[目次]
宇宙業界は高信頼性であるといわれています。
ただ、高信頼性といっても決して特殊な設計方法をしているのではなく、自動車や家電、パソコンと同じ設計方法を取っています。
宇宙業界で有名なロケットは千を超える部品で構成され、宇宙機(人工衛星、探査機)を地球外に安全に運び出すという機能を持っています。
ロケットに搭載される宇宙機は、数週間から数年も休みなく稼働します。
開発方法は同じですが明確な違いがあります。
それは動き始めたら人間によるメンテナンスができないという点です。
地球からプログラムの書き換えはできるのですが、物理的なメンテナンスがほとんどできません。
人間が居住できる前提で製造されている宇宙ステーションでは、メンテナンスを行い機体としての寿命を延ばすことができます。
もちろん宇宙ステーションに近づくことができれば、人間による補修や交換も部分的に可能です。
しかし、年間100機以上打ち上げられている宇宙機を宇宙ステーションの人間が手を出してメンテナンスしていくことはほとんどできないのが現実です。
そこで壊れない設計、壊れにくい設計をするために信頼性が問われます。
信頼と信頼性
技術的な言葉としての「信頼性」と日常生活で使用している「信頼」は微妙にニュアンスが違います。
日常的に使用される「信頼」は、今までの実績や周囲の評価に基づいた上で、今後(未来)の行いに対して信じ頼ること、頼りにすることをいい、人に対して使われます。
しかし、技術的な「信頼性」は、今後の行いに対しての評価であるのですが、人に対してではなくモノに対して使われます。
「信頼性(信頼度)」の使われ方を読み解くと、「信頼」のように今までの積み重ねだけではなく、仕様要求としても、達成するべき目標として定量的に出されることもあります。
仕様要求として出される場合は、要求の壊れにくさで製品を「設計すること」を求めています。
壊れにくさを出してはいるのですが、指標としては宇宙機の活動寿命(寿命設計)の要求の上で算出されています。(仕様が使いまわしでなければ)
各部品の壊れにくさの積み重ねで宇宙機のシステムとしての寿命を設計時点で検討・想定するために「信頼性」が使われることが多いです。
そして、宇宙機の「信頼性」の難しさは、結果が表に出にくいことにあります。
そのため、サービス回復のパラドックスにあるように、問題が起きていないので評価されていない可能性があるのです。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
宇宙機はほとんどがカスタム製品で運用する企業も限られるため、絶対数が家電や自動車、パソコンよりも少なく、不具合や故障の数が統計的に必要な数を製造するのが難しいのです。
短期間に宇宙機を大量に打ち上げ製造しているspaceXぐらいしか、現実的に定量的に算出するのは難しくさせています。
日本の宇宙機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)も何機も製造していますが、ほとんどがカスタム製で同型機が少なく、製造に何年もかかるため、世代交代も発生しています。
過去の資料や仕様書から各プロジェクトの「信頼性」を個々人で定量的な評価としてまとめているかもしれませんが、JAXA全体としてあまり共有されていないかもしれません。
というのも、各プロジェクトの要求仕様は客先資料である上、製品を設計しているのはJAXAから注文を受けているメーカーであることから、各個人での資料閲覧制限が掛かっており地球観測系や惑星探査系などの文化の違いもあり…
それでも宇宙業界で「信頼性」が言われるのは、大量に製造できないため、設計時点から確実性を上げる指標として「信頼性(信頼度)」が使われています。
大量生産できないために「信頼性」を使用しているのですが、大量生産できないために「信頼性」の精度を高めることが難しいという指標ではあります。
信頼性と品質保証
信頼性と品質保証が混同することはないでしょうか?
無い場合は読み飛ばして問題はありません。
よく企業では品質保証という名の部署はありますが、信頼性の名を関する部署はほとんどありません。
信頼性を検討管理するのは設計部門やシステム部門で、品質保証・品質管理は製造後の製品を対応するといわれていおり、信頼性を担当するのは研究開発の部署が担当することが多く、信頼性の名を関する部署はほとんどありません。
製品といっても、量産品、初期ロット品、試験用サンプル品、製造用サンプル品、部分機能品などに分けられます。
大体は量産品から品質保証・品質管理の部署が担当することが多いですが、組織文化によって初期ロットやサンプル品から担当することもあります。
これは不思議なことではなく、不具合や故障の発生を抑制するために上流へ上流へと管理の幅が広がった結果とも言えます。
信頼性の研究が進んだのも、1940年代以降よりアメリカよりレーダーなどの故障が多発したことから、上流での故障抑制のために設計時点からどのように抑え込んでいくかが考えられるようになったと言われています。
その後、1950年代のアメリカとソ連の宇宙開発競争により、1度の失敗がお金以外にも多くの損失を生むということになってから、より広まってきました。
もちろん、当時はこのような研究は秘密であったため、1970年代以降に広まってきた歴史があります。
実際に、信頼性の検討のために使用される解析ツールであるFTAやFMEAは、1960年代頃には利用されていました。
そのような事情から、品質保証・品質管理の部署が上流を確認することは不思議なことではなく、設計審査の判定に品質保証・品質管理部門の責任者が担当することはよくあります。
もちろん設計審査のどの段階から判定員あるいは審査員長となるのかは組織文化によって違います。
|
参考サイト
設計品質確保の思想 ――航空宇宙エレクトロニクスに学ぶ「信頼性設計」
http://www.kumikomi.net/archives/2006/03/05qual.php?page=1
JAXA共通技術文書