという方針もなんとなく読めます。(静止軌道上のHTSの衛星寿命はだいたい15年)

将来的にそれを担っている企業がスペースXとは限りませんが。今のうちにユーザーを増やしていけば、対抗できる企業が現われない状況で、そのまま移行していけば、、、

 

それでも、現在のスターリンク衛星のコンステレーションが安定的となった数年先の話にはなるとは思います。

 

HTSにもう少しスポットが当たるようになれば、まだまだあやふやなHTSの定義も定まることでしょう。

 

日本でも、それを見越してのETS-9のHTS機能なのだとは思います。

 

日本では、革新的技術衛星プログラムがあるので、このプログラムが終わる前に、HTSの小型衛星まで打上げてくれればいいのですけどと思いますね。

 

やはりHTS機能を持った衛星通信機器の小型化や低軌道、中軌道の制御は難しいのでしょうかね。

 

マルチビームを小型衛星でどう実行するのか、とか。マルチビーム用のアンテナを別の衛星に搭載するにしても、複数衛星によるコンステレーション前提で計画していかなければいけません。

 

技術的には、Ka帯の導波管の開発も難しいですからね。

 

さらには電波発信のための電力の確保も難しく、静止衛星も10数kWも必要となります。電力の高出力を実現しても今度は熱的要因が邪魔をしてきます。

 

衛星だけではなく地上局側にも十分に受信可能な設備が必要で、雲や雨などの大気環境を受けやすい帯域である中で、どのように安定的に通信できるか開発する必要があります。

 

どのような技術でこれらの課題を解決させるのか楽しみです。 

 

 

参考資料

技術試験衛星9号機による次世代ハイスループット衛星の通信技術確立に向けた取組み

https://app.journal.ieice.org/trial/102_12/k102_12_1080/index.html

IPSTAR: THE WORLD’S FIRST HIGH THROUGHPUT SATELLITE CELEBRATES 15 YEARS OF EXCELLENCE

https://www.thaicom.net/ipstar-the-worlds-first-high-throughput-satellite-celebrates-15-years-of-excellence/

次期技術試験衛星に関する検討会報告書

https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-minsei/minsei-dai4/siryou4.pdf

電子情報通信学会「知識ベース」衛星通信

https://www.ieice-hbkb.org/files/05/05gun_07hen_03.pdf

What is a high throughput satellite (HTS)?

https://ses-gs.com/solutions/fixed-sat-solutions/high-throughput-satellites/

Understanding the New HTS Realities

https://spacenews.com/sponsored/hts/

Four Reasons High Throughput Satellite will be a Game Changer

https://www.ses.com/four-reasons-high-throughput-satellite-will-be-game-changer

High Throughput Satellites Delivering future capacity needs

https://www.adlittle.com/sites/default/files/viewpoints/ADL_High_Throughput_Satellites-Viewpoint.pdf

High-throughput satellite

https://en.wikipedia.org/wiki/High-throughput_satellite

 

 

ETS-9*衛星通信プロジェクト

https://www2.nict.go.jp/spacelab/pj_ets9.html

 ニーズに合わせて通信容量や利用地域を柔軟に
変更可能なハイスループット衛星通信システム技術の研究開発

https://www2.nict.go.jp/spacelab/hts/researchH.html#RDall

 ニーズに合わせて通信容量や利用地域を柔軟に変更可能なハイスループット衛星通信システム技術の研究開発

https://www2.nict.go.jp/spacelab/hts/

 宇宙システムのデータ構成-データの流れ

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sangyo_cyber/wg_seido/wg_uchu_sangyo/pdf/002_03_00.pdf

 大型宇宙システムを支える最新のシステム開発マネジメント技術 高信頼性システムを目指して

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjsass/51/588/51_7/_article/-char/ja/

 Monte-Carlo value analysis of High-Throughput Satellites: Value levers, tradeoffs, and implications for operators and investors

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0222133

 Defining High Throughput Satellites (HTS)

http://satcompost.com/defining-high-throughput-satellites-hts/

いまさら聞けない『衛星ブロードバンド』とは?

https://www.planet-net.jp/blog/column0001/

洋上での衛星通信について

https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001340485.pdf

Ka帯を用いた移動衛星通信システムの動向

https://www.soumu.go.jp/main_content/000473510.pdf

How Will High Throughput Satellites Impact the Satellite Industry?

https://www.vizocom.com/internet/blog/will-high-throughput-satellites-impact-satellite-industry/

新人引継ぎ教育シリーズ:地上システムも忘れずに。参考になるJAXA標準。

もし人工衛星開発部署に入ってしまったらの参考ケースつづき

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今回はつづきである。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

前回は、新人向けに次のことを最初に教えておくとよい、としていた。

 

  1. システム系統図を教えておく。
  2. 状態遷移図で人工衛星の動作を教えておく。
  3. 不具合の共有を行う。

 

ちなみに、ベテラン向けには、検討課題項目と、リスク管理シートを出しておけばよいと、なかなか乱暴な感じであった。

 

上記の一連の説明は、ロケットの射場から人工衛星の放出と軌道上で動き(初期運用)まで説明することで、まとめて説明することができる。


ついでに、その時に人工衛星が受ける環境も伝えることで、振動試験や電気試験についても説明することができる。

 

人工衛星単体は、複雑なシステムの集合体であり、様々な技術が凝縮された製品であることは間違いない。

 

しかし、それだけでは嗜好品を作り上げた、というだけで終わってしまうだろう。


それではダメである。

 


現在は、人工衛星を使ったサービス、体験といったものに注目が集まれるような環境が整いつつある。

 

昔の自動車の広告がどのようなものだったか知っているでしょうか。

 

ボディがスマートでかっこよく、タイヤのデザインもきれいで、高級感を打ち出し、持っていることがステータスである。

そんな広告を中心に販売していた。

 

現在はどうだろうか。

 

自動車の中に家族が居て、家族で旅行して、旅行先で遊ぶ。

持っていることがステータスではなく、持っていることで新しい体験を、感動を与えてくれるツールであるという広告が多いのではないだろうか。

 

もちろん、高級感を打ち出す車種は存在しており、持っていることでのステータスを示す広告が残っているのは確かである。

しかし、見かける広告の種類としては逆転しているように感じないだろうか。

 

人工衛星も持っているだけではなく、どのようなサービスを提供できるツールであるかが重要になってきている。

 

それを打ち出さなければ、失速してしまうのだから。

 

そこで重要なのが地上局システム(地上システム)である。管制システム/運用システムという場合もある。

 

サービスをどのように提供するかは、最終的なアウトプット創出側となる地上局システムを考えておく必要がある。

 

