往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

宇宙市場に参入!宇宙製品を展開するための技術面からの初めの一歩【基礎から知りたい】

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宇宙業界で活用されていた技術を日常品(宇宙業界では民生品)に活用していくというのが大きな流れでした。

 

2010年代後半から、逆に民生品の技術を宇宙業界に取り入れるような流れになってきました。

 

問題は、宇宙品がとても厳しいという話が広がりすぎて、新規参入する組織が少ないということなのです。

 

今回は、宇宙機に使用する製品。いわゆる宇宙市場に参入するにあたり、どのように宇宙用の製品を製造したり、営業に掛ければいいのかまとめていきます。

 

まとめ

  • 宇宙機の構成から攻める分野を決めよう
  • 類似技術を利用するにはコンポーネントやパーツの分野で挑戦しよう
  • JAXAに相談してみよう
  • 今は革新的衛星実証プログラムという機会を利用しよう
  • 展示会に出てみよう
  • 直接、営業をかけてみよう
  • JAXA共通技術文書を読み込んでみよう

 

宇宙機システムの構成から確認してみましょう

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宇宙機、主に人工衛星や探査機の構成を簡単に述べていきますので、どこに参入していけばいいか、見つけてもらえればと思います。

 

宇宙機は主に次の構成になります。

  1. 宇宙機システム(完成品)
  2. サブシステム
  3. コンポーネント(モジュール、ユニット)
  4. パーツ
  5. マテリアル

 

この中で、宇宙機システムは、製品としての最終的なシステムインテグレーターとしての立場となります。

 

宇宙機で何をやりたいのかを実現するポジションとなるため、人工衛星をとりあえず製造したいではなかなか難しいポジションとなります。

 

2020年、2021年あたりで小型人工衛星を打上げたデブリ対策衛星を製造しているアストロスケールや人工流れ星サービスを実施しているALE(エール)といったベンチャー企業があるのですが、何をやりたいかありきで進んでいた気がしますね。

 

人工衛星を製造する技術を持っているから、人工衛星で何かできることを始めてみようというところは、おそらく東大ベンチャー企業アクセルスペースになるかと思います。

カメラの大手メーカーであるキヤノンの子会社であるキヤノン電子人工衛星ありきでできる分野に参入してきているように思えますね。

 

キヤノン電子は違いますが、大学時代に人工衛星を製造していた、いわゆる大学衛星を製造していた人たちは人工衛星ありきで考えているようですね。iQPS研究所もそうかな。

 

iQPS研究所と同じレーダー小型衛星を製造しているSynspectiveあたりは、企業色が強いので前者の何かやりたいこと、市場を見据えて参入しているように見えます。

 

ここ数年で話題のスペースXのスターリンク衛星などは、自社の保有技術が使用できるから参入してきたように思えますね。

宇宙業界ではないのですが、先に出ているキヤノン電子も自社の保有技術が使用できないかということで、似た流れに乗ってきています。

 

このように宇宙関連の技術がなくとも、参入してきている企業があります。

細かい所を上げれば、まだ数社はあるのですが、とりあえず最近話題のメーカーだけあげておきます。

 

 

また、日本では黎明期から脈々と製造している三菱電機NEC人工衛星のシステムメーカーとしては大手となります。

 

いわゆる大型衛星を製造しているメーカーですね。

大型衛星は、動く金額の桁が1~2桁ほど上がり、失敗した時の損失も大きいため、日本では正直新規参入が難しいところです。

 

そもそも大型衛星を製造してほしいという企業も国内では見つけることが難しく、政府の持つ気象衛星JAXAの実用衛星、深宇宙探査機という方面になります。

 

現存の企業が宇宙業界で最終製品である宇宙機を提供するには、キヤノン電子のようにトップを含めた勢いと、類似技術を持っている強みがなければ障壁が高くて難しいようですね。

 

サブシステムについてはどうでしょうか?

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宇宙機システムと密接につながるため、システムメーカーと同じ組織内で組むことが多いようです。

小型衛星や超小型衛星では、一人あるいは二人となるところも少なくありません。

 

さらに下位構成のコンポーネント自体が少ない場合は、サブシステム=コンポーネントとなり、別会社にお願いすることも難しくはありませんね。

 

その場合は、依頼される側が宇宙事業部とかスペース事業部、一品物開発専門チームであることが多いですね。

 

民生品より特殊な条件で試験や機能を積むことがあるので、特殊チームで組み、専門的に取り扱っていくというところが多いのでしょうね。

 

正直、新規参入を考えると、宇宙機システムよりハードルが高くなります。

 

コンポーネントとの調整と、宇宙機システム側との調整が必要になり、人数が少なければ自転車操業に近くなる可能性が高そうだとだけ言っておきます。

 

宇宙機システム側からとしては、コントロールが効くようにしたいために、自社内でサブシステムチームを構築していく方がよいので、参入が非常に難しいかと思います。

 

コンポーネントとパーツから入るのが近道

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もっとも参入しやすいのが、コンポーネントとパーツですね。

