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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

電気機器の基板実装の外観検査で見るべきポイント

宇宙機電子部品実装の流れ

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Credits: NASA

宇宙業界に関わらず電子機器にははんだを含んだ部品実装がついて回ります。

外観検査では、そのはんだの確認をしたりしますが、まずは、電子機器の部品実装の流れについて振り返ってみます。

 

  1. 絶縁繊維樹脂材の板に、薄くて細い銅のラインを引き、似たような板を数枚から十数枚以上重ねてプリント基板を製造する。
  2. プリント基板の上に部品を配置し、はんだと呼ばれる鉛と錫を主とした合金により接合する。
  3. プリント基板を筐体に配置し、ハーネス(ケーブル)をプリント基板と接合し、コネクタにより筐体外部との接続するラインを作る。
  4. 別の筐体・電子機器を接続するために、ハーネス(ケーブル)を伸ばし、コネクタで接続する。

詳細は省くにしても、だいたいはこの流れで部品実装が進みます。

 

それでは外観検査に注目してみていきましょう。

 

基板実装後の外観検査は何を見るのか?

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Credits: NASA

結論の5項目

  1. 宇宙品質の基板の合格基準がJAXA共通技術文書JERG-0-043に記載されている。
  2. はんだの濡れ不足による不適合があるが、見つけるには経験が必要である。
  3. はんだが部品の馴染まず、基板の絶縁部に跳ね落ちて、はんだボールが発生する。
  4. はんだボールや金属片は、検査中・検査後は吹き付けなどで除去してはいけない。他の電子部品に付着する可能性があり危険である。
  5. 基板の洗浄は2-プロパノール(IPA)を使うことが多い。
  6. コンフォーマルコーティングを実施すると細かい所が見えなくなるため、コーティング前に検査する。 

 

現行のメーカーの基準があれば、それに順守するのが正解に近いと思います。

ただ、宇宙業界とかかわった経験が少なかったりしたときは戸惑うかもしれません。

 

そんな時は、JAXAの公開しているJAXA共通技術文書を見てみるとよいかと思います。

はんだに関係するところは、以下の文書を確認するのはとても速いでしょう。

 

JERG-0-043C 宇宙用表面実装はんだ付工程標準

http://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-0-043C_N1.pdf

 

 

標準であるため、準拠規格として定義されている場合は、各メーカーの品質保証の基準で問題ない事は記しておきます。

 

ただ、検査基準に、下記項目が含まれない時はリスクが上がるということは気を付けておいた方が良いと思います。

 

外観検査の不合格基準

a. 部品の焦げ、焼け、溶け及び端子の溶食。

b. 基板材料の焼け、導体剥離。

c. 部品の脱落、リード浮き、位置ずれ及び部品立ち上がる

d. はんだ未溶融、はんだ不濡れ、はんだブリッジ及びはんだボール。

 特別な異物規定がある場合を除いてパターン間最小距離から異物径を除いた寸法が要求最小導体間隔を満足する不動異物(竹串などで軽く外力を加える程度では動かないもの)は、コーティングすることで許容することができる。

e. はんだ付け部にクラック。

f. 洗浄後のフラックス残渣。

ただし、耐マグレーション試験による評価データに基づき、フラックス残渣が悪影響を与えないと技術的見解により客観的証拠として証明できる場合、最小フラックス残渣は不良対象外とする。

 

マグレーション(移行現象):電気化学的腐食の特殊な例で、電気インカの状態でかつ湿度のある場合に金属陰極から陽極に向かって移行する現象。典型的な例としてAg、はんだのマグレーションがある。

 

ここで気を付けるところは、はんだ濡れの判断ですね。

部品実装の際に銅箔(Cuランド)が見えていたり、はんだが銅箔に薄く乗っていても途切れてしまっているところではあります。

ただ、見慣れていないとすぐに発見できない部分もあります。

 

さらにははんだボール(ソルダボール)の判断ですね。

部品実装のフローあるいはリフローによるソルダペーストを利用した実装(機械装置によるはんだ付け)に発生しやすい現象です。

 

手はんだでも発生するのですが、はんだ付けの際に、余分なはんだが基板の絶縁部に載ってしまい、固まってしまう現象です。

 

固まったはんだが、ボール状になることからはんだボールと呼ばれています。

洗浄したとしても、はんだがチップの足の間や基板の溝、部品の陰に隠れた部分に存在していることがあります。

 