地上から通信を行い、人工衛星を制御するという説明だけではなく、地上局で何をしているのかも含めて説明した方がよい。

 

なぜなら、人工衛星開発者は、地上局システムで実現可能な操作を越えた、ウルトラCな検討をすることがあるからだ。

 

そして結局は、人工衛星の機能として搭載されていても、使えないまま、使わないではなく使えないまま終わってしまう機能を開発してしまうからだ。

 

地上局で何をしているのか、なぜ電波を変更するのか、なぜ暗号化処理をするのか、暗号を複合するにはどうするのか、ミッションデータ(画像データ、観測データ)をどのように処理して提供するのか。

 

詳細とは言わず、ある程度の流れを知っておかないと、人工衛星単体の電気試験はもちろんだが、地上局と連携した地上試験の試験項目にも抜けが出てしまう。

 

開発終盤になって、地上局側でデータ処理を行うつもりだったのが、搭載しておらず、人工衛星側である程度のデータ処理を行うつもりと考えていたなどのすれ違いが発生してしまう。

 

地上局側にも、小規模でなければ、人工衛星と同様に機能に特化したサブシステムが存在することを忘れてはならない。

 

人工衛星側の運用設計あるあるで、トラブル対応やイレギュラー動作による対応を重点的に考えすぎており、平時の運用が驚くほどぼんやりとしており、決められていない(正確ではない・実現不可能)ことがある

 

逆に、平時の運用のみ重点的に考えられているが、トラブル発生やイレギュラー動作への対応を全く考えていない、という両極端であることが多い。

 

声を上げても、優先度は、自分たちの開発している側しか考えられておらず、検討の優先度が下がるばかりで、結果、合同試験の半年前や数か月前なんてことは、よくある話である。

 

設計の抜けは、新人は知らないので抜けてしまうことはあるが、中途あるいは経験者でも、今まで考えてこなかったから問題ないと考えて、設計が抜けてしまうこともあり、十分注意が必要である

 

 

日本であればやっぱりJAXA標準を参考にした方が早い

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そしてJAXA標準である。

 

JAXA標準は、公開している部分だけでも総数500ページを超える巨大な知識の集合体である。

 

最初の説明は、エッセンスだけ抜き出すとよい。

 

そして、JAXA標準はあくまで標準である。

 

罰則があるわけでもなく、技術の革新が起こっている現状では、すべてカバーしきれているわけでもない。過去の情報をもとに作成されたであろう文書も残っているところもある。

 

JAXA標準を目安として、適合しないところは、理屈をつけて、別途プロジェクトごとの基準文書に詳細に記載したり、社内規則/手順書を更新していくのが、効率の良い使い方である。

 

このJAXA標準だが、実は公開されていない標準や付随文書としてハンドブックというくくりも存在する。

 

そこにはJAXA内部の実験データやノウハウが蓄積されている。

 

現在、民間の人工衛星が広がり、JAXAがサポートに回るようなことがたまに言われたりもするが、JAXA衛星のみが許された蓄積情報を存分に使って、人工衛星開発の統括を進めてもらいたいものである。

 

話が逸れたが、JAXA標準は前述のようにあくまで参考にして、基準文書として自分たちの人工衛星の指針をまとめていくとよい。

 

少なくとも、社内の設計規則に準じた基準書を作成することで設計の抜け防止にはつながる。

 

人工衛星の「継続的な」開発は、時間との勝負である。

 

開発期間が長くなりがちで、個人に依存した技術がある場合は、その人が退職や転職により、あっという間にロストテクノロジーになってしまう。

 

技術の蓄積は継続して進めるべき活動である。

 

そのためにも、JAXA標準は参考にした方がよく、新人の方には、検討不足がないように一通り目を通しておくように進めると、案外、経験者よりも地に足の着いたコメントを出してくれるはずだ。

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

新人引継ぎ教育シリーズ:知識ゼロの人が人工衛星開発に配属されたときの一歩目

もし人工衛星開発部署に入ってしまったらの参考ケース

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もう2か月も経っていますが、新年度に入り、日本では多くの人が様々な企業に入社されていることでしょう。


人工衛星の開発プロジェクトは、企業において立ち上がり段階から軌道に乗るまでは、人工衛星でなくとも何かしらの開発経験者が中心となって進めていくことが多いことでしょう。


しかし、すべての企業において、開発経験者を毎年人工衛星の開発プロジェクトに送り込むことはない。


大学で人工衛星の開発をしていたものもいるかもしれないが、毎年、配属できるわけでもない。

 

スタートアップ企業であれば、早急な結果を出す必要があるため、経験者を取るだろう。


優秀で熱意と、勤勉さを兼ね備えていれば大学を出たばかりでも配属されることはあるかもしれないが、大多数はそんなことはない。


そんなのは正直レアケースだ。

 

今回は、企業あるいは組織側に、人工衛星ってなんなの?何の役になっているの?親や友人になんて話せばいいのか分からないレベルの人が、どのように既存のプロジェクトに参入して、人工衛星開発を学んでいくかをまとめてみた。

 

[まとめ]
  1. 現在のシステム系統図で説明
  2. 「私たちの作っている」人工衛星はどのような機能・特徴を持っているのかを説明。システム系統図と一緒であった方が理解は早い
  3. ベテラン領域の人材の場合、検討課題項目と、リスク管理シートを提示しよう
  4. 状態遷移図を説明
  5. 過去の不具合を共有
  6. 人工衛星の機器は手作業で組立製造
  7. ベテランあるいは人工衛星経験者には、各機器を対象に既存開発、改善開発品、公開情報開発品、新規開発品を識別して提示

 

新規プロジェクト参入者への説明者が認識しておくべきこと

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恐らく、教育担当から人工衛星とはなんなのか。どこに使われて、どんな風に役に立っているのか、テレビのニュースに色を付けた説明をすることになるのが多いのではないか。

 

しかし、プレゼンが上手ければ別だが、そんなことは新入社員からすれば、重要ではないというか、あまり記憶に残らない。


彼らが思うことは簡単

 

私がこれから何をするかを知りたい。何ができるのか知りたい。

 

ただ、それだけである。

 

ニュースや、業界関係者が分かりやすいとしている説明は、人工衛星とは?で説明されるものばかりである。

 

彼ら、彼女らが知りたいのは人工衛星開発とは?ではないのだ。

 

システム系統図から説明してみよう

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自主的に課題や不明点を探し、自分なりに構築して、既存のメンバーとすり合わせるだけの能力を持っていればよいのだが、全員が全員持っているわけではない。

 

人数が多い組織では、その傾向が潜んでいる。

全員ができる現場であれば「アタリ」だけど、そんなことはない。

開発の立場から、地道に学んでおく必要がある。

 

そこで説明には、現在のシステム系統図が便利だと感じた

 

しかも、なるべく詳細のシステム系統図を用意した方が良い。

 

開発初期であれば、過去に製造した人工衛星のシステム系統図を使用することでも問題はない。

 

その時注意するべきなのは、システム系統図をもとに、「私たちの作っている」人工衛星はどのような機能・特徴を持っているのかを説明することだ。

特に秀でているわけでなければ、汎用の量産機という説明でもいい。

 

教育担当は、同業他社から、あなたの人工衛星の特徴は?と聞かれたときに、絞り出せるすべてのことを最初から新入社員にぶつけるのだ。

 

そうでないと、多くの場合、取り組み始める新人が組み上げる人工衛星の設計思想がブレてしまう。

 

ニュース記事などで他の人工衛星を知ると、どうしても比較してしまう。

 

比較した時に違いを出せるように、最初のうちから説明した方がいい。


人工衛星開発は、各機能が複雑に絡み合っている集合体である。

 

人工衛星の分野に特化した、いわゆるサブシステム(姿勢軌道制御特化、構造特化、電源特化、通信特化など)を将来に渡り担当してもらうのであれば、システム系統図は不要である。

 

むしろ、コンポーネントやサブシステムの場合は、機能ブロック図を伝えた方が良い

 

しかし、近年の人工衛星の小型化や高性能を出すための課題は、1つのコンポーネント、サブシステムの範囲を越えてた複的な範囲で影響し合うことが多い

 

構造的に解決しても、電源的に不成立になったり、姿勢軌道制御的に解決しても、通信的に不成立になることも多い。

 

全体のバランスを取るのがとても難しいレベルに人工衛星開発がある。

 

システム系統図をもとに、どのような機能を持っているのか説明することをお勧めする。

 

人工衛星ではない、携帯や車のシステム系統図と比較するものよいだろう。

 

先にシステム系統図を説明しようといいつつ、一度は説明しても、謎の物体である人工衛星は、分かったような気でいて、実はぼんやりとした理解であると、配属されて一年弱ぐらいで気づかされるのだ。

 

身近な商品と比較することで、知識を馴染ませる方が、比較的理解が早かったと感じている。

 

身近な物体と比較することで、複雑なシステムを、ぼんやりと靄のかかったものではなく、シンプルに考えてもらう土壌をつくるのだ。

 

経験者であっても、システム系統図から学ぶことは多い。


例えば、自分の知っている人工衛星のシステム系統図を比較して、機器の数が違ったり、名称が違ったりすることがある。

 

名称が違うのは、組織内の文化による可能性も大いにあるが、細かく機能を見ていくと、自分の知っている人工衛星と近いけど違う機能をもつ機器であるという発見もできる。

 

機器が2つ以上ある場合は冗長系なのか、性能・機能の問題で2つ以上ないと目的(ミッション)を達せられないのか、といった気づきを得ることができる。

 

ちなみに、ベテラン領域の人材の場合だと、検討課題項目と、リスク管理シートがあれば、とりあえずは問題はないし、理解が早い。(課題とリスクは違うので、必ず分けて考えること)

 

なぜなら、細かい違いはあるが人工衛星のシステムは似ているからだ。

 

そこに作業のリソースを掛けるよりも、過去の経験則からこの組織では知らない検討課題の解決方法や、リスクの潰し方で、現在の人工衛星開発を前に進ませた方がいいと理解しているからだ。

 

人工衛星は打上げ日程が決まっている。

短い期間に多くの検討課題を素早く解決していく必要があるという経験を持っているはずだからだ。

 

システム系統図で全体を知ってもらったあとは、状態遷移図で衛星システムが、どのような状態を持っているのか知っておいた方がいいだろう。

 

状態遷移図は、姿勢軌道制御に関わる状態遷移図の方が理解が早いと感じている。
姿勢制御以外では、電源制御や通信の状態遷移図もある。

 

しかし、最初の説明では詳しすぎる。

 

姿勢制御と担当の状態遷移図があれば、それを説明するにとどめておいた方がいい。

 

開発フェーズによっては状態遷移図を見せられない時がある。

 

その場合は、最近の会議でよく話されている状態遷移を絡めて教えていくと、聞き手側も、後々の会議の理由を知ることができ、効果があるだろう。

 

そして、過去の不具合を共有すること

 

過去の不具合で、作業者あるいは設計者の経験不足のために発生した、と分析をした経験はないだろうか。

 

まさしく、経験不足の作業者あるいは設計者がが今から作業を行う。

 

過去の不具合が再度発生する可能性は高い。

 

通常の手順書通りの作業の流れだけではなく、過去発生した不具合事項も含めて概要だけでも展開しておいた方が良い。

 

一覧表にするなり、列挙一覧としても問題はない。

 

不具合は各組織のフォーマットで提示するとして、少なくとも概要(数行)、発生詳細、原因/背景(具体的に記載)、対策、効果確認結果あるいは効果確認時期がある方がよい。
過去の不具合を経て手順書を反映しているので同じ不具合は発生しない。

 

それは正しいのだが、大抵、不具合を出した手順の少し後の方で違う不具合を出していることも多い。

 

集中力切れであったり、過去不具合を出した担当者は、これ以上不具合を出せないという集中力で後工程をカバーしていた可能性もあるのだ。

 

人工衛星の機器は、手作業で組立製造していることが多い。

 

今後、オートあるいはセミオート製造になれる部分が増えていくだろうが、まだまだ手作業の割合が多い。

 

単純作業であるからといってミスを発生させずに、不具合が発生したことのある作業であると伝え、緊張感をもって作業を行うようにした方がよい。

 

もちろん、組織によっては訓練制度もあるだろうから、十分な練度を積んだほうがよい。

 

最終的には、ワークマンシップと呼ばれる人工衛星の仕上がり品質に関わるため、忘れてはならない。

 

そして、ベテランあるいは人工衛星経験者に対しては、各機器を対象として、既存開発、改善開発品、公開情報開発品、新規開発品を識別して提示するなど、バックグランドをまとめておくと、実績具合を分かり、リスク管理もしやすくなる。

 

新人向けには、このあと、JAXA標準とかの話をはじめたりするのだが、まあ今日はこんな感じで。

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

地球軌道上の放射線危険地域の南大西洋異常帯(SAA):シングルイベントが発生しやすい地域

 地球軌道上の放射線危険地域:南大西洋異常帯

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-PIA14441

 

さて、前の記事では地球圏の高度における放射線量をまとめています。

 