 

各企業がもつコア技術から派生して宇宙製品に取り組むことは十分に可能性です。

 

姿勢制御系サブシステムのくくりでは、慣性計測装置と呼ばれる加速度センサとジャイロセンサを内蔵した装置があります。この装置で、搭載された装置の姿勢や速度、方位や位置を計測することができます。

船舶や飛行機、ドローン、おそらくはミサイルなどに使用されています。

 

姿勢をコントロールするために使用される、フライホイールリアクションホイールなどに転用することが可能です。

この装置は自動車にも使用されています。

 

電磁石も姿勢制御系に必要になります。

人工衛星の場合は、周回する惑星の重力を利用して姿勢を制御したり、人工衛星内部に発生したベクトルを打ち消すために使用されます。

電磁石はモーター駆動に始まり、スピーカーなどさまざまなものに使用されます。

もちろん、人工衛星の姿勢を制御することになるため、それなりの磁力を発生させる必要があります。

 

モータ自体も、太陽電池のパネルを展開させるパドルやアンテナを駆動させるために使われます。

モータは、大気の有無で性能が変わるため、真空の宇宙空間では大抵性能が変わります。

 

通信系サブシステムのくくりでは、携帯電話などに使用されているパッチアンテナをはじめとした、アンテナの類が転用することができます。

無線通信機器も同様に宇宙機に必ず使用されます。

 

通信機は発熱により性能に影響を受けることから、宇宙に転用するには、熱的な観点が他の機器よりも重要になります。

 

そのほかには、データ処理系サブシステムでしょうか。

データ処理系は、いわゆる組み込み系といわれ、ミドルウェア、広義的な意味でOSが対象となります。

この制御技術も必要になってきます。

 

制御技術で、データ処理系の外に上げられるのは、先に上がった姿勢制御ともう一つは電力制御です。

 

電力制御あるいは電源制御とまとめられることがあります。

組織によっては電力分配機も電源系サブシステムか計装系サブシステムに含まれます。

設備設計がこのあたりの技術に関係してくるのではないでしょうか。

そもそもの電池あるいは電力制御技術で活用することができます。

 

電源系サブシステムは、電力消費の多いヒータの制御を行うことがあり、熱制御系と組み合わせて開発することがあります。

 

電力を保持する電池ももちろん転用可能です。

電池の民生品としての利用は結構古いです。

 

計装系サブシステムは、ボトルやハーネスが採用されることがあるため、あえて宇宙品とて区分けされることは少ないです。

その中でもハーネスは耐熱耐候性でさらには真空時に被覆からガスが生じにくい材料を必要とします。

クリーンルームで使用される装置のハーネスが転用されることも少なくありませんね。

 

コネクタも、ロスを減らすため抵抗値が低いコネクタを使用することになります。

コネクタの樹脂部分からのガスにも気を付ける必要があります。

各種部品の樹脂部分は、素材から発生するガスの存在が宇宙品の評価の中で厳しい項目になるかと思います。

 

ボルトは強度の問題からSUSが使用されることが多いようです。

チタンというイメージもあるかもしれませんが、チタンは高価であるため、現在ではSUSのボルトを使用することが多いです。

もちろんアルミ合金のボルトを使用する場合もありますが、強度の問題で使用場所は少ないですね。

 

続いて熱制御系サブシステムですが、前述したヒータの外に、ヒートパイプを使用することがあります。

宇宙でのヒートパイプに封入される材料の主流は水あるいはアンモニアですね。

 

代替フロンの研究も進んでいますが、多くは水とアンモニアですね。

凝固点がかなり低く、粘性が低く、沸点が高い材料が選択されます。

 

地球を周回する人工衛星はだいたい40分~50分ぐらいで昼夜が変わります。

昼夜で-100℃から+100℃近くに変化することから、流体で安定な部材を使用せざる負えないのです。

 

熱交換効率が高くても、極端な温度変化で安定しなければなりません。

最近の開発材料は、地上の気温か高めの温度で安定なものが選択されることが多く、急激な温度変化に耐えられることが制約条件になります。

 

あとはバッテリですね。リチウムイオン二次電池です。

 

はやぶさ(1号機)では、ほぼ初めてリチウムイオン電池が採用された事例でもあるようです。

 

一通り上げていますが、さらには推進系サブシステムで推薬弁もあります。

推薬弁自体は宇宙機で軌道制御用の機器ですが、弁機構についてはエンジン類で使用されています、

 

だいたい挙げられたでしょうかね。

 

パーツとコンポーネントを採用するにあたる基準

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宇宙用製品を売り出すにはどうすればいいでしょうか?

そんなことを考えている企業があるかもしれません。

 

宇宙用には、温度のサイクルが大きく、放射線に影響を考えなければならず、強い振動や重力加速度に耐えなければならなず、高信頼性と回答する人が多いのではないでしょうか。

 

この回答では具体的のように見えて、定量的ではありません。

まずは、定量的に回答してもらえる組織に聞いてみるのがとても早いです。

残念ながら、早々回答してくれる組織は少ないでしょうね。

 

最初に確認されるのは実証あるいは実績となり、二の句を告げられなくなることも多いのではないでしょうか。

 

正直、一番早いのはシステムメーカーから宇宙製品を開発してみないかと提案をしていただくことです。

 

宇宙開発に必要な情報や試験内容、仕様を知ることができます。

 

次はJAXAに直接問い合わせるですかね。

今であれば、民間企業からの参入に力を入れていますから、協力してくれる可能性があります。

最近であれば、革新的衛星技術実証プログラムが動いているため、実証するチャンスがとても高いです。

この革新的衛星技術実証プログラムですが、どこまで続くのか分かりませんので、今の時期はとても機会に溢れています。

 

革新的衛星技術実証プログラムは、JAXA側からの技術支援を受けることができ、最終的に成功するかは分かりませんが、宇宙機としては実用レベルまで引き上げてもらえます。

 

プログラムは、だいたい2年間で完成(試作品ではなく、完成品)させる計画ですので、宇宙機の計画としてはとても速いサイクルです。

 

大型衛星の場合、5年や7年、10年以上もかけていますので、慎重にノウハウを蓄積することができるのですが、担当が変わることも少なからず発生してしまいます。

 

この革新的衛星技術実証プログラムの場合は、短時間でノウハウを蓄積することが可能です。

もちろん、すべて大型衛星のような評価ができるわけではないので、JAXA支援側との調整が重い物にはなります。

 

革新的衛星技術実証プログラムに採用されなくとも、ときおり実施している宇宙×民間の協業のような場を設けていますので、そこを紹介される場合があります。

 

その次は展示会で公開することです。

 

宇宙開発系の展示会あるいは、JAXAが出展している展示会に足を運ぶというのも有りですね。

 

メーカー営業の経験がある人は実感があるかもしれませんが、案外、展示会のつながりで引き合いに繋がることは少なくありません。

 

その場で直接打合せや情報交換も行うため、必要な情報のポイントを知ることができます。

狭い業界ですのでアナログなつながりが強かったりします。

 

最後に売り込みですね。

マーケッティングして、情報を公開していくことです。

人工衛星を製造しているメーカーや大学に問い合わせて、買ってもらえないか、営業をかけることになります。

 

実は数年前に、経済産業省で小型衛星用のコンポーネントのWEBカタログのような物を公開しています。

 

Makesat

https://makesat.com/ja/products

しかし、あまり積極的ではないようなんですよね。

 

せめて、宇宙系の商社が管理していればいいのですが、「株式会社インフォステラ」が管理しているようで、これが現在、宇宙系の地上局関連ソフトウェアを提供している企業と同名で関連性があるのかよく分からないんですよね。

いまいち活かしきれていません。

 

実際のところ、各組織内の商流ネットワークや宇宙系商社、直接の売り込みによるところが多いように思えます。

 

まだまだ障壁があると感じる人向けの公開されている宇宙仕様

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売り込みや引き合いを経験して、まだまだ足りないといわれたり、門前払いされてしまいつつも、宇宙業界に参入したい場合はどうしましょうか。

 

宇宙機システム経験者を中途採用するのが早いです。

といっても、製造期間が長いため、すべての開発フェーズを経験した人は少ないかと思います。

 

初期設計(概念設計)で考えるべきことと、完成品で考えることは、一般製品・工業製品と同じく違います。

 

その取っ掛かりとなるのは、JAXA共通技術文書です。

宇宙航空研究開発機構~安全・信頼性推進部

 

このJAXA共通技術文書ですが、JAXAの人が思っているほど広まっていません。

 

宇宙機システムメーカーでは、このJAXA共通技術文書を読んでいることが多いのです。

 

しかし、宇宙機システムメーカーが開発品をサブシステムメーカーやコンポーネントメーカーに依頼する場合は、必要と判断した部分を抜粋して仕様書にまとめているため、全貌を知ることはないですし、知る必要はないとして「見る」こともほとんどありません。

 

正直、このJAXA共通技術文書を読み込み、製造まで落とし込めれば文句はないでしょう。ただ、小型衛星や大型衛星共通の部分があるので、過剰な要求なことがあります。

 

この時に、JAXAの支援や経験者により、バランスをとらないといけないのが難しい所ですね。

 

技術文書であるので、各人工衛星に適用される固有の情報のロケット環境(振動や電磁波)や軌道条件、運用条件が定まらないと具体化できないところもあります。

 

それでも、インターネットの情報を使えば補完することは十分に可能です。

 

 

本気で宇宙業界参入を進めるのでしたら、今回紹介した方法で色々進めてみることをお勧めします。

 

業界としては、狭い業界といわれるため、最近流行のSNSでのマーケティングよりも、実際に動いてぶつかっていく営業の方が、キーパーソンに繋がることは多いです。

 

長すぎて、あまりまとまりがなかったな