往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋はのたもうた

人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

熱応力(σ = EαΔT)と構造変形の補正について

1. 代表式

構造部材が温度変化を受けると、膨張または収縮が生じます。 この変形が拘束されると、内部に応力が発生します。これが熱応力(thermal stress)です。

代表式は以下の通りです:

σ=EαΔT\sigma = E \alpha \Delta T

ここで、 σ:熱応力 [Pa] E:ヤング率(弾性係数) [Pa] α:線膨張係数 [1/K] ΔT:温度変化量 [K]

技術的には、温度変化による構造変形は、拘束条件・材料特性・温度分布によって大きく変化します。

特に宇宙構造や精密機構では、数十ミクロンの熱変形が機能不全につながるため、補正戦略が不可欠です。

 

この考え方を直感的に伝えるなら、σ = EαΔT は「温度変化が“どれだけ強く”構造を押し広げようとしているか」を表します。

例えば、同じΔTでも、アルミとセラミックではαが異なるため、発生する熱応力も大きく変わります。

設計者はこの“熱による押し広げ力”を数値で把握することで、拘束部の破損や変形を事前に防ぐことができます。

 

検索キーワード例 熱応力, thermal stress, σ = EαΔT, 熱変形, 温度膨張, 線膨張係数, 熱ひずみ, 熱応力補正, 熱荷重, CAE熱解析, 熱変形補正

 

2. Excelでの計算式と入力方法

計算内容 Excel関数例 補足
熱応力 σ =B1*C1*D1 B1:ヤング率 E[Pa]、C1:線膨張係数 α[1/K]、D1:温度差 ΔT[K]
熱変位 δ =L1*C1*D1 L1:部材長さ[mm]。温度変化による伸び量を算出
熱ひずみ ε =C1*D1 α × ΔT により算出。拘束がない場合の変形量の基礎
材料限界比較 =IF(E1>F1,"NG","OK") E1:熱応力、F1:降伏応力。設計限界との比較判断
 

補足: Excelでは、材料ごとの α 値を一覧化し、温度差 ΔT を入力することで、熱応力と熱変位を即座に算出できます。 CAE解析では温度分布が非線形になるため、Excelでの一次近似は設計初期段階の判断に有効です。

 

3. 用語解説

  • 熱応力(σ):温度変化によって拘束された構造に発生する内部応力  

    • 取得方法:σ = EαΔT。CAE熱解析または手計算で算出

  • ヤング率(E):材料の弾性特性を示す定数。応力とひずみの比例関係を表す  

    • 取得方法:材料データシート、JIS規格、ASTM資料、引張試験

  • 線膨張係数(α):材料が温度変化によりどれだけ伸びるかを示す係数  

    • 取得方法:ASM Handbook、JIS Z 2285(金属材料)、JIS K 7197(プラスチック)、NASA材料データベース

  • 温度差(ΔT):設計時の温度変化量。環境温度と運用温度の差  

    • 取得方法:熱設計仕様書、ミッションプロファイル、熱解析結果

  • 熱変位(δ):温度変化による部材の伸び量。拘束がない場合の自由変形  

    • 取得方法:δ = L × α × ΔT。設計長さ L に基づく算出

  • 熱ひずみ(ε):温度変化による単位長さあたりの変形率  

    • 取得方法:ε = α × ΔT。CAEでの熱変形評価に使用

 

4. 視覚的理解のためのヒント集(熱応力と構造変形)

4.1. 温度が変わると「構造が押し広げられる」

部材が温まると膨張し、冷えると収縮します。拘束されていると、その変形が応力に変わります。

この応力が設計限界を超えると、割れ・座屈・塑性変形が発生します。

4.2. 材料によって「熱に対する反応」が異なる

アルミはαが大きく、温度変化に敏感。セラミックはαが小さく、寸法安定性が高い。

同じΔTでも、材料によって発生する熱応力は大きく異なります。

4.3. 拘束条件が「熱応力の有無」を決める

自由に変形できる構造では熱応力は発生しません。

一方、固定端や嵌合部では、熱変位が拘束されることで応力が蓄積されます。

4.4. 設計判断の流れを頭の中で整理する

Step 1:使用材料の E、α を確認

Step 2:運用温度と環境温度から ΔT を算出

Step 3:拘束条件を確認(自由端か固定端か)