これらのデータは、主に電子部品の劣化させていく、トータルドーズ効果Total Ionizing Dose Effect::TID)の原因になります。

 

現在、低軌道では比較的低いのでTIDの影響を無視する考えもあります。

低軌道の場合、人工衛星が推進機構などの軌道制御機構を持っていなければ、地球の重力に従い、地表面に近づき、大気によって燃焼してしまうほど衛星寿命が長くないのです。

 

しかし、低軌道衛星が宇宙放射線対策をしなくてもよい理由にはなりません。

 

地球の軌道上には南大西洋異常帯(South Atlantic Anomaly, SAA)、南大西洋異常域とも、ブラジル異常帯とも呼ばれる地域があるからです。

 

ここは、非常に多くの宇宙放射線の線量が検出される地域でもあります。

困ったことに、ほとんどの高度で発生してしまい、多くの人工衛星が被害に合います。そのため、人工衛星ではこの地域を通過する場合、放射線対策が必要になるといわれています。

 

なぜ、この地域が異常帯とされているのか、その理由の一つに地軸(S極側)に近いという説があります。

 

他にも理由はあるかもしれませんが、今までの現象上いわれています。

 

この地域で放射線により電子部品(半導体)に発生してしまう現象は、シングルイベント効果と呼ばれ、回路上のデータ反転(デジタル信号の0、1の反転):(シングルイベント)アップセット(SEU:Single Event Upset)や、過度な電圧変化による異常事象:(シングルイベント)ラッチアップ(SEL:Single Event Latch up)を発生させます。

 

シングルイベント効果は、陽子線(プロトン)や電子線、重イオン/He粒子の中で高いエネルギーによって引き起こされることが知られています。

また、このような高エネルギーを持つ放射線が酸素ぶつかることでオゾンを発生させています。

 

 

これらの事実から、SEUの回数、プロトンやオゾンの観測によって、シングルイベントの発生しやすい地域のデータが現在そろってきています。

 

実際、データベースやいくつかの情報から環境モデル(予測モデル)が構築されています。

今回は比較的、ネット上で収集しやすいこれらの情報をまとめてみました。

 

 

高度400kmの観測情報

国際宇宙ステーションISS)のプロトンの観測情報

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https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/rosat/gallery/misc_saad.html

 
 

高度354~865kmの観測情報

1984年に打上げられた日本の科学衛星あおぞらの1984年から1988年のプロトン観測情報

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宇宙環境についての調査

 

高度400kmの予測情報

SPENVISを利用したISSのある1日のプロトンの予測情報

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Standard Radiation Environment Monitor- Simulation and Inner Belt Flux Anisotropy Investigation; Martin Siegl

高度500kmの予測情報

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Space Weather impacts on satellites at different orbits
  

高度520~670kmの予測情報

1992年に打上げられた米国NASA人工衛星SAMPEXの1992年6月から2004年6月のSEU情報

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Single-Event and Total Dose Testing for Advanced Electronics; Jonathan Pellish

 

高度561~681kmの予測情報(2009年)

AP-8 MIN modelを利用した2001年に打上げられたESA人工衛星であるPROBA(Project for On-Board Autonomy)2009年3月31日のプロトンの予測情報

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Standard Radiation Environment Monitor- Simulation and Inner Belt Flux Anisotropy Investigation; Martin Siegl

 

高度650~750kmのプロトン領域情報

APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

 

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

  

高度690kmのSEU実測情報(1988~1992年)

1984年に打上げられた英国サリー大学の1988年9月から1992年5月の9000回のSEU情報

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Space Weather Effects on Communications Satellites; H.C.Koons, J.F.Fennell

 

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 SPCE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS  (UoSAT-2[UO-11])

高度690kmのSEU実測情報(1987~1995年)

 1987年に打上げられた日本のNASDAの海洋観測衛星もも1号(MOS-1)のSEU情報と陽子量強度比較

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人工衛星太陽電池用ガラス材料の電荷蓄積特性に関する研究 : 直流課電及び電子線照射における電荷蓄積過程の実験的考察; 三宅弘晃

 

高度705kmのSEU実測情報(1987~1995年)

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SPACE AND ATMOSPHERIC ENVIRONMENTS: FROM LOW EARTH ORBITS TO DEEP SPACE

 

高度1250~1350kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度1750~1850kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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Single-Event and Total Dose Testing for Advanced Electronics; Jonathan Pellish

 

高度1500~1999kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度2450~2550kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度2450~2550kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

 

高度2450~2550kmのプロトン領域情報

 APEX観測衛星にて観測されたプロトン領域

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SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

補足

AP-8のモデル

AP-8のモデルは、地球軌道上の陽子線のモデルのことで、0.1~400MeVまでのエネルギーをカバーしている。

1976年にVettleにより提唱され、いくつかの人工衛星の測定日に基いています。

さらにAP-8 MINとAP-8 MAXが存在し、MINとMAXは、それぞれ太陽との距離を示してる。

Space Environment Information System (SPENVIS)

ESAが開発した、宇宙環境のモデル情報を含んでいる宇宙環境情報システム

 

参考資料 

South Atlantic Anomaly

https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/rosat/gallery/misc_saad.html

Space Environmental Effects

https://www.nasa.gov/sites/default/files/files/NP-2015-03-015-JSC_Space_Environment-ISS-Mini-Book-2015-508.pdf

Standard Radiation Environment Monitor- Simulation and Inner Belt Flux Anisotropy Investigation

http://ltu.diva-portal.org/smash/record.jsf?pid=diva2%3A1021593&dswid=2562

Space Weather Effects on Communications Satellites

https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?arnumber=7909358

宇宙放射線環境における衛星開発~情報通信社会における衛星事故と宇宙環境計測の取り組み~

http://www.comm.tcu.ac.jp/kiyou/no7/1-09.pdf

Single-Event and Total Dose Testing for Advanced Electronics

https://nepp.nasa.gov/files/25176/NSREC2012_Pellish_SC.pdf

SINGLE EVENT EFFECTS ON COMMERCIAL SRAMS AND POWER MOSFETS:FINAL RESULTS OF THE CRUX FLIGHT EXPERIMENT ON APEX

https://radhome.gsfc.nasa.gov/radhome/papers/crux_98.pdf

Analysis of LEO Radiation Environment and its Effects on Spacecraft's Critical Electronic Devices Spacecraft's Critical Electronic Devices

https://commons.erau.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1101&context=edt

Space Weather impacts on satellites at different orbits

https://ccmc.gsfc.nasa.gov/RoR_WWW/SWREDI/2014/SWimpacts_YZheng_060914.pdf

SPACE AND ATMOSPHERIC ENVIRONMENTS: FROM LOW EARTH ORBITS TO DEEP SPACE

http://adsabs.harvard.edu/full/2003ESASP.540...17B

宇宙環境についての調査

http://lss.mes.titech.ac.jp/~matunaga/SpaceEnvironment.pdf

SPACE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS

https://www.researchgate.net/publication/234447132_Space_Environment_Analysis_Experience_and_Trends

Total Ionizing Dose

http://holbert.faculty.asu.edu/eee560/tiondose.html

 

Welcome to the NASA/GSFC Radiation Effects & Analysis Home Page!

https://radhome.gsfc.nasa.gov/top.htm

GSFC Radiation Data Base

https://radhome.gsfc.nasa.gov/radhome/RadDataBase/RadDataBase.html

 

地球軌道上の放射線危険高度:トータルドーズ効果が発生しやすい高度

宇宙は宇宙放射線に常にさらされている

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宇宙環境では多くの電子機器に放射線を受けます。

 

放射線を受けると、電子部品の性能が劣化します。

また、放射線のエネルギーを受けて、デジタル信号も変化することがあります。

 

これらは放射線の1つ1つのエネルギーによって起きる現象が変わります。

陽子線(プロトン)や電子線、重イオン/He粒子の高エネルギーの場合は、後者のデジタル信号が変化する「など」の影響が発生します。

 

 そしれこれらは目に見えません。

 

高品質と宇宙放射線銀河宇宙線

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さて、宇宙のスタートアップ企業が続々と生まれる中、数十年以上の歴史を持つメーカーから宇宙事業に手を出す企業は少ないです。

 

なぜか?

 

宇宙での動作することを考えた場合、各メーカーが今まで積み上げてきた品質を保つことができない、とメーカー側から言われることがあるからです。

 

高品質・高信頼性という言葉が独り歩きした結果、宇宙の領域は厳しい環境であり、技術的には可能かもしれませんが、品質を保つのにコストが掛かり、メーカー側にメリットがないことが多いと思われてしまうのです。

 

高いコストは置いておいて、負荷環境を受けたことを考えると、日常生活で使われている航空機に使用される機器や自動車、人命にかかわる医療機器の方が、条件として厳しいことが少なくありません。

熱環境や振動環境、電磁場環境が最たるものですね。

 

それでもメーカーの人たちが危惧している負荷環境は宇宙放射線です。

 

ただ、放射線の種類の比率は大きく変わりますが、宇宙放射線銀河宇宙線)と言えど、 医療機器に使用される放射線と現象として大きな違いはありません。

 医療機器と宇宙機器に使用される放射線対策に違いでてくるだけなのです。

 

医療機器の場合は、放射線漏れが発生しない様に、強力な防護対策が施されることがありますが、宇宙機器の場合は、防護対策を施せるほどのリソースがとても少ないのです。

 

リソースが少ない理由として、ロケットの打上げ性能、完全リモート操作であること、駆動エネルギー源が少ないことが少なからずあげられます。

 

この少ないリソースの中で制御することが必要あり、より困難にしています。

 

今回は、日常で使用される機器にはない宇宙放射線という環境についてまとめてみました。

 

 地球軌道上の放射線危険高度:トータルドーズ効果が発生しやすいかもしれない高度

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宇宙放射線は、太陽光のようにほぼ一定のエネルギーを常に放出しているわけではなく、目に見えない粒が広い宇宙空間に放射されるのです。

 

地球圏内(軌道上含む)に入り込む宇宙放射線の量は、太陽活動に影響しているようで、太陽活動が激しい時は宇宙放射線量が少なく、大人しい時は宇宙放射線量が多いことが観測結果からいわれています。(2009年の太陽活動の低下)

 

一方で、太陽活動が活発になると発生する太陽フレアによって、多くの宇宙放射線が観測されたともいわれています。(2017年の大規模フレア時)

 

いやいや、どっちなの? といった状況ではあります。

 

太陽活動が低くても宇宙放射線は多くなりますし、太陽フレアでも宇宙放射線は多くなります。

 

これらの情報が何に使われるのというと、打上げタイミングをずらすことで宇宙放射線の量が少ない時期に打上げるという手段が取れます。

 

ロケットの打上げ機会が少ない場合、人工衛星の寿命を延ばす観点では、とても重要な要素になります。

 

 ちなみに、このように太陽活動如何で発生するのは、シングルイベント効果と呼ばれる現象が起こりやすくなります。

 

シングルイベント効果は、陽子線(プロトン)や電子線、重イオン/He粒子の中で高いエネルギーによって引き起こされます。

具体的には、データの反転(0、1の反転)が発生したり、過度な電圧変化が起こります。

 

宇宙放射線で発生する現象として、シングルイベント効果とは別に、トータルドーズ効果(Total Ionizing Dose Effect::TID)があります。

 

トータルドーズ効果は、シングルイベント効果のような高エネルギーの宇宙放射線ではなく、宇宙線の中で陽子線や電子線が周囲の物質にぶつかることでガンマ線(γ線)が発生し、半導体に入射することで、電離作用を及ぼし、電荷が生成します。

 

やがて半導体(CCDセンサ、COMSセンサ、LSI、RAM、太陽電池セルなど)の特性を劣化させていくのです。

 

 

現在、各所で人気の低軌道衛星は、このトータルドーズ効果の影響が少ないといわれています。

 

その理由の一つに、低軌道では静止軌道より放射線量が少ないためだといわれています。

 

今回は、過去の観測データや環境モデル(予測モデル)を紹介して終わりとします。

 

 

高度毎の放射線量観測データ

4mmのアルミニウムに入り込んだ放射線量(地域は不明)

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SPACE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS


電子、陽子(バンアレン帯)のエネルギー別線量分布

宇宙用材料と放射線(2004年07月)

 

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Spacecraft Charging and Hazards to Electronics in Space (2001)

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Spacecraft Charging and Hazards to Electronics in Space (2001)

Single-Event and Total Dose Testing forAdvanced Electronics


参考資料 

美術大学で宇宙気候学に取り組む異色の研究者、宮原ひろ子教授が開発した世界初の解析手法とは

https://www.rikelab.jp/study/8528

宇宙線と雲形成

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/119/3/119_3_519/_pdf/-char/ja

太陽の活動と地球への影響

https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/chigakukiso/archive/chigakukiso19_08.pdf

