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サービス回復のパラドックスについて

サービス回復のパラドックス(Service recovery paradox)とは?

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本来、製品に対してトラブルが発生した場合、多くのユーザーは不満を募らせ、人によってはクレームを行います。

 

しかし、発生したトラブルをサービスによって補填、回復、修正を正しくすることで、(すべてではないが)トラブルの発生していない安定したサービスよりもユーザーに対して多くの満足感と信頼感を与えることができます。

 

言ってしまえば、トラブルはユーザーにさらなる満足感を与えることをサービス回復のパラドックスと呼ばれています。

 

しかし、残念なことに必ずしも再現性があるというわけではありません。

 

今回は、このサービス回復のパラドックスという言葉を少し調べてみましたので、まとめてみました。 

 

サービス回復のパラドックスの一例

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例えば、航空券を申し込んでいたユーザーに突然キャンセルの連絡が来たとします。

ユーザーは航空会社に連絡すると、航空会社の人たちは謝罪した上で、フライトと同日の別の航空券と、将来旅行に対する割引券を提供してくれました。

サービス回復のパラドックスによれば、ユーザーは航空会社に満足し、トラブルが発生しなかった場合よりも、信頼感を高めます。

 

ここ数年の話では、2015年11月23日に日本でも多く使用されているメッセージングサービスであるSlackの大規模障害が発生しました。

世界中100万人を超えるユーザーが、3時間にわたりメッセージやファイルを送受信できなくなったのです。

一部のユーザーは、Twitterやその他のSNSから不満やクレームを発信していました。

Slackは、サービス障害が起きた数時間の間に、公式アカウントから2,300回以上の発信を行いました。

ただは発信を行っただけではなく、サービスの停止について不安やクレームを発信しているユーザーに対して返答をし続けたのです。

この対応はユーザーを驚かせただけではなく、3,300人以上のフォロワーを獲得しました。

これは平均の7倍にも上り、Slackの中でも最悪な日が避けられたとも言われています。

 

 

サービスのトラブルは、他のサービスへの乗り換えが発生する要因にもなります。

 

逆にトラブルからの上手く回復させることができれば、サービスを継続して使用しても良いと感じる気持ちを継続させます。

 

そもそもサービスの回復は、エラーを発生さないことが難しいサービスを提供する提供側からすれば、気を付けなければいけない要素となります。

 

サービス回復のパラドックスの背景と歴史

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サービス回復パラドックスという用語は、1992年にMcColloughとBharadwajによって創られました。

 

彼らは、トラブル発生後のユーザー満足度が、トラブル発生前のユーザー満足度を超えていた結果になったそうです。

 

サービス回復のパラドックスは、効果的なサービス回復は単にユーザー満足度を維持するだけでなく、よりユーザー満足度を上げることができます。

 

結果として、長期的にユーザーを獲得し、良好なロイヤルティを生み出すことができると主張していました。

 

彼らはそれを「A situation in which a consumer has experienced a problem which has been satisfactory resolved, and where the consumer subsequently rates their satisfaction to be equal to or greater than that in which no problem had occurred.(満足度が高い解決方法を消費者が受け取ることによって、問題が発生しなかった状況と同じか、それ以上の満足感を感じることができる状況である(意訳)」と定義されています。

 

サービス回復のパラドクスの概念が、1990年代初頭に導入されて以来、いつ、どのような状況で発生するのか、多くの実証研究が行われてきたそうです。

 

サービス回復のパラドックスという言葉ができるまでは、「A good recovery can turn angry, frustrated customers into loyal ones. It can, in fact, create more goodwill than if things had gone smoothly in the first place(適切な回復は、怒りや不満を発生させている顧客を、不満もない顧客へ変貌させることができます。実際には、物事が順調に進んでいることよりも、問題が発生して回復させた方がより多くの信頼を生み出します。」と説明されていました。

 

また、この考え方を戦略的に使用することで顧客との継続的な信頼性を保持させることができるとも考えられています。

 

いくつかの調査研究結果

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サービス回復パラドックスを調査した実証研究では、さまざまな結果が得られています。

 

サービス回復のパラドックスの存在を支持する研究もあれば、矛盾する発見がある研究もあります。

 

ある調査によると、サービス回復パラドックスは存在し、その影響は重大と言えます。

しかし、非常にまれな発生であり、管理上の関連性はないとしている場合もあります。

 

上げればキリもないのですが例えば、電気通信会社のユーザーが再び同じ会社と契約した行動を調査した研究では、サービスを回復した時に戻ってきた顧客数は、回復した時とは別のタイミングで戻ってきた顧客の方が大幅に多いことが分かっています。

 