はんだボールに限らず、小さく細くとも金属片は回路でショートを起こしたり、電気的な不具合を起こす可能性があるため注意が必要です。

 

また、はんだボールや金属片を見つけた時は、エアーブローなどで吹き付けるのではなく、粘着剤を付与している竹串などで除去することを進めます。

吹き付けたら、他の電子部品に付着する可能性があるため、検査をする前ならよいですが、検査中あついは検査後に他の部品のリスクになることや避けましょう。

 

こちろん、これら細かい部分はウィスカ抑制や腐食防止対策であるコンフォーマルコーティングを実施すると、目視できなくなるために、コーティング前に実施されます。

 

おまけに、基板洗浄用の溶剤について記載があったため、転記しておきます。

基板の洗浄

溶剤・洗浄剤

(1) フラックス、ゴミ、その他の汚れの除去に用いる溶剤・洗浄剤は、次に示す内容を満足すること。

a. 各洗浄方法(ジェットスプレー等)との組合せにより、イオン性と非イオン性の両方の汚染物質を除去できる能力のあるものを選定すること。

b. 基板や部品等の材料に問題となる影響を与えないこと。

c.洗浄後のリンスや乾燥により完全に除去しうるものであること。もし、仮に部品内部や基板と部品のすき間に残渣として残った場合も信頼性上悪影響を与えないこと。

(2) 溶剤・洗浄剤の使用例を次に示す。

a. エタノール(エチルアルコール) JIS K 8101(試薬) 特級、一級又は同等品。

b. 2-プロパノール(イソプロピルアルコール/IPA) JIS K 8839(試薬) 特級、一級又は同等品。

c. 上記溶剤の混合物

(3) 溶剤・洗浄剤によっては、使用しているフラックス中の成分との間で反応生成物を生じるものもあるため、各々の選定の際に組み合わせによる影響に注意すること。

(4) 部品などのマーキングがインクによるものである場合、溶剤や洗浄剤で消える可能性又は浮いてしまう場合がある。溶剤・洗浄剤およびその洗浄システムを選定する際にマーキングの不滅試験を実施すること。

 清浄度検査

 洗浄後、目視にて汚れ及びフラックス残渣がないこと。なお、技術指示書で、正常後に清浄度試験が規定される場合は、(中略)試験を実施し、合格すること。

 

経験少な目から始める外観検査

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結論の3項目

  1. 技術・設計・作業者と同じ視点で見ると、欠陥を見逃す可能性がある。
  2. 正常な外観を事前に知るあるいは想像するも大事。
  3. 宇宙品質という言葉に不安を持つ必要はなく、特殊なことはしていない(と思う)。

 

品質保証として、技術・設計・作業者以上に、製品を知らなければいけないような雰囲気が出てきます。

 

経験者であれば、勘所は分かるのですが、経験がないので勘所が分からないと思うこともあると思います。

あるいは、宇宙品質という言葉に不安を持たれることがあるかもしれません。

 

はんだの濡れとかは、様々なはんだを確認し、経験を積む必要があります。

はんだボールも見つけるのに最初は勘所が必要になります。

 

このように経験が必要なものもありますが、最初は、電子部品であれば電子部品の正常な外観を知っておくことが一つの判断基準になります。

正常な外観とは、はんだを載せる場所や実装前の電子部品の外観です。

 

案外、部品実装中に電子部品を気づかずに破損させてしまったりしてしまうことも少なくありません。

 

正常な外観を事前に知る、あるいは想像しておくことが、細部の経験を積むことよりも先に大切になります。

 

必ずしも、技術・設計・作業者と同じ視点である必要はないのです。

同じ視点であると、逆に、同じところだけ観察しているため、欠陥を見逃してしまう可能性もあります。

意識的に別の視点を持つこと、それは通準品質管理でも、宇宙品質であっても変わりはないのです。

 

まあ、最終的に、量産可能な状態まで持っていけるように、作業者の技量や装置の詳細条件を詰めていくのが理想です。

 

今後、小型衛星の大規模コンステレーションが増えていくことを考えると、どこの条件を詳細に設定し、どのような検査をするのか。

 

どこまで採算の取れる自動化が可能か、結局、人の手による検査の方が早い結果となるのか、気にはなりますね。

 

参考資料 

はんだの濡れ性に ついて

http://www.pbfree.jp/topics/c-211/

はんだ(半田)の実装部不具合事例・信頼性試験

https://www.jfe-tec.co.jp/electronic-component/case/case03.html