航空機高度での宇宙線被ばく量を2024年まで予測~前回の太陽活動極小期(2009年)前後に比べ約19%増大する可能性

https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20170512.html

宇宙放射線

https://edu.jaxa.jp/contents/other/seeds/pdf/2_radiation.pdf

「地球に到来する宇宙線」が増大:太陽活動と関連

https://wired.jp/2010/10/28/%E3%80%8C%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%81%AB%E5%88%B0%E6%9D%A5%E3%81%99%E3%82%8B%E5%AE%87%E5%AE%99%E7%B7%9A%E3%80%8D%E3%81%8C%E5%A2%97%E5%A4%A7%EF%BC%9A%E5%A4%AA%E9%99%BD%E6%B4%BB%E5%8B%95%E3%81%A8%E9%96%A2/

太陽フレアなど宇宙天気による社会への影響を評価~宇宙天気は日本にどのような影響を及ぼすか~

https://www.nict.go.jp/press/2020/10/07-1.html

8.1 How come the Van Allen radiation belts didn’t kill the astronauts?

http://www.moonhoaxdebunked.com/2017/07/82-how-come-van-allen-radiation-belts.html

 

SPACE ENVIRONMENT ANALYSIS: EXPERIENCE ANS TRENDS

https://www.researchgate.net/publication/234447132_Space_Environment_Analysis_Experience_and_Trends

Total Ionizing Dose

http://holbert.faculty.asu.edu/eee560/tiondose.html

宇宙用材料と放射線(2004年07月)

https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_08-04-01-10.html

https://atomica.jaea.go.jp/data/fig/fig_pict_08-04-01-10-05.html

 Spacecraft Charging and Hazards to Electronics in Space 

https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/0906/0906.3884.pdf

Single-Event and Total Dose Testing forAdvanced Electronics

https://nepp.nasa.gov/files/25176/NSREC2012_Pellish_SC.pdf

 

Welcome to the NASA/GSFC Radiation Effects & Analysis Home Page!

https://radhome.gsfc.nasa.gov/top.htm

GSFC Radiation Data Base

https://radhome.gsfc.nasa.gov/radhome/RadDataBase/RadDataBase.html

 

サービス回復のパラドックスについて

サービス回復のパラドックス(Service recovery paradox)とは?

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本来、製品に対してトラブルが発生した場合、多くのユーザーは不満を募らせ、人によってはクレームを行います。

 

しかし、発生したトラブルをサービスによって補填、回復、修正を正しくすることで、(すべてではないが)トラブルの発生していない安定したサービスよりもユーザーに対して多くの満足感と信頼感を与えることができます。

 

言ってしまえば、トラブルはユーザーにさらなる満足感を与えることをサービス回復のパラドックスと呼ばれています。

 

しかし、残念なことに必ずしも再現性があるというわけではありません。

 

今回は、このサービス回復のパラドックスという言葉を少し調べてみましたので、まとめてみました。 

 

サービス回復のパラドックスの一例

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例えば、航空券を申し込んでいたユーザーに突然キャンセルの連絡が来たとします。

ユーザーは航空会社に連絡すると、航空会社の人たちは謝罪した上で、フライトと同日の別の航空券と、将来旅行に対する割引券を提供してくれました。

サービス回復のパラドックスによれば、ユーザーは航空会社に満足し、トラブルが発生しなかった場合よりも、信頼感を高めます。

 

ここ数年の話では、2015年11月23日に日本でも多く使用されているメッセージングサービスであるSlackの大規模障害が発生しました。

世界中100万人を超えるユーザーが、3時間にわたりメッセージやファイルを送受信できなくなったのです。

一部のユーザーは、Twitterやその他のSNSから不満やクレームを発信していました。

Slackは、サービス障害が起きた数時間の間に、公式アカウントから2,300回以上の発信を行いました。

ただは発信を行っただけではなく、サービスの停止について不安やクレームを発信しているユーザーに対して返答をし続けたのです。

この対応はユーザーを驚かせただけではなく、3,300人以上のフォロワーを獲得しました。

これは平均の7倍にも上り、Slackの中でも最悪な日が避けられたとも言われています。

 

 

サービスのトラブルは、他のサービスへの乗り換えが発生する要因にもなります。

 

逆にトラブルからの上手く回復させることができれば、サービスを継続して使用しても良いと感じる気持ちを継続させます。

 

そもそもサービスの回復は、エラーを発生さないことが難しいサービスを提供する提供側からすれば、気を付けなければいけない要素となります。

 

サービス回復のパラドックスの背景と歴史

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サービス回復パラドックスという用語は、1992年にMcColloughとBharadwajによって創られました。

 

彼らは、トラブル発生後のユーザー満足度が、トラブル発生前のユーザー満足度を超えていた結果になったそうです。

 

サービス回復のパラドックスは、効果的なサービス回復は単にユーザー満足度を維持するだけでなく、よりユーザー満足度を上げることができます。

 

結果として、長期的にユーザーを獲得し、良好なロイヤルティを生み出すことができると主張していました。

 

彼らはそれを「A situation in which a consumer has experienced a problem which has been satisfactory resolved, and where the consumer subsequently rates their satisfaction to be equal to or greater than that in which no problem had occurred.(満足度が高い解決方法を消費者が受け取ることによって、問題が発生しなかった状況と同じか、それ以上の満足感を感じることができる状況である(意訳)」と定義されています。

 

サービス回復のパラドクスの概念が、1990年代初頭に導入されて以来、いつ、どのような状況で発生するのか、多くの実証研究が行われてきたそうです。

 

サービス回復のパラドックスという言葉ができるまでは、「A good recovery can turn angry, frustrated customers into loyal ones. It can, in fact, create more goodwill than if things had gone smoothly in the first place(適切な回復は、怒りや不満を発生させている顧客を、不満もない顧客へ変貌させることができます。実際には、物事が順調に進んでいることよりも、問題が発生して回復させた方がより多くの信頼を生み出します。」と説明されていました。

 

また、この考え方を戦略的に使用することで顧客との継続的な信頼性を保持させることができるとも考えられています。

 

いくつかの調査研究結果

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サービス回復パラドックスを調査した実証研究では、さまざまな結果が得られています。

 

サービス回復のパラドックスの存在を支持する研究もあれば、矛盾する発見がある研究もあります。

 

ある調査によると、サービス回復パラドックスは存在し、その影響は重大と言えます。

しかし、非常にまれな発生であり、管理上の関連性はないとしている場合もあります。

 

上げればキリもないのですが例えば、電気通信会社のユーザーが再び同じ会社と契約した行動を調査した研究では、サービスを回復した時に戻ってきた顧客数は、回復した時とは別のタイミングで戻ってきた顧客の方が大幅に多いことが分かっています。

 

航空会社によるフライトの遅延によって、ユーザーの個人的なイベントに大きな影響を及ぼした場合は、割引券を渡されたとしても満足度を上げることはできません。

 

飛行中に「悪天候のためフライトが遅れます」というよりも「このフライトは出発が遅れたため、到着も遅れます」と言ってしまうと、サービス回復のパラドックスを発生させる可能性を低くさせます。

 

 

一部の研究では、サービス回復のパラドックスは平凡なサービスの場合にのみ発生し、優れて安定しているサービスでは発生しない可能性があると結論付けています。

 

さらには、深刻なレベルではないが、サービスを受けている顧客では制御できないなどのいくつかの条件が満たされたときに影響が発生する可能性が最も高いという研究もあるというものです。

 

これらの調査結果から、次のようにまとめているときもあります。

 

  • 以前に障害が発生している顧客に対しては効果が発揮されません
  • 大きな障害については効果が発揮されません
  • サービスを受けていた期間に関係ありません
  • 提供側の制御できる範疇を越えていると判断した場合に、より効果を発揮します
  • 原因追及の結果、予測できなかったと顧客が認識した場合に、効果を発揮します

 

サービス回復のパラドックスは、たまにミスした場合に、上記を条件として、効果を発揮させ、満足感を上げ、信頼度を高める可能性があります。

 

ただし、必ず起きるものではないため、サービス回復のパラドックスを当てに動いてはいけないということです。

 

 

サービス回復のパラドックスをいつでも発揮させるには

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事前に準備することで、問題が発生した結果的にサービス回復のパラドックスの効果が発揮できるかもしれません。

 

1.危機が発生した場合

迅速な回復プロセスの準備

危険なシナリオを検討し、各シナリオがどのように影響するのか調査し、事前に最も重要な問題点を特定しておきます。

 

すでにサービスを受けて満足し、サービス回復のパラドックスにより高い満足を得る可能性がある顧客は、そうではない顧客より高い価値があります。

 

それにも関わらず、サービス提供側は既存の顧客に対して積極的な行動を怠ることがあります。

 

既存の顧客をないがしろにすることは、クレームや悪評を増やし、サービスのブランドを落とす可能性があります。

 

結果的に信頼を回復させるために発生させるコストは、事前に準備していた場合と比べて跳ね上がります。

 

明確な優先順位とガイドラインを設定し、危機管理の組織体制を整えて、顧客のニーズに優先順位をつけて進める必要があります。

 

ユーザーとの窓口を強化する

カスタマーサービスを行う人員は、危機管理の時に重要になります。

 

多くの顧客がサポートを求める事態になったときに、判断できる権限を与えておく必要があります。

 

顧客からの連絡に対し、組織のポリシーを十分に認識し、迅速な対応ができるようにしてください。

 

 

2.問題が発生した前

問題が炎上する前に、全体を把握し、可能な範囲で制御し、効果的にコミュニケーションを行う

 

問題が発生した時に、顧客の96%は会社に対して直接クレームを発信することなく、サービス提供側の原因を追究し、発信します。

 

問題が発生した場合、サービス提供側は情報の発信に積極的に取り組む必要があります。

 

サービスが停止していると多くの顧客が気付く前に通知してください。少なくとも、コールセンターへの連絡は減少します。

 

頻繁に更新を行い、常に顧客の動向を確認し、問題を解決するために熱心に取り組んでください。

 

透明性を保ちつつ、責任の所在をそらしたり、難しい専門用語を使用しないでください。

 

顧客の信頼を維持するためには、お互いに伝わる込みにケーションが必要となります。

 

顧客へのフィードバックを行う

 

問題を回避し、解決されても顧客を放置しないでください。

 

問題の理由と実行されている予防措置を明確に発信してください。

 

顧客のクレームが是正措置に繋がった場合は、感謝と改善を顧客様に通知してください。

 

情報の提供をすることで、顧客もチームの一員であるかのように感じ、より高い満足感と信頼感を感じることができます。

 

 

参考資料

Service Recovery Paradox – How to Turn Failure Into Value

https://customerthink.com/service-recovery-paradox-how-to-turn-failure-into-value/

What Is the Service Recovery Paradox, and Is It Real?

https://smartercx.com/what-is-the-service-recovery-paradox-and-is-it-real/

How To Use the Service Recovery Paradox To Your Advantage

https://www.genroe.com/blog/when-does-the-service-recovery-paradox-work-and-when-does-it-fail/763

The service recovery paradox

https://www.customerthermometer.com/customer-retention-ideas/the-service-recovery-paradox/

The power of the service recovery paradox

https://smartermsp.com/the-power-of-the-service-recovery-paradox/

ラッセル・リンカーン・アコフのシステム思考【システムエンジニアリング】

システムエンジニアリングとはなにか?

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この質問に回答するのは、とても困難です。

 

ウィキペディアによると

Systems engineering is an interdisciplinary field of engineering and engineering management that focuses on how to design, integrate, and manage complex systems over their life cycles.

Systems engineering - Wikipedia

 「システムエンジニアリングは、大規模で複雑なシステムを開発及び設計、統合及び管理するための学術的なアプローチ」

しかしそれだけで表現するには困難です。

 

別の定義として次のように表現しているエンジニアもいます。

The systems engineer ensures that the product satisfies the customer.
and
The systems engineer examines the entire system and applies a little wisdom

Just Enough Systems Engineering

 「システムエンジニアは、顧客が製品に満足七得ることを確認します。

そして

システムエンジニアは、システム全体を見渡して、いくつかの知恵を適用します。」

 

この定義は一見当然のことと思われるかもしれません。

しかし、現実は難しいという事実があります。

 

システムエンジニアリングは、故障が発生した時に、特に巨大な影響(コストやスケジュール)が発生するときに、効果を感じることができます。(それまでは、単に手間のかかる無駄作業と感じる方が多いのではないかと思います。)

また、プロジェクトマネジメントよりも前の段階から実施しておくことで、より効果的に機能します。

 

システムエンジニアリングは宇宙機の開発から多く広まりました。

現在では、航空機、建設、通信など多くの物に使用されています。

 

それらの分野には、それぞれ、規格、認証、資格があり、システムエンジニアリングを実践するには、管理するための大量の紙を使ったりと、現在のペーパーレスに即さない悪評も上がっています。

 

それは正解でもありますが、うまく使いこなせば小さな労力で実行することも可能です。

 

実際のところ、システムエンジニアリングに対する回答は、自らシステムエンジニアリングを実践し、理解するほかないのです。

 

そのうえで、システムエンジニアリングに対する回答を得るしかないのです。

 

システム思考

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システム思考という言葉を知っているでしょうか?