航空会社によるフライトの遅延によって、ユーザーの個人的なイベントに大きな影響を及ぼした場合は、割引券を渡されたとしても満足度を上げることはできません。

 

飛行中に「悪天候のためフライトが遅れます」というよりも「このフライトは出発が遅れたため、到着も遅れます」と言ってしまうと、サービス回復のパラドックスを発生させる可能性を低くさせます。

 

 

一部の研究では、サービス回復のパラドックスは平凡なサービスの場合にのみ発生し、優れて安定しているサービスでは発生しない可能性があると結論付けています。

 

さらには、深刻なレベルではないが、サービスを受けている顧客では制御できないなどのいくつかの条件が満たされたときに影響が発生する可能性が最も高いという研究もあるというものです。

 

これらの調査結果から、次のようにまとめているときもあります。

 

  • 以前に障害が発生している顧客に対しては効果が発揮されません
  • 大きな障害については効果が発揮されません
  • サービスを受けていた期間に関係ありません
  • 提供側の制御できる範疇を越えていると判断した場合に、より効果を発揮します
  • 原因追及の結果、予測できなかったと顧客が認識した場合に、効果を発揮します

 

サービス回復のパラドックスは、たまにミスした場合に、上記を条件として、効果を発揮させ、満足感を上げ、信頼度を高める可能性があります。

 

ただし、必ず起きるものではないため、サービス回復のパラドックスを当てに動いてはいけないということです。

 

 

サービス回復のパラドックスをいつでも発揮させるには

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事前に準備することで、問題が発生した結果的にサービス回復のパラドックスの効果が発揮できるかもしれません。

 

1.危機が発生した場合

迅速な回復プロセスの準備

危険なシナリオを検討し、各シナリオがどのように影響するのか調査し、事前に最も重要な問題点を特定しておきます。

 

すでにサービスを受けて満足し、サービス回復のパラドックスにより高い満足を得る可能性がある顧客は、そうではない顧客より高い価値があります。

 

それにも関わらず、サービス提供側は既存の顧客に対して積極的な行動を怠ることがあります。

 

既存の顧客をないがしろにすることは、クレームや悪評を増やし、サービスのブランドを落とす可能性があります。

 

結果的に信頼を回復させるために発生させるコストは、事前に準備していた場合と比べて跳ね上がります。

 

明確な優先順位とガイドラインを設定し、危機管理の組織体制を整えて、顧客のニーズに優先順位をつけて進める必要があります。

 

ユーザーとの窓口を強化する

カスタマーサービスを行う人員は、危機管理の時に重要になります。

 

多くの顧客がサポートを求める事態になったときに、判断できる権限を与えておく必要があります。

 

顧客からの連絡に対し、組織のポリシーを十分に認識し、迅速な対応ができるようにしてください。

 

 

2.問題が発生した前

問題が炎上する前に、全体を把握し、可能な範囲で制御し、効果的にコミュニケーションを行う

 

問題が発生した時に、顧客の96%は会社に対して直接クレームを発信することなく、サービス提供側の原因を追究し、発信します。

 

問題が発生した場合、サービス提供側は情報の発信に積極的に取り組む必要があります。

 

サービスが停止していると多くの顧客が気付く前に通知してください。少なくとも、コールセンターへの連絡は減少します。

 

頻繁に更新を行い、常に顧客の動向を確認し、問題を解決するために熱心に取り組んでください。

 

透明性を保ちつつ、責任の所在をそらしたり、難しい専門用語を使用しないでください。

 

顧客の信頼を維持するためには、お互いに伝わる込みにケーションが必要となります。

 

顧客へのフィードバックを行う

 

問題を回避し、解決されても顧客を放置しないでください。

 

問題の理由と実行されている予防措置を明確に発信してください。

 

顧客のクレームが是正措置に繋がった場合は、感謝と改善を顧客様に通知してください。

 

情報の提供をすることで、顧客もチームの一員であるかのように感じ、より高い満足感と信頼感を感じることができます。

 

 

参考資料

Service Recovery Paradox – How to Turn Failure Into Value

https://customerthink.com/service-recovery-paradox-how-to-turn-failure-into-value/

What Is the Service Recovery Paradox, and Is It Real?

https://smartercx.com/what-is-the-service-recovery-paradox-and-is-it-real/

How To Use the Service Recovery Paradox To Your Advantage

https://www.genroe.com/blog/when-does-the-service-recovery-paradox-work-and-when-does-it-fail/763

The service recovery paradox

https://www.customerthermometer.com/customer-retention-ideas/the-service-recovery-paradox/

The power of the service recovery paradox

https://smartermsp.com/the-power-of-the-service-recovery-paradox/