Step 4:σ = EαΔT を算出し、降伏応力と比較

Step 5:必要に応じて構造変更(スリット追加、材質変更、熱膨張吸収機構)

この流れを設計レビューで共有することで、熱変形に関する意思決定が明確になります。

5. 設計判断への応用

  • 材料選定時に α(線膨張係数)と E(ヤング率)を併せて評価し、熱応力の発生量を事前に予測する

  • σ = EαΔT によって算出された熱応力が、降伏応力・クリープ限界・接合部の耐力を超えないことを確認する

  • 拘束条件(固定端、嵌合、ボルト締結など)を明示し、熱変位が拘束される箇所に応力集中が生じることを設計資料に記載する

  • CAE熱解析で得られた温度分布に対して、局所的な ΔT を抽出し、Excelでの一次近似と比較することで妥当性を検証する

  • 熱応力が設計限界を超える場合、スリット追加・材質変更・熱膨張吸収機構(ベローズ、フレックス部)などの補正戦略を検討する

  • 熱変位 δ = LαΔT を用いて、光学系・展開機構・位置決め構造などの寸法安定性を評価する

  • 熱応力 σ = EαΔT を用いて、構造材の選定時に温度変化に対する寸法安定性を評価する

  • CAEで得られた熱変形量と、手計算によるΔLの整合性を確認することで、設計妥当性を数値で説明できる

  • 材料の線膨張係数 α を明記し、設計温度範囲に対する変形予測を根拠づける

  • MIL-HDBK-5やNASA TMの熱応力係数表を添付し、設計レビューでの根拠提示に活用する

6. 実用例

  • 🇺🇸 展開構造のヒンジ部設計  

  • 宇宙空間での急激な温度変化に対し、EαΔT に基づく熱応力評価を実施。ベローズ構造で吸収。

  • 🇩🇪 衛星搭載部品の熱変形補正  

  • EN 10025(旧DIN 17100相当)の材料特性および EN 1993-1-2 の熱応力評価指針に基づき、展開機構の寸法安定性を確保。CAEと手計算を併用。

  • 🇫🇷 光学ユニットの熱変位評価  

  • δ = LαΔT により、レンズ支持構造の熱変形を予測。材質変更により補正。

  • 🇺🇸 教材用熱応力演習  

  • σ = EαΔT の適用事例として、拘束条件の違いによる応力発生の有無を比較。  

  • 🇩🇪 精密機構の熱変形補正  

  • CAE熱解析とRoark’s公式を併用し、熱応力の発生箇所を特定。スリット設計で応力緩和。

  • 🇫🇷 展開機構の軸受部熱応力評価  

  • αの異なる材質間の接合部において、熱応力による剥離リスクを評価。NASA TMを参照。

  • 🇺🇸 宇宙構造物の熱設計  

  • MIL-HDBK-5J に基づく材料データを用いて、EαΔT による応力評価を実施。CAEと手計算の整合性を確保。

  • 🇩🇪 DIN 17100 – 鋼材の熱応力設計  

  • DIN規格の α 値を用いて、構造部材の熱変形を評価。設計資料に明記。

  • 🇫🇷 航空機胴体の熱変形補正  

  • 運用温度範囲に対して、EαΔT による応力評価を実施。フレックス構造で吸収。

  • 🇺🇸 AISC – 鋼構造梁の熱応力評価  

  • 高温環境下での応力発生をRoark’s公式で予測。設計限界との比較を実施。

 

7. 設計ミス・トラブル事例(国別)