 

システム思考とは、システムの一部分を確認しながら全体を見渡すことを意味しています。

 

システム思考とは、全体が部分部分が統合された集合体であることを理解することを意味しています。

 

個々のパーツでは見つからない特性を見つけることも意味します。

 

というように、いまいち、具体性の掛けている表現になってしまいます。

 

ラッセル・リンカーン・アコフは次のように述べています。

 

Successful problem solving requires finding the right solution to the right problem. We fail more often because we solve the wrong problem than because we get the wrong solution to the right problem.

http://fearlessrevival.com/russell-ackoff/

 「問題を解決させるには、問題を適切に見分け、適切な解決策を見つける必要があります。正しい問題に対して間違った解決方法を試すよりも、間違った問題を解決して、失敗することがよくあります。」

 

いくつかのアプローチを行い、問題を解決したとしても、実は問題解決に至らない課題に対して注力しており、結果、失敗してしまう。

 

といったところでしょうか、こういったことがしばしば発生し、システム思考が自分たちの組織に合わないと止めてしまうこともあるかもしれません。

 

ラッセル・リンカーン・アコフは、失敗している理由として次のことを挙げています。

 

システムの一部分を改善しても、必ずシステム全体として改善されるとは限らない

優れたエンジニアだとしても、平凡な製品を作ってしまう理由の一つです。

各部分がお互いに適合して、システム全体が成立するという事実を認識することから始まります。

 

問題は分野ごとに整理されているとは限らない

実務上の理由から、各分野ごとに担当や組織が分かれているいますが、問題も同様に分野ごとに分かれているとは限りません。

 

問題に対して様々な角度から検証していく必要があります。

 

問題を発散させず、問題を解決する必要があります。

システムは、問題が無くなるように調整していく必要があります。

 

問題を試行錯誤したり、学術的なアプローチを行ったとしても、必ず問題が前進するわけではありません。

 

 

参考

Was ist Systems Engineering?

https://www.se-trends.de/was-ist-systems-engineering/

Systemdenken: Die Sichtweise von Russell Ackoff

https://www.se-trends.de/systemdenken-russell-ackoff/

 

https://de.wikipedia.org/wiki/Russell_Ackoff

Russell L. Ackoff | Quotes | Systems Thinking Books

http://fearlessrevival.com/russell-ackoff/

最近のJAXAは年収が分かるらしい

JAXAの場合簡単に年収が出てきます。

だいたい690万ですって、本当?って感じですが。

 

案外知られていないようなんですよね、このページ。

 

 

いえ、今回はこれだけです。

 

www.jaxa.jp

www.jaxa.jp

 

 


 

レーザー加工の誤解と6つ真実【筐体加工】

レーザー加工の誤解を解く

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原文

https://www.engineeredmechanicalsystems.com/truth-behind-laser-cutting-myths/

 John Thom

レーザーは間違いなく、私たちの知る技術の中でも実用的に進化してきた技術の一つです。光のエネルギーを集約したビームは、矯正眼科手術をはじめ、音の伝達に至るまで利用されています。

 

レーザー加工は、材料によって事前に加工プログラムを作成し、コンピューター制御によって、強力なレーザーを調整しています。

一般的な例として、カメラ内部に搭載される回路の加工やさまざまな素材で作られた装飾品で使われています。

適切なレーザー機器を使用することで、多くの金属を細かい形状で加工し、多くの製品に使用することができます。

 

しかし、製造業の世界におけるレーザー加工の常識は、一般的に誤解も広がっています。

この記事では、レーザー加工に関するいくつかの誤解と真実をまとめました。

 

続きを読む

宇宙機のセラミックコンデンサの熱や機械的負荷の影響 | Lessons Learned、失敗学、事故事例

宇宙環境試験に供するセラミックコンデンサの注意点 

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コンデンサは、充電や放電を行うことで、電圧の変化を吸収したり、電気の通り道で余計なノイズを横道にそらしたり、直流はさえぎり周波数で信号をより分ける機能があります。

 

セラミックコンデンサは、誘電体に高誘電率のセラミックを用いたコンデンサで、次のような特長があります。

  • 極性がない
  • 高周波特性が良い(ESRが低い)
  • 高耐熱
  • 長寿命
  • 印可電圧によって容量が変化する特性(DCバイアス特性)を持っている。DCバイアス特性は誘電率が大きいものほど顕著に現れる。
  • 温度によって静電容量が大きく変化する
  • 高周波による振動で音鳴りが発生する
  • 温度/機械的衝撃によりクラック・割れ・欠けが発生しやすい

 

今回は、宇宙環境におけるセラミックコンデンサの注意点を述べています

 

概要

セラミックチップコンデンサは、熱衝撃や機械的ストレスの影響を非常に受けやすくなっています。

 

多くのゴダードスペースフライトセンター(GSFC)プロジェクトでは、熱衝撃または機械的応力のいずれかにより、セラミックキャップに、通常は複数の部品に亀裂が発生しています。

 

あるケースでは、部品はすべての環境試験に合格しましたが、軌道上で数か月後に異常な動作が始まりました。

発生タイミング

LandSat-8熱赤外線センサー(TIRS)の軌道上異常、磁気圏マルチスケールミッションの統合とテスト(I&T)

Lessons Learned
  1. すべてのメーカーのセラミックコンデンサは、良性で実証済みの基準に準拠していると見なされる可能性のある熱的および機械的条件下で劣化または故障につながる可能性のある亀裂が発生する可能性があります。
  2. 損傷は、はんだ接合部の修正、手直しと修理、隣接部品の取り付け、または曲げを含む可能性のあるボードの機械的取り扱いなどの活動によって発生する可能性があります。

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

  1. 部品を取り付ける前に、常にボードと部品を熱的に事前調整してください(NASA-STD-8739.2の13.4.1項と13.4.4項を参照)。
  2. 審美的なはんだ接合の修正を行わないでください。
  3. 取り付けられたセラミックコンデンサの近くでの手直しや取り付け不足に注意してください。
  4. ボードの柔軟な領域にセラミックコンデンサを含む設計を組み立てます。
  5. 手はんだ付けは避けてください。ただし、必要に応じて、熱衝撃を避けるために部品とボードの熱前処理を実行してください。
  6. テスト中は漏れ電流の兆候に注意してください。

 

 

Lessons Learnedとは 

Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。

 

得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。

Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。

  

NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めてみました。 

  

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

Understand What 'Cleaning' Means In The Context Of The Flight Item

https://llis.nasa.gov/lesson/2043

コンデンサの『種類』まとめ!特徴などかなり詳しく分類

https://detail-infomation.com/capacitor-type/