  • 🇺🇸 αの違う材料を接合し、熱応力による剥離が発生  EαΔT の評価が未実施。設計レビューで見落とし。

  • 🇩🇪 DIN 17100 の α 値を誤適用し、熱変形量が過小評価  CAE結果と手計算が不一致。設計限界を逸脱。

  • 🇫🇷 光学ユニットの支持構造に熱変位 δ を考慮せず、焦点ズレが発生  温度変化による寸法変化が設計仕様を超過。

  • 🇺🇸 CAE熱解析の温度分布を平均化しすぎて、局所応力が過小評価  ΔT の局所性を無視した設計判断。

  • 🇩🇪 材料選定時に α の影響を考慮せず、拘束部に割れが発生  EαΔT による応力が降伏応力を超過。

  • 🇫🇷 熱膨張吸収機構が未設計で、展開機構が動作不良  熱変位 δ の設計反映が不足。

  • 🇺🇸 Roark’s の代表式をそのまま適用し、実形状との乖離が発生  設計レビューで根拠不明とされ、再解析が必要に。

  • 🇩🇪 CAE結果の温度分布が粗く、熱応力が過小評価  メッシュ密度不足による誤判断。

  • 🇫🇷 材料データの α 値が古く、実環境と乖離  ASM Handbook最新版との照合が未実施。

  • 🇺🇸 設計資料に EαΔT の根拠が記載されておらず、レビューで否定される  CAE結果のみで判断され、手計算との整合が取れなかった。

8. 工学的な歴史的背景

熱応力の理論は、19世紀末の熱膨張研究に端を発し、20世紀初頭には構造設計に組み込まれるようになりました。

特に航空機・宇宙機・原子炉・精密機構など、温度変化が構造性能に直結する分野では、EαΔT による応力評価が不可欠となりました。

 

Roark’s Formulas(1938初版)では、熱応力の基本式と拘束条件による応力発生の違いが整理され、 ASM Handbook では、材料ごとの α(線膨張係数)と E(ヤング率)の温度依存性が体系化されています。

 

NASA-TP-2014-218556(宇宙構造物の熱座屈・熱応力解析)や NASA-STD-5001 に基づき、 MIL-HDBK-5J では、金属材料の熱応力限界とクリープ挙動が規格化されています。

 

DIN 17100 や EN 1993-1-1(Eurocode 3)では、鋼材の熱応力評価と設計限界が明記されており、 CAE熱解析との接続において、EαΔT の一次近似が設計初期段階の判断軸として活用されています。

 

日本語資料では、熱応力の定義や拘束条件の影響が断片的であり、CAE結果の補正に EαΔT を用いる判断は未整備です。 

9. 背景と課題

  • CAE熱解析では温度分布が非線形であり、EαΔT による一次近似との整合が必要

  • 材料の α 値が温度依存であるにもかかわらず、定数として扱われることが多い

  • 拘束条件の違いによる応力発生の有無が設計資料に明記されていない

  • 熱変位 δ による寸法変化が設計仕様に影響するにもかかわらず、評価が未実施

  • 材料選定時に α と E の組み合わせによる熱応力の発生量が考慮されていない

  • 熱応力によるクリープ・疲労・剥離のリスク評価が設計レビューで省略されることがある

10. 設計レビューでの活用ポイント

  • σ = EαΔT の定義、適用範囲、拘束条件の影響を設計資料に明記する

  • 材料ごとの α・E・降伏応力を一覧化し、熱応力との比較をレビュー資料に含める

  • CAE熱解析結果に対して、EαΔT による一次近似を併記し、妥当性を数値で説明する

  • 熱変位 δ = LαΔT を用いて、寸法安定性・機能保持・位置決め精度の評価を実施する

  • 熱応力が設計限界を超える場合、スリット追加・材質変更・吸収機構の設計変更をレビューで提案する

  • Roark’s、ASM Handbook、NASA TM、DIN 17100 などの根拠資料を明示し、設計判断の信頼性を確保する

  • 材料の温度依存性(α・E)を設計資料に明記し、運用温度範囲に対する妥当性をレビューで確認する

  • 設計初期段階での熱応力 σ [MPa] 推定(完全拘束の場合)
    • 炭素鋼(SS400相当): σ = 206,000[MPa] * 12.0e-6[1/K] * ΔT = 2.47 * ΔT

    • アルミ合金(A6061相当): σ = 69,000[MPa] * 23.6e-6[1/K] * ΔT = 1.63 * ΔT

    • ステンレス(SUS304相当): σ = 193,000[MPa] * 17.3e-6[1/K] * ΔT = 3.34 * ΔT (ΔT = 100K の場合、SUS304では 334MPa に達し、降伏応力を超えるリスクがあることが分かります)

出典一覧(技術資料・設計指針)

技術手法・計算式・設計支援ツール

実用例・設計事例

工学的背景・規格

 
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

熱力学の基礎 第2版 I 熱力学の基本構造 [ 清水 明 ]
価格:3,300円(税込、送料無料) (2025/12/14